第88回全国高校野球選手権大会。
大会当初…彼の名を知る者はわずかであった…。
好手大豊作、屈指の名勝負が多く生まれた今大会…。
大阪桐蔭 中田
駒大苫小牧 田中
早稲田実業 斉藤
愛工大名電 堂上
八重山商工 大嶺
彼らは大会前から今大会の主役として期待された…。
しかし、本当の主役は下馬評の高い選手の中にはいなかった…。
今大会、主役の座に一躍躍り出た漢の名は…
『鹿児島工業高校 今吉晃一』
漢は…エースでも4番でもなかった…。
満足に走ることすらままならない腰痛を抱えた代打の切り札だった。
漢は…チームのムードメーカーだった…。
しかし、今では『代打・今吉君』というウグイス嬢の声だけで甲子園のムードすら変える『甲子園のムードメーカー』へとまで成長を遂げていた。
かつて甲子園でこれほどまで強烈なアイデンティティを発揮した球児がいただろうか…。
漢が一旦打席に入ればベンチはなぜか大爆笑…。
球場全体が期待と興奮と感動と…なぜか大爆笑…。
そして高校生とは思えない風貌…スキンヘッド。
ほとんどの高校球児は丸坊主が主流である。
しかし、漢はバリカンで髪を剃った後、念入りに剃刀で髪を剃ると言う…。
漢は腰に疲労骨折を患い、半年間バットを振ることもボールを投げることも出来なかった。
野球部を辞めようと本気で考えた。
しかし、仲間の温かい優しさと必死のリハビリの結果、バットを振れるまでになった。
『1打席だけ。塁に出たらすぐに代走を送る。』と、中迫俊明監督と約束した。
今大会では個性だけでなく、代打としてもチームに大きく貢献している。
今、日本で、否、世界で最も輝きを放つ漢『今吉晃一』
第88回大会で活躍した名選手達は…
『今吉世代』
後にこのように称されるようになるのであった…。
困ったときには