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４、寓言（3）朝三莫四(天のろくろに休む)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
労神明為一而不知其同也 神明を労して一を為すも、その同を知らず。
謂之朝三 これを朝三と謂う。
何謂朝三 何をか朝三と謂う。
曰 狙公賦芧 曰く、狙公(そこう)の芧(とち)を賦(ふ)するに
曰 朝三而莫四 曰く、「朝に三にして莫(くれ)に四」
衆狙皆怒 衆狙(しゅうそ)みな怒る。
曰 然則朝四而莫三 曰く、「然らば則ち朝に四にして莫に三」
衆狙皆悦 衆狙みな悦ぶ。
名実未虧而喜怒為用 名実未だ虧(か)けずして喜怒用を為す。
亦因是也 また是に因るのみ。
是以聖人和之 是を以って聖人これを和するに、
以是非而休乎天鈞 是非を以ってしても、天鈞(てんきん)に休す。
是之謂両行 是を両行(りょうこう)と謂う。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▽（金谷治 訳）
………………………………………………………………………………………………………………
あれこれと精神をつかれさせて同じことをくりかえしながら、
それが同じことだということを知らないでいる。
それを朝三（ちょうさん）とよぶ。
朝三とはどういうことかというと、こうである。
猿飼いの親方が芧（とち）の実を分け与えるのに、
「朝三つにして夕方四つにしよう」といったところ、
猿どもはみな怒った。
「それでは朝四つにして夕方三つにしよう」といったところ、
猿どもはみな悦んだという。
表現も実質も変わりはないのに、
それでいて喜びや怒りの感情が働くことになった。〔とらわれているからである。〕
ただひたすらに自然に身をまかせていくばかりだ。
そこで、聖人は善し悪しの分別を調和させて、
自然の平衡（バランス）〔つまり万物斉同の道理〕に休息する。
そうした境地を両行（──すなわち対立したもののいずれもがスムーズに流れる立場）というのだ。
………………………………………………………………………………………………………………
▽（岸陽子 訳）
………………………………………………………………………………………………………………
だが、われわれは、この道理に気づかず、
自己の選択に固執して、あくせくと心を煩わせてばかりいる。
「朝三暮四」とはこのことを指す。
なぜ「朝三暮四」というかといえば、次のような由来がある。
猿廻しの親方が、ある時、猿にどんぐりを与えながら言った。
「これからは朝三杯、夕方には四杯やることにしよう」
猿はいっせいにいきりたった。そこで猿廻しが、
「済まん、済まん。それでは朝四杯、夕方三杯にする」
猿たちはたちちまち機嫌をなおしたという。
実質上はなんらの差異もないのに、
一方については喜び、他方については怒るのは、なぜだろうか。
やはり、自己の是（ぜ）とするところに縛られているからではないか。
だから聖人は、是非の区別を立てず、いっさいを「天鈞(てんきん)」つまり自然の調和のままにまかせる。
これが「両行（いっさいの矛盾と対立が、矛盾のままに肯定され、
対立するままに依存する無限に自由な境地）」なのである。
………………………………………………………………………………………………………………
▽（吹黄 訳）
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、
それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。
それを「朝三」と言う。
「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。
猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。
名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、
（猿飼いのベテランともなると）また、こんなことにも身をまかせるのだ。
こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、
天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。
これを両行（周辺の動くみちと交差の中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
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４、寓言（3）朝三莫四(天のろくろに休む)
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労神明為一而不知其同也 神明を労して一を為すも、その同を知らず。
謂之朝三 これを朝三と謂う。
何謂朝三 何をか朝三と謂う。
曰 狙公賦芧 曰く、狙公(そこう)の芧(とち)を賦(ふ)するに
曰 朝三而莫四 曰く、「朝に三にして莫(くれ)に四」
衆狙皆怒 衆狙(しゅうそ)みな怒る。
曰 然則朝四而莫三 曰く、「然らば則ち朝に四にして莫に三」
衆狙皆悦 衆狙みな悦ぶ。
名実未虧而喜怒為用 名実未だ虧(か)けずして喜怒用を為す。
亦因是也 また是に因るのみ。
是以聖人和之 是を以って聖人これを和するに、
以是非而休乎天鈞 是非を以ってしても、天鈞(てんきん)に休す。
是之謂両行 是を両行(りょうこう)と謂う。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▽（金谷治 訳）
………………………………………………………………………………………………………………
あれこれと精神をつかれさせて同じことをくりかえしながら、
それが同じことだということを知らないでいる。
それを朝三（ちょうさん）とよぶ。
朝三とはどういうことかというと、こうである。
猿飼いの親方が芧（とち）の実を分け与えるのに、
「朝三つにして夕方四つにしよう」といったところ、
猿どもはみな怒った。
「それでは朝四つにして夕方三つにしよう」といったところ、
猿どもはみな悦んだという。
表現も実質も変わりはないのに、
それでいて喜びや怒りの感情が働くことになった。〔とらわれているからである。〕
ただひたすらに自然に身をまかせていくばかりだ。
そこで、聖人は善し悪しの分別を調和させて、
自然の平衡（バランス）〔つまり万物斉同の道理〕に休息する。
そうした境地を両行（──すなわち対立したもののいずれもがスムーズに流れる立場）というのだ。
………………………………………………………………………………………………………………
▽（岸陽子 訳）
………………………………………………………………………………………………………………
だが、われわれは、この道理に気づかず、
自己の選択に固執して、あくせくと心を煩わせてばかりいる。
「朝三暮四」とはこのことを指す。
なぜ「朝三暮四」というかといえば、次のような由来がある。
猿廻しの親方が、ある時、猿にどんぐりを与えながら言った。
「これからは朝三杯、夕方には四杯やることにしよう」
猿はいっせいにいきりたった。そこで猿廻しが、
「済まん、済まん。それでは朝四杯、夕方三杯にする」
猿たちはたちちまち機嫌をなおしたという。
実質上はなんらの差異もないのに、
一方については喜び、他方については怒るのは、なぜだろうか。
やはり、自己の是（ぜ）とするところに縛られているからではないか。
だから聖人は、是非の区別を立てず、いっさいを「天鈞(てんきん)」つまり自然の調和のままにまかせる。
これが「両行（いっさいの矛盾と対立が、矛盾のままに肯定され、
対立するままに依存する無限に自由な境地）」なのである。
………………………………………………………………………………………………………………
▽（吹黄 訳）
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精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、
それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。
それを「朝三」と言う。
「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。
猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。
名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、
（猿飼いのベテランともなると）また、こんなことにも身をまかせるのだ。
こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、
天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。
これを両行（周辺の動くみちと交差の中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
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コメント(26)
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┃▼ 労神明為一而不知其同也 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━┛
精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、
それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。
………………………………………………………………………………………………………………
＊【労（勞）】は、「火火（火を周囲に激しく燃やすこと）＋力」で、
「火を燃やし尽くすように、力を出し尽くすこと」です。
また「激しくエネルギーを消耗する仕事」⇒「そのつかれ」の意に転じたものです。
＊【神】は「示（祭壇）＋申（いなずまの伸びる姿）」で、
「いなずまのように、不可知な自然の力」「不思議な力」のことです。
⇒「目に見えぬ心の働き」「精神」の意も含みます。
＊【同】は「四角い板＋口（あな）」で、「板に穴をあけて突き通すこと」の意。
「突き抜けて通じれば一つになる」⇒「同一・共同・共通」の意となります。
◆【労神明為一】は、通説では【労】の意味を「疲れさせる」と解釈して、【明】の意味も【一】の意味
も無視して意訳しています。
（『荘子』天下篇などでは、【神明】は「霊妙の明」と訳されていますが、ここでは【労】という字から
それは俗人のことを指しているものとして、解釈したのではないだろうかと推察します。）
◇私は、ここでは【労】は「燃焼しつくす」という含みのある字義を表わしているものだと取りました。
【労神明】では、「精神的な明かりとなるものを（意識的に見続けながら）燃焼し尽くようにすること」
と解釈できるのではないかと思います。
そうすることによって、【為一】（＜一＞となる）と表現しているのだと思います。
◇【同】は「突き抜けて通じれば一つになる」という意で、前回までの話の展開に続いて【而不知其同也】
で、「それが、(貫き通して)同じ(＜一＞)となることを知らないことがある」ということでしょう。
┃▼ 労神明為一而不知其同也 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━┛
精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、
それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。
………………………………………………………………………………………………………………
＊【労（勞）】は、「火火（火を周囲に激しく燃やすこと）＋力」で、
「火を燃やし尽くすように、力を出し尽くすこと」です。
また「激しくエネルギーを消耗する仕事」⇒「そのつかれ」の意に転じたものです。
＊【神】は「示（祭壇）＋申（いなずまの伸びる姿）」で、
「いなずまのように、不可知な自然の力」「不思議な力」のことです。
⇒「目に見えぬ心の働き」「精神」の意も含みます。
＊【同】は「四角い板＋口（あな）」で、「板に穴をあけて突き通すこと」の意。
「突き抜けて通じれば一つになる」⇒「同一・共同・共通」の意となります。
◆【労神明為一】は、通説では【労】の意味を「疲れさせる」と解釈して、【明】の意味も【一】の意味
も無視して意訳しています。
（『荘子』天下篇などでは、【神明】は「霊妙の明」と訳されていますが、ここでは【労】という字から
それは俗人のことを指しているものとして、解釈したのではないだろうかと推察します。）
◇私は、ここでは【労】は「燃焼しつくす」という含みのある字義を表わしているものだと取りました。
【労神明】では、「精神的な明かりとなるものを（意識的に見続けながら）燃焼し尽くようにすること」
と解釈できるのではないかと思います。
そうすることによって、【為一】（＜一＞となる）と表現しているのだと思います。
◇【同】は「突き抜けて通じれば一つになる」という意で、前回までの話の展開に続いて【而不知其同也】
で、「それが、(貫き通して)同じ(＜一＞)となることを知らないことがある」ということでしょう。
>>[2]
「朝三暮四」の出典に関しては、『列子（黄帝篇）』と、『荘子』のこの文だとされています。
世間では、ひとくくりに「朝三暮四」だとして解釈しているようですが、私があえて「朝三莫四」としたには、理由があってですが、それは後から説明したいと思っています。
一般的にその意味には二種類あって、
�￣逎汽ぅ匹両�態を形容して、「目先の違いにとらわれ、結果が同じになることに気が付かないこと」と
��猿使いの状態を形容して、「言葉巧みに人をだますこと」という意味に使われています。
�，砲�いては、『列子』も『荘子』も大差ありませんが、
�△亡悗靴討蓮∩衢討譴覆い泙辰燭�違う意味を展開しています。
私は『列子』の展開には深みを感じません。
訳文に多少の違いがありますが、『列子』の「朝三暮四」は次のような前後の話がついてます。
http://protaka.sakura.ne.jp/asasan/
http://protaka.sakura.ne.jp/asasan/2.html
この話はどちらが先なのか、定かではありませんが、
列子は実在したかどうか疑問が残っていますが、前400年前後の70年と言われています。
荘子は前369年〜前286年という説が有力な様ですから、列子の方が先に書かれたものかもしれません。
「朝三暮四」の言葉の由来は列子の説の方が有力だと思いますが、
話の含みの奥深さでは、荘子にかなわないと思っています。
「朝三暮四」の出典に関しては、『列子（黄帝篇）』と、『荘子』のこの文だとされています。
世間では、ひとくくりに「朝三暮四」だとして解釈しているようですが、私があえて「朝三莫四」としたには、理由があってですが、それは後から説明したいと思っています。
一般的にその意味には二種類あって、
�￣逎汽ぅ匹両�態を形容して、「目先の違いにとらわれ、結果が同じになることに気が付かないこと」と
��猿使いの状態を形容して、「言葉巧みに人をだますこと」という意味に使われています。
�，砲�いては、『列子』も『荘子』も大差ありませんが、
�△亡悗靴討蓮∩衢討譴覆い泙辰燭�違う意味を展開しています。
私は『列子』の展開には深みを感じません。
訳文に多少の違いがありますが、『列子』の「朝三暮四」は次のような前後の話がついてます。
http://protaka.sakura.ne.jp/asasan/
http://protaka.sakura.ne.jp/asasan/2.html
この話はどちらが先なのか、定かではありませんが、
列子は実在したかどうか疑問が残っていますが、前400年前後の70年と言われています。
荘子は前369年〜前286年という説が有力な様ですから、列子の方が先に書かれたものかもしれません。
「朝三暮四」の言葉の由来は列子の説の方が有力だと思いますが、
話の含みの奥深さでは、荘子にかなわないと思っています。
◆通説では、次のようになっています。
あれこれ精神をつかれさせて同じことをくりかえしながら、
それが同じだということを知らないでいる。
◇新解釈では、次のようになります。
精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、
それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。
☆今までも何度も言われてきた貴重な境地である「＜一＞となる」ことの本質をつかむのは難しく、
「同一である」ということを知らないことがある…と言っているようです。
【労神明為一】
〔精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、〕
──「神明」・・・それははどんな「明かり」なのでしょう。
それは「顕在意識」のみによって、ここに「用」があるはずだと判断して、
見たいところだけを照らすような「明かり」ではないようです。
それは、自然から与えられている不可思議で霊妙でもある「精神的な明かり」のようです。
＜わたし＞の中で、何らかの顕現があるという時には、それ特有のエネルギーが燃焼されます。
そのことに対して、「意識」の眼を向けたならば、知覚できる「明かり」となるのではないでしょうか。
「怒りたい」という気持ちが起きたときは、「怒り」の燃焼を見続けたことはあるでしょうか。
「泣きたい」という気持ちが起きたときは、「悲しみ」の燃焼を見続けたことはあるでしょうか。
「喜びたい」という気持ちが起きたときは、「喜び」の燃焼を見続けたことはあるでしょうか。
時にはひょっとすると、その行きつく先には、笑顔や平静さが訪れる状態になっているかもしれません。
それが、どこに向かっているのか、どうなるか、何の「用」となるのか、どこで「得」となるか・・・
それは、その因果を結ぶ一連のすべてを燃焼し尽くした後にはじめてわかることなのかもしれません。
・・・「今・ここ」で起こるエネルギーのそのままの流れと変容の連続した状態を、「無意識」にではなく、
「（明かりとして）意識的」に観ていられるようになると、それは＜一＞となる…と言っているようです。
【而不知其同也】
〔それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。〕
──けれども、なかなかそういった境地に至らないようです。
それが、貫き通して＜一＞となるような「同じこと」だと知らないでいる…と言っています。
それというのも、「（意識的に）観る」のではなく、一つの顕現のその部分や断片に自己同化して（無意識的に）ただの燃焼（発散）してしまっているか、あるいは、自然体でなく燃焼（発散）しないように、自己規制をかけて、不完全燃焼のままに終わらせているか、どちらかの状態でいることが多いからです。
「無意識的」な自己同化（身をまかすこと）を「無為自然」だと思っている人もいるかと思いますが、
私は前にも述べたように、それとは違うことを荘子は指し示していると思っています。
なぜなら、「意識的」に、あるがままを貫き通していながらも、それを観照している目がなければ、
「同じである」ということを「知る」という知覚作用は起きないからです。
＜一＞だと「知る」境地に立てるのは、「明」という「意識的な観照の目」があってこそです。
その境地になかなか至らないがために、「同じ」だとわかないということなのだと思います。
あれこれ精神をつかれさせて同じことをくりかえしながら、
それが同じだということを知らないでいる。
◇新解釈では、次のようになります。
精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、
それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。
☆今までも何度も言われてきた貴重な境地である「＜一＞となる」ことの本質をつかむのは難しく、
「同一である」ということを知らないことがある…と言っているようです。
【労神明為一】
〔精神的な明かりとなるものを燃焼し尽してはじめて＜一＞となるのだが、〕
──「神明」・・・それははどんな「明かり」なのでしょう。
それは「顕在意識」のみによって、ここに「用」があるはずだと判断して、
見たいところだけを照らすような「明かり」ではないようです。
それは、自然から与えられている不可思議で霊妙でもある「精神的な明かり」のようです。
＜わたし＞の中で、何らかの顕現があるという時には、それ特有のエネルギーが燃焼されます。
そのことに対して、「意識」の眼を向けたならば、知覚できる「明かり」となるのではないでしょうか。
「怒りたい」という気持ちが起きたときは、「怒り」の燃焼を見続けたことはあるでしょうか。
「泣きたい」という気持ちが起きたときは、「悲しみ」の燃焼を見続けたことはあるでしょうか。
「喜びたい」という気持ちが起きたときは、「喜び」の燃焼を見続けたことはあるでしょうか。
時にはひょっとすると、その行きつく先には、笑顔や平静さが訪れる状態になっているかもしれません。
それが、どこに向かっているのか、どうなるか、何の「用」となるのか、どこで「得」となるか・・・
それは、その因果を結ぶ一連のすべてを燃焼し尽くした後にはじめてわかることなのかもしれません。
・・・「今・ここ」で起こるエネルギーのそのままの流れと変容の連続した状態を、「無意識」にではなく、
「（明かりとして）意識的」に観ていられるようになると、それは＜一＞となる…と言っているようです。
【而不知其同也】
〔それが、(貫き通して)同じとなることを知らないことがある。〕
──けれども、なかなかそういった境地に至らないようです。
それが、貫き通して＜一＞となるような「同じこと」だと知らないでいる…と言っています。
それというのも、「（意識的に）観る」のではなく、一つの顕現のその部分や断片に自己同化して（無意識的に）ただの燃焼（発散）してしまっているか、あるいは、自然体でなく燃焼（発散）しないように、自己規制をかけて、不完全燃焼のままに終わらせているか、どちらかの状態でいることが多いからです。
「無意識的」な自己同化（身をまかすこと）を「無為自然」だと思っている人もいるかと思いますが、
私は前にも述べたように、それとは違うことを荘子は指し示していると思っています。
なぜなら、「意識的」に、あるがままを貫き通していながらも、それを観照している目がなければ、
「同じである」ということを「知る」という知覚作用は起きないからです。
＜一＞だと「知る」境地に立てるのは、「明」という「意識的な観照の目」があってこそです。
その境地になかなか至らないがために、「同じ」だとわかないということなのだと思います。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃▼ 謂之朝三 何謂朝三 曰 狙公賦芧 曰 朝三而莫四┃
┃ 衆狙皆怒 曰 然則朝四而莫三 衆狙皆悦 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
それを「朝三」と言う。
「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。
猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。
………………………………………………………………………………………………………………
＊【朝】は、もと「くさ＋日＋水」で「草間から太陽が昇り、潮が満ちてくる時」
⇒のち「幹（はたが上がるように日がのぼる）＋舟（音符）」（形声）となり、
「東方から太陽の抜け出るあさ」を意味するようになったものです。
＊【莫】は「草原のくさむらに日が隠れるさま」を示しています。暮の原字。
「隠れて見えない」「ない」の意です。
◆【朝】と【莫】は、通説では単純に「朝」と「夕方」ととらえて訳されています。
◇この二つの漢字の字源に基づいてこの字義を考えるなら、もっと意味深長な含みをもっているようです。
「太陽が上って明るい朝」と「太陽が沈んで暗い（なにも見えなくなる）夜」ということになります。
物理世界では「朝」と、「夕方」というよりも正確には「暮（夜）」となりますが、【莫】はそれだけで
はなく、精神世界で類推するなら「明るい時」に対する「ないに等しい見えない時（闇）」という意に
なるところが、この話のミソになるところだと思います。
＊【狙】は「さる（手長猿）」ですが、「ずる賢い者」のたとえに用いることがあります。
＊【公】は「八印（開く）＋口」で、「入り口を開いて公開すること」の意です。
「個別に細分して隠さずおおっぴらに筒抜けにして見せる」意を含みます。
また、長老、相手を丁寧に呼ぶ時、第三者を尊敬していうのにも使います。
（※「公」は、「私（し）」の反対語でもあります。）
◆【狙公】は、通説では、「猿飼いの親方」と訳されています。
◇ここは、表向きには問題ないところですが、精神世界に類推する時には、もっと深い意味をもっていて、
【狙】の私利私欲をもった「猿≒ずる賢い者」に対して、【公】は「おおやけごとのできる者」という
意をもっているとみなして、あえて「ベテラン」という言葉で訳しておきました。
＊【衆】は「日（太陽）（⇒のち誤って「血」）＋人が三人（おおくの人）」で、
「太陽のもとで多くの人が集団労働をしているさま」を表わしています。
もとは「多くの臣下・庶民」を指していました。（普通人間にしか用いません。）
◆【衆狙】で、通説ではただの「猿（ども）」と訳されています。
◇翻訳自体には反映していませんが、この「猿（ずる賢い者）たち」というのは、もっと正確な形容をす
れば「太陽のもと（明るいところ）でのみ活動をしている臣下たち」という含みを感じます。
（精神世界に類推する時、＜わたし＞の中にいる多くの顕現する＜わたし＞の群れを思わせます。）
┃▼ 謂之朝三 何謂朝三 曰 狙公賦芧 曰 朝三而莫四┃
┃ 衆狙皆怒 曰 然則朝四而莫三 衆狙皆悦 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
それを「朝三」と言う。
「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。
猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。
………………………………………………………………………………………………………………
＊【朝】は、もと「くさ＋日＋水」で「草間から太陽が昇り、潮が満ちてくる時」
⇒のち「幹（はたが上がるように日がのぼる）＋舟（音符）」（形声）となり、
「東方から太陽の抜け出るあさ」を意味するようになったものです。
＊【莫】は「草原のくさむらに日が隠れるさま」を示しています。暮の原字。
「隠れて見えない」「ない」の意です。
◆【朝】と【莫】は、通説では単純に「朝」と「夕方」ととらえて訳されています。
◇この二つの漢字の字源に基づいてこの字義を考えるなら、もっと意味深長な含みをもっているようです。
「太陽が上って明るい朝」と「太陽が沈んで暗い（なにも見えなくなる）夜」ということになります。
物理世界では「朝」と、「夕方」というよりも正確には「暮（夜）」となりますが、【莫】はそれだけで
はなく、精神世界で類推するなら「明るい時」に対する「ないに等しい見えない時（闇）」という意に
なるところが、この話のミソになるところだと思います。
＊【狙】は「さる（手長猿）」ですが、「ずる賢い者」のたとえに用いることがあります。
＊【公】は「八印（開く）＋口」で、「入り口を開いて公開すること」の意です。
「個別に細分して隠さずおおっぴらに筒抜けにして見せる」意を含みます。
また、長老、相手を丁寧に呼ぶ時、第三者を尊敬していうのにも使います。
（※「公」は、「私（し）」の反対語でもあります。）
◆【狙公】は、通説では、「猿飼いの親方」と訳されています。
◇ここは、表向きには問題ないところですが、精神世界に類推する時には、もっと深い意味をもっていて、
【狙】の私利私欲をもった「猿≒ずる賢い者」に対して、【公】は「おおやけごとのできる者」という
意をもっているとみなして、あえて「ベテラン」という言葉で訳しておきました。
＊【衆】は「日（太陽）（⇒のち誤って「血」）＋人が三人（おおくの人）」で、
「太陽のもとで多くの人が集団労働をしているさま」を表わしています。
もとは「多くの臣下・庶民」を指していました。（普通人間にしか用いません。）
◆【衆狙】で、通説ではただの「猿（ども）」と訳されています。
◇翻訳自体には反映していませんが、この「猿（ずる賢い者）たち」というのは、もっと正確な形容をす
れば「太陽のもと（明るいところ）でのみ活動をしている臣下たち」という含みを感じます。
（精神世界に類推する時、＜わたし＞の中にいる多くの顕現する＜わたし＞の群れを思わせます。）
（続きです）
＊【賦】は「貝＋武[止（あし）＋戈（ほこ、武器）]（or くわだてる）」で、
「財貨を探り求めること」⇒「とりたてる」「貢ぐ」「挑発して使役する」
「わかつ・割り当てる」「述べる」などの意をもちます。
＊【芧】は「艸＋予（のびる）」で、「みくり（かやつりぐさ）」「からむし（麻の一種）」ですが、
「杼」に通用させて「トチの実・どんぐり」の意もあります。
◆【賦芧】で、「トチの実を分け与える」ということです。
◇【芧】というものが正確に何であるかはわかりませんが、猿の好物の何かだと思います。
基本的に通用された字で解釈しないことにしていますが、とにかく「餌になる何かの植物」であれば、
ここは別に何であってもいいところだと思い、通説に従い「トチの実」としました。
◇【賦】はひょっとすると、「餌（トチの実）でつって、（うまく）挑発して使役する」という意味が隠れ
ているかもしれないとも思いますが、ここも通説に従って、「分け与える（割り当てる）」としました。
◆通説では、「猿飼い」の方は「言葉巧みにだます(ごまかす)賢い者」で、「猿たち」の方は単なる計算の
できないような「愚か者（おバカさん）」といったとらえ方をしているようです。
◇私は、荘子は列子と違って、そんな単純な設定でこの話をしたのではないと思っているのです。
私がなぜ「猿飼い」に「ベテラン」をつけたかというと、後から出てくる「聖人のあり方」とダブらせ
るような寓話だと思っているからです。そして「猿たち」というのは、「ずる賢い者」という意味があ
ったように、「計算に弱い愚か者」ではなく、反対に「賢く計算する者」の象徴のように思えるのです。
ただし、「明るく見えるところにおいてのみ」に「小賢しい者」であって、「暗くて見えないところ」
には「意識が及ばない者」、つまりは我々ほとんどの者を指していると思えるのです。
それ故に、私は【莫】という漢字がもつ意味を強調したのです。
＊【賦】は「貝＋武[止（あし）＋戈（ほこ、武器）]（or くわだてる）」で、
「財貨を探り求めること」⇒「とりたてる」「貢ぐ」「挑発して使役する」
「わかつ・割り当てる」「述べる」などの意をもちます。
＊【芧】は「艸＋予（のびる）」で、「みくり（かやつりぐさ）」「からむし（麻の一種）」ですが、
「杼」に通用させて「トチの実・どんぐり」の意もあります。
◆【賦芧】で、「トチの実を分け与える」ということです。
◇【芧】というものが正確に何であるかはわかりませんが、猿の好物の何かだと思います。
基本的に通用された字で解釈しないことにしていますが、とにかく「餌になる何かの植物」であれば、
ここは別に何であってもいいところだと思い、通説に従い「トチの実」としました。
◇【賦】はひょっとすると、「餌（トチの実）でつって、（うまく）挑発して使役する」という意味が隠れ
ているかもしれないとも思いますが、ここも通説に従って、「分け与える（割り当てる）」としました。
◆通説では、「猿飼い」の方は「言葉巧みにだます(ごまかす)賢い者」で、「猿たち」の方は単なる計算の
できないような「愚か者（おバカさん）」といったとらえ方をしているようです。
◇私は、荘子は列子と違って、そんな単純な設定でこの話をしたのではないと思っているのです。
私がなぜ「猿飼い」に「ベテラン」をつけたかというと、後から出てくる「聖人のあり方」とダブらせ
るような寓話だと思っているからです。そして「猿たち」というのは、「ずる賢い者」という意味があ
ったように、「計算に弱い愚か者」ではなく、反対に「賢く計算する者」の象徴のように思えるのです。
ただし、「明るく見えるところにおいてのみ」に「小賢しい者」であって、「暗くて見えないところ」
には「意識が及ばない者」、つまりは我々ほとんどの者を指していると思えるのです。
それ故に、私は【莫】という漢字がもつ意味を強調したのです。
●通説では、次のようになっています。
それを朝三（ちょうさん）とよぶ。
朝三とはどういうことかというと、こうである。
猿飼いの親方が芧（とち）の実を分け与えるのに、
「朝三つにして夕方四つにしよう、」といったところ、猿どもはみな怒った。
「それでは、朝四つにして夕方三つにしよう、」といったところ、猿どもはみな悦んだという。
〇新解釈では、次のようになります。
それを「朝三」と言う。
「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。
猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。
☆「朝三暮四」ではなく、「朝三（而）莫四」となっているには、それなりの理由がありそうです。
【謂之朝三 何謂朝三 曰】
〔それを「朝三」と言う。「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。〕
──前に述べたように、「朝三暮四」ということわざは、おそらく『列子』の話からできたのでしょう。
同じような内容を指し示していますが、荘子は「朝三」という言葉で表現するにとどめています。
「同じ」となることを知らない意識は、常に明るい「朝」のことにのみに集中する…といわんばかりです。
【狙公賦芧 曰 朝三而莫四 衆狙皆怒 曰 然則朝四而莫三 衆狙皆悦】
〔猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。〕
──「猿たち」は、いつも自分の思いのまま、感じるままに動く、私利私欲に満ちている者でしょうか。
何かが「明るみ」に出るたびに、感情を交えてキャッキャッと騒ぎたてている者なのかもしれません。
彼らの「明るみ」での意識は「計算にうとい」のではなく、逆に「損得勘定にさとい」のかもしれません。
明るい時に「三」で、暗くて確認の取れない時に「四」と言われたなら、「−1」とはじき出すのです。
そんなことになったなら、当然のように「怒り」を覚えるのでしょう。
反対に明るい時に「四」で、暗く見えなくなってから「三」ならば、「＋1」とはじき出すのでしょう。
こうなったならば、当然のように「悦び」を覚えるのでしょう。
猿と猿飼いの間での取引に、言葉が使われていることからしても、単純な「猿」の話ではないようです。
世間にいるような「ずる賢い者の大衆」というよりも、自己内部にいる「ずる賢い者たち」を類推します。
「明るい」間の「得になるもの」「幸せになるもの」に意識が集中して、「暗い」間の事には無頓着です。
一般に、猿たちは「目先のことにとらわれている」からだ…と解釈されていますが、
厳密な屁理屈を言えば、この駆け引きを持ち出したのが、「朝」だとは限らないのです。
通説的にとらえたなら、もし「夕方」を目前に話をしたならば、成り立たない話となります。
やはりここでのその違いのかなめは「明るい」か「見えないくらい暗い」のかが問題のようです。
物理的な世界においては、一日というサイクルで「朝」と「夜（闇）」とがあることを認められますが、
精神的な世界においては、「明るく見える意識的な時」と「暗くて見えない無意識的な時」の差でしょう。
「猿（ずる賢い者）たち」の意識は、「明るく見える時」の事で損得勘定するのが常のようです。
一方「狙公（猿飼いのベテラン）」は、そんな多くの「猿たち」を使いこなせる者なのかもしれません。
しかも、うるさい多くの「猿たち」に振り回されることなく、全体を見渡し、統率するばかりではなく、それらの能力も熟知して、その技の芸当を発揮させることができるほどに、彼らを使いこなすことができる「猿使い・猿まわし」ともなる者といえるかもしれません。
自分の中に「猿たち」がいると類推できる人は、さらに同時に「猿飼いのベテラン」もいるでしょうか？
＜わたし＞の中にいる多くの＜わたし＞の取りまとめ役として、もし・・・
「狙公（猿飼いのベテラン）」がおらず、実質「ボス猿」のような者だったらどうなのでしょう？
「衆狙」の中で、頭角をみせる他よりは抜きん出た、力や知恵をもっているリーダー格だったとして…。
＜わたし＞の中で、「命令を下す思考」が「ボス猿」だったとして、「感情」を操れるでしょうか？
それを朝三（ちょうさん）とよぶ。
朝三とはどういうことかというと、こうである。
猿飼いの親方が芧（とち）の実を分け与えるのに、
「朝三つにして夕方四つにしよう、」といったところ、猿どもはみな怒った。
「それでは、朝四つにして夕方三つにしよう、」といったところ、猿どもはみな悦んだという。
〇新解釈では、次のようになります。
それを「朝三」と言う。
「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。
猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。
☆「朝三暮四」ではなく、「朝三（而）莫四」となっているには、それなりの理由がありそうです。
【謂之朝三 何謂朝三 曰】
〔それを「朝三」と言う。「朝三」とはどういうことかといえば、こういうことだ。〕
──前に述べたように、「朝三暮四」ということわざは、おそらく『列子』の話からできたのでしょう。
同じような内容を指し示していますが、荘子は「朝三」という言葉で表現するにとどめています。
「同じ」となることを知らない意識は、常に明るい「朝」のことにのみに集中する…といわんばかりです。
【狙公賦芧 曰 朝三而莫四 衆狙皆怒 曰 然則朝四而莫三 衆狙皆悦】
〔猿飼いのベテランがトチの実を分け与えるのに、
「朝は三個にして、暗くなったら四個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに怒り出した。
「それならば、朝に四個にして、暗くなったら三個にしよう」と言うと、
猿たちはみないっせいに悦んだ、ということだ。〕
──「猿たち」は、いつも自分の思いのまま、感じるままに動く、私利私欲に満ちている者でしょうか。
何かが「明るみ」に出るたびに、感情を交えてキャッキャッと騒ぎたてている者なのかもしれません。
彼らの「明るみ」での意識は「計算にうとい」のではなく、逆に「損得勘定にさとい」のかもしれません。
明るい時に「三」で、暗くて確認の取れない時に「四」と言われたなら、「−1」とはじき出すのです。
そんなことになったなら、当然のように「怒り」を覚えるのでしょう。
反対に明るい時に「四」で、暗く見えなくなってから「三」ならば、「＋1」とはじき出すのでしょう。
こうなったならば、当然のように「悦び」を覚えるのでしょう。
猿と猿飼いの間での取引に、言葉が使われていることからしても、単純な「猿」の話ではないようです。
世間にいるような「ずる賢い者の大衆」というよりも、自己内部にいる「ずる賢い者たち」を類推します。
「明るい」間の「得になるもの」「幸せになるもの」に意識が集中して、「暗い」間の事には無頓着です。
一般に、猿たちは「目先のことにとらわれている」からだ…と解釈されていますが、
厳密な屁理屈を言えば、この駆け引きを持ち出したのが、「朝」だとは限らないのです。
通説的にとらえたなら、もし「夕方」を目前に話をしたならば、成り立たない話となります。
やはりここでのその違いのかなめは「明るい」か「見えないくらい暗い」のかが問題のようです。
物理的な世界においては、一日というサイクルで「朝」と「夜（闇）」とがあることを認められますが、
精神的な世界においては、「明るく見える意識的な時」と「暗くて見えない無意識的な時」の差でしょう。
「猿（ずる賢い者）たち」の意識は、「明るく見える時」の事で損得勘定するのが常のようです。
一方「狙公（猿飼いのベテラン）」は、そんな多くの「猿たち」を使いこなせる者なのかもしれません。
しかも、うるさい多くの「猿たち」に振り回されることなく、全体を見渡し、統率するばかりではなく、それらの能力も熟知して、その技の芸当を発揮させることができるほどに、彼らを使いこなすことができる「猿使い・猿まわし」ともなる者といえるかもしれません。
自分の中に「猿たち」がいると類推できる人は、さらに同時に「猿飼いのベテラン」もいるでしょうか？
＜わたし＞の中にいる多くの＜わたし＞の取りまとめ役として、もし・・・
「狙公（猿飼いのベテラン）」がおらず、実質「ボス猿」のような者だったらどうなのでしょう？
「衆狙」の中で、頭角をみせる他よりは抜きん出た、力や知恵をもっているリーダー格だったとして…。
＜わたし＞の中で、「命令を下す思考」が「ボス猿」だったとして、「感情」を操れるでしょうか？
（続きです）
「朝三莫四」だと、「ボス猿」のような「猿飼い」が、他の「猿たち」に命令として伝えたとします。
けれども、「損得勘定」で感情が動く、普通の「猿たち」は、いっせいに「怒り」始めます。
「−1なんて御免だ。勘定は得意なんだ。ばかにするな」などと、言わんばかりです。
こんな時に、「ボス猿」のような「猿飼い」だけで、この「怒り」を静めることはできるでしょうか。
「ボス猿」的な「猿飼い」だったとしたら、「ベテラン」のようにすぐさま「朝四莫三」にしようなどと、
一度命令した事を身軽に変更できないのではないでしょうか？
「力」で押さえつけようと、「怒って」でも、まわりを「従わせる」ように動くのではないでしょうか。
極端な場合、そうなると「怒り」対「怒り」の修羅場と化すかもしれません。
「ベテランではない猿飼い」は、「ボス猿」のように、力に頼って群れの維持をしようとする者です。
「猿飼いのベテラン」のように、あたかも「猿の衆」の意見に「従う者」に、「なり下がった」かのようにして、「それならば、朝四莫三にしよう」などと軽やかにはその身振りを変えないでしょう。
「ベテラン」は、「猿たち」の意識は単純に「朝」のことだけに向けられているため、「朝」に少しでも多い数をもってきたら「悦ぶ」のを知っているのです。「莫」に対しては「無意識」であるため、ないがしろにされるのです。それにしても、こうした発想転回ができるのは「朝三莫四」も「朝四莫三」も一日という全体では「同じ」だということを知っている「猿飼いのベテラン」だからこそです。
我々は、自分の中に「猿（ずる賢いもの）たち」サイドの者がいるとは思ってもみないかもしれません。
かといって、「猿飼いのベテラン」のような者がいるとも思えないのではないでしょうか…。
仮に確認できるとするなら、「ボス猿」のような「猿飼い」を見出すのがオチではないでしょうか。
「朝三莫四」だと、「ボス猿」のような「猿飼い」が、他の「猿たち」に命令として伝えたとします。
けれども、「損得勘定」で感情が動く、普通の「猿たち」は、いっせいに「怒り」始めます。
「−1なんて御免だ。勘定は得意なんだ。ばかにするな」などと、言わんばかりです。
こんな時に、「ボス猿」のような「猿飼い」だけで、この「怒り」を静めることはできるでしょうか。
「ボス猿」的な「猿飼い」だったとしたら、「ベテラン」のようにすぐさま「朝四莫三」にしようなどと、
一度命令した事を身軽に変更できないのではないでしょうか？
「力」で押さえつけようと、「怒って」でも、まわりを「従わせる」ように動くのではないでしょうか。
極端な場合、そうなると「怒り」対「怒り」の修羅場と化すかもしれません。
「ベテランではない猿飼い」は、「ボス猿」のように、力に頼って群れの維持をしようとする者です。
「猿飼いのベテラン」のように、あたかも「猿の衆」の意見に「従う者」に、「なり下がった」かのようにして、「それならば、朝四莫三にしよう」などと軽やかにはその身振りを変えないでしょう。
「ベテラン」は、「猿たち」の意識は単純に「朝」のことだけに向けられているため、「朝」に少しでも多い数をもってきたら「悦ぶ」のを知っているのです。「莫」に対しては「無意識」であるため、ないがしろにされるのです。それにしても、こうした発想転回ができるのは「朝三莫四」も「朝四莫三」も一日という全体では「同じ」だということを知っている「猿飼いのベテラン」だからこそです。
我々は、自分の中に「猿（ずる賢いもの）たち」サイドの者がいるとは思ってもみないかもしれません。
かといって、「猿飼いのベテラン」のような者がいるとも思えないのではないでしょうか…。
仮に確認できるとするなら、「ボス猿」のような「猿飼い」を見出すのがオチではないでしょうか。
┏━━━━━━━━━━━┓
┃▼ 名実未虧而喜怒為用 ┃
┗━━━━━━━━━━━┛
名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、
………………………………………………………………………………………………………………
＊「名」は「夕（三日月）＋口」で、「薄闇の中で自分の存在を声で告げること」
⇒「よくわからないものをわからせる」意を含みます。
＊【実】は「宀（やね）＋周（いっぱい）＋貝（たから）」で、
「家の中に財宝をいっぱい満たす」→「中身がいっぱいで欠け目がないこと」。
＊【虧】は「まがりくぼむ印＋雇（うつぶせてかかえこむ）の変形」で、
「まるくかこんだ形の物の一部がかけてくぼむこと」です。
◆【名実未虧而喜怒為用】は、訳そのものには大差がありませんが、通説では「とらわれているからだ」
と言葉を補足して（「朝三」の説明はここまでとして）一旦文章を区切っています。
◇訳自体は通説と同じような意味になりますが、「朝三」の話のうちここは「猿たち」サイドの説明をし、
後続の文で「猿飼いのベテラン」サイドの説明するという、セットになった文だと私は解釈しました。
それというのも、＜わたし＞の中には両方の存在を類推することができるからです。
┏━━━━━━┓
┃▼ 亦因是也 ┃
┗━━━━━━┛
（猿飼いのベテランは）また、こんなことにも身をまかせるのだ。
………………………………………………………………………………………………………………
◆通説では、【亦】とはいった何が「また」なのか、【是】が何を指しているのかはっきりしません。
「ただひたすらに自然に身をまかせていくばかりだ」としていますが、おそらく「猿飼い」サイドの
事を指しているものとも思えますが、その前の文章で「朝三」の話は終わりとしているようなので、
曖昧な訳となっています。
（あるいは「猿」サイドの事として「自己の是（ぜ）とするところに縛られている」という訳もあります。）
◇【亦因是也】は＜わたし＞の中に「猿」だけではなく「猿飼いのベテラン」もいて、【亦】（同時に）
【是】（こんなこと＝喜怒が用をなすこと）にも引っかかったりこだわったりして立ち止まることなく、
「身をまかせるのだ」…といっているのだと解釈しました。
◇よって、列子の話による「狙公」が「誑（たぶら）かす者」（言葉巧みにうそをついてだます者）とい
う設定にして、「狙公」の知恵と同じく「聖人智を以って群愚を籠（こ）める」（包括する／まるめこむ）
というニュアンスとは、まったく違っていると思います。
◇ここは、「ボス的猿飼い」なら、「怒り」に対して「怒り」で返し、「朝三暮四」で押し通し、説得して、
それに従わせようとするかもしれませんが、「猿飼いのベテラン」ともなると「怒り」を逆手にとって、
「悦び」になるよう「朝四莫三」と身軽に言葉を入れ替えるという「こんなことにも身をまかせる者」
だと言っているのではないでしょうか。
┃▼ 名実未虧而喜怒為用 ┃
┗━━━━━━━━━━━┛
名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、
………………………………………………………………………………………………………………
＊「名」は「夕（三日月）＋口」で、「薄闇の中で自分の存在を声で告げること」
⇒「よくわからないものをわからせる」意を含みます。
＊【実】は「宀（やね）＋周（いっぱい）＋貝（たから）」で、
「家の中に財宝をいっぱい満たす」→「中身がいっぱいで欠け目がないこと」。
＊【虧】は「まがりくぼむ印＋雇（うつぶせてかかえこむ）の変形」で、
「まるくかこんだ形の物の一部がかけてくぼむこと」です。
◆【名実未虧而喜怒為用】は、訳そのものには大差がありませんが、通説では「とらわれているからだ」
と言葉を補足して（「朝三」の説明はここまでとして）一旦文章を区切っています。
◇訳自体は通説と同じような意味になりますが、「朝三」の話のうちここは「猿たち」サイドの説明をし、
後続の文で「猿飼いのベテラン」サイドの説明するという、セットになった文だと私は解釈しました。
それというのも、＜わたし＞の中には両方の存在を類推することができるからです。
┏━━━━━━┓
┃▼ 亦因是也 ┃
┗━━━━━━┛
（猿飼いのベテランは）また、こんなことにも身をまかせるのだ。
………………………………………………………………………………………………………………
◆通説では、【亦】とはいった何が「また」なのか、【是】が何を指しているのかはっきりしません。
「ただひたすらに自然に身をまかせていくばかりだ」としていますが、おそらく「猿飼い」サイドの
事を指しているものとも思えますが、その前の文章で「朝三」の話は終わりとしているようなので、
曖昧な訳となっています。
（あるいは「猿」サイドの事として「自己の是（ぜ）とするところに縛られている」という訳もあります。）
◇【亦因是也】は＜わたし＞の中に「猿」だけではなく「猿飼いのベテラン」もいて、【亦】（同時に）
【是】（こんなこと＝喜怒が用をなすこと）にも引っかかったりこだわったりして立ち止まることなく、
「身をまかせるのだ」…といっているのだと解釈しました。
◇よって、列子の話による「狙公」が「誑（たぶら）かす者」（言葉巧みにうそをついてだます者）とい
う設定にして、「狙公」の知恵と同じく「聖人智を以って群愚を籠（こ）める」（包括する／まるめこむ）
というニュアンスとは、まったく違っていると思います。
◇ここは、「ボス的猿飼い」なら、「怒り」に対して「怒り」で返し、「朝三暮四」で押し通し、説得して、
それに従わせようとするかもしれませんが、「猿飼いのベテラン」ともなると「怒り」を逆手にとって、
「悦び」になるよう「朝四莫三」と身軽に言葉を入れ替えるという「こんなことにも身をまかせる者」
だと言っているのではないでしょうか。
●通説では、次のようになっています。
表現も実質も変わりがないのに、それでいて喜びや怒りの感情が働くことになった。
〔とらわれているからである。〕
ただひたすらに自然にまかせていくばかりだ。
〇新解釈では、次のようになります。
名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、
（猿飼いのベテランは）また、こんなことにも身をまかせるのだ。
☆「猿」サイドと「猿飼いのベテラン」サイドの両方の状態を形容していると思われます。
【名実未虧而喜怒為用】
〔名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、〕
──目先の事にとらわれ、「単純な計算さえ苦手」なのが「狙（愚か者）」なのだ…というのが定説になっていますが、前にも述べたように「狙（ずる賢い者）」は、反対に「損得の計算高い者」ではないでしょうか。
計算をしているからこそ「損」には「怒り」、「得」には「喜ぶ」のではないでしょうか。
もしかしたら、「狙（さる）たち」とは、自分とは縁遠い他人の事だと思っているのではないでしょうか？
しかし、自分の中に「狙たち」を見いだせない人は、他人の中にも単純にこの「狙たち」ほどのおバカさんは見いだせないのではないでしょうか。
通説のように単なる「朝」と「夕方」の足し算ができないほどの者がいるでしょうか？
この話はそこまで単純な話ではないと私は思っています。
この話の深みを感じ取ることのできるキーワードは、やはり「莫」だと思います。
「見える時」と「見えない時」に分割される＜一（日）＞…
それを両方見えるかのようにするためには、
それぞれに、「朝」と「莫」といった「名」による表現をするしかありません。
使われるのは「朝」「莫」「三」「四」という同じ「名称」ですが、その組み合わせが違うだけです。
よって、「実質」は、一日において「同じ」になって、何ら損なわれることがありませんが、
「莫」は「暗くて見えない時」という不確定要素を感じるせいか、
「狙たち」の焦点は「明るく見える時（朝）」の「損得勘定」によって、感情が動いてしまうようです。
人間の心の中にも、意識が向けられて「見えているところ」と、無意識のまま「見えていないところ」が存在するのではないでしょうか。それなのに「狙たち」にとっては「見えるところの朝」のあり方によってのみ、喜びや怒りが表立って働くものですが、我々も「怒り」や「喜び」をあらわにしますが、実は案外同じような仕組みのもとで、そうなっているのかもしれません。
我々の中にも「狙たち」がいて、ついつい目先の「損得勘定」に忙しくしているかもしれないのです。
例えば、物や行動や言葉などによって「明るい時（朝）」の「得」や「幸」や「愛」にばかり気を奪われ、
物や行動や言葉などにできない「暗い時（莫）」のことにはその意識が及ばずに、無意識のままに、「喜び」や「怒り」が表立って働いてしまっている…ということはないでしょうか？
もしそうだとしたら、「狙たち」を他人事にして、ばかにできないかもしれません。
【亦因是也】
〔（猿飼いのベテランは）また、こんなことにも身をまかせるのだ。〕
──「朝」の事にのみ、こうしたかたちで「喜怒哀楽を表す」ものが「狙たち」だと知った時、
決して「ボス猿」ではない、「猿飼いのベテラン」だからこそそのどの状態であっても、「寓すること（暫定的な肯定）」（身をまかせること）ができ、対立や非難をすることなく、＜一（同）＞を見極められる全体の視点から、「莫」のことも考慮に入れて、「狙たち」を「使いこなす」ことができるのかもしれませんね。
「猿飼いのベテラン」は、全体を通して見ることができる者なのです。定説になっている「口先でうまくごまかす者」のことを言っているのではないのです。＜一＞を知る者にして、その行いは「融通自在な者」のことなのです。それ故、淡々と「だったら、猿たちが喜んで賛同できるものにしよう」と、猿たちを尊重しながらも、何も損なわずして、そうした事態にも対応できるのです。ただただ全体の流れに身をまかせ、従っているだけなのです。
表現も実質も変わりがないのに、それでいて喜びや怒りの感情が働くことになった。
〔とらわれているからである。〕
ただひたすらに自然にまかせていくばかりだ。
〇新解釈では、次のようになります。
名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、
（猿飼いのベテランは）また、こんなことにも身をまかせるのだ。
☆「猿」サイドと「猿飼いのベテラン」サイドの両方の状態を形容していると思われます。
【名実未虧而喜怒為用】
〔名称も実質も何ら損なわれていないのに、喜びや怒りが表立って働くものだが、〕
──目先の事にとらわれ、「単純な計算さえ苦手」なのが「狙（愚か者）」なのだ…というのが定説になっていますが、前にも述べたように「狙（ずる賢い者）」は、反対に「損得の計算高い者」ではないでしょうか。
計算をしているからこそ「損」には「怒り」、「得」には「喜ぶ」のではないでしょうか。
もしかしたら、「狙（さる）たち」とは、自分とは縁遠い他人の事だと思っているのではないでしょうか？
しかし、自分の中に「狙たち」を見いだせない人は、他人の中にも単純にこの「狙たち」ほどのおバカさんは見いだせないのではないでしょうか。
通説のように単なる「朝」と「夕方」の足し算ができないほどの者がいるでしょうか？
この話はそこまで単純な話ではないと私は思っています。
この話の深みを感じ取ることのできるキーワードは、やはり「莫」だと思います。
「見える時」と「見えない時」に分割される＜一（日）＞…
それを両方見えるかのようにするためには、
それぞれに、「朝」と「莫」といった「名」による表現をするしかありません。
使われるのは「朝」「莫」「三」「四」という同じ「名称」ですが、その組み合わせが違うだけです。
よって、「実質」は、一日において「同じ」になって、何ら損なわれることがありませんが、
「莫」は「暗くて見えない時」という不確定要素を感じるせいか、
「狙たち」の焦点は「明るく見える時（朝）」の「損得勘定」によって、感情が動いてしまうようです。
人間の心の中にも、意識が向けられて「見えているところ」と、無意識のまま「見えていないところ」が存在するのではないでしょうか。それなのに「狙たち」にとっては「見えるところの朝」のあり方によってのみ、喜びや怒りが表立って働くものですが、我々も「怒り」や「喜び」をあらわにしますが、実は案外同じような仕組みのもとで、そうなっているのかもしれません。
我々の中にも「狙たち」がいて、ついつい目先の「損得勘定」に忙しくしているかもしれないのです。
例えば、物や行動や言葉などによって「明るい時（朝）」の「得」や「幸」や「愛」にばかり気を奪われ、
物や行動や言葉などにできない「暗い時（莫）」のことにはその意識が及ばずに、無意識のままに、「喜び」や「怒り」が表立って働いてしまっている…ということはないでしょうか？
もしそうだとしたら、「狙たち」を他人事にして、ばかにできないかもしれません。
【亦因是也】
〔（猿飼いのベテランは）また、こんなことにも身をまかせるのだ。〕
──「朝」の事にのみ、こうしたかたちで「喜怒哀楽を表す」ものが「狙たち」だと知った時、
決して「ボス猿」ではない、「猿飼いのベテラン」だからこそそのどの状態であっても、「寓すること（暫定的な肯定）」（身をまかせること）ができ、対立や非難をすることなく、＜一（同）＞を見極められる全体の視点から、「莫」のことも考慮に入れて、「狙たち」を「使いこなす」ことができるのかもしれませんね。
「猿飼いのベテラン」は、全体を通して見ることができる者なのです。定説になっている「口先でうまくごまかす者」のことを言っているのではないのです。＜一＞を知る者にして、その行いは「融通自在な者」のことなのです。それ故、淡々と「だったら、猿たちが喜んで賛同できるものにしよう」と、猿たちを尊重しながらも、何も損なわずして、そうした事態にも対応できるのです。ただただ全体の流れに身をまかせ、従っているだけなのです。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃▼ 是以聖人和之以是非 而休乎天鈞 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、
天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。
………………………………………………………………………………………………………………
◆【是以】は、軽く「そこで」などと訳されています。
◇しかし、ここは今までの話を踏まえた上で「こういったことによって」と取るべきだと思っています。
＊【和】は、「口（まるい穴）＋禾（穂のまるくしなやかにたれたさま）」で、
「かどだたない」意を含んでいます。 「やわらぐ」「まるくおさまる」
「なごやか」「あわせる」「加えた結果」「分離しないで」などの意。
◆【聖人和之以是非】は、通説では「聖人は善し悪しの分別を調和させて」とか
「聖人は是非の区別は立てず」とか訳されています。
◇しかし、通説では「朝三」の話と直接からませることなく、ちょっと突飛な一文のように感じます。
私はそれまでの話の「猿たち」と「猿飼いのベテラン」の動向と「聖人」のあり方とをダブらせている
のだと思っています。
◇【是非】を「善し悪し」と解釈するのではなく、「肯定と否定」とした方がいいように思います。
【和之以是非】は、内にいる猿たちの「怒り」に対しても、それを「否定する」ことはなく、その過程
では(暫定的な)「肯定」を用いながらもそれをうまく「悦び」に誘導して(分離せずに)和してゆく」…
といった趣旨としてとらえました。
◇「和する」ことは、どんな時でも「暫定的な物事の肯定だけの足し算」をするということで、そこには、
「引き算」のようなマイナス意識の入り込む隙がないのかもしれません。
＊【鈞】は「金＋均（※）の略体」。「ろくろ」「平均のとれた回転盤」
※「均」は「土＋[手をひと回りさせた姿＋＝印（そろえる）]」で、
「土をならして全部に平均して行き渡らせること」です。
◆【而休乎天鈞】の【天鈞】は、通説では「自然の平衡(バランス)(つまり万物斉同の道理)」や
「自然の調和」などという訳になっています。
◇しかし、「（聖人の）絶対的な道」として特別視した「天鈞という立場」といった見地で語られたこと
ではないと思っています。理解を深めるイメージとともに通常の意味で示すことによって、
その言わんとするところが「自ずと明るくなって見えてくる」ような説明をしていると思っています。
◇例えば、「道の枢（とぼそ）」話の中でもしていたように、説明するのに論理だけ展開するのではなく、
その仕組みがよくわかるように、視覚的イメージで描かれている事が荘子の特徴の一つだと思います。
ここでも、単なる「バランス」ではなく、「ろくろ」「平均のとれた回転盤」というイメージを展開して
いることがキーポイントとなりそうです。
（「朝三」の話にからめれば、「朝」と「莫」が回転するかのように必ず一巡していく喩えととれます。
また、「怒」が起きるならば、「喜（悦）」が起きる落としどころが一巡してあるとも喩えられます。）
◇また、ここではもう一歩その奥の意味を推理する必要が出てきます。
「回転盤」の上に「乗っている」とイメージすると、それは「めまぐるしく動くこと」になります。
それなのに、【休】(休んでいる)といっているのですから、その理由にたどりつかなくてはなりません。
◆通説では「是非の対立するのを本質とは見ないでそれに執着しないから」と考えられているようです。
◇私は、もっと単純に、今までの話でも出てきたように、「回転」を成立 (肯定) させるためには、その
「中心」「軸」に意識の光(つまり「明」)が当たっている状態に至らなければ「得(ツボを得た)」とは
言えなかったことを踏まえて、その「不動点」の上に立てたなら、「ゆったりと休んでいられる」状態
になるという、きわめて物理科学的な理にかなったことを視覚的に示唆しているのだと思っています。
◇「朝莫」「喜怒」というのは、「回転する周辺のこと」であり、「その出所、理由がどこにあるかを知っ
ていること」が「中心(軸)」に当たると思うのです。
◇自然の巡行にまかせてみると、あたかも回転板の周辺部に乗っていたかのように、是と非の対極を
巡り、再び「同じ」所に戻ってくるという軌道を知ることによって、得ることができる「中心軸（不動点）」。
つまりは、「動（猿たち）」を司る「静（猿飼いのベテラン）」のように、「聖人はゆったりと休んでいる」
と言っているのだと思います。
┃▼ 是以聖人和之以是非 而休乎天鈞 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、
天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。
………………………………………………………………………………………………………………
◆【是以】は、軽く「そこで」などと訳されています。
◇しかし、ここは今までの話を踏まえた上で「こういったことによって」と取るべきだと思っています。
＊【和】は、「口（まるい穴）＋禾（穂のまるくしなやかにたれたさま）」で、
「かどだたない」意を含んでいます。 「やわらぐ」「まるくおさまる」
「なごやか」「あわせる」「加えた結果」「分離しないで」などの意。
◆【聖人和之以是非】は、通説では「聖人は善し悪しの分別を調和させて」とか
「聖人は是非の区別は立てず」とか訳されています。
◇しかし、通説では「朝三」の話と直接からませることなく、ちょっと突飛な一文のように感じます。
私はそれまでの話の「猿たち」と「猿飼いのベテラン」の動向と「聖人」のあり方とをダブらせている
のだと思っています。
◇【是非】を「善し悪し」と解釈するのではなく、「肯定と否定」とした方がいいように思います。
【和之以是非】は、内にいる猿たちの「怒り」に対しても、それを「否定する」ことはなく、その過程
では(暫定的な)「肯定」を用いながらもそれをうまく「悦び」に誘導して(分離せずに)和してゆく」…
といった趣旨としてとらえました。
◇「和する」ことは、どんな時でも「暫定的な物事の肯定だけの足し算」をするということで、そこには、
「引き算」のようなマイナス意識の入り込む隙がないのかもしれません。
＊【鈞】は「金＋均（※）の略体」。「ろくろ」「平均のとれた回転盤」
※「均」は「土＋[手をひと回りさせた姿＋＝印（そろえる）]」で、
「土をならして全部に平均して行き渡らせること」です。
◆【而休乎天鈞】の【天鈞】は、通説では「自然の平衡(バランス)(つまり万物斉同の道理)」や
「自然の調和」などという訳になっています。
◇しかし、「（聖人の）絶対的な道」として特別視した「天鈞という立場」といった見地で語られたこと
ではないと思っています。理解を深めるイメージとともに通常の意味で示すことによって、
その言わんとするところが「自ずと明るくなって見えてくる」ような説明をしていると思っています。
◇例えば、「道の枢（とぼそ）」話の中でもしていたように、説明するのに論理だけ展開するのではなく、
その仕組みがよくわかるように、視覚的イメージで描かれている事が荘子の特徴の一つだと思います。
ここでも、単なる「バランス」ではなく、「ろくろ」「平均のとれた回転盤」というイメージを展開して
いることがキーポイントとなりそうです。
（「朝三」の話にからめれば、「朝」と「莫」が回転するかのように必ず一巡していく喩えととれます。
また、「怒」が起きるならば、「喜（悦）」が起きる落としどころが一巡してあるとも喩えられます。）
◇また、ここではもう一歩その奥の意味を推理する必要が出てきます。
「回転盤」の上に「乗っている」とイメージすると、それは「めまぐるしく動くこと」になります。
それなのに、【休】(休んでいる)といっているのですから、その理由にたどりつかなくてはなりません。
◆通説では「是非の対立するのを本質とは見ないでそれに執着しないから」と考えられているようです。
◇私は、もっと単純に、今までの話でも出てきたように、「回転」を成立 (肯定) させるためには、その
「中心」「軸」に意識の光(つまり「明」)が当たっている状態に至らなければ「得(ツボを得た)」とは
言えなかったことを踏まえて、その「不動点」の上に立てたなら、「ゆったりと休んでいられる」状態
になるという、きわめて物理科学的な理にかなったことを視覚的に示唆しているのだと思っています。
◇「朝莫」「喜怒」というのは、「回転する周辺のこと」であり、「その出所、理由がどこにあるかを知っ
ていること」が「中心(軸)」に当たると思うのです。
◇自然の巡行にまかせてみると、あたかも回転板の周辺部に乗っていたかのように、是と非の対極を
巡り、再び「同じ」所に戻ってくるという軌道を知ることによって、得ることができる「中心軸（不動点）」。
つまりは、「動（猿たち）」を司る「静（猿飼いのベテラン）」のように、「聖人はゆったりと休んでいる」
と言っているのだと思います。
●通説では、次のようになっています。
そこで、聖人は善し悪しの分別知を調和させて、
自然の平衡(バランス)〔つまり万物斉同の道理〕に休息する。
〇新解釈では、次のようになります。
こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、
天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。
☆聖人の域は、ある意味、特別な存在を示すものではないようです。
【是以聖人和之以是非】【是を以って、聖人これを和するに、是非を以ってしても、】
〔こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、〕
──「聖人」・・・それは「俗人」とどこが違うのでしょうか？
「聖人」・・・それは超越した者として、無感情のように冷静沈着な者なのでしょうか？
いやいや、私はそうは思いません。
「聖人」も「俗人」も、それぞれの＜わたし＞の中に、
「喜怒」を表わす、同様の「衆狙（猿たち）」を有しているのではないかと思っています。
けれども、何が違うのか・・・
それは、実は（「意識」という）「猿飼いのベテラン」がいるか、いないかの差ではないでしょうか。
「衆狙」ばかりでもなく、「狙頭（ボス猿）」でもない、「狙公（猿飼いのベテラン）」がいるかいないか、そこが「聖人」と「俗人」との差ができる大きな分岐点になってくるのではないかと私は思っています。
「聖人」の内には、「猿たち」の特徴を熟知し、また、それとのかけ引きしながら、その能力を最大限に生かすという、まさに、その術に長けた「猿飼いのベテラン」の存在がいるというふうに類推できます。「自分」の中の「猿たち」もうまく操れるが故に、同じような性質をもっている他人の「猿たち」の「喜怒哀楽」をも、うまく「使いこなす」ことができるのではないでしょうか。そんな「猿飼いのベテラン」を内にもつ「聖人」は、「猿たち」の否定（怒り）や肯定(悦び)といった是非の動向にも振り回されることなくうまく用いながら和していくことができるということなのでしょう。
【而休乎天鈞】【天鈞(てんきん)に休（きゅう）す。】
〔天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。〕
──そうして、「天の鈞（ろくろ）」…「天から与えられている平均のとれた回転盤」で休んでいるというのは、回転する周辺の「体験（動）」と、それを見守り続ける「観察眼（静）」を有するものかもしれません。
「暫定的な肯定のまま」にして、そこで「用を為す」ものを、「手綱(トチの実)」によってつなぎとめながら、全体を「貫き通す」そんな眼をもっていること…そこにこそ、生まれるのが「明かり」なのでしょう。それ故、聖人は、「見えるところ」と「見えないところ」に、「是」と「非」をどう配置しようと、＜一＞なるものとして、そのバランスを見計らうことができるのです。「喜怒」が「用を為す」のを、うまく扱いながら、来ては去っていく「回転」に身をまかせつつも、それに動じることなく、軽やかに、安らいでいるのかもしれませんね。
そこで、聖人は善し悪しの分別知を調和させて、
自然の平衡(バランス)〔つまり万物斉同の道理〕に休息する。
〇新解釈では、次のようになります。
こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、
天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。
☆聖人の域は、ある意味、特別な存在を示すものではないようです。
【是以聖人和之以是非】【是を以って、聖人これを和するに、是非を以ってしても、】
〔こういったことによって、聖人は是非（の動向）を用いながらも和してゆき、〕
──「聖人」・・・それは「俗人」とどこが違うのでしょうか？
「聖人」・・・それは超越した者として、無感情のように冷静沈着な者なのでしょうか？
いやいや、私はそうは思いません。
「聖人」も「俗人」も、それぞれの＜わたし＞の中に、
「喜怒」を表わす、同様の「衆狙（猿たち）」を有しているのではないかと思っています。
けれども、何が違うのか・・・
それは、実は（「意識」という）「猿飼いのベテラン」がいるか、いないかの差ではないでしょうか。
「衆狙」ばかりでもなく、「狙頭（ボス猿）」でもない、「狙公（猿飼いのベテラン）」がいるかいないか、そこが「聖人」と「俗人」との差ができる大きな分岐点になってくるのではないかと私は思っています。
「聖人」の内には、「猿たち」の特徴を熟知し、また、それとのかけ引きしながら、その能力を最大限に生かすという、まさに、その術に長けた「猿飼いのベテラン」の存在がいるというふうに類推できます。「自分」の中の「猿たち」もうまく操れるが故に、同じような性質をもっている他人の「猿たち」の「喜怒哀楽」をも、うまく「使いこなす」ことができるのではないでしょうか。そんな「猿飼いのベテラン」を内にもつ「聖人」は、「猿たち」の否定（怒り）や肯定(悦び)といった是非の動向にも振り回されることなくうまく用いながら和していくことができるということなのでしょう。
【而休乎天鈞】【天鈞(てんきん)に休（きゅう）す。】
〔天の鈞(ろくろ)（平均のとれた回転盤）に（のって）ゆったり休んでいるのだ。〕
──そうして、「天の鈞（ろくろ）」…「天から与えられている平均のとれた回転盤」で休んでいるというのは、回転する周辺の「体験（動）」と、それを見守り続ける「観察眼（静）」を有するものかもしれません。
「暫定的な肯定のまま」にして、そこで「用を為す」ものを、「手綱(トチの実)」によってつなぎとめながら、全体を「貫き通す」そんな眼をもっていること…そこにこそ、生まれるのが「明かり」なのでしょう。それ故、聖人は、「見えるところ」と「見えないところ」に、「是」と「非」をどう配置しようと、＜一＞なるものとして、そのバランスを見計らうことができるのです。「喜怒」が「用を為す」のを、うまく扱いながら、来ては去っていく「回転」に身をまかせつつも、それに動じることなく、軽やかに、安らいでいるのかもしれませんね。
┏━━━━━━━┓
┃▼ 是之謂両行 ┃【是を両行(りょうこう)と謂う。】
┗━━━━━━━┛
これを両行（周辺の動くみちと中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
………………………………………………………………………………………………………………
＊【両】は、左右両方が対をなして平均したはかりを描いた象形文字。
＊【行】は、十字路を描いた象形文字。
◆【是之謂両行】の【両行】は、通説では「すなわち対立したもののいずれもがスムーズに流れる立場」
とか「いっさいの矛盾と対立が、矛盾のままに肯定され、対立するままに依存する無限に自由な境地」
などと解釈されています。
◇【両】も【行】も象形文字だということからして、ここでも、視覚的アプローチの説明をしていると
見ることができるように思います。【両】が釣り合っている天秤だとするならば、どこかに支点があって、
両方の重さのバランスがとれているということになります。
【行】の、交差するその「中心」「重心（支点）」となる「静のみち」を維持していくならば、周辺が、どのよ
うな回転運動をする「動のみち」だとしても両立する、全体として揺るぎがない均衡を保てる状態になる
…というようなイメージが浮かび上がってきます。
◇回転盤の周辺(結果の世界)で対極のものに徐々に変化し続けるみちと同時に、中心軸(原因の世界)
の不動のみちの「両方に意識の光を当てる境地」のことを【両行】と言う…と受け取れそうです。
┃▼ 是之謂両行 ┃【是を両行(りょうこう)と謂う。】
┗━━━━━━━┛
これを両行（周辺の動くみちと中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
………………………………………………………………………………………………………………
＊【両】は、左右両方が対をなして平均したはかりを描いた象形文字。
＊【行】は、十字路を描いた象形文字。
◆【是之謂両行】の【両行】は、通説では「すなわち対立したもののいずれもがスムーズに流れる立場」
とか「いっさいの矛盾と対立が、矛盾のままに肯定され、対立するままに依存する無限に自由な境地」
などと解釈されています。
◇【両】も【行】も象形文字だということからして、ここでも、視覚的アプローチの説明をしていると
見ることができるように思います。【両】が釣り合っている天秤だとするならば、どこかに支点があって、
両方の重さのバランスがとれているということになります。
【行】の、交差するその「中心」「重心（支点）」となる「静のみち」を維持していくならば、周辺が、どのよ
うな回転運動をする「動のみち」だとしても両立する、全体として揺るぎがない均衡を保てる状態になる
…というようなイメージが浮かび上がってきます。
◇回転盤の周辺(結果の世界)で対極のものに徐々に変化し続けるみちと同時に、中心軸(原因の世界)
の不動のみちの「両方に意識の光を当てる境地」のことを【両行】と言う…と受け取れそうです。
●通説では、次のようになっています。
そうした境地を両行（──すなわち対立したもののいずれもがスムーズに流れる立場）というのだ。
〇新解釈では、次のようになります。
これを両行（周辺の動くみちと中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
☆わざわざ名付けるのには、それなりの意味があるからだと思います。
【是之謂両行】【是を両行(りょうこう)と謂う。】
これを両行（周辺の動くみちと中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
──【両】という秤を用いて両方のバランスをとるようにできるのは、上皿天秤のような場合、片方の物体と同じ重さの分銅をもう一方に乗せることや、天秤棒のような場合は、端から支点までの距離を変えることによってできます。
バランスをとるという話になると、ちょっとおもしろい実験を思い出します。
一枚の葉書か名刺を、机の上で垂直に立てて持ちながら、
その上にバランスよく、別のカードをうまく乗せることができるかどうかという実験です。
微調整しながら、上のカードをたとえば対角線上になるようにしながら乗せてみてもうまくいきません。
そこで、下の葉書か名刺をまっすぐではなく、まるめるようにして持てば、簡単にカードが乗ります。
そこから、静かに下の葉書か名刺をもとのまっすぐの状態に徐々に戻していけば、なんと不思議なことに上のカードはバランスを保って乗せられるようになるのです。
にわかには信じられない人は、実際に試してみてください。
これは、どうしてなのか説明すれば、次のような理由からなのです。
摩擦と重力の関係において、運動中は自然とそのバランスを保とうとすることを利用したからなのです。
葉書をもとの状態に動かそうとすると、そのバランスを保つための支える位置（範囲）が変わってきます。
その時、上の物の重い方の摩擦が少し大きくなり、軽い方の摩擦は少し小さくなります。そうなると、まず摩擦の小さい方が滑りはじめ、そのうちもう一方より大きくならない時点で止まることになるのです。
この微妙なかけ引きで、接触箇所の常に摩擦が小さくなった所が滑り出す…といったことを繰り返すことになります。この絶妙なバランス調整によって重心が保たれるというわけです。そうして、葉書が一直線になっても、自然と上の物の重心がその上に移されていることになるというのが、その理由です。
運動することが、バランスをとって静止することに一役買うというのが、とてもおもしろいところです。
また、人間の下手な作為より、自然（の運動）に任せる方がうまくいくことがあるのですね。
運動中は自然とそのバランスを保とうとするといえば、皿回しやコマ回しを思い出すかもしれません。
周辺の「動」によって得られる重心が定まるという「静」が浮き彫りになるいい例えです。
こんな風に、自然の理に叶った「動」と「静」の関係は、物理世界のことだけではなく、実は心や感情といった精神的なことに通じるものだと類推できるように思います。
「猿たち」の騒ぎという「動」があって、はじめて「狙飼いのベテラン」の「静」が浮き彫りになります。
まさにこういったことを「両行」だと名付けてもいいのではないかと思います。
そうした境地を両行（──すなわち対立したもののいずれもがスムーズに流れる立場）というのだ。
〇新解釈では、次のようになります。
これを両行（周辺の動くみちと中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
☆わざわざ名付けるのには、それなりの意味があるからだと思います。
【是之謂両行】【是を両行(りょうこう)と謂う。】
これを両行（周辺の動くみちと中心の休止したみちの両立する境地）と言う。
──【両】という秤を用いて両方のバランスをとるようにできるのは、上皿天秤のような場合、片方の物体と同じ重さの分銅をもう一方に乗せることや、天秤棒のような場合は、端から支点までの距離を変えることによってできます。
バランスをとるという話になると、ちょっとおもしろい実験を思い出します。
一枚の葉書か名刺を、机の上で垂直に立てて持ちながら、
その上にバランスよく、別のカードをうまく乗せることができるかどうかという実験です。
微調整しながら、上のカードをたとえば対角線上になるようにしながら乗せてみてもうまくいきません。
そこで、下の葉書か名刺をまっすぐではなく、まるめるようにして持てば、簡単にカードが乗ります。
そこから、静かに下の葉書か名刺をもとのまっすぐの状態に徐々に戻していけば、なんと不思議なことに上のカードはバランスを保って乗せられるようになるのです。
にわかには信じられない人は、実際に試してみてください。
これは、どうしてなのか説明すれば、次のような理由からなのです。
摩擦と重力の関係において、運動中は自然とそのバランスを保とうとすることを利用したからなのです。
葉書をもとの状態に動かそうとすると、そのバランスを保つための支える位置（範囲）が変わってきます。
その時、上の物の重い方の摩擦が少し大きくなり、軽い方の摩擦は少し小さくなります。そうなると、まず摩擦の小さい方が滑りはじめ、そのうちもう一方より大きくならない時点で止まることになるのです。
この微妙なかけ引きで、接触箇所の常に摩擦が小さくなった所が滑り出す…といったことを繰り返すことになります。この絶妙なバランス調整によって重心が保たれるというわけです。そうして、葉書が一直線になっても、自然と上の物の重心がその上に移されていることになるというのが、その理由です。
運動することが、バランスをとって静止することに一役買うというのが、とてもおもしろいところです。
また、人間の下手な作為より、自然（の運動）に任せる方がうまくいくことがあるのですね。
運動中は自然とそのバランスを保とうとするといえば、皿回しやコマ回しを思い出すかもしれません。
周辺の「動」によって得られる重心が定まるという「静」が浮き彫りになるいい例えです。
こんな風に、自然の理に叶った「動」と「静」の関係は、物理世界のことだけではなく、実は心や感情といった精神的なことに通じるものだと類推できるように思います。
「猿たち」の騒ぎという「動」があって、はじめて「狙飼いのベテラン」の「静」が浮き彫りになります。
まさにこういったことを「両行」だと名付けてもいいのではないかと思います。
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