貪 る ほ ど 映 画 を 観 て も
気 が つ く と い つ も
E U R E K A に 戻 る
始 ま り は 全 て
コ コ か ら 始 ま る
何 所 に 行 っ て も
始 ま り は 始 ま り や け ん
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
初冬の匂いのする風が叢を切り渡っていく。
梢は、眼前に連なる遠いような近いような山の尾根を強く見つめて、
伸びた髪をその風になびかせる。
山は、高速度撮影で近づいてくる大津波のようでもあり、
行く手を塞ぐ開かない古城の大門のようでもあった。
だから梢は、死ぬのが怖い、と生まれて初めて思ったのだし、
その感覚はどちらが長く息をしないでいられるか、
兄と並んで水を張った洗面器に顔を沈めた時の
息苦しさにとてもよく似ていた。
その時、梢は直樹に勝ったのだった。
だがいまはもうその喜びは忘れてしまった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
沢井は三日間、咳をし続けた。
松岡とはあれきり顔を
合わせることはなかった。
留置所の中で沢井は奇妙な音を聞いた。
それは壁の向うから聞こえてくる
ノックの音だった。
初めは空耳かと思った。
だがやがて壁に耳を当て、
その音を聞くうち、
それが自分を励ましていると思い、
その励ましの音に応えて、
壁を叩いてノックを返した。
留置所を出る時、
さんざん咳をして
隣の人に迷惑をかけたから、
よろしく伝えてくれ。
と市川に云うと、
市川は怪訝な顔で、隣には誰もいない、
留置所にはこの三日間あんたひとりだった、
と答えた。
考えてみれば、
留置所のぶ厚い壁を人間がノックして、
隣に響かせることなどできるはずがなかった。
それでも沢井はその励ましのノックを
ずっと忘れないでいた。