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...女工...コミュの連続リレー大河ロマンプロレタリアート小説{みゆき}

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卍女工の愉しみといえば、仕事中の妄想。
その妄想を活かして、みんなでリレー式に小説を書いてみましょう!

卍設定卍

主人公・深幸{みゆき}

高校を出てからずっと荒川区の靴工場でシコシコ働く26歳。
同級生からの年賀状に焦りと憤りを覚える今日この頃。

晃司
みゆきが働く工場の工場長の息子{沖雅也似}。
セルシオを乗り回し、行きつけの浅草のスナックでじゃぱゆきさんに入れ込むも、金だけ吸い取られた28歳。

貞子
55歳。工場のお局。みゆきに辛くあたる。


こんな感じでどうかしら?
もう勝手に登場人物や設定作ってくださって結構ですから!

コメント(31)

サイコー!Psycho!心躍ります!
憑ム子さん、書き出しお願いします!!!
{いたい。。}
みゆきは、体の節々の痛みで目を覚ました。
{そうだ、昨日は残業で…。}
と、同時に目覚ましのベルが鳴る。

のろのろと起き上がり、テーブルの上にあるパスコのクリームパンをかじる。
レンジで昨日作りすぎたスパゲッティを温める。

1Kの部屋いっぱいに容赦なくミートソースの匂いがたちこめる。嫌いじゃない。

昨日は、晃司が来なかったから、それで…。

スパゲッティを弁当箱に詰める。

ああ、作業服、また新しいのと交換してもらわなくちゃ…。

パートの貞子に味噌汁をこぼされてシミができた上着は、たとえ作業服といえ、年頃のみゆきには許せなかった。シミの存在も、貞子の悪行も。。

部屋はひんやりと寒く、もうフェリシモで買ったお氣に入りのコートを着てもいい頃だった。

{晃司、昨日もキャラバンだったのかしら…?}
キャラバンというのは浅草にあるスナックで、晃司はそこに通い詰めてるらしいのだ。

壁に貼った去年の社員旅行の写真…。
晃司の隣りで笑うアタシ。。
何んにも知らずに、サ。。

{やだ、遅刻!}
あわてて弁当をつかみ、ミッフィーのトートバッグに放り込み、部屋を出た。
バス停。
少し駆け足で順番に並ぶ。
いつもの顔ぶれ。並ぶ順番も同じ。服装だけが季節で替わる。
息を整えるまもなくバスがやってきた。

泪橋の交差点を曲がり白髭橋に向かうバス。
勤め始めた頃と街の景色はずいぶん変わった。
{道に寝そべってる人、少なくなったなぁ}
街が綺麗になると『ちゃんとしよう』な人が多くなる気がした。
『ウォーターフロント〜』、『都心から15分〜』。
完成間近のマンションが大きな看板をつけて新しい住人を待っている。

次降りますのボタンをみゆきのマニキュア塗りたての指が押した。
東京ガス前のバス停で降りるのは他に経理の橋本さん、そしてデザイナー?の水谷君。
みゆきはこのデザイナー?君に少しばかり嫌悪感を持っていた。
工場長が「うちもそろそろオリジナルを作らないとな。今の時代は、、」でどこからか連れてきた若者。
周りが汗して働いているときも空調の効いた部屋で頬杖をつきながらパソコンをいじっているのがどうにも許せないのだ。
{いつも真っ黒い格好だな、コイツ}
上から下まで黒づくめでカバンも持たずに出勤する姿もなんとなく嫌いだった。

「おはよー!」
ひとつ年下で一番仲のよい妙子が後ろからみゆきの肩をたたいた。
「ギャー!」
普段はクールな印象のみゆきだが、人一倍驚き方が大げさなのが妙子には面白いらしい。
「あは、何度見ても可笑しい」
照れ笑いをうかべながら、驚いた拍子で落としたトートバッグを拾う。
{あぁ、スパゲティが片寄りしちゃったかな?}
ちょっと気になった。
同時に晃司のことも少しだけ気になった。
いつもと同じ、音。
いつもと同じ、感触。
いつもと同じ、景色。
いつもと同じ、時間。
いつもと同じ部品を組み立てる、
いつも通りのわたし・・・・。
晃司・・・・・。
時間は流れてるのに、私は止まっている。
私の顔、今朝見た鏡・・・あれ?どうだったかしら・・・。

妙子の顔・・・・
あんな風に笑えるなんて、私にはわからないな。

今の私には。

いつもと同じ、音。
いつもと同じ、感触。
繰り返す、感触。
晃司・・・・。

だめ、ダメよ。何も浮かばない・・・・。
ああ、マニキュアが剥がれて・・・・。

「深幸さんっ!」
そのとき、ベルトコンベアーが止まった。
{また不良品流して!何回云ったらわかるの?!}
ヒステリックな貞子の声が工場に響く。
{男のことボンヤリ考えるなら後にしてくれない?!}
悔しいが、間違ってない。。
{すみません…}
検査の工程は女の職場。
みんなとは馴染めても、貞子だけは厭味ったらしくて苦手だ。
{ちょっと〜、みゆき、ダイジョブ?}
妙子が顔を覗き込む。
{ウン、、まあ、昨日ちょっとあって…サ。。}

そのとき、晃司の姿が見えた。
{貞子さんいつも元気だねぇ}
親譲りか人当たりだけはよい晃司が貞子に話しかけている。
それまでの鬼の形相が嘘のように笑顔に変わり、時折り大声でゲラゲラ笑う貞子。
二人のやりとりを目で追いかけるみゆきに妙子が耳打ちする。
{貞やんさぁ、あれでも一応オンナなんだね。アタシたちに話すときとゼンゼン違うじゃん}
「オンナ」という言葉だけに色が付いて聞こえる。
{旦那さんが亡くなって寂しいんでしょ。何年前だっけ?}
{片思いは自由でしょ。。}
いろいろ言葉を絞り出したが何故か虚しかった。
晃司は貞子と話しながらこっちを見てる。目を合わせる、そらす。
-たぶん、昨日のことあやまりに来たんだろうけどサ。
-気にしてないよの表情を作るのは難しいな。
構内放送で貞子が呼ばれコンベアーも動き出した。
-晃司がこっちに来る。どおしよ。
-もうミスできないぞ。
{よぅ!}
晃司がみゆきに声をかける。
すぐにでも振り向きたい氣持ちを抑える。
{みゆきったら!}
もう一度呼ぶ声。
{昨日、悪かったな。。}
アタシ、優しい声に、つい、許してしまいそうに、なるんです。
{誰かに聞かれたらどうすんの?仕事中です。アッチ行って!}
と、部長が
{お、二人丁度いいとこにいた!今からちょっと納品に行かなくちゃいけなくてな。晃司君、昨日言ったアレ、二人でやっておいてくれんかね?}
やだ、晃司と二人作業?!
{わかりました…}
ふてくされて晃司の後を歩く。

部長が二人に押し付けたのは、倉庫の整理だったんです。
{なあ、昨日は悪かったよ。謝る。な?}
{ずっと、待ってたのに…}
{俺だって、お前に会いに行きたかったさ。でも…}
{キャラバンに、行ったんでしょ?}
{バカだなあ、違うよ!}
{アタシ、もうこんな関係、イヤッ!コソコソ会って…}

ホントは、誰か好きなひとがいるの?

そう訊きたいのをグッとこらえる。
泪が、じわっと滲む。

{みゆき。。}
晃司が作業の手を止め、こちらに近づく。
{泣くなよ。。}
長い睫毛と赤い唇が…
アッ。。
晃司、アタシに優しく、キスしてきたんです。
カレの柔らかい唇が、アタシの唇から、そっと頬をなぞり、首筋に、アア、、耳たぶに…。
{だめよ、コージ。いけないわ、そんな・・ぁ・・・}
作業着をまくり上げ、晃司は深雪の汗の臭いを嗅いだ。
臭いといっても、男のナニをそそり立てる類いのもの、女の臭いである。

{だめ、そんなこと・・・・しちゃだめ。晃司}
まくり上げられた作業着の、みそ汁染みがぼんやり深雪の視界に入った。
-こんなとこじゃ、最後まで出来ないじゃん、バカ。
-じらされるのは嫌なのに・・・・。

{かわいい女工さん。俺たちの声は誰にも聞こえないし、
 俺たちは誰にも見られないよ、じっとしてごらん。ねえ。}
じっとりと汗ばんだ晃司の手が、乳をまさぐる。
-ああ、きもちいい・・・ぁ・・
股間がじわっとした。泪は引っ込んだ。
-ああ、久しぶりだから早く濡れちゃった。
-口惜しいから晃司にはバレたくないな。
チュパッ・・・ピチャッ・・。
晃司が乳をもてあそぶ音が、不気味なくらい響いている。
-ここは、なんて静かなんだろう。


その時、お昼のチャイムが鳴って、二人は我に返った。
そして驚いた事に、チャイムと同時に水谷君が倉庫に入って来たのだった。
深雪は急いで作業着をおろし、晃司は書類の山にかがみ込む。
 
水谷はもちろん二人のことに気付いた様子はない。
みゆきと晃司は互いの服の乱れを直しながらも水谷の動きに注意した。
程なくして倉庫の扉を開ける音がする。
{ごめん、待った?}
その声にみゆきと晃司はハッとしてお互いの顔を見合わせた。
貞子である。
{僕も今来たところです}
水谷は普段どおりといった様子で、今は使われなくなった宿直用具のある方へ歩いていった。
後を追う貞子。
みゆきと晃司はお互いの表情から次に何をすべきかを確認する必要はなかった。
二人は真実を確かめる事を選んだ。

普段は無口で無愛想な水谷が艶のある声で貞子に話しかける。
{準備いいですよ}
水谷の声に貞子が深くうなずく。
死角に入った二人を背の高い晃司が什器の間から覗き込む。
だが見える場所までは少し距離があった。
{水谷君、、、ソレ好き}
貞子のオンナっぽい声がかすかに聞こえる。
晃司の後をゆっくり続くみゆき。
さっきとは別の興奮を味わうために。

その時、また倉庫の扉が開いた。
そのころ、妙子は昼休みのチャイムが鳴っても一向に食堂に現れないみゆきを心配していた。
{おかしいなあ…。もうスタジオパーク始まっちゃうよ〜。}
みゆきはいつもNHKなんてオバサンくさい、なんてブツブツながらも、毎日欠かさずチェックしていた。
土曜日の休日出勤の日はことさら、仁鶴が氣になっているようであった。
{隣りの庭の木がうちの敷地内に伸びてきたら、その枝は切ってもいいわよねぇ〜。}
なんて紙コップのコーヒーすすりながらつぶやくみゆきは、オバサンそのものであったが、なんだかツッこんではいけないと感じ、妙子はグッとこらえたのだった。
{アラ、妙ちゃん今日は一人でお弁当?}
パートさんに訊かれ、
{ウン、みゆき、部長に仕事を頼まれたまま、まだ来なくて。。}
妙子は、もう最後にとっておいた好物のイカフリッターを食べる寸前であった。
{あら〜、そんなの時間外労働よ、ネェ!}
{私、ちょっと見てこよう!}
フリッターをぱくりとたいらげ、席をたった。
{みゆき〜、いるの〜?}
倉庫の中はしーんと静まり返り人の気配はない。
なんだか不気味に思いながら、妙子はあたりを見回した。
{あれ?あれれ?・・・・みゆき?}
なんと、みゆきが一人で倒れているではないか!
近くには、社長のトロフィー(ゴルフの)が転がっている。
妙子は駆け寄り、みゆきを揺さぶり身を起こした。
{ちょっと、何があったの? 大丈夫? みゆきっ!}
{ううーん、私どうしたんだろう。
 ちょっと、揺らさないでくれる?
 なんだかわけが・・・わからな・・・}
-ん?
みゆきの記憶がよみがえった。
-そうだ、わたし・・・・貞子さんと水谷君を追ってて、
 それから、あっ、コージはどこ行ったんだろう???
 やばい、こんなこと妙子に言えない。
 秘密にしておこう・・・・・。絶対言えない。
{わからないわ。わたし、部長に言われてココで書類やら何やら整理してたんだけど、どうしたのかしら。}
{やだぁ、みゆき。もうお昼終わっちゃうよ。
 あたし、もうお弁当食べちゃったよ。行こう}
{そうね。}
頭をポリポリ掻いたみゆきの手がヌルッとした。
血だ!
床のトロフィが目に入った。


 
「ギャー!!」
血の赤さと生暖かさを感じる間もなくみゆきはまた気を失った。


・・・・・・・・・・・・・・
あれ、ここはどこ?
目を擦ろうとしたが腕が自由に動かない。
何これ!ワタシ裸だわ。それにこのネバネバしたものは何?
体中がネバネバしたものに包まれている感覚があったが確かめることが出来ない。
瞼が重たい。。よく見えない。。
何となくわかるのは周り全体が赤くゆがんでいる事だけだった。
地を這うような低いうねりのような音が後ろから聞こえた。
何!
振り向こうとしても体が動かない。
なんで!どうして!
すると瞼の重たさが消え視界だけは開けた気がした。
「う゛ぁー」
そう先ほどの声が耳元で聞こえた。
「コ、晃司、、、」
「あ!晃司!どう、した、の?(そう言っているつもりが声にならない。)」
目の前の晃司には口がない。
「・・・なー・・ばー・・う゛ぁー・・・」
みゆきに何か必死に伝えようとしているようだった。
「何?どうしたの?」
そう言うつったつもりが声にならない。
「あ、ワタシにも口がない」
よく見ると晃司には胴体も無い。
次第に目も鼻も段々と無くなっていった。
「たぶんワタシもそうなんだわ」
晃司はみゆきの前から消えて無くなった。
すると突然息が苦しくなった。
「う゛・・・ぐるじ・・・い・・」
再び瞼が重くなり真っ暗な中にストンと落ちていく感覚で終わった。
・・・・・・・・・・・・・・



{みゆき!起きて!}
{ここは?}
{病院よ。竹の塚の苑田第一病院。救急車で運ばれたんだから。}
{え?救急車?わたし・・・}
{倉庫で倒れてたのよ。脚立から落ちて。}
{あ、そうだ血が・・・}
{血なんか出てなかったけどさー・・あたしが見つけて話してたら突然気を失ってさー}
{え?だって私自分の頭に血がついて・・・それで・・・トロフィー・・・}
{頭は打ったみたいだけど脳震とうだろうって、さっきお医者さんが言ってたよ。}
{晃司、晃司は?}
{それがさ、いないのよ。あれから・・}
{いない?いないって、どういう事?}
{みゆきと倉庫整理に入ったんでしょ。それから誰も見てないって言うの。}
{あ、水谷くん・・・}
{え?水谷君がどうしたの?}
言いかけた言葉が何かマズイ事につながっている気がして言葉をのみこんだ。
{一応脳の検査しましょうって、先生が言ってたよ。大丈夫だろうけどって。}
{うん・・}
みゆきは居心地の良い真っ白なシーツの上で、何か腑に落ちない気持ちを抱えていた。
-私、このまま入院するのかな。

貧乏で、毎日仕事に追われていたみゆきにとって、
何もしない平日の明るい時間というのは、恐怖だった。
みゆきは時給で働いているのだ。
働かなければ、給料が減る。
給料が減れば、99shopの弁当すら贅沢なことになる。
友達にバッタリ会って、お茶も飲めない。
お茶が飲めなければ、また年賀状が減る。
みゆきの年賀状は、毎年減り続けていた。
{みんな、結婚して、子供作って、つまらない人生ね!}
声に出して言ってみた。
数少ない年賀状の、幸せ報告にはうんざりしているのだ。
惨めだ。
月給が固定されている人が羨ましい。

-でも、これって労災だよな。

そう思ったら、急に安心した。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・
みゆきは、お腹が空いていた。
窓の外はいつのまにか夕焼けだった。
スパゲッティ、結局食べれないのかな。
晃司が好きな、ミートソース。

晃司ったらああ見えて、子供っぽいところがあって、そこがアタシを、キュンとさせるんです。
今度お前の部屋に行くから食べさせてくれって、いたずらっぽく笑うから、作ったのに。。

いつか晃司と二人で撮った写真を、年賀状にできる日がくるのかしら…。
同級生たちは、みんなどこで相手をみつけてくるんだろう。
ルックスで選んでるつもりはないけど、アタシに近づいてくるのなんて、{妥協}とか{安全パイ}なんて言葉がぴったりの男ばかりで、何度かお台場なんかに行ったりしたけど、恋人にはできないんです。
一度、そんな男にカラダを許したことがあったけど、でも、ダメなんです。

出会い系で知り合った、岸谷五郎に似た人と、お台場で夜景見てたら、{ミユキちゃん!}って、突然顔を近づけてきて。
アタシ、びっくりして、目を閉じるヒマがなかった。
その後抱きすくめられて、声が出なかったんです。
そのとき、夏だったから、着てた薄手のワンピース、きっと汗ばんでたと思うんです。
でもカレ、背中をまさぐるようにして。
で、カレのモノが、腰に当たるのが、わかったんです。
カレのソレ、すでに硬くなってて…。
アタシ、ちょっと腰を浮かせて拒んだんだけど、カレ、左手でアタシの肩をギュッと抱いて、右手でアタシの胸を。。

アタシ、乳首がすごく敏感なんです。
仕事中でも、作業のはずみで胸に何かがこすれると、声が出そうになったり。
で、アタシ、カレにワンピースの上から胸を揉みしだかれて、ちょっと、感じちゃったんです。
普段から、あまり薄手のブラはつけないようにしてるんだけど、カレ、アタシの乳首が立ってきたの、わかったみたい。
今度は、人差し指と中指で、円を描くように、なぞるんです。
{ダメ…}
そういいながらもあたし、アソコが熱くなるのを、感じてたんです。
カレ、アタシをベンチのほうに促して。

でも、周りに人がいるし、アタシ、{ダメッ}って、拒んだんです。
その日はそれで、バイバイしたんです。

で、それから何度か電話がかかってきたけど、アタシ、無視して。
だって、妥協できないし。
会ってもきっと食事だけで済まないだろうし。

白い病室で、ひとりぼんやり思い出してると、看護婦さんが食事を持ってきてくれたんです。
アタシより若くて、まつげパーマした大きな目でアタシを見て。
{お加減いかがですか?}
意外と声はハスキーだったんです。
{ええ、大丈夫です。}
ああ、お腹すいた。
{もう一人の方も、命に別状はなかったみたいですよ}
もう一人?
水谷だろうか?
{もう一人って?男の人ですか?}
{あぁ、いや女性ですよ。中年の方。}
-あぁ貞子か・・・え!貞子?
{怪我してるんですか?}
{ええ、詳しくは言えないんですが・・・}
{どうして?なんでですか?}
{警察の方にあまり喋るなって、、}
-警察?どうして?事故じゃなかったのかしら、、
コンコン
開けっ放しの病室の扉を叩く音がする。
{南千住警察署の北島です。具合はいかがですか?}
{あ、はい。さっき目が覚めたばかりで何が何だか。}
-本物の刑事だぁ、目つき怖い。
{少々お話をお聞きしてもよろしいでしょうか?}
{あ、はい。}
{おい山本、何やってんだ!}
{は、はい。}
入ってきた部下の顔を見てみゆきはギョっとした。
-岸谷・・・ぎょえ〜、岸谷じゃん!!
-特殊な仕事してるって言ってたけど、刑事だったの?!まじ!?
岸谷(山本刑事)は病室の内部をキョロキョロ眺めながら北島の後ろに立ちメモの準備を始めた。
-あ、この人気づいてないよ、私のこと。でもよかったぁ。
{ではお訊きしますね。事件、いや事故当日の事は覚えていますか?}
-え〜どこから話したらいいんだろ。
{あ、はい。ぼんやりとですが。}
{倉庫で何をされていたんですか?}
-うあ、どうしよ。なんていえばいいんだろう。
{部長に書類の整理をしろといわれました。}
{野川(晃司)さんと一緒でしたね?}
{あ、はい。}
{他に誰かいましたか?}
{えーと、よく覚えていないんです。}
-うわぁ、嘘ついちゃったよ。バレルかな・・・
{間違いないですか?どうなんですか?}
{あ、はい。いや・・・}
-もうヤダァ、逃げ出したい。
ヴーヴーヴー
岸谷の内ポケットの携帯電話が着信を知らせる。
{北島警部、署から電話です。}
岸谷は携帯を差し出すと「ちょっと失礼」という意味の会釈をして北島は病室を後にした。
-今度は岸谷と二人っきりだよ。どうしよ。
{みゆきさん、ですよね?お久しぶり。}
{あ。}
-バレてたのね。
{あ、えっと、たしか…}
{一緒にお台場冒険王、行ったよね?あのみゆきさん…だよね?}
{覚えてたんですか。。}
{ハハッ、こんな仕事してるもんでね。}
{そっか。。}
{まあ、君の場合は、それだけじゃないけど…}
{ヱ?}
{俺、さ。あれから君のことが、忘れられなくて、さ。。}
{…。}
{ねるとんパーティーとか、出会い系、いろいろ行ってみたけど、でも、やっぱ、みゆきチャンが一番ステキだなあ、なんて。}

ヤダ、氣まづい。。
やっばい。。
どうしよ。。

アタシ、言葉が出なくって。
そりゃ、岸谷にギュってされて、ジュン、ってしちゃったけど。。
でも、付き合うってなると…それに、こんな仕事だからヤッパ、結婚とか、意識してるだろうし。。

{ねェ、みゆきチャン、はっきり言うよ?俺、君の事が、好きだ!}

そういって岸谷は、みゆきの体を抱きしめた。
{痛い!}
抱きしめられた時に背中に重い痛みが走った。
{だ、大丈夫?ごめん。背中を痛めてたの忘れた}
{平気。大丈夫だから。}
そう言って岸谷と目を合わせたみゆきは一瞬「ハッ」とした表情をしたかと思うと徐に布団をかぶってしまった。
{あ、ごめん。こんな事するつもりじゃなくって、あの・・・泣いてるの?}
布団が小刻みに震えているのを見て岸谷は少し後悔していた。

--布団の中
−ぎゃはは。岸谷、鼻毛でてるよ。しかも3本。
−毛が三本?Qちゃん?ショップ99!
−♪ショップ、キュッキュキュッキュキュキュ〜!
−♪ショップ、キュッキュキュッキュキュキュ〜!
−やだぁ、メロディが頭から離れないよ。

{ほんとごめん・・・}
そう岸谷が言うたびに布団は震えていた。
-やだ、こんな人。ぜったい私の王子様じゃない。
-結婚したいって言われても、きちんと断ろう。
-だって、、、、ん?
-やまもと刑事???
-山本って何?
-鼻毛だよ、鼻毛。へへへ、駄目だ。
-やっぱり笑いが止まらないや。
-笑ってる場合じゃないのに、、、、。
-そうだ、トイレに逃げちゃおう。

みゆきは、勢い良く音をたてて布団をマントのようにひるがえした。
その瞬間に、両のスリッパをタタンッと履き、うつむいたまま病室を走り出て行った。
岸谷は、追ってこなかった。
歯を食いしばって、みゆきの後ろ姿を眺めるのが精一杯だった。
{みゆきちゃん、いったい何があったんだ・・・・。}



-ふぅ、トイレは何処だろう?
きょろきょろと辺りを見回すと、すぐにトイレは見つかった。
小便を済ませて廊下に出ると、なんだかいい匂いがしてきた。
夕食の匂いだ!
みゆきは空腹のあまり、匂いのするほうへフラフラ歩き出した。
見ると、名前を呼ばれた患者がワゴンの中から一人ずつ食事を受けとっている。
食事をのせたトレーには、それぞれ名札が付いていて、患者に合わせた食事が用意されているようだ。
美味しそうなトレーもあれば、お粥だけのトレーもあった。
みゆきは心配になった。
-あたしのは、どれ?
-頭を打っただけだから、大丈夫よ。
-きっと、美味しいおかずもあるはずよね。
自分の名前探そうと前に出た。
そうしていきなり眼にはいったのは、貞子の名札がのったトレーだった。
薄い粥がポツンと一皿だけ・・・・。
{ギャーッ!!!!}
ショックを受けて、みゆきは走り出した。
もう、何がなんだかわからなかった。
看護士が一人、追いかけて来たような気がする。
しかし全速力で走り抜け、みゆきは何も気にしていなかった。
服も、自分の荷物も、靴もスリッパも、弁当も、岸谷も。
病院を抜け出して、走って走って走り続けた。
どこまでもどこまでも走り続けて、今朝からの事を全てを忘れたいかのように。
いや、昨夜の事も忘れたかった。多分。

気がつくと、空は暗くなっていた。
目の前に、酒屋がある。
ビールを買って、飲んだ。
空きっ腹にキツいが、泡が美味しかった。
ビールの泡が美味しいと思ったのは、初めての事だった。


-晃司に会いたい、晃司に会いたい。
{みゆきちゃーん、田中さん、帰るって〜。}
{え〜!ラブマシーンデュエットしたかったのにィ〜!}
{いやー、ごめんごめん。今度来るまでに練習しとくから、サ。}
{今度っていつ?}{んもう、みゆきちゃんのその上目遣い見てるとキスしたくなるから!}
{やっだーもう!ウフフ!}
{じゃあ、またね。}
{ありがとうございましたあ〜}

カランコロンカランコロン…


アレから1ヶ月。
アタシ、着のみ着のまま病院を飛び出してから、お金もなくて、電車をキセルして。。立川の実家にも帰らず、新宿あたりを、フラフラしてたんです。
で、ママに拾われて…。
今は、五反田の{和風すなっく 業子}にいるんです。
ママは何もきかずに、アタシに五反田の街を教えてくれたんです。
アタシ、工場の仕事と、学生時代にバイトしてた郵便局しか知らないから、オミズって、新鮮で。
会社の人も、わざわざ五反田には遊びに来ないし。

{みゆきちゃん、もうあがっていいわよ。}
{はーい。お疲れ様でしたぁ〜!}
アタシ、初めてのお給金で買った、ピンキー&ダイアンのバッグを持って、お店を出たんです。
{みゆきちゃん!}
突然の声に肩がビクッとする。
{俺だよ!}
誰…?
あ。。

常連さんの…えーと、中村さん。
アタシ、あんまり喋ったことないんだけど。
{中村さん…。}
{今、帰り?}
{ハイ。}
ユニクロとタカQでそろえたようなファッションがこの街に馴染んでるなあ。。
{俺、仕事でたまたまコッチの方来てて、サ。ちょっと今からお店には行けないけど、前を通りがかったらみゆきちゃんが見えたから、サ。}
{あ、そうなんですかー。}
{あ、もう飯食った?}
{いえ、まだです。。}
{よかったら一緒に食わない?おごるよ。}
{えー悪いですよ〜!}
{いや、全然大丈夫だから!}
{え〜、じゃあ、お言葉に甘えて!}
やった!という顔をする中村。

アタシ、こーゆーやりとり、平氣になったナ。。

{とはいったものの、こんな時間だから、やってる店あんまないよなあ〜。}
{え〜、アタシ飲み屋とかで全然イイですよ〜!}
{じゃあ、この辺でテキトーによさげな店に入ろうか?}
{ハーイ。}

ていうか、焼肉がいいんだけど。

{あ〜、いいニオイッ!}
{焼肉屋の匂いだねー。みゆきちゃん、焼肉好き?}
{ウン!}
{そっか、じゃあ焼肉にする?}
{さんせーい!}

チョロいチョロい。
中村は、みゆきの手をとると、五反田駅に向かった。

薄汚れた街はみゆきの心にいい具合に滲み、誰のものかもわからない戯れ歌が自然に口から出た。

始発駅は新宿で、五反田に流れ、そろそろあがりなと聞き流す馴染のことば
気がつけば 高田馬場 大塚 巣鴨 流れに流れて わたしの終着駅 鶯谷の裏通り

中村は、流れる女が描く弓なりの、山手線と同じ道を私に見せようというのかしら、いや、そこまで考えているわけはない。

みゆきは中村の手の感触と、自分の手の感触が同じような、働くものの手ではないことに鈍感にはなりきれていなかった。

「どこにお店があるんですかー?」
「うん、日暮里まで行く。ちょっと遠いけど。」

(アァ、焼肉の後はラブホテルか、どうせなら、お風呂が広くてきれいなところがいいな・・・・ シティホテルでなくてもいいんだ)
みゆきの思いを知ってか知らずか、中村が一つあいた席にみゆきを座らせる。

みゆきの予想に反して、中村は日暮里で常磐線に乗り換えた。
「どこまで行くんですか?」
「すぐ隣、三河島だよ。」
「三河島?」

みゆきにとって初めて聞く地名であった。
窓の外には同じようなデザインのマンション、街工場、庭のない家々、すべてみゆきにとって見慣れたものだった。
三河島の駅前は強烈に小便臭かった。

「こっちにいい店があるんだ。」
明らかに日本語ではない言語が並ぶ商店街を少し入ったところに、小さな食堂があった。
店に入ると、一般家庭のダイニングにあるようなテーブルと、みゆきにが見たこともない野菜を漬けたビンが並んでいる。

晃司はこんなところには来ない・・・・
でも、いいんだ・・・・

中村は既に何かをオーダーし、突き出しが5品ほど運ばれてきた。
キムチ数種類、小魚の佃煮、ニンニクを漬けたもの、海苔、もう一品はキノコのようだがシイタケとは違う。

「焼き網がないけど、焼肉じゃぁないの?」
テーブルしかない店内、これでどうやって肉を焼くのだろう。
その頃・・・・国際展覧会に出席するため、彼の人は機上にあった。

東海岸の、日本でも知らぬ者がいない大学の教授が「寝るだけなら、最高に快適」と論評したノースウエスト航空のビジネスクラス。

ファーストの設定はないから、事実上の一等だ。白磁の食器に盛られた量だけは一人前のチキンを無視し、シートを少し下げて彼は食べ物のことばかり考えていた。

訓練された客室乗務員は、エコノミーの乗客にするように、無神経に皿を下げることはしない。晃司がもの想いにふけりつつも、何かを欲したときに即応できるよう、猫のようなしなやかさをもってギャレーに下がった。みゆきに何を食べさせてやろうか。みゆきはそこら辺の行きずりの女ではないのだ、いつかは戻ってくるのだ。だからこそ、仕出しの池田ランチの松茸ごはんに感動するみゆきにいろいろ食べさせてやりたいのだ。


海外といえばグアムかハワイという取引先の幹部連中と違い、彼にとって海外とは欧米であり、欧米こそが文化芸術そして食の中心であった。ハワイのにやついたボーイにおずおずと5ドル札をくれてやる爺さん連中・・・ そういう連中を晃司は心底馬鹿にしていた。

タイヤ屋の星なぞ信じない。けれども、タイユバンは肩を張らずに季節のものを供する、世界でトップのレストランといえよう。みゆきと本当のフレンチというものを楽しめたら!

代替わりしてますます味の冴えたタイユバン。工場の近くの馬鹿高いレストランの講釈を聞きながら商工会議所の有象無象どもと奇抜なだけのソースを褒める演技は飽き飽きだ。

女工服に染み込んだ溶剤と汗の匂いは、黒トリュフの官能と同列に語る資格がある。


それから、マルセイユまで下ってブイヤベース、イタリアでスローフードを愉しんだ後は、これから向かおうとしている北米西海岸の中華。バンクーバーの中華なんかいいな。

料理の入った小皿を満載したワゴンで店内をまわっている女中を見ると、みゆきのことを思い出すだろうなぁ。ショウガをきかせた豚の腸の煮物、海老を一匹使った蒸し餃子、それから、市場で投げ売られているカナダの松茸も悪くないのだ。あぁ、あとはダンジネスクラブ。これを食べられる店は西麻布に一軒あったけれども、今は横浜にあるだけか。一回行ったが、鮮度がお話にならない。あれもみゆきに食べさせてやりたい。手ごろなサイズのオスを生簀から出してもらい、蒸したものにたっぷりガーリックバターをかけて、レモンの絞り汁を振り掛ける。みゆきの足のように、ちょっとむくんで肉がつまった蟹の脚・・・


あぁ、幸せだなぁ。みゆきとそんなことができたらなぁ・・・・・
ベーリング海上で晃司がそんな夢想に耽っている頃、みゆきは三河島の大衆食堂で、タラのスープにご飯を入れて、幸せそうな顔をしていた。


「もしもし、晃司だ。うん、ちょっと用ができた。一週間。うん。」
展示市はあっという間に終わった。
気になったのは相変わらず英国訛りの英語をしゃべる金沢の同業者で
野卑なアメリカ訛りは、晃司のコンプレックスといってもよかった。

    
かつての同級生は、ボロっちい大学生御用達のアパートから、湖畔の一軒家に住むまで出世していた。
もっとも、上院議員のコネで彼は今の立場を得たので、何もえらくはないのだが、どこの国もそういうものなのだ。そう。
「よう、ディーン」
「よう、コージ」
あの喧騒がつい昨日のようだ。悪行の数々は今でも二人の絆となっていた。
「景気は最悪だな。いっそのことアラブ野郎がお宅の大統領にウチの靴を投げてくれれば少しは助かったんだが。」
「俺は共和党員だ。そんな馬鹿なことを言う日本野郎はただじゃおかねぇ!」
そういう気楽な会話は、ちょっと高級な食堂に場が移っても変わることはなかった。
このラフなかんじだ、この風は確かに気持ちいい。

晃司は、ディーンにマスタングを借りると、高速に乗って洗練された都市とは反対の方向に車を向けた。
アウディが競りかけてきたものの、直線に出るとマスタングの6リッターエンジンはずるずると、しかし衰えることなく咆哮し
難なくアウディを引き離した。こんなに速度を出せる道は、日本ではそうはない。

あっという間に広漠の大地が広がり、ラジオ局もまばらになる。
相変わらず強烈に入るのはカントリーウエスタンと、教会の説教チャンネルだ。

行こうか、行くまいか・・・
手紙のやりときは続いていた。けれども、寄るつもりはなかったのだ。きっと、みゆきがればすぐに飯のマズい飛行機で・・
行こうか、行くまいか・・・
手紙のやりときは続いていた。けれども、寄るつもりはなかったのだ。きっと、みゆきがればすぐに飯のマズい飛行機で・・

晃司は州道から外れ、ろくすっぽ舗装もしていない道を走り、防風林と小さな家を横目に
もしかしたら鉄砲で撃たれるかもしれない、という思いにとらわれた。
かといって、保安官が来るまで30分はかかるような田舎で殺されるのもまた、人生のありかたとしてはいいのではないかという気もする。
それくらい、大陸の風土は乾いているのだ・・・

坂を登る。「集落」の入り口から半マイル。
古タイヤのプランター、原色のブランコ、廃車・・・

車をとめて駆け寄った。

「ぶぅ」
ドアから、明らかに酩酊している少女が飛び出した。
「コートニー・・・」
「ハァイ コージー」
「お前、ケミカルやんなってあれほど言ってあんだろーーーに。ほら、酒だ。飲めよ。ほら、ねーちゃんにいっちゃうぞ。おめーがケミカルやっているって」
少女の目に恐怖が宿る。正気な証拠だ。
「お願い、おねぇちゃんには言わないで。これはなんでもないの。もうケミカルはやらないわ。だから、だから」

奥からなつかしい声がする。
「ぶぅ、お前の妹はいつもこうだ。俺はいつもいっているだろう。ケミカルはやるんじゃねぇ、お前に言いつけるぞって。久しぶりに日本からきたのにこのざまだ。」
かつて、ここで暮らそうか、本気で思ったことがあるのだ。
「久しぶりって、何年たったと思うの?」
「多分、お前さんは今や高校の先生様だし、あの時から数年はたったかな。悪かった。I was wrong.」
「それだけ?」
「結局、なんでKが死んだかわかったかい? もう一回、こころを原文で読んでもいいぜ。」
「そんなこと聞いてない。答えて。」
「うん。俺はここで暮らしてもよかった。本当だよ。でも、自分自身で決められることと、そうでないことがある。自分の親は日本で工場をやっている。」
「それで? あなたはどうなの?」
「俺の人生は俺のものだ、でも俺の家の資本は、俺の代で使い果たしていいものじゃないんだ。最低でも、同じ量だけ次の世代に残さないとならない。」
「そんなことはいってなかった。」

発砲音が連続して聞こえる。重みのない、弾が安い22口径の長物の音だ。
この集落は何もかわってなかった。
隣の家の中年女が発泡酒に酔って発砲しているのだろう。
最低の酒、コンビニで買える最低の酒。40オンス、1ドル60
ここから這い上がることはできない。軍隊に行ってジャンキーになって30で死ぬか
マクドナルドかインディアンカジノで州の最低賃金で働くか。
貧困にあえぐ中でも恋愛はある。子どもはできる。
そしてフードスタンプをもらい、ウォルマートで冷凍食品を買っては子どもをフィードアップする日々。
時折酩酊しながら。

ぶぅは奨学金で大学へ行った。そして日本という国を知った。
お互いの性癖も一致した。
お互い、西洋の神に呪われたカインの末裔同士、約束の地で貪りあい、罵倒しあい、そしてそれは断片ではなく、連続性を持つものになる予感があった。

けれども、けれども、家からは自由になれなかった。

「なんといっても、くだらんエクスキューズにしか聞こえないだろう。それよりちょっとオンラインになっているパソコンあるかい?」
ぶぅは自分の部屋を指差した。

木のドアが軋む。床かもしれない。
1930年築の、土地代を入れても20000ドルの家。

本棚には、田舎の大学の准教授くらいの知性がつまっていた。
日本語版の漱石、村上春樹も。彼女は日本語が読めるのだ。

「学校は、どんなだい?」
「それはあなたに関係ないわ。」
彼女はきっぱりと言い切った。
「教えてくれよ。知りたいんだ。」
「いつも怒っている子、部員のいないフットボール部、リタリン漬けの学習障害のガキ、10代の妊娠、コージー、これで満足?」
「あぁ。だが、高校教員の社会的地位はこの田舎では判事と医者の次だ。もうここのコミュニティチャーチに行くことはない。カトリックの教会に行ける。違うかい?」
「ええ。この国にはあなたの国とちがって、家柄や育ちは関係ないもの。」


工場のポータルサイトにアクセスし、メールを確認する。
何もない・・・か

もう一度、未読のもののタイトルを見る

Fw 【情報共有】女工ユニオン団交申し入れに係る議事録

商工会議所だ。
中小企業にとって、従業員大半とやりあう労働争議はここ30年ない
けれども、最近は個人加入できるローカルユニオンがあって厄介なのだ。

今時、労働基準法を守っては町工場は成り立たない。
だが、そこは古きよき暗黙の了解がある。法は守れずとも、従業員の生活はまもってきたつもりだ。

団交申し入れ人の中に、もうどこかに行っていたと思っていた名前があった。

みゆき・・・・  みゆきなのか。
深く息を吐いた
ウォルマートで買ってきたような家具。
アイキア(英語読みだとそうなのだ)の若向きの家具もない。
ベニヤと安物の塗料がぷんぷんする本棚には不釣合いのトロフィーやら賞状が飾ってある。
「ちょっとトラブルが工場であった・・・。」

ぶぅは何の関心を示さなかった。かといって不機嫌な様子でもない。
どう言葉をかければよいのか。
社労士に電話しようと思ったが、すっかりそうする気はなくなっていた。
一週間くらい、ここで廃人になってもいい。

みゆきも汗と煙草臭い動労者の上で腰を振っているに違いない。

酩酊のうちに一夜が過ぎた。追い出されることも、鉄砲で撃たれることもなかった。
半分剥げた琺瑯の鍋でくたくたに煮られたチーズマカロニの味がひたすら懐かしかった。
野菜を食べないことで喧嘩をしたが、それは三年前の日常だったのだ。

朝、24時間やっているインディアンカジノにマスタングを向けた。
二速で十分だ。
誰もいないブラックジャックの卓につき、1000ドルぶんの紙幣をディーラに向けて放る。
片目の鋭いピットボスがやってくる。
100ドルの、ここではもっとも高額のチップが来る。
一進一退の攻防が続く。

何巡、淀んだ空気の中、グリーンのーフェルトの上でカードを流したか・・・・
ささっと配られた手札は8が2枚。ディーラーの見せ札は5。
こういうときは15を想定する。こちらは16だが、8をスプレッド(手を分割)すればチャンスだ。
テーブルの上で「チョキ」をする。スプレッドの意味だ。
無造作にディーラーが手をわける。10、2と札がくる。合計18となった手はいい。
合計10となった手は、ダブルダウン。カードの横を拳骨で叩き、チップをもう一枚積む。
グッドラック、ディーラーがめくった札はエース。ブラックジャックだ。

端銭の25ドルをチップでやる。この博打場にしては大盤振る舞いなのだが、ディーラーは控えめに礼をいった。
こちらがおけらになるかもしれないのだ。
流れに乗って四連勝、手持が二倍になったところでやめた。

昨日の、白い肌が揺れる様、あえぎ声、欲望のあさましさに嫌気がさした。
やはり女工なのだ。

カジノの公衆電話で日本にかけた。出てきたのは専務だった。
下町の女工が立ち上がったのは一回や二回ではない。
工業地帯は今日も雨だった。
ここはずっと、60年前に空襲があったという前からずっと、工場都市なのだ。

本には書いてある。雪国の女は諦観が発達すると。
でも、多摩川上水に若い女と入水したその雪国の作家は、工場都市のことは書かなかった。
女工はいつの時代も、この国を引っ張ってきた。けれども、誰にもとりあげられることはない。
去年も、おととしもなにもなかった。今年もなにもないだろう。

あこがれること、それは手の届く範囲であこがれなくてはならない。
子供のころからそう決まっていたのだ。
テレビでよく見るセレブにはなれるかもしれない。けれども、決して旧家の御嬢様にはなれないのだ。
それを彼女は12の頃、自分に言い聞かせたおぼえがあった。
わたしは貴族ではないのだ、と。

確かに、諦観のすすんだ子どもだったかもしれない。

はたらくこと・・・
それは生きていくためにすること。はたらかなくてはならない。
はたらいて、生きていればそのうち・・ 近くの男の子を宿し
常識的な母親になり、少し大きな車に乗って、煮物をおぼえて、職場の仲間とあわら温泉にゆく

悪くはない。悪くはないのだ。
でも、インドネシアの出稼ぎ女工のように、未来に希望しているわけでも
外国人研修生の名目でつれてこられた中国の寒村の女工のように絶望しているわけでもなかった。

空襲は今はなく、テレビでいっているどこかの国のミサイルが工場を吹き飛ばすこともない。
けれど、工場も、おそらくは手の届くだろう新居も、空襲のあった前から変わることはない。
停滞しているのだ。流れのない川なのだ。

立ち上がる女工たちがまぶしかった。
はたらいていない、けれどもいきている。
工場の前で、幕をかかげて、生きさせろと叫ぶ。
地方から、割合高い時給にひかれて来た娘たち・・・・
工場の中では、愚鈍で、標準動作も緩慢なあの娘たちが立ち上がって、工場をとめようとしている。

男と一緒になることはいいことだと思う。
自分が、大きな歯車の一部になったような気がして、とにかく自殺したくなった。
それに正対しているのが、立ち上がる女工たち。

シンボルの赤旗が眩しい。生きている。工場をとめよう。
現状に不満はない。けれども、はたらくためにいきている。
日常をとめよう。
彼女は決して熱病にとりつかれてはいなかったのだ。

女工ユニオンは、その出自からして政治的な主張があるわけではなかった。
江戸川の朝霞のような、向こうの見えない淀んだ停滞や、乾燥しきった造花を誰も気にしなくなった工場の食堂のカーネーションを生花に換える運動、といってもよかった。

しかし人数が集まり、全労連系の上部組織に属するにあたって、女工たちの「お花革命」は、労働条件・待遇・違法行為と闘争するかくも汗臭いものになるしかなかった。
自分の諦観を嘆いた女工は「委員長」になり、下町の工場の耳目をあつめた。

その頃、みゆきは工場に戻る気もなく、三河島の焼肉店で働いていた。
流れ者のみゆきに街の人はやさしく、朝鮮戦争の際に弾圧されて日本に逃げてきた済州島の人たちの物語をみゆきは知ることになった。
同じ国民から穢れた人間として差別され、さらには島ごと共産主義者の集まりとして国軍に虐殺され、ひたすら困難の時代を生き抜いてきたのだ。

荒川沿いの屠場から湯気ののぼる、ほかほかの内臓が届く。
それを切り分け、たれに漬け込む。ものによっては絞って油分をとって刺身用に仕込む。
すっかり仕事から遠ざかった手が、女工時代のように熱をもってくる。
手をかざして、ふーーと息をかけてやる。
何よりも、みゆきは自分が今こうして生きていることがいとおしかった。

すっかり内臓の扱いにも慣れ、こうして暮らすのもいいな・・・。
みゆきが食堂の二階の四畳半にそろそろ家具を買おうかと考え始めたとき、みゆ
きの手が止まった。
{あれ…このカンジ…やだ、何…?}
{知ってる…私、何か…を…??}

チリチリと豚の内臓を焦がす、炎のような心のゆらめき。

{みゆきちゃーん!まかない食べてー!}

氣のせい、、よね…?

{あ、ハーイ!おばちゃん、すぐ行くー!}
みゆき、チレは鮮度が命なんだから、とっとと下ごしらえしな!

おばあちゃんの声にとっさに体が反応した。
習ったことも、仕事にしたこともないのに、大動物の部位の名称と仕込み方がわかる。
どうすればおいしくなるのか、どう手をかければ新鮮なまま夕方に出せるのか・・・・

みゆきは血の中に手を突っ込んだ。
美しい、働く女性の手だ。

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