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キノの旅―The beautiful worldコミュの二次創作 『幸せな国−forget everything−』

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「この国は、すごくなごやかなんですね」
コーヒーカップに口を付けながら、旅人はそう店員に話しかけた。旅人は、茶色のコートを着ていて。まだ十代半ばぐらいに見える。店員は、シンプルなエプロンをまとった若くて愛嬌のある女性である。
この国の人達は、みんな幸せそうに微笑んでいるように見えた。
「ええ。『幸せになるクスリ』があるからね」
店員は笑顔でそう答えた。
「『幸せになるクスリ』、ですか?」
「それを飲むと、嫌なことを忘れられるのよ。なんでも、嫌なことの記憶だけすっかり消してしまうらしいわ」
「へえ…。それは誰が作ったんですか?」
「さあ?何処にでも売ってるし、あるのが当たり前だったから…考えたことも無かったわ」
あっけらかんとした調子で店員は答えた。
「そのクスリをよく使うんですか?」
すると店員は、すごく幸せそうに微笑んだ。
「ええ。でも、最近は使ってないの。必要が、ないから」
…店員の左手の薬指が。微かに光った。

店を出て、旅人は一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)にまたがった。
「へえ、面白そうなクスリじゃん。…キノは買わないの?」
「うん…どうしようかな。とりあえず、どんなものか見てみたい」
モトラドはキノと呼ばれた旅人に同意した。

「何処にでも売ってる、って言っていたから。その辺の店にでも入ってみようかな」
そう言って、キノは小さな雑貨屋に入った。
「すみません。『幸せになるクスリ』って置いてますか?」
「当たり前だろう!この街に置いてない所なんて…って、なんだい旅人じゃないか」
店の奥から、この店の主人らしい男の人が出てきた。
「これが無かったら、生活できないだろう?…悩んでも仕方の無いこととかでくよくよして、これからの人生を無駄にするなんて馬鹿らしいじゃないか。でもこれさえあれば、毎日を楽しく過ごせるんだ」
「…なるほど」
店の主人の説明に、キノは感心した。
「全く、これ無しで生活している、外の連中の気がしれないよ?あんたも一つどうだい?」そう言いながら、主人は棚から一つの紙包みを取り出そうとした。
その時だった。

布を引き裂くような、悲鳴が辺りに響き渡った。

「……!?」
キノは反射的に店の外に飛び出して、悲鳴の上がった方へ向かった。
「何があったんだろうね?みんな幸せじゃなかったのかな?」
「少しは黙っていてくれないか?エルメス」
キノはモトラドを軽くこづくと、またハンドルをしっかりと握った。
ほどなく、大通りの中央で。血まみれの若い男性と、その側で泣きじゃくる若い女性が目に入った。それは、さっきの店員だった。
キノは周りの人だかりにすっと入り込むと、中年の人の良さそうな女性に状況を訊ねた。
「なんでも、結婚間近のカップルで…昼休みに一緒に食事をしようと出掛ける途中、彼がモトラドにはねられたらしいんだよ。可哀想にねえ」
人だかりの中から、こんな会話が飛び出した。
「なあ、このままじゃ彼女の方もまいっちまうよ」
「早く『幸せになるクスリ』を飲ませてやろうぜ」
やがて彼女に届けられ、彼女はそれを飲んだ。

「あれ…?私、こんな所で何をやっているのかしら?」
彼女はそう言って、周りをきょとんとした表情で見回した。すると、ひざの上で息絶えた、男性が目に入った。
「誰かしら、この人…?大変だわ、誰か手伝って!!!」
彼女の指揮で、取り敢えず男性は病院まで運ばれた。
その場に残って、掃き清めている彼女にキノは訊ねた。
「あなたは、病院に付き添わなくていいんですか?」
すると、彼女は不思議そうにこう答えた。
「何で?…私、あの人のこと知らないし。行ったって何も出来ないもの。…ね、大分綺麗になったでしょう?」
大通りは、事故なんて無かったかのようにすっかり片付いていて、一滴の血も、ひとかけらのモトラドの破片も無かった。
「…そうですね」
キノはそう答えると、エルメスと街を出た。

「…キノ」
「何?」
「買わなくて良かったの?あのクスリ」
「うん…ボクは要らないからね」
「コワイ師匠のことを忘れられるかもよ?」
「忘れて、挨拶せずに通り過ぎたらズドン、かもよ?」
「…だね」
一台のモトラドとその運転手は、西の方へと走り去っていった。



乱筆乱文失礼しました。

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