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オルガズム東京コミュの落合’ジェイ’達也の香港レポ〜VIGILANTE@香港

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2009年 5月 ORGASM METAL主催バンドであるVIGILANTEが世界的にも有名なブラジルのHIBRIAに指名を受け香港で開催されたMETALフェスに出演しました。

このVIGILANTEは海外トップアーティストと同じサウンドメイキング
日本では殆ど知られていない完全オリジナルチューニングでのプレイスタイルを確立しています。


このオリジナルチューニング法はオフセットチューニングと呼ばれ
より楽器の適正を引き出し美しい旋律を奏で、そのハーモニー感こそが日本と海外のアーティストの(響きの違い)を作っていると言われています。


U2/Aerosmith/Bon Jovi/Metallica/Stevie Wonder など
本当の世界のトップが使うものと同じサウンドメイキングであり ORGASMシーンの中でORGAサウンドと言われるこのチューニング法はVIGILANTEのHiroshi Omotoにより参加バンドに徹底指導、ORGASMにもたらされました。


果たしてその世界標準のORGAサウンド 本家本元のVIGILANTEが
世界のシーンで活躍するHIBRIAとの競演でどう聴こえるのか、、


ORGASMではその一部始終をレポートするために
ブッキングスタッフでもある落合達也を同行記者として香港へ派遣しました。


このレポートはその一部始終です。どうぞご覧下さい!

コメント(30)

その1

5/22 16:30 成田。
第一ターミナルの北ウィングに集合したVIGILANTEメンバーとの対面である。

海外公演は今回で二度目(前回は3年前の韓国)ということで、久々のバンドと
しての渡航だが、メンバーはあくまで自然体。にこやかに談笑する姿を見てガチ
ガチに緊張していた自分も少しほっとする。

いくら香港ドルに換金するかで皆さんお悩みで、皆さん大体¥30000くらい。自分は少なめに¥10000にしといたのだが、これが後に申し訳ないことになった、というかメンバーの優しさを知るきっかけの一つになった。


出国手続きを終え、ゲートの中にあるマクドナルドで搭乗まで時間をつぶす。
話しているうちにドラマーの藤野氏と同年齢であることが判明。
「同年代と会うこと珍しいから嬉しいわー。

じゃ、今回はお互いライブとか取材とか仕事で行くんだけど、一緒に行く以上は仲間として楽しんではっちゃけよう!」と、藤野氏が言ってくれたのがとても嬉しかった。

何しろ普段はVIGILANTE以外にもジャパニーズメタル界の大御所など
上の世代の方と仕事をしたり飲んだりすることが多いということ。でも話してみれば普通にナイスガイでした。そして実にイケメンです(笑)

いよいよ搭乗したが、なかなか飛行機が飛ばない。
ここでもシートは藤野氏の隣に。

「飛行機が飛ぶ瞬間が好きなんだ。」ちょうどウィングのすぐ後ろのシートにな
ったので翼が変形する様子がはっきりわかる。

「うおっ、また動いた。ガンダムみたいだね!」
はしゃぐ藤野氏。旅行日程通じて常にこの調子で実に無邪気な表情を見せてくれました。そうこうしているうちに無事離陸。

香港に着いたらどうするのかという流れについては成田に集合したときにベーシ
ストの海野さんからちょこっと説明を受けていた。

・ 今回のフェスの主催者はSoni氏であるという事。
・ 香港でレコードショップとレーベルを運営している人物であると言う事。
・ 彼が空港に迎えにくる予定でそこからの流れは彼に一任していると言う事。

「彼とはメールでやり取りしただけであった事はまだないんだけどね。」
海野さんがとつとつとした口調で語る。
「あのANGRAを呼んでしまう男だからね。会うのが楽しみだよ。」

ANGRAといったら!!HR/HM界の超大御所!

これを呼んでしまうイベンターとは・・・期待は高まる一方。
(後で調べたところ、2006年10月にワールドツアーの一環で香港公演をAngraが行った際のプロモーターがSoni氏だった。)

本読んだり何となく過ごしているといつしかアナウンスが流れシートベルトの
着用を促される。近かった。もうすぐ香港。高度が下がって徐々に機内の温度が

暖まり始める。窓の外を見ると漁船らしい明かりがたくさん浮かんでいる。
船の形も何となく見えるようになり、あれは何を獲っているのだろうかとか考えているうちに滑走路に入りあっけなく着陸。

10:20頃香港着。
「いよいよ着いちゃいましたね。」
なんだか現実味のないまま緊張感が徐々に増してきている私。

「うん、それじゃあ手品見せてあげるよ。」
「え!?」と唐突に、香港の入国ゲートに向かって歩いていく途中ギタリストの堀江氏が手品を披露してくれる。

八つ折にした紙をちぎって小さくしてみるけど広げてみたら元のままだったというアレだ。デジカメの動画モードで撮影をしてみたのだが確認して自分で駄目出し。この方は相当自由な空気が出てました。この自然体っぷりに自分もまたリラックスムードに。
その1 〜続き〜


入国審査ゲートを何事もなく通り抜けられるか、海外旅行の際の緊張の一瞬だが
係員は一言も発することなく、パスポートをポンと投げて返された。

実にあっけない・・・
タイに旅行に行った時は目的と名前と生年月日は聞かれたんだが。

コンベアーで流れてくる荷物を確保してさあ、出発というところでアクシデント
が。念のため世界のOこと大本氏のギターを確認したところ、ボディの裏側の配線
がはずれていた。

「危ないなと思ってたからね。」
眉間にしわを寄せながらあきらめ顔で語る大本さん。

「ギターケースには服をつめてマット代わりにしておいたんだ。多分投げられる
んじゃないかと思ったからね。案の定だよ・・OK、応急処置は澄んだから行きま
しょう。ネックが折れてなくてよかった。」

所要時間10分ほどでゲートの外に向かう。

「やっぱりああいうことはあるんですね。楽器を預けるの怖くなってきませんか
?」
「そりゃあね。でもさすがに機内に持って入る訳にもいかないし」

「実際一度考えてみたことはあるんだ。」
と、海野氏。

「でも楽器持ち込むってなったら、席をもう一人分購入しないといけないらしい
んで。」

「完全に安全な状態をキープするって言うのは無理。」

「だから手を離れて何か起こったときに最低限のトラブルで済むようにいろいろ
研究はするよ。例えばこのケースだけど」大本さんがこちらにギターケースを回
してみせてくれる。

「ソフトハードケースを選んでるんだ。丈夫なのって言うとハードケースを選び
がちなんだけどあれはガチガチに補強されてる分弾力性がなくて投げられたりな
んかしたら完全にアウトだね。確実に折れる。」

「これはクッションが入ってるし、補強はされてないんだけど遊びがある分決定

的な衝撃には強いよ。かなり厚手だしそれにさらに服を入れてるからね。ま、正
直これなら絶対に大丈夫だと思ったけど、それでもさっきみたいなことがある。
でもまあ、しょうがない。」


ガラスの向こうに巨大なフロアが広がりショップや待ち合わせらしい人の姿が見
える。ガラスの向こう側が香港だ。

「あれ、丹羽さんじゃないかな?」藤野氏が手を振るのを見るとガラスの向こう

側にはティアドロップ型の黒いサングラスにマスク、
そして黒いシャツという怪しげな人の姿が!メンバー唖然!

今回ボーカリストの丹羽氏は自身のスケジュールの都合で一人中部国際空港から
香港へ向かっていたのだった。

その怪しげな人も無事手を振り返してくれて丹羽さんだということを確認した。

無事集合を喜び合うメンバー。そしてここがいよいよ香港!はしゃぐメンバーの
姿を見て興奮が高まる。自分の姿を見て丹羽氏が笑顔で握手してくれる。

「今回は宜しくね。」

「こちらこそ、ありがとうございます!それにしても丹羽さん、凄い格好ですね
。」

「ふふん、凄いっしょ、やっぱり目立つかな?危険だよね、はっはっは!!!」
のっけから超ハイテンションの丹羽氏。

これでようやくVIGILANTE in香港が始まる・・・。

【VIGILANTE】are…

Hideaki Niwa (vo)
Hiroshi Omoto (gt)
Kazuaki Horie (gt)
Makoto Unno (ba)
Shunji Fujino (Dr)
その2


再会を喜ぶVIGILANTEメンバー。

そんな中、丹羽氏が、今回の重要人物を紹介してくれる。
そう、香港側のオーガナイザー、Mr.Soniと今回彼のアシスタントを努めてくれるしょうこさんだ。



Mr.Soniは褐色の肌を持つ長身の男性で、見た感じ中東と中華のハーフのように見えた。浅黒い肌に白いシャツがよく似合う引き締まった体をしている。


VIGILANTEメンバーととはじけるような笑顔で握手、そして自分のところにも。(以下会話は英語でなされてます。)

「調子はどうだい?宜しく!君は歌を歌うのか?」

いきなりのものすごい微妙な切り口からの質問にテンぱる私。
いや、確かに俺は歌を歌う人だが・・・。

「あ、いや、あの、、、えと有留裕志わかりますか?」

「誰だそれは?知らない!」ここではっきり断言されて完全に焦る。落ち着け俺・・・。

「えー、オルガズムから自分は取材に来たんだけど。」

考え込むMr.Soni。いきなり微妙な雰囲気になってしまったがここで英語ぺらぺらのメンバーがうまくフォローをしてくれて彼も気づいた模様。

「あー君が例の!そうか、彼の名前が難しくて覚えられないんだが、アリトミヒロチーだっけ?」・・・


空港の外に向かって歩きながら一行と談笑するMr.Soni。
彼は非常に気遣いができる人の様で長旅に疲れたメンバーに笑顔で常に話しかけ、リラックスさせようとしているのがわかった。

「ハイ、ソニ。今回の取材なんだが、写真とビデオを撮影するのは問題ないかな?」

一瞬の間があり、渋い顔。嫌な予感がする。
「NO!」
「あああ・・・」一気に荷物の重さが肩にのしかかる。

まあこれは予想できていたので、こうなったらなんとかして全部活字で記録・・

「OK!」え?
Mr.Soniを見るとニヤニヤしながら肩を抱いてきた。

「It’s joke!!」


まあ正直な話イラっと来たが(笑)、不覚にも子供みたいに手を挙げて喜んでしまう。

「好きなだけ撮るといい」

「ありがとう!リハーサルから通しで録ってもいいかな?イベント全体だよ?あとHIBRIAもだけど」

流石にHIBRIAを録るのはいろいろ問題があるだろう。

「いいよ。」え、いいの?

「きっとなんとかなるさ。」どういう意味だ。
著作権とか大丈夫なのだろうか。
ま、でもそこは彼がうまく話をしといてくれるんだろう。

香港側の撮影クルーみたいな扱いにしてくれるのかなとか想像していたのだが、根本的な意味で当日この予想は覆されることになる。
撮影は確かに彼の言う通り、好きなだけできたのだが・・・

「今回取材するTomahawk Metalfestについて君のボスにも良く伝えといてくれ!
で、すまんが、彼の名前をもう一度教えてくれないか?アリトモヒロイーだっけ?」 ・・・

空港の外へ近づくにつれ熱気が肌を蝕んでいく。

「凄い湿気ですね。丹羽さん的には助かるんじゃないですか?」
「最高の環境だね!湿気LOVE!!」

「楽器ずっと置いといたら駄目になりそうだな」とは大本氏。
この時点ではメンバーはほぼみんな長袖を着ていたので日本とのギャップに驚いている。

この日の香港は31度ということで日本の夏日。
東南アジアに来たんだなという実感がわいてくる。

ただ、空港の中にコンビニはあるし、おいてあるスナックや飲み物も「かっぱえびせん」や「なっちゃん」(何故か漢字表記では奈津子になってました)

そして日本人や中国人のような肌の色が多いので視覚的にはあまり異国に来たという感じがない。

今回案内役を務めてくれるしょうこさんは
運送会社の香港駐在員を務める関西出身の柔らかい雰囲気の女性。

前からMr.Soniのサポート役として活躍しているとのこと。
バンド側のフォローは今回彼女に一任されているとのことで実に頼もしい。

それぞれ交流を深めながら空港の外へ。

香港の夜の空気はとにかく生温い。ここはバス乗り場らしくMr.Soniが券の手配をしにインフォメーションに姿を消していった。同時に早速タクシー運転手のおっさんが近づいてくる。

ここでしょうこさんがすっかり地元民なあしらいを見せてくれたおかげであっさりおっさん引き下がる。

異国に来て得体の知れない客引きから入国早々絡まれまくるというのはわくわくすると同時に不安なものなので、トラブルが起こってはいけない今回のような場合、これは頼もしかった。
その2 〜続き〜


「OK、行こう!」

Mr.Soniが戻ってきて体でバス停を大きく指し示しながらメンバーを誘導する。

後にも強く感じたことだったが、こういった彼の導き方は、とてもわかりやすく、そして余計なことに気を回す心配を与えないもので実に見事だった。

そしてしょうこさんはここでいったんお別れ。
また明日ホテルに迎えにくるという事。


高速バスを待つ人たちの列に並ぶ。
香港は約10年前までイギリスの保護領だったこともあってか、

バスの形式もイギリス型、つまり日本ではほとんど見ない二階建てである。
こういったところで徐々に異国情緒を感じるようになってくる。

並んだところで早速バスが来たが、楽器という大荷物を抱える一行はとても乗れないくらいの込み具合。

ここもMr.Soniが後ろに並んでいる一般の乗客をうまく誘導してくれた。

そして一行は次のバスを列の先頭で待つ。
ここでようやく一息という感じになる。

「買っちゃったよー海外対応ケータイ。高かった。」

ここで丹羽氏が今回の必殺アイテムD社のスマートフォンを取り出す。

これでメールもWEBも見放題。画面タッチパネル型のPC機能搭載で、ひとしきりみんなの注目を集めていた。

(海外でご利用の際はパケット通信料にご注意を!)


前列の方ではMr.Soniと海野氏、堀江氏が香港の音楽事情やMETALについて熱いトークを繰り広げている。

英語がままならない筆者ははっきり内容を聞き取れなかったが
それでも時折QueensrycheやBlack Sabbathというフレーズが聞こえてきて血が騒ぐ。


自分も丹羽氏とおすすめMETALトークを。
お互いの音楽遍歴等を話しつつ、Queensryche一番の名盤はRage For Orderだという結論に達したところでバスが来た。


Mr.Soniがチケットを運転手に見せてくれて一行は乗り込む。
後部ドアの前に大きな金属の棚があり、ここに荷物を詰めるようになっていた。

楽器をそれぞれ積んで後部座席へ。
さっきと比べてバスはガラガラでまるで貸し切りの様だ。

異国の地に来て地元民も利用するような乗り物に乗るというのは、結構ドキドキするし楽しいものである。

自分たちのさらに後ろの席には家族連れらしい3人組が座っていて、肩まで伸びる長髪長身で楽器を担いで現れた集団をじろじろ眺めている。
その2 〜続き〜


座席に落ち着きバスが走り出した。

高速道路に入り窓の外を眺めると両サイドを飛び去る光の帯。
香港の夜景の美しさは聞いていたのでメンバーから歓声が上がる。

街に入るとまるっきりよく見る映画の世界だ。派手に輝く禍々しいネオン。
かたどられてる漢字が怒濤のように視界に飛び込んでくる。


「いやーついに香港来たって感じる!日本でこれだけ多くの漢字眺めることないもんなあ。」
首を振り降り感慨に耽る大本氏。他のメンバーも興奮気味で、看板の文字をいちいち読み上げては歓声を上げる。



「あ、マクドナルド!」

マクドナルド好きの堀江氏が喜びの声を上げる。

24時間営業だそうでレジで会計をしている人の姿も見える。
そういえば、もう0時を回っているというのに人通りも車の交通量もやたら多い。

上海はその昔魔都と呼ばれていたが、香港はさしずめ馳星周氏の小説にもある不夜城といったところか。

セブンイレブンがあったり結構日本人になじみのあるお店が見える。
その一方で真っ黒にすす汚れた今にも室外機が落ちそうなアパートや、
工事中のビルディングの補強が竹の枠組みでなされているなど香港らしさを感じる風景、

そしてイギリス統治時代の名残か重厚な石膏でのアンティーク装飾が施された銀行やデパートなど様々な要素が混じり合って、

窓から見る香港は異様な空気を作り上げていた。妙に心がざわめく光景であり、同時におかしみもあった。

藤野氏「あ、あそこに金太郎って看板が」
丹羽氏「Yeah, Kintaro metal!!」なんのこっちゃ(笑)

はしゃぐ一行を乗せてバスは進む。

香港の建造物はとにかく高層だ。ぼろぼろのアパートも豪華なオフィスビルも。
夜の闇にまぎれて最上階が見えない、そんな建物が林立する夜の香港を抜けて、
VIGILANTEメンバーを乗せたバスは、いつしか静かなバスターミナルに到着した。

バスを降りた一行は
それまでのギラギラした光の喧噪が嘘みたいな静かな街角を進む。

この頃になると流石に一行疲労の色が隠せない。既に深夜一時は回っていたかと思う。
ある巨大な商業施設のようなところに入る。

ここがホテルかと思ったが明かりは全て消えているしレセプションもない。
Mr.Soniがどんどん先に進むので狐につままれた表情でついていく一行。

昼間はショッピングモールになると思われる回廊を抜けていくと大きな扉が現れる。
Mr.Soniが扉を押すと光が漏れた。

白を基調とした美しく巨大なロビーに人がごった返している。
唐突に感じたがここが今回宿泊するHarbour Plaza Metropolisらしい。
レセプションの様子を見るにここは結構グレードの高いホテルなのではないかと思ったがその予感は部屋について的中した。
こんな深夜だというのに
ホテルのロビー道路入り口付近には若い女の子の集団が50人程集まって何かを待っていた。

一見した所服装や髪型からロックバンドの追っかけのようにも見えるが、
後でMr.Soniが確認したところやはり台湾の有名なバンドの出待ちをしていたということ。

3人組の女の子とひとしきり話して戻ってきた彼は
「OK。これであの子達は君たちのファンだ」と自慢げにつぶやいた。
どうやら明日の宣伝をしていたらしい。

チェックインを済ませていざ部屋へ。

自分は丹羽氏と海野氏という3人部屋を割り振られた。
エレベーターを上がり自室のドアを開けようとすると中から使用人のおっさんが出てきた。
ちょうど部屋の準備が終わったということ。

「うわっ!これはすごい!」
白を基調にしたラグジュアリーな空間。

部屋は大きく二つにわかれ、それとは別にキッチンとシャワールームが設置してあるかなりゆったりとした空間だった。

自分と海野氏はベッドルームに寝ることにして、
丹羽氏は乾燥対策には簡易ベッドの方がいいということで、部屋を決めた。

高層13階の部屋からは香港の街が見える。
繁華街を向いていないので宝石箱の様とはいかないが、もてなしとしてはこれで十分だ。


Mr.Soniが訪ねてきて明日の集合について最終確認をする。
12時半にロビーにしょうこさんが迎えにくるという事でいったん彼とはここでお別れ。



「Good Night!!」

ふかふかのベッドに倒れ込む。
一気に眠気が・・・海野氏はもうベッドの中に頭を埋めて寝息を立て始めている。

「丹羽さんシャワーどうします?」
「落合君先入ってていいよ。俺はこれから準備する事があるから。」

ありがたく先に入る事にする。それにしても何の準備だろうか。
シャワールームはバスはついていなかったがガラス張りの壁のなかなかおしゃれな空間だった。

お湯の調節もすんなりできて快適だ。
さくっとシャワーから出ると何やら丹羽氏のベッドの周りが凄い事に。

乾燥予防のためという湿らせたタオルが干してあり、
キッチンのシンクには満タンに水が張ってある。

怪しげな小瓶を取り出し解説してくれた。うがい薬、プロポリス、ローション、乾燥止めのカプセル・・・さすが職業的ボーカリストは体のケアに関する意識が違う。

「ボーカリスト同士で情報交換する事もあるよ。LOUDNESSの二井原さんとか」
黒いカプセルを手に取って渡してくれる。

「それは乾燥止めで、喉の潤いを保ってくれるんだ。使うといい。」
ありがたく頂きました。 明日は八時くらいに起きて朝食に行こうと約束し私もベッドへ。

長い一日がようやく終わった。本番はいよいよ明日だ・・・。


【VIGILANTE】are…

Hideaki Niwa (vo)
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Kazuaki Horie (gt)
Makoto Unno (ba)
Shunji Fujino (Dr
その3

灰色のコンクリートの壁に囲まれた駐車場のような場所に筆者は立っている。

扉のたぐいは見当たらずどこから入ってきたのか見当もつかないが、とにかくここをでなければならない。



ああ駄目だ。
どこにも出口はない。コンクリートの壁に顔を押し付けてみたが

ひんやりとした触感が頬に伝わるだけでこの状況に変化が起こる兆しは何も感じられなかった。


僕はここを出なければならない。
そうだ、急がなくては。

どこへ?



私はここからいったいどこへ行こうというのだろうか?

苦しい。急に胸が苦しくなったように感じる。
大声で叫びたい衝動に駆られ口を開けて愕然とした。



声が出ない。



強烈な喉の渇きで目が覚めた。

唇は角質がミイラみたいにぼろぼろはがれているし、
口の中は砂でも飲み込んだみたいにとにかく乾いていた。


頬の下には今回の取材用に用意していたノートが埋まっている。
コンクリートの壁のように感じたのはこのノートの冷たさだったらしい。



あまり気持ちのいい夢ではなかったがこう確認してみるとあっけないものだ。

フロイト氏やユング氏によれば人が見る全ての夢はリビドーだとか潜在欲求の顕在化であるということだが、現実生活に置ける諸問題は非常に陳腐な原因によって引き起こされる事の方が多い。

しかし、異国で初めての朝を迎えるという現実は
決して陳腐な気分ではない。

時刻は7:50。目覚めはあまり快調とはいえなかったが、今日始まるショウの事を考えると早速気分がうきうきしてきた。取材だ!



とりあえず水を飲みたい。
隣のベッドでまだ眠っている海野氏を起こさぬようにそっとキッチンへの扉を開けた。


ミネラルウオーターを一気に飲み干しようやく人心地がついた。
口にまとわりついた嫌な感覚が洗い流されて頭がだんだんにはっきりしてくる。



まだ眠っている丹羽氏の
簡易ベッドの向こう側に朝の香港が見える。



夜の闇をはぎとった素の香港はどこか寂しげにそしてとても素朴に見えた。はがれ落ちたコンクリートが目立つビルの壁面はやはりここが日本ではないことを強く認識させる。



あの建物の下には
どんな人たちが食べ、話し、労働し、暮らしているのだろうか。
そしてどんな人々が今日の会場には集まってくるのだろうか。
その3 〜続き〜


GLOBAL METALもしくは
METAL Headbanger's Journeyという映画をご存知の方がいらっしゃるかもしれない。

METALが国際化を起こすとどうなるか。

つまり世界中に広がったこの一種過激ともとらえられるHEAVY METAL音楽が
主に欧米以外のエリアで社会的にどんなムーブメントを作っているかを記録したドキュメンタリー映画である。


これらの映画の中にはインド、インドネシアやマレーシアなどの
アンダーグラウンドシーンで活躍するMETAL BANDの映像資料や彼らの活動の思想などがリアリティを持って取材されていて非常に興味深い。


一般に東南アジアはロックに関しては後進エリアである。
まず、ライブハウスがない。楽器を購入できるのは金持ちだけ。

マスメディアに露出するためにはコネと賄賂が非常に大きい意味を持ち、
歌手や俳優などは基本的に財閥や政治家の親族がほとんど、という現状がある。

まあ最後の部分については露骨かどうかの違いはあれど日本もハリウッドもおおかた似たものかもしれないが。



やる場所がない、やる道具がない、

やってる事を人に知らせる方法がないという状況なので
東南アジアのロック事情というのはシーンが非常に育ちづらいというのが現状なのだ。


とはいえ、こういった劣悪な環境の中でも辛抱強く活動しているミュージシャン達こそが飼いならされた音楽ではなく本当の意味でのロックシーンを作っていくのかもしれない。

だとすればアジアのロックシーンの未来というのは案外明るいものなのかもしれないなとも思う。


そんな事を考えながら寝室に戻りベッドでゴロゴロしていると丹羽氏の部屋からピピピピピとアラームが聞こえる。

八時だ。

「おはよう。」様子を見にキッチンへ再度顔を出すと、
丹羽氏が声をかけてくれた。

「よく眠れましたか?」

「うん、だいぶいい感じだよ。」

「自分、乾燥がひどくて目が覚めたんですけど喉大丈夫ですか?」

「そうだなー。うおっ、これは。」
丹羽氏が就寝前に気づいたぬれタオルの要塞を手で触れて確認する。





「すっかり乾いちゃってるなー。これやってなかったらコンデションまずかったかもねー。」

まさに備えあれば憂い無しですね。
とりあえず二人で朝食へ。寝ている海野氏はまだそっとしておくことに。


朝食はバイキング形式でパン類、
中華系、洋風のブレックファースト、フルーツとかなり種類が豊富。



「こいつはConquer(征服)しないと!」
丹羽氏が興奮気味でつぶやいた。



この細い体のどこに入るのだろうと思うのだが
朝から山盛りのバイキング3皿。征服者にふさわしい勢いでいがぐり頭を上下に動かし食べる食べる。


自分もつられて山盛りにしてしまった皿と悪戦苦闘していると、
藤野氏と堀江氏が通りかかる。
一足先に朝食を済ませて部屋に帰るところだった。

一通り眠れたか、今日の集合時間は、といった朝の挨拶をかわす。


堀江氏
「いやー寝癖がひどくってさー。髪直さずに来たからクリンクリンだよ。どう?」
筆者
「い、いや、いいと思います。グ、グルーヴィーで。」



ニヤニヤ笑う堀江氏。ウケてくれた。かな?
丹羽さんの征服活動も一段落したようなので尋ねてみる。



落合
「ところで、丹羽さんってVIGILANTEのオリジナルメンバーではなかったんですよね?どういう経緯で参加する事になったんですか?」



その3 〜続き〜


丹羽氏「ああ、それはね。自分は20代の頃に名古屋でHIDDENっていうバンドに参加していたんだけど、当時対バンで知り合ってたVIGILANTEが俺の声を気に入ってくれてたみたいで。

HIDDENが解散したタイミングでちょうどVIGILANTEもボーカルが抜けるってことがあって『やらないか』って打診が来たんだ。」

落合「名古屋と東京。距離が離れている事は障害にならなかったですか。」


丹羽氏「大変だなって言うのはわかってたんだけど、

VIGILANTEがしっかりしたバンドだっていうの間違いないし、自分が入る事で素晴らしいバンドになるのなら、

多少の費用とか時間の制約についてはなんとかなると思ったんだ。もちろん毎回はリハに参加はできないけね。

でもその分自分を鍛える事はするし、音源の受け渡しにしても昔は郵送だったけど今はメールって言う便利なものがあるから。

そういえばHR/HMのバンドってメンバーが離れた場所にいるって言うのは結構多いみたいなんだ。KAMELOTなんかもそうじゃないかな。」


落合「ボーカルとして途中から入った苦労は何かありましたか。」


丹羽氏「やっぱり入ったばかりでデモを作る時は大変だったよ。

ボーカル抜きの音源を渡されてメロディーと歌詞を作らないといけなかったんだけど、どこにメロディーを入れたらいいのかさっぱりわからなくて(笑)

で、しばらく放っておいたんだけどメンバーにその事で突っ込まれちゃってさ。
ほら加入してすぐってストレスがたまるでしょ。
今までと勝手が違うし信頼関係がまだ確立していないというのもあるしね。


そんな悶々としてる時に厳しい指摘をされたから、怒りがわいて来たんだけど
それを渡された曲にぶつけたんだ。その時のやり場の無い感情とか、悶々とした怒りとかね。

で、一気に歌詞とメロディーを書き上げてすぐ歌ったんだけどそしたらみんなが
『今のは気持ちがこもっていた。素晴らしいボーカルだった』って言ってくれてね。

あの時、本当にVIGILANTEのメンバーになったんじゃないかな。俺は。」


たっぷりしすぎた朝食を終えると集合時間の12:30まであと3時間ほど。
食い過ぎた・・・動けない・・・二度寝をしたい・・・



「じゃあ、俺はこれからサウナに行って備え付けのジムでトレーニングをしてくるよ!」という鉄人丹羽氏。

あれだけ食べてまだ動くとは、アスリートだなあと感心した。
後で集合した時に聞くと藤野氏もジムで筋トレをきたという事。みなさん凄すぎます・・・。


部屋に戻りベッドに倒れるとすぐに意識を失ってしまったようで、はっと身を起こすと既に集合15分前である。


「じゃあ先に下降りてるから」
海野氏はいつのまにか準備万端だった。

この方はのんびりしているようで手際が非常にいい。
丹羽氏はなにやら荷物の整理の真っ最中。間に合うのか・・・

「ずいぶん大荷物ですね。まさかそれ全部持っていくんですか?」

「うん。持つ事にした。」と、丹羽氏。
すでにそれで旅行に行けそうなくらいの重装備だ。何が入ってるんだろうか。

「着替えとか、あとは喉のケア用品とかだね。

ボーカリストはねえ欲張りな人が多いからアレも詰めたいこれも必要って言って荷物が多くなる人結構いるんだよ。

ANTHEMのえいぞうさんなんかも凄い荷物多いんだ。おっと時間だ、急ごうか。」
12:30 VIGILANTE集合。
その4


「おはようございまーす!」



すでにロビーにはメンバーが集合していた。
丹羽氏と自分が最後だったらしい。いきなり恐縮していると、

大本氏から遅かったけどどうかしたのかというツッコミが。時間厳守は基本でしたね。すいません。

Mr.Soniのアシスタントのしょうこさんの姿も見える。

彼女は今日一日中VIGILANTEとMr.Soniに張り付いてお手伝いをしてくれる事になっていた。

全員集合したところでホテルの玄関に出る。ここから車で会場入りだ。

表に出て思わずうおっと声を上げる。
凄まじいどしゃぶりである。


シャワーのような東南アジアの雨。
ホテルの玄関の屋根、客待ちのタクシーやバスの天井から滝のように流れ落ちている。

日本の豪雨とはまた違う一種さわやかな眺めだった。
雨の冷気で昨日あれほどべたついた肌も今日はシャワーを浴びた後の様に快調だ。



車がくるまでの間、大本氏と丹羽氏とで
しばし最近のラウドミュージックの話題で盛り上がる。

自分が一度mixiで紹介した事のあるProtest the Heroというバンドを二人は気に入ってくれたようで、今度は逆にSikthの新譜を薦められた。

大本氏「最近はコンマ単位の地獄のエディット作業で音源を仕上げてくるバンドが増えたね。

Protest The HeroもSikthもそうだ。逆に完全一発録りみたいなバンドもいるけどね。

極端に別れてきてる雰囲気はあるな。でもそれはどっちだっていいんだ。最終的に出来上がったものが徹底していればね。」


落合「VIGILANTEはどうやって曲作りをしているんですか?」

大本氏「そうだなあ、誰が持ち込んでくるかにもよるんだけど自分が作曲する時は、膨大なリフのストックからその時の気分でピックアップしたものを印象的な展開になるように組み合わせていく事が多いな。」

落合「リフはどうやって浮かんでくるんですか?」


大本氏「実は自分は何もないところから完全にひらめきだけででリフを作るって言うのはあまり得意でないんだ。」

落合「それは意外ですね。大本さんみたいなギターヒーローはアドリブが非常に得意なイメージがあります。」



大本氏「そうかもね。とにかくネタを仕入れるために自分はあらゆる曲をコピーしたんだ。

本当にたくさん、何度も何度もだ。人の曲でもずっと弾いているとフレーズが体になじんできて、

いつのまにか自分の感覚になってくる。そうやって体になじんでくるとふとした拍子に、身に付いた感覚が面白い具合にミックスされたリフが生まれる事がある。そうなればそれは俺のオリジナルになったってことさ。」


落合「メロディーはどうやってつけているんですか?

VIGILANTEはメロディーラインも非常に精密に構成されていると思います。
丹羽さんの歌唱力の素晴らしさがよくわかりますよ。」



大本氏「基本的なところは丹羽君に大体任せて、曲の肝になる部分についてはある程度ボーカルラインを決めさせてもらう事もあるな。」


丹羽氏「そうだね。自分一人では出てこないメロディーが他の楽器からのアプローチで生まれる事もあるから。」


落合「丹羽さん的には他のパートから提供されたボーカルラインを歌う事に抵抗はありますか?」


丹羽氏「いや、それは今はそんなにないな。

作品として面白いものができた方がいいと思っているからね。ほらDream Theaterだって、メロディーラインはあのボーカルが考えている訳ではないから。

まあでも彼の場合は制作に全く関わっていないからちょっとかわいそうな気もする。」
その4


大本氏「IronMaidenなんかもほとんどスティーブ・ハリスがメロディーラインを作っているんじゃないか?あれはボーカルが作るメロディーじゃない。」



丹羽氏「Dream TheaterにしてもIron Maidenにしても
ボーカル泣かせのメロディーラインだと思うよ。あれは非常に歌いづらい部分もある。リズムの持っていき方とかね」



落合「なるほど、確かにDream Theaterについては曲展開の中でボーカルの入るタイミングが難解だったりとか、まるで最近のエモバンドのような非常にモダンなメロディーを入れる印象があります。

Iron Maidenも歌詞を非常に入れづらいメロディーラインに聞こえる事はありますね。」


大本氏「そう。あれは別パートの人間がメロディーを作っているからだ。

でもそれは非常に重要な事だと言える。あれだけ印象が強いものになるんだからね。

曲を構築する上でメロディーも他の楽器と同じように作り込んでいく事は時には必要だ。

さもないと誰でも歌えるようなものになってしまう可能性もある。そして俺たちはそういうバンドじゃない。」

「あ、車が来たわよー。みなさん乗りましょう!」

しょうこさんが指差す方を見ると紺色のバンが水しぶきを上げて到着したところだった。

車体には激しい字体で漢字が描かれてあり、
そんなところにも興奮してしまう。



5人乗り+荷台部分の奥行きのあるバンだったが運転手含めて一行は9名・・・。

藤野氏と堀江氏は荷台部分に乗り込んだが、座席部分と荷台部分は金網で区切られていて座席側から見るとまるっきり護送される囚人にしか見えない。もちろん二人は大喜びである。



本来3人が限界である後部座席には、大本氏と、VIGILANTEスタッフのボラちゃん、海野氏、そして自分と4名で詰めて座った。丹羽氏は助手席に座ったが、しょうこさんの座る場所がなくなってしまった。

どうするのかと思ったらなんと運転席と助手席の間に乗り込むしょうこさん。

この人ただ者ではない。
もっとも後には、「あれはいわゆる『香港スタイル』というやつなのだな」と思い返せるようになるが。


運転手の兄ちゃんが車のカーテンを閉めて開けないように指示する。
警察に見られるとまずいということらしい。

もしかしたらこれで香港はOKなのかと思ってしまったが流石にそんなことはないようだ。
その4 〜続き〜


車が走りだす。
昨夜の夜の香港とは見える光景も、我々の状況もだいぶ違う。

活気に満ちて猥雑な、見知らぬ街香港を、カーテンの隙間からのぞくという状況はなかなかスリリングなものだった。

後ろの荷台の二人組は金網をゴリラのように揺すってはしゃいでいる。

香港は車のスピードが早く左右に揺れるぎゅうぎゅう詰めのバンはひとしきり歓声に包まれていた。

「今日の会場ってどんなところなんですか?」しょうこさんに聞いてみた。

「うーんと。公民館みたいなところっていえばいいのかな。青少年施設というか。」

ライブハウスではないのか!・・



VIGILANTEメンバーは果たしてこの事を知っていたのかと思って聞いてみたが
誰一人知らなかったらしい。全く未知の会場に、密室状態のバンで連行される一行。

後ろでは金網の向こうで暴れる男二人。これは妙な展開になってきた。
ひとしきり興奮が収まったところで大本氏に話しかけてみる。


「今回は流石にアンプは持ち込めなかったんですね。
ライブハウスではないという事ですけどこういうのって今までありました?」


「いや無いな。まあ、でも予算や手間の関係もあるし、

欲を言い出せば切りがないから・・・とにかく素の状態でできるベストを尽くすしか無いね!!」


にっこり笑って答えてくれた。

今回香港公演に同行する中でこの大本氏の人柄には非常に感銘を受ける事が多かった。

そこには緻密な論理的思考と実践的姿勢に裏打ちされた自信にあふれた陽気さとも言うべきものを感じる事ができたのである。

本当の大人というのはこういう人のことを言うのかもしれないなとふと思った。


彼はこんな事も言っていた。
「機材とか音作りについての様々な情報なり雑誌があるけど、

なぜあれほどまでに情報が溢れているかと言えば、流せば流すほど金になるからさ。

機材は新しいものがどんどん出る。で、またグレードが上がったバージョンがリリースされたっていってみんな購入するんだけど、でもそれが全部素晴らしいかと言えばそうではないわけ。



ほとんどの新製品は使ったからといって決定的に良くなりはしない。

なんでかって、言うと正しい使い方なり正しい音作りの技術って言うのは一般には絶対に伝わらないようになっているんだ。

そんなのを教えてしまったら一握りの頂上の人間が商売上がったりだからね。」


にこやかにそして熱っぽく語るその様子は
先生のようであり又高校生の様でもあり、非常に好ましく映った。


「だから、みんなが目にするようなメディアね。ネットとか雑誌には真実は無いんだ。

真に素晴らしい技術や方法論というのは一握りの頂上の人間しかわからないものになっている。

それに気づいた瞬間があってね。そこから俺はそういった職人的作り手の側になろうと決めた訳さ。」


「つまり真実を知りたいがために作り手になったという事ですか?」

「そう!本当に素晴らしいものがどこかにあるのだったら俺はそれを知りたいと思うよ。

そういう思いで、VIGILANTEをやっているしオルガズムスタジオだって同じさ。」



バンが止まった。

「降りましょう。」しょうこさんの言葉に、よし、おお、と小さな歓声が沸く。
会場に到着したのだ。



降りた前がレストランになっていて
ガラスの向こうは若い男女でいっぱいだった。

VIGILANTE一行の到着はそれなりに注目を集めているようで指差したり
「あれは誰だっけ?」というように仲間内で首を傾げたりしている。

ちょっとした外タレの気分である。
その4 〜続き〜


「この階段を上ってー」

しょうこさんが指差すとコンクリートの階段がレストランの横に見えた。

とてもこの先に会場があるようには見えないがとりあえず荷物持ちを手伝いつつ一行と上へ。


上りきった踊り場には、鉄柵に閂がおろしてあるエントランスがある。

その先はコンクリート打ち付けの半屋内と言った様子で、ビリヤード台、スケートボードの滑走ブロック、卓球台と言ったものがあり、中学生高校生くらいの男女が大はしゃぎで遊んでいた。


「これは本当に公民館だね。」

藤野氏がやや面食らった様子で呟く。


確かにこれはライブをやる会場とは思えない。
どんなイベントになるのだろうか。少々心配になった。


スタッフに誘導されて体育館に入る。
ここが今日の会場だ。


黒いカーテンを抜けて体育館に入った途端、

不安を忘れ興奮に襲われた。
「これはすごい!・・・」思わず叫んでしまった。


机で台を作ったその上に組み立てられた大きなPAブース。
そして、その対面にはこれまた木枠で作り上げた特設ステージが出来上がっていた。



恵比寿リキッドルームのような印象に近いが
体育館特有の天井の高さと色合いがあり、独特の開放感のある会場である。

また、この体育館の普段の利用者が描き上げたと思われる巨大なストリートペインティングが壁を鮮やかに彩り、

期せずしてライブハウス的な空気も生まれていた。

「これは血が騒ぐなー!!」
大本氏がにやにやしながら眺めている。


「文化祭みたいだね」海野氏も楽しそうだ。

体育館はちょうど真ん中で黒い天幕で仕切られ半分がステージ及び客席、半分が出演者楽屋となっていた。体育館のまるまる半分なのでなかなか巨大な控え室である。


楽屋に荷物を置くと香港側の中心スタッフと思われる眼鏡にロンゲの青年がニコニコしながら近づいてくる。

テーブルと椅子を出してくれ自由に飲んでいいという事でクーラーボックスいっぱいのドリンクを置いていってくれた。

彼は始終陽気に裏方の進行をしてくれていたようで好感が持てた。


ステージでは今日の2バンド目の出演バンドABYSSAL DESIREがリハーサルをしている。

NightwishやEvanessenceの影響を感じさせるキュートな女の子ボーカルを要するシンフォニックなメタルバンドで

非常に若い割に正統派な楽曲を演奏している。


我々は楽屋でひとしきり写真撮影を楽しんだ後、
くつろぎムードに。若干リハが押しているらしく、まだ時間もありそうだ。


「HIBRIAなんですけど・・・」としょうこさん。

「予定の飛行機に間に合わなくて、着くのギリギリみたい。ってソニが言ってます。」


今回のメインアクトのHIBRIAだが、
オーストラリア→日本→台湾→香港→韓国→カナダという怒濤のツアー中。

ちなみに香港公演の3日前には渋谷のO-eastで2daysをソールドアウトさせた目下絶好調というところ。

ツアーで揉まれたバンドの実力が楽しみである。



「実はHIBRIAとは個人的に俺たち親交があってね。」
海野氏がぽつぽつ語り始めた。



「2年前にHIBRIAのベースのマルコが日本にプライベートで遊びにきたんだ。

観光一緒にしたりとか日本のライブハウス事情について教えてあげたりして仲良くなってさ。

今回の香港もHIBRIAからソニに直接一緒にやりたいって推薦してくれたみたいでね。

Tomahawk Metalfest自体は去年の秋に一度出演依頼がソニからあったんだけど、日程が会わなくて断ってたんだ。

今回こういった形で一緒のステージ、しかも香港だぜ!立つ事ができて最高だよ。」


ABYSSAL DESIREのリハーサルが終わり準備してくれとの声がかかる。
いよいよ香港で音を放つ時が来たのだ!興奮がここから始まる!



その5


リハーサルのセッティングをするVIGILANTEのメンバー。
用意されていた機材はなかなか悪くない様で各楽器のセッティング事態はスムーズに進んでいるようだ。



ステージ全体を改めて眺めてみると、

奥行きはあまり無いが幅が広いので観客側から見ると躍動感が溢れたステージになるだろうと推測ができた。

普段日本のライブハウスで演奏する際、VIGILANTEは5人編成という事もあり
窮屈そうに見えてしまう事もあるが、今日はその心配は必要なさそうである。




このステージ、普段は体育館という事もあり上から照らすための照明が無い。
ステージ前方に設置された巨大なライトや、ミラーボールのような効果のあるオブジェクトを一緒に映し出す回転する照明器具でライトアップを行っているが普通のライブハウスに比べてもかなり暗く感じた。

しかし下方と前方からのみ照らされるこの照明は全体的な暗さとあいまってなかなか幻想的である。

ただ、ステージで照明をうける演奏側はさぞまぶしい事だろう。



照明がほぼ無い中でリハーサルが本格的に始まった。
曲を何度かやるがギターの音量バランスがあまり良くない。


あげくの果てには返しのモニターから全く音が出なくなってしまった。
後で聞いた所によると、どうやら、モニターの定格出力を越えてハウリングポイントで落ちた。

つまり、VIGILANTEの機材の電圧にモニターが耐えられなかったという事らしい。


なんとか音が出るようになり、滞り無くとは行かなかったがリハーサルが終了した。

大本氏に感想を聞かれたので最終的には気持ちいい音量バランスでしたよと答える。

トラブルはあったが実際セッティングが終了した段階では
体育館の音鳴りの良さもあいまって懐の広いグルーブのようなものが感じられた。



「今日はたぶんいいライブになるよ。」
大本氏がにやりと笑った。


その5 〜続き〜


「リハでトラブルが多い日っていうのは本番はうまく行くんだ。
逆にリハが良かった日ってのは大体本番はイマイチな事が多い。」



「何ででしょう?」

「うーん、まあ開き直るからかもね。

特に今回については何か起こらない方がおかしい状況な訳だから、思い切ってやるしか無い。」



「リハやった感じPAはどうでしたか?」

トラブル修復に時間がかかっていた事を思い出して尋ねてみる。

「いやPAはいいよ!音もいいしね。ただ、経験はあまり無い感じがしたけど、よくやってくれてると思う。ちょっとPA卓みてごらん」


大本氏の指先にはコードが複雑に接続されランプが灯った
PA機材がむき出しになった要塞のようなPA卓が見える。


「あれは簡易PAセットで組み立ててるんだけど全部BEHRINGER製のものだ。

正直全部BEHRINGERで統一しているPAセットなんて初めて見たよ。
何故ならあの会社のものは業界最安値と言ってもいいんだ。

たとえばYAMAHAとかKORGで全部純正のセットなんか組んだ日にはあそこに見えるものの3、4倍はコストがかかる。」



「てことは、やはりクオリティは低いという事ですかね?」


「それがね。ここに来てあのセットを見た時には大丈夫かな?と思ったんだけど
思った以上、というか全然問題ないね。腕がいいんだと思うし、

あとはあの安いセットでずっと今までやってきてるから使いこなせているんだと思うよ。

結局どっちをとるかっていうのでコストの問題もあるんだけど、

腕を磨いて安い機材でも一定のクオリティを出せるようにするか、機材のグレードを上げて際限なく最高の音を追求するか。

ただ、結局のところは人の技術が一番大事なんだよね。だからこのPAはいいと思う。」



「先週より段取りがうまくなってますねー。」
しょうこさんがちょっとびっくりしたように言った。

「あ、先週もTomahawk Metalfestやってたんですよね?この会場ですか?」



「いやー先週は学校の視聴覚室みたいなとこだったの。」
くすくす笑いながら答えてくれる。

「最初の音出しの段階で相当手間取ってね。

今日みたいにこんなにすぐ『じゃあ曲やってください』ってならなかったのよ。

果たしてライブが始められるのかって感じだったもん。」
ため息をつきながら疲れた表情を見せた。



「結局大幅に押してなんとか本番終了したんだけど、

『高い金払ってるのになんだこの駄目な仕事っぷりは』ってソニがキれてねえ・・・。確かに無駄に人も多かったし。あ、今日の倍くらいの人数がいたのよ。ただいるだけって感じの。」



「え、そうなんですか?今日も別に少ないって感じはしないですけど・・・」



「うん、まあ現場で勉強したいって人もいると思うから。
まあ、とにかく使える人だけ残ったみたいね。スムーズに行って安心安心。」


その5 〜続き〜


ちなみに先週演奏が終了したのは深夜12時近くだったとか・・・
本当にお疲れさまでした。


膜の向こうの楽屋で一服する一行。
ここで堀江氏がSEの音源を忘れたということでホテルにいったん帰る事に。

丹羽氏もいったん戻って休みたいという事だったので
堀江氏、丹羽氏、付き添いのしょうこさんはいったん別行動になった。



残ったメンバーで食事を済ませてしまおうと外に出る事になったが、
楽屋に誰もいないのもまずいので二班に分かれる事になった。
先に大本氏、藤野氏、ボラちゃんが出て、自分と海野氏が後発組になった。



「お疲れさまです。しかしこの会場には驚きましたね。」


「そうだね。ライブハウスだと思ってたから。」
海野さんが笑って答えた。


「しかしまた、主催者側がこの会場についてバンド側に伝えてなかったというのも・・・」

自分がちょっと不満げに口に出したのがわかったのか、海野氏が苦笑いしながら言った。


「まあねー。でもこれがもしかしたら香港のスタイルかもしれない。

日本人は何かやろうとする時には企画の段階で進行とかトラブルの場合の対応とか全部決めて、

関係者に確認をとって初めてGOサインでるでしょ?



でもこっちではそんな細かく決めずにとりあえずやってみよう、
何か起こったらその時に考えればいいというのが基本スタイルみたいだ。
というか日本人みたいに細かく決めるのがむしろ世界の中では珍しいから。」


これはちょっとショックだった。

確かに日本ではこういうイベントを行う際に見切り発車でというのは絶対にあり得ないと思う。



でも、とりあえずやってみればいいというスタイルは悪くないと思う。
始めてしまったらなんとかしてやりきるしかないからね。

こういうのを体験すると、僕たち日本人もいろんな事に対してもう少し気楽に構えた方がいいのかもしれないね。」



先発組の3人が戻って来たので、海野氏と二人で食事へ。
会場の横にある先ほどバンを止めた前のレストランに入る。


メニューを見ると
麺類や炒飯等が書いてあるがその中にひときわ目を引く文字が。



「出前一丁」

これってあのインスタント麺の?

自分はこれを炒めたもの、海野氏はチャーシューメンを注文した。
出て来たのは、確かにインスタント麺らしく縮れている。


オイスターソースと醤油かなにかで炒めているのか茶色く見た目はまさしく焼きそばだ。

上に目玉焼きが乗っかっていて、タイ料理でパッタイという麺料理があるが見た目はそれに近い。


卵を崩して一気に口に運ぶ。
(美味い!)インスタント麺だからといってなめていたが、

ちゃんと食材の一つとして調理すれば料理になるんだなあとしみじみ思った。

その5 〜続き〜


香港に来て出前一丁を食べるというのもおかしかったが
日本人には塩気のバランスが親しみやすい味だった。

香港風ソース焼きそばと言ったところか。
食べながらいくつか気になっていた事を聞いてみる。



VIGILANTEのメンバーの中でも海野氏と堀江氏と丹羽氏は英語がペラペラだが海外在住経験でもあるのだろうか。


「いや、無いよ。完全に独学。」
なくなりかけた麺を箸で探りながらゆっくり首を振った。



「英語は日本語みたいに回りくどい表現が無くて、言いたい事をストレートに伝えられるから、自分に凄い合ってると感じているんだ。

結構勉強したんだけど苦痛では無かったな。こうやって世界のいろんな国でいろんな人と話せるしね。」



なんと海野氏は完全に独学でTOEICを900点近くとれるようになったとか。
物事を極められる人というのは集中力が他の人とは違うというのを感じた瞬間でもあった。


海野氏は非常にクールに見える人物で一見取っ付きにくそうに見えるが、
実は穏やかで細やかな気遣いを見せる優しい方だった。あまり興奮するタイプではないが熟成した知性というものを感じさせる紳士だった。



「まあ、ヘヴィメタルというジャンルはどうしても欧米の方が盛んだしね。
そちらにアピールするためには英語でコミュニケーションがとれた方がいいというのもあるし」



「何か今後のVIGILANTEのビジョンというのはあるんですか?」
例えば3年後どうなっていたいとか具体的なものはあるのだろうか。



「3年後か。」

空になった食器を脇に寄せてコーヒーをストローで混ぜながら海野氏が語ってくれる。



「アジア地域を巻き込んだ活動をしていきたいと言うのはあるね。
3年前に行った韓国もそうだけど。年齢を重ねていくにつれて

日本で生まれ育ってアジア人として生きているこのアイデンティティを大切にしなくちゃなと思う様になってきたんだ。



さっき欧米にアピールしたいと言った内容とは矛盾するかもだけど、

コストの面から考えても日本がホームである以上アジアで流通なりツアーがうまくいった方が効率がいい。

それに最近こうやって海外のバンドや関係者達と交流するようになって、気づいたのは欧米の人たちからすると、

何で自分たちのアイデンティティであるところのアジア地域で売ろうとしないのか、よく理解できないらしいんだ。


こっちからすると、本場で認められたいというのがもちろんあるんだけど。
ところで、グローバルメタルって言うドキュメンタリー映画は知っているかい?」

「知っています。」
その3で触れたがヘヴィメタルの国際化を追ったドキュメンタリー映画である。



「そう、あれを見てもらえればわかると思うんだけど、
アジアでも急速にこのジャンルに対する理解が高まってシーンができ始めている。

まだまだアンダーグラウンドな動きではあるけどね。」声のトーンが熱を帯びて来ている。
その5 〜続き〜


「若いシーンに向けて俺たちベテランがしっかりした作品を提示する事ができれば、それはきっとこのアジアのヘヴィミュージックシーンの未来にとって大きな自信になると思うんだ。
そして俺たちはそういったものを提示する使命があると考えている。



例えばこの香港のライブハウスシーンについてさっきしょうこさんから教えてもらったんだけど、香港にはライブハウスがほとんどないんだ。



白人居住区のセントラルという地区にクラブがあるらしいんだが、
イベント打つにしてもコネが無いととんでもない額で吹っかけられるから、
アジア系の人たちは演奏する場所といえばこういう公民館とか大学のホールみたいなところになるらしい。」



そうだった。

香港は家が平均的に非常に狭いので、楽器を購入して音を出せるのは金持ちの子弟だけであり、その若いアマチュアミュージシャン達も、大学卒業と同時にほとんどが嘘みたいに音楽をやめてしまうらしい。

これは香港人特有の現実主義にあるとしょうこさんは語っていた。


「そういう環境だとシーンというのは育ちにくいし、
いい人材を見つけるのもなかなか大変だけど」



だからこそ。。

「そう、だからこそ夢を与えられたらいいなと思う。
同じアジア人としてね。それに、アジアはコネが全てといってもいい。

コネが無ければとんでもない額を吹っかけられるけど、人脈があれば簡単にタダになったりするんだ。こういうのは面白いし、一つの魅力と言ってもいいよね。」

VIGILANTEはどういう種類の成功を手に入れたいと思っているのだろうか。


「まずは経験と実績を重ねて、着実に続けて行く事が大事だと思う。
別に世間的に言う金銭面や名誉的な意味での大きな成功を収める事にはこだわらないかな。

やってるジャンルが特殊ではあるから次々大ヒットを飛ばすという事は元々考えてないしね。

それよりは自分たちの作品が評価されてバンドとして本当の意味で認められる事が大事だ。」


ここでちょっとはにかんだ笑顔を見せる海野氏。

「実を言うと音楽を続けて行く事に迷った事もある。
でも30をすぎて覚悟が固まったよ。もう自分はこれをずっと続けて行く事が間違いないんだなってね。」



(地に足をつけた活動をして行く。)



これはこの香港での取材中、
そして日本へ帰国してから交流を続けて行くにあたって
VIGILANTEの他のメンバーからも何度も聞く事ができた言葉だった。


今回VIGILANTEに同行して取材する中で、
オルガズム参加バンドを含めたインディーズバンド達と明らかに違うと感じさせられた点として、

(徹底した現実主義)と全てが作品またはライブでの演奏パフォーマンスに帰結する様々な(プロのこだわり)だった。


縄張り争いや競争とかけ離れたところに、真のアーティストの精練場またはオアシスが確かに存在しているということを見せつけられたのである。



「そろそろ戻ろうか。」

時計を見るともう5時である。HIBRIAは無事到着したのだろうか。
会計をする段になって私は固辞しようとしたのだが、海野さんがごちそうしてくれた。

こういうところの振る舞いも
凄く大人で気持ちの良い人であった。

その6

会場の体育館に戻ると、フロアにいる人がずいぶんと増えていた。
リハーサル中のステージを見ると、到着したのだ。HIBRIAである。

HIBRIA are…

Diego Kasper (Gt)
Marco Panichi (Ba)
Iuri Sanson (Vo)
Abel Camargo (Gt)
Eduardo Baldo (Dr)

イベントのスタッフも香港の出演バンドも興奮気味で
セッティング中のステージを見つめている。



ここで、海野さんはHIBRIAのツアーマネージャーのmatsさんに挨拶へ。

このmatsさんは日本→台湾→香港そして明日からの韓国と4カ国で今回のツアーの面倒を見てあげているらしい。

自分はPA卓の後ろの壁からリハを眺めてみる事にした。



ステージ上で楽器のセッティングを行うHIBRIAメンバー。
その中で波形が映るMacintoshが異彩を放っていた。


機材の音出しが終わりいよいよ曲での音合わせである。
ドラムフィルからなだれ込んだサウンドを聴いてびっくりした。

完全にCDと同じ音質である。ボーカルのIuriの歌も素晴らしい。ピッチ、リズム、声の抜け全て完璧である。



「これはすごい。CDそのままだな。」
いつのまにか近くに来ていた大本氏がつぶやく。


「こういうのはちょっと聴いた事が無いです。
もの凄くきれいにまとまっていますね。どうやってるんでしょう?」


「あれに」波形の映るMACを指差す。

「普通だったらPAに行くはずの楽器のサウンドを先に送っているんだね。

つまり、あのPCが既にPA卓になっていてサウンドバランスや音色なんかをHIBRIA仕様にMIXしてしまうんだな。

だからPA卓はあれを経由して来た音をただ出すだけということになる。調整はMACで済んでるからね。でもこれは難しいよ。」



みていると外音についてIURIが気に入らないらしくPAに指示を出しているがうまく伝わっていないらしい。

と思うと、なんと本人がPA卓に乗り込んできた。そこで歌って外音を聞きながらPAに細かく注文しているようだ。

これも初めて見た光景だった。


やはりなかなか調整が難しいらしく、時間がかかっていた。
一度楽屋側に戻る事にする。


「出前一丁だったでしょ?」
藤野氏がにこにこしながら尋ねてくる。



「びっくりしたわー。でも結構うまかったね。」

「こっちだとポピュラーなんですよー。」

戻って来ていたしょうこさんが教えてくれる。「コンビニとかでも絶対に置いてあるし。ほら!」


その6 〜続き〜


お菓子の箱を出してくれたのを見るとパッケージは漢字だが、
明らかにコアラのマーチである。本当に日本製品に溢れているなあと感じた。



感覚的には欧米人旅行客が日本のコンビニに行って
プリングルスやシュナイダーを見かけるのと同じ感覚だろうか。


出前一丁では翌日ホテル近くのセブンイレブンに行った際に日本では見かけない
「牛肉麺」という種類のものを見つけた。相当食材として定着しているようである。


丹羽氏と堀江氏もソニ氏と一緒に戻って来ていた。
「おかえりなさい。メシ食べました?」堀江氏に尋ねる。

「食べた。ホテルで偶然ソニにあってね。

上の階のレストランにつれてかれて海老ワンタン食べたんだけど感動的な美味さだったね・・・」

そういえば自分は香港に来てからまだ
これぞ中華というものを食べていない事にここで気がついた。
明日は腹一杯食べられるのだろうが・・



HIBRIAがリハーサルが終わって楽屋に戻って来た。

VIGILANTEのメンバーとは旧知の中だと言うベーシストのマルコが嬉しそうにやって来て握手をする。


何と自分にも「Thank you!」といいながら手を差し伸べてくれた。
どきどきしながら握り返す。HIBRIAの他のメンバーも次々とやって来て挨拶を交わす。


この時ほど英語がろくに話せないのをもどかしく思った事は無い!!

聞きたい事や話したいことがたくさんあったのだが・・・俺が言えた台詞と言えばボーカルのIURIに


「Great voice, amazing!」
としどろもどろになりながらつぶやいたのが関の山である。



しかしIURIは笑いながらちょっと片言で
「ありがとう」と言ってくれた。

しかし何度も言うようだが、今回のHIBRIAといいVIGILANTEといいい、本当に紳士的な人たちであった。


ここでちょっとしたニュースが入る。

HIBRIAが一曲丹羽氏をボーカルで加えてカバーをやりたいと提案をしてくれたということで、IRON MAIDENの2 minutes to midnightをHIBRIA +丹羽氏で演奏する事になった。



Matsさんがすぐにプリントアウトした歌詞をもってきて丹羽氏に手渡した。
暗記を始める丹羽氏。これはスペシャルな夜になりそうである。



その6 〜続き〜



HIBRIAは過酷なツアーをくぐり抜けた来たバンドらしく独特の貫禄があった。

やはりオーラを感じ取ったのかイベントのスタッフや香港側の出演バンドのメンバーから記念撮影をしきりに頼まれている。


袖を突っつかれてふと見るとイベントスタッフのお揃いの黒いTシャツを着た二人組の女の子がにこにこしながら立っている。

VIGILANTEと一緒の写真を撮りたいんだけど頼んでくれないかというからウオーミングアップ中のメンバーに伝えると快くOKを出してくれた。

大丈夫な胸を伝えると二人は抱きあってきゃっきゃっとはしゃいでいる。


ちょうどHIBRIAが本番でスレージ上に立てる黒と白の半楕円がペイントされた巨大な仕切り壁が立てかけてあったからそこで集合写真を撮る。



しかし今回何度も集合写真を撮っていて、みんな撮られなれているなあと感じた。

格好を付けているというわけではない。カメラの前でどうやって自然体でVIGILANTEを魅せるかということを知っているのだろう。



ふざけてもクールに装ってもそれなりに決まって見えるから感心してしまう。

ところでこのHIBRIA用の仕切り壁の前は記念撮影スペースとして定着してしまい本番前までちょっとした社交場のようになっていた。



一番手のバンドのリハーサルが終了した。
開場は既に30分ほど押しているがいよいよである。



楽屋側にソニが現れた。
全5バンド及びスタッフで本番前の記念撮影である。



自分は入らずに撮影をする側に回ったが
香港のスタッフ、全ての出演バンド、皆実に良い表情をしていた。


無数のフラッシュとともにシャッターが切られる。
陽気に声が飛び交う中、自分はしみじみとした興奮を味わっていた。





いよいよこれから始まるんだ。

地元香港のバンド、日本のバンド、ブラジルのバンド、香港のスタッフ、
これらを一人で集めたMR.SONIそして、今日これから集まる香港のメタルファン、
全てが一つになってはじける夜がやってくる。ここからだここから始まるんだ。


そう、思いながら、
サウンドチェックが終わり人の声だけが響く体育館の中で、
そんな事を考えてじっとりとした汗をかき始めていた。


写真撮影が終わった。

「開場だ!!」

その6 〜続き〜



始めはゆっくりとそして徐々に勢いを増して客がステージの前に集まってくる。

入り的にはまだまだだが、ステージの後ろから覗くと高さのあるステージの前に客が詰めかけていてなかなかの盛況に見える。

テンションが上がる光景だ。


しかしながらどうしようもなく物足りなく感じたのはBGMが無かった事である。

完全に無音状態の中所在なげに開演を待つお客さん。BGMを流す週刊が無いのか用意を忘れたのかは不明だが、なかなか妙な雰囲気であった。そして残念な事にドリンクの販売が全く行われていない。



体育館なのでバーカウンターが無いのは当たり前だが、
持ち込みで販売する事まで頭が回らなかったか。
施設側との取り決めで飲食物の販売ができない約束になっているのかも知れなかったが・・



妙な雰囲気ながら開場してしばらく立つと会場の熱気も上がってくる。
と、ステージにサーチライトがあたる。

マイクを持った人影が登場した。MR.SONIだ。
どうやらオープニングのMCを行うらしい。



ステージを駆け上がって来たMR.SONIは
どのバンドのフロントマンかと思うくらいハイテンションで、
そして一生懸命叫び始めた。確かこんな内容だったと思う。





「野郎ども!!トマホークメタルフェストを始める!!

今日は香港3バンド、日本からVIGILANTE、そしてブラジルからHIBRIAを迎えて行う。テンションは上がっているか!OK?よし、それでは最後まで楽しんで行ってくれよな!!

最初のバンドを紹介するぜ!彼らは非常に若いが勢いのある香港のバンドでDRAGONFORCEのコピーをやっている。BROKEN LIGHTERだ!!」



あまりの勢いに会場も最初ぽかんとしていたが徐々に口調の熱に引き込まれて行った。

最後はオーディエンス大盛り上がりである。
「彼凄いなあ」

海野氏も意表をつかれたようである。
確かにこれはちょっと予想していなかった。

表に出てくるタイプではなさそうに見えたのだが、彼が実質一人で運営している事もあり、なんとかしようという気合いが伝わってくる。

そして、間髪を入れずBROKEN LIGHTERの演奏が始まった。

セッティングを終えてBROKEN LIGHTERのメンバーが演奏の開始を観客にアピールすると結構客席はレスポンスを返している。香港のお客さんは素直だなあと感じた。



演奏はお世辞にも良いとは言えない内容でありステージングにも不慣れな様子でしかもコピーバンド、という正直VIGILANTEやHIBRIAと対バンをできるようなバンドではなかったが、こういう若い地元のミュージシャンに刺激を与えて育成をするという趣旨に置いては素晴らしいと思う。


この日は恐らく彼らに撮っても一生忘れられない一日になったのではないだろうか。



その6 〜続き〜


そして次のバンド
ABYSSAL DESIREはNIGHTWISHやEVANESSENCEの影響を強く感じるゴシックメタルである。

このボーカルの女の子は結構かわいく会場前に藤野氏と二人で結構盛り上がってしまった。


話がそれるが、香港の女の子は若く見える事が多く、
何故かと思ったら湿気が凄いので化粧をしても汗で流れるという訳で、みんな非常に薄化粧なのである。



そして湿気があるから肌もつややかである。
藤野氏と二人で香港の女子は萌えるという結論に達した後は、彼にさんざん言われたものである。



「落合君。僕に遠慮せずにどんどん突撃しちゃっていいんだよ。
さあ身も心も解放しちゃって!!(あくまでさわやかに)」


しかしながらこの藤野氏、英語がからっきし駄目だと言っていたわりには、結構積極的に香港女子とおしゃべりしていた。

イケメン具合もあいまってステージ袖で待機中、常にモテモテであった。うらやましい限りである。



閑話休題。



ABYSSAL DESIREのボーカルの娘は大変かわいらしいが
ステージに登場するとそれはそれはアグレッシブでなかなかいいフロントウーマンであった。


香港のバンドマンを見て感じた事の中に、
若くてもステージ度胸がある連中が多いという事もある。


ところが勢い用一局目のイントロを演奏中に会場の照明音響が全て落ちるというアクシデントが。

落ちた瞬間「あー」というような絶望的な声が会場中から響き渡る。



MR.SONIを目の端で見つけてみると明らかに動揺していた。
(このまま再開出来なかったらどうしよう・・・)



会場中の人間がドキドキしながら待っている。
祈るような表情の人、泣きそうな顔の人険しい表情の人、どれだけの時間が経っただろうか。

実際にはせいぜい3分程だったかもしれないが、ステージ上のバンドやMR.SONIにとっては永遠のように感じられただろう。



真っ暗になったステージ上をオレンジ色の照明が突如照らす。
レーザーボールが回転を始める。会場中の人々の歓声が体育館を揺らした。良かった!

気を取り直して再開したABYSSAL DESIREのライブは

以降途切れる事無く無事終了した。このバンドは曲に斬新さはあまり無いものの、ステージ度胸と安定した歌唱力、そして華のあるバンドだったので前座を務める合格のレベルのバンドだったと思う。



3番手のBLACKWINEの登場を待つ。
このバンドは香港のメタルシーンでは老舗で実力派という事であり、
ここから今日のショウの本編が始まると言っていいだろう。自分も少しだけ撮影をしようとビデオカメラをセットする。


皆さんは覚えていらっしゃるだろうか、

空港に到着した自分がMR.SONIにイベント全編を通じてHIBRIAも含め撮影を行ってもいいかと尋ねた事があったが、その時 彼は「きっとなんとかなるさ。」と答えたのである。



その時 自分は香港側の撮影クルーに混ぜてもらえるのだと想像していたのだが
それは大きな勘違いであった。撮影クルーなんてものはいなかったのである。



お客さんもスタッフも好き勝手にビデオカメラやらデジカメやらを持って
あっちでパシャパシャこっちでパシャパシャしていたのであった。



なかなか衝撃的な光景で、著作権の問題は大丈夫なのか・・・?と心配になったのだが肝心な事を忘れていた。

ここは「一応」中国なのである。


あまり深く突っ込むと話がややこしくなるのでやめておくが、、
まあそういうことなのだ
その6 〜続き〜



丹羽氏を見かけたのでこれについて話をふってみるとやはり苦笑していた。

「まあ、著作権とか肖像権に関しての認識については国によって温度差があるからね・・・なんとも言えないかな。。」


撮影しまくるオーディエンス以外にも
フロアにはなかなか印象的なお客さんがちらほら見えていた。



白人の大男(決して可愛くもなければ細くも優男でもない)が白いワンピースに白いタイツを履いてフロアの真ん中で踊り狂っていたりボディコン姿のインド人男子がヘッドバンキングをしながら何故か自分をセルフ撮りするなどなかなかにカオスな状況になって来ている。


いつしかお客さんも増えて来た。
ホールはかなり盛りあがってきていた。



そしてBLACKWINEの登場である。

見た目的な意味では一人もイケメンがいなかったという事もあり華は無いバンドであったが、安定した演奏と勢いのあるライブを魅せてくれた。


曲も凡庸と言えば凡庸ではあったが、モダンでフックの聴いたヴァイブをもっており、最終的になかなかいいバンドだなと思った。

ボーカルがメタル色が強くなったヴィンスニール(Motley crue)のような声を出していて印象に残った。


このバンドの演奏中から観客が本格的に暴れはじめモッシュピットが出来上がる。前列の方はかなり激しい波ができているようで香港もなかなかやるなという雰囲気だ。


かなりの盛り上がりの中歓声を浴びてBLACKWINEがステージ袖に引っ込む。



いよいよ次という事で待機していたVIGILANTEメンバーと抱擁を交わす。

そういえば藤野氏はステージ袖から降りてくる演奏終了後のバンドと積極的に交流していたようで、かなり楽しんでいたようである。



「ところで堀江さん、そのジーパンお洒落ですね。」

堀江氏は裾が少し広めに広がったベルボトムタイプのジーンズをはいていたが
脛のあたりに銀色の房のような刺繍が入っておりいかにもロックミュージシャンという出で立ちだ。


「かっこいいでしょう。これは足の長い俺にしか似合わないんだよ。これみよがしに足を組み直してみたりしてね。アハハ!」



そんなこんなでいよいよ本番である。

これまで冗談を言い合っていたメンバーの表情も引き締まり、セッティングに向けてステージ袖に入って行くのを祈るような気持ちで見つめた。



Have a good gig, VIGILANTE!!
その6 〜続き〜


自分はビデオカメラの最終チェックを入念に行う。
チェックと言ってもテープが間違っていないか、充電は足りているかだけなのだが、かなり緊張していた。

予備用にポケットに入れる替えのテープのパッケージを外す手が汗で滑ってもどかしい。


楽屋から会場に戻って改めてステージを眺める。

今日の会場は体育館という事もあり、照明の色数は赤、青、白くらいしか用意されていなかったようだが、ステージに向けてはなつ強力なサーチライトが数台セットされており、レーザーでオブジェクトを映し出すボールが回転していて、微妙な暗さとあいまって陰影が非常に強い幻想的なセットになっていた。



加えて天井が高く、そびえる体育館のオレンジ色の木製の壁が巨大遺跡のような雰囲気を醸し出していた。

思い出したのはIRON MAIDENのライブ映像である。
これは相当雰囲気のある会場だ。


MR.SONIがステージ上に現れた。
「日本からの客人を紹介しよう。」

客席がメロイックサインで盛り上がる。


「VIGILANTE!!」



SEが流れ始めステージ上にメンバーが現れた。
が、大本氏サイドが様子がおかしい。

ギターの音が出なくなったようで、果たしてSEが終わるまでに間に合うのか・・
緊張しながら見ていたがなんとか無事セッティング完了だ。


VIGILANTE SETLIST

1. Unbeliever
2. Trapped
3. Parallel
4. Disharmonic
5. Resurrection
6. Shadow
7. Forever
8. Temple


最初の音を出した瞬間に会場の空気が変わったのがすぐに分かった。
明らかにこれまでのバンドとは違う次元のサウンドが鳴っている。


ソリッドながらぶつかること無く調和するどこまでも広がる分厚いサウンド。
異様な空気に包まれた会場を伸びやかに突き抜ける丹羽氏のハイトーンに会場は一気にヒートアップした。


いきなりモッシュピットが出来上がりぶつかり合い突き飛ばし合う観客。天井が高いこともあり、つぶれる事無く優しく広がる美しいシンフォニーがあまりに気持ちいい。


怒濤のように曲を続ける。
スモークがステージを埋めていくが明らかに炊き過ぎである。



しかし、煙に包まれた遺跡のようなステージを縦横無尽に照らすサーチライト、
その中に浮かび上がるVIGILANTE。美しさに息をのんだ。神々しい雰囲気の中熱気のこもったコール&レスポンスが始まる。

観客を指差す丹羽氏、メイックサインで応じる観客。



香港と日本が一体となった瞬間であった。

その6 〜続き〜


夢中で撮影を続ける自分を見つけてMR.SONIがPA卓に上って撮影して良いぞと嬉しいことを言ってくれる。

上ってみると客の動きがよくわかりこれまで以上に盛り上がりを感じる事ができた。



正直今回はヘッドライナーがHIBRIAだったということもあり、
お客さんにとってVIGILANTEは完全ノーマークだったのではないかと感じた。
しかし、VIGILANTEは全てを味方につけ最高のステージを見せつけた!


脅威のサウンドシステム、確かなテクニックに裏打ちされた超絶技巧の演奏、
そして誇りが支えた存在感に溢れたステージングは会場の全てのメタルファンの度肝を抜いた事は間違いない。



日本のVIGILANTEは香港のメタルの歴史に確かに刻まれたのである。

熱狂が覚めやらぬ歓声に包まれてステージを降りたVIGILANTEの表情は興奮に包まれていた。

しきりにみんなの口からでたのはとにかく楽しかったという満足げな吐息であった。


「香港熱いよ。」

丹羽氏が何度も叫んでいる。
「確かな手応えがあった。」

「素晴らしいね。」大本氏も感慨深げだ。
「また必ず戻ってきたい。香港に。」

「大変な事になってたな。。」海野氏もやや呆然とつぶやく。

「これほど盛り上がるとは・・」


「かっこ良く撮れたかい?」
堀江氏がにやにやしながら尋ねてくる。もちろんですとも!


「いやー気持ち良かったねー!!」藤野氏はあくまでさわやかだ。

「喉かわいちゃったな!凄く楽しかった!」


興奮冷めやらぬVIGILANTEにHIBRIAのメンバーも駆け寄る。
抱擁を繰り返しセッティングに向かうHIBRIAを送り、いよいよ盟友をフロアで観戦、そして忘れてはいけない。


HIBRIA+丹羽氏の2 minutes to midnightである。

その6 〜続き〜



楽屋で休んでいると例の如く幕の向こうではMr.Soniが例の如くしゃべり始めた。
本日最後のMCである。


今日集まってくれた客に礼を述べると歓声に包まれた。

楽屋側で見るとサーチライトで照らされたMr.Soniが影絵の様に、丸く幕に映し出されている。



身振り手振りで熱心に盛り上げようとする彼の姿に本当に良く頑張ってくれたと感謝の念を強く感じた。



MCが終わりHIBRIAが勢い良く登場かと思いきや、
またトラブルらしく無音状態のまま待たされる事になる。

先ほど楽屋で記念撮影スポットと化していた仕切り壁がステージ上にそびえ立ち、城のような光景である。

じりじりしてきたころに
突然ステージが照らされ今回のヘッドライナー「HIBRIA」が登場した。


さすが本国BrazilではANGRAに次ぐ演奏力を持つと言われるだけあって
素晴らしい演奏そして、過酷なツアーで鍛えられたであろう存在感のあるステージは圧巻であった。



しかし、しかしだ。あえて言おう。
サウンドの衝撃度の点から言えばVIGILANTEの圧勝だったと思う。



HIBRIAが曲を始めた時「あれ、こんな寂しい音だったか・・・」
と感じてしまったのは事実。

これはHIBRIAが非常に繊細なサウンドシステムを採用しているため、
なかなか上手くいかなかったと言う事かも知れない、、



しかしそれを差し引いたとしてもあまりにインパクトの強いVIGILANTEサウンド
彼らの作り出したORGAサウンドがいかに圧倒的なホールサウンドであるかという証明になったと思う。


ヘッドライナーと言う事で多くの客がHIBRIAの登場を待ち望んでいた。
モッシュピットも相変わらず盛り上がり、いい雰囲気のままライブは終盤に差し掛かる。



ここでボーカルのIURIが丹羽氏を紹介してステージに呼んだ。
いよいよスペシャルバンドである。

IURIも丹羽氏もスキンヘッドのボーカルと言う事でVIGILANTEのバックステージでは「東西法主対決」と言う事で爆笑であった。



「2 minutes to midnight!!」



フロアがひときわ大きな歓声に包まれた。
ヘヴィメタルファンなら誰でも知っている1984年リリースのIRON MAIDENの名盤「Powerslave」収録の人気曲である。

自分もこの曲は大好きな曲なので舞台袖でメロイックサインを掲げながら一緒に歌ってしまった。

客席を見るとステージを押しつぶさん勢いでメロイックサインを掲げており
大盛り上がりである。

興奮に勢い余ったのか3バンド目出演のBlackwineのボーカルも途中から乱入した。



日本、ブラジル、香港が今ひとつになっている。
素晴らしいステージにメロイックサインとモッシュで答える観客。
そのコール&レスポンスを舞台袖で見つめるスタッフや出演者



一体感溢れる最高の夜だ。演奏が終了したHIBRIAを迎える。
握手と抱擁で最高の夜を確かめ合う男達。

Tomahawk Metalfestは大盛況のうちに幕を閉じた。
終演後はこの大成功と言う結果を受けて、急遽サイン会が行われた。


VIGILANTEの最新作「?」を購入しようと
群がる客の列と記念撮影が終わらない。



ここでもやはり藤野氏は大人気で女の子に写真をせがまれては、快く応じていた。

同じアジア人という事で、お客さんにとっても話しかけやすかったのだろうか。

ファンとの会話も非常に多く交流を楽しんでいたようだった。
名残惜しい雰囲気の中機材をまとめて会場を後にする。



「終わっちゃったねえ・・・」
自分がつぶやくと藤野氏も応じてくれる。



「いやあ、なんか寂しいねえ。でも、まあ、これで落合君も取材を追えて後は明日観光な訳だし、

僕に遠慮せずにどんど香港女子に突撃しちゃっていいんだよ。いやあしかし香港の女の子はナチャラル系でいいねえ」



こんな調子で香港の夜は平和にクールダウンしていくのであった。
エピローグ


香港三日目は完全オフ。昼間はホテルの近くのレストランで飲茶を楽しみ、夕方まで自由行動の後、香港最後の夜を北京料理のレストランで打ち上げた。



日本と違い、料理の汁が飛び散るのもかまわずテーブルに投げるように器を置いて行くウェイターに面食らい、

片っ端から皿を回収していき余っている皿は強制的に各自の小皿にとりわけ何かの敵でも討ったかの様に颯爽と退場して行くさまに吹き出してしまった。

とにかくスピーディーであることが重要であるようだ。
料理のお味は日本の中華料理店で食べるものとはかなり異なっており、酢と油の匂いが強烈だった。

しょうこさんも「ここは本場のchineseな店ね」とおっしゃっていたが、確かに食べなれない味だったので瞬く間に皿が空になるという訳にも行かず、

せっかちなウェイターがイライラしているように見えた。
しかし、青島ビールは本当にうまい!

料理は箸が止まりがちだったが、瓶が次々と空になっていく。
円卓が回転する、その上で緑色のビンが水滴を帯びて残像がキラキラ輝く。

右隣の堀江氏、海野氏、藤野氏は陽気に酔っぱらって嬌声を上げている。藤野氏は一番アグレッシブに料理に挑戦し続けていた。


自分の左隣では大本氏が首をひねりながら料理と悪戦苦闘していた。
どうやら酢と油の匂いをあまり受け付けないらしい。


「落合君、どうこの料理。うまい?」

「うーん、そうですね。慣れない味なのでうまいまずいを判断できないなあ。なれればおいしく感じるかもしれませんね。そう思って挑戦し続けてるんですが・・・」

傍らのフカヒレスープをすする。うむ、これはさすがにウマい。コラーゲンたっぷりだ。


「見た目は普通の中華料理に見えるんだけどなあ。昼間の飲茶は大丈夫だったんだけど。」

「ただあれもやっぱり日本で食べる中華とは違うものですよね。そういえば、昨日ライブの後打ち上げした店はどうでした?」


昨日打ち上げした店とはソニが深夜二時にホテルからVIGILANTE、HIBIRIAを連れ出して連れて行ってくれた香港料理の店である。

御飯物や麺料理が中心のちょっと高めの定食屋と言ったところだった。

「ああ、あそこは本当に良かったね。味付けも日本人に親しみやすかったし。」

ただあの店でHIBRIAはあまり食が進んでいないようだった。
南米から来た彼らには中華はなじみが薄い食文化だったのかもしれない。


「しかしなあ、まったく刺激になるよ。食い物一つとっても同じ香港の中でもこれだけ違うんだからさ。」

大きく伸びをして大本さんが呟いた。

「食い物がこれだけ違うんだから、音楽で世界中がみんな受け入れてくれる作品を作るなんてとても無理だよなあ。」

「本当に難しい事だと思います。」神妙な気持ちになりうなずいた。


「結局周囲に評価される事を最初から期待するべきではないんだと思うんだよね。

この料理を本気でウマいと思う人と感覚が同じ訳が無い!理解し合うのは本当に大変だ。いろんな事を学んだ香港だったよ。

音楽以外のところでこういう風に刺激される事もたくさんある。また戻ってきたいね」



にっこり笑って最後に大本氏はこう付け加えたのだった。

「でもね、音楽とか芸術でみんな豊かな生活を送ろうっていうのは行き過ぎた考え方なのかもしれない。」



店を出た後は、喧噪の町中を港まで歩いてフェリーに乗った。

沢木耕太郎氏の「深夜特急」で有名な香港島と九龍とをつなぐフェリーである。夜風に吹かれながら100万ドルの夜景を眺め、地下鉄の香港駅からホテルまで心地よい疲れに包まれながら帰ってきたのであった。
エピローグ 〜その2〜



香港から帰ってきてしばらくは、日常のめまぐるしさにまだ夢うつつの状態だった。

体の調子もあまり良くなかったので基本ぼんやりした日々を送っていたのだが
そんな中一つ頭の中にくっきり浮かびっぱなしになっている事があった。



大本氏の最後の言葉「音楽とか芸術でみんな豊かな生活を送ろうっていうのは行き過ぎた考え方なのかもしれない」である。



香港から帰国して約2週間後、大塚のモンゴル料理店での打ち上げに誘っていただいた。いい機会だったので尋ねてみた。



「あれはいったいどいう意味だったのですか?」

「つまりね。僕たちが生きているのは資本主義の世の中だから、金銭的な利益を出さないといけないという前提がある訳だよね。

だから、多くのバンドマンというのはいわゆる『売れたい』というのを口にするんだね。

成功する=金銭を得るという図式がそこにはある。



それで多くのミュージシャンが印税生活を夢見ている。
だけど、俺は大きなお金を音楽で進んで得ようと言うのはちょっと間違えているんじゃないかと思うんだ。

あくまで印税というのはボーナスみたいな物で、生活の糧というのはもっと地道に稼ぐべきなんだ。


例えば俺だったらサウンンドエンジニアとして自分の技術や知識を売って生活している。

VIGILANTEの活動にも俺の仕事は確実につながっているし、逆にVIGILANTEが活動する事によって得た知名度なんかで自分の職人的仕事に依頼が来たり、そうやって循環して行くのがまっとうなやり方だと思うね。それがプロだ。


プロは自分の確かな技術や知識を元手に生きて行く。
そしてそこで得た糧は自分の楽しみのためとか生活を豊かにするために使うんだ。それがVIGILANTEさ。」


大本氏は少し寂しげに言った。

「俺のそういう考え方をお前は共産主義者かって言った昔のバンドメンバーがいたのさ。

つまり、VIGILANTEが商業的成功に直結させる事を目的としてはいない事を指して言ったんだね。」



「でも」僕はこれはとても大事な話だと思った。
「音楽の本質というのはそういう物だと思います。

結局大本さんがよくおっしゃるようにこれは全て楽しむための物なんだということですよね?」

************************************************************************************

大塚駅で自分だけ反対側の電車に乗って別れた後、「これで香港が終わったな」と感じていた。

素晴らしい時間だった。


出会った人、香港の街、食べ物、響いた音楽、全てが夢のようにすぎて行った。


願わくばこの記憶が色あせて行かないように、だがこうして書いている今この瞬間もあの日々は少しずつ遠ざかっている。


Mr.Soniは素晴らしいホスピタリティを持った人物だった。

そういえば滞在中、「どこへ」「どうやって」「いつ」といったようなことで困った事が一度も無かった。


後でしょうこさんに聞いた所によると、事前準備はあまりできていず、ほとんど行き当たりばったりに動いていたようだが

それでもなんとかなってしまうところが香港スタイル、いや、案外どこでも同じなのかもしれないなと思う。



日本にいると、段取りや事前の決まり事にがんじがらめにされてしまい、
結局何のために動いているのかよくわからなくなってしまう事があるが、
今後人生に於いて適度なずぼらさという物を持って動いてもいいのではないかと思ったのが一つ。



それに加えて危機感を持ったのは著作権という物に対するアジアの認識の甘さである。

ライブ会場での撮影完全フリー状態というのを書いたが、おそらくかなりの確率でHIBRIAの香港映像は海賊版のDVDとして流通するだろう。


この間広告業会につとめる友人と著作権について話をする機会があったのだが、
アジア人の特性として技術のコピーに長けているという面があるのではないか?という説があった。



技術の導入が早くできる物だからすぐにクオリティの高いコピーを作る事はできるが、文化として習熟する時間が足りない。

つまり心が体に追いついていない。
これは今後のアジアでの文化的資産の保護を考える上で大事な事かもしれない。


難しい事は抜きにしてもとにかく刺激的な4日間だった。
最高のプロフェッショナル達と過ごす事のできたこの経験は何物にも代え難い物であると思う。



VIGILANTE, Mr.Soni, しょうこさん、
そして、今回快く送り出してくれたオルガズム代表の有留裕志さん、
全てのお世話になった人たちにありがとうのお頃を込めてひとまず香港レポを終了したいと思う。



Indies Live Event ORGASM
ブッキング担当 落合達也

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