小淵沢在住の美術家、松井貞文さんのコミュニティです。
「ここ数年僕の表現方法は、主に和紙の裏から表へ(逆に表から裏へ)色をたらし、にじませ、飛び散らせていくというものです。はじめのイマジネーションはすぐにも砕け、予想できない事態の連続の果てに、次第になにかが湧くように現れ、おのずと動きやかたちを成していきます。こうした過程を通して、僕は自分の意識や観念を少しでも越えて、もっと深いところから神秘の声が響いてくるのを、受け止めたいのです。
例えば、散歩の途中で一羽の見知らぬ小鳥の美しいさえずりに、思わず「アーッ!」と感嘆の声が出た時のように。その瞬間こそ、“なにかに出会った”瞬間ではないでしょうか。この時、鳥と僕との間にははたしてどれほどの距離があるのでしょうか。どちらが鳥でどちらが僕なのでしょうか。そこには意識や理論が介在する余地はなく、“呼応する一瞬”があるだけです。
膨張するこの物質的文明は、心とからだをますます意識の鎖でがんじがらめにし、存在そのものから遠く隔てつつあります。しかし、こうした状況の中でふとある時、ことばの奥、意識の底から聞こえてくるかすかな鼓動に耳を傾けた瞬間、自分の中にストンと穴があき、緑風が吹きわたり始めることがあります。絵を描くということも、まさにそういうことでゃないのか、と今更ながら思うのです。存在の不思議さに打たれ、それに衝き動かされて発する行為。それは、生命のつらなりあるいは循環に深く関わりたいという、根源的な願いに導かれた旅でもあります。」
(松井貞文「響き合うために」から)