荘子コミュの19、河伯と北海若（2）北海若

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━秋水篇━━━━━━━━━
19、河伯と北海若（2）北海若　　　　　　　　　　　　　　　　
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北海若曰　　　　　　　　　北海若曰く、
井鼃不可以語於海者　　　　井の鼃(かえる)は以て海を語るべからずとは、
拘於虚也　　　　　　　　　虚に拘(とら)われるばなり。
夏蟲不可以語於冰者　　　　夏の虫は以て冰(こおり)を語るべからずとは、
篤於時也　　　　　　　　　時に篤(あつ)ければなり。
曲士不可以語於道者　　　　曲士は以て道を語るべからずとは、
束於教也　　　　　　　　　教えに束(しば)らるればなり。
今爾出於崖涘　観於大海　　今、爾(なんじ) 崖涘(がいし)より出でて大海を観、
乃知爾醜　　　　　　　　　乃(すなわ)ち爾の醜を知る。
爾将可與語大理矣　　　　　爾、将に与(とも)に大理を語るべきとす。
天下之水　莫大於海　　　　天下の水は、海より大なるは莫(な)し。
萬川帰之　　　　　　　　　万川これに帰(き)し、
不知何時止　而不盈　　　　何(いず)れの時に止まるかを知らざるも、而も盈(み)たず。
尾閭泄之　　　　　　　　　尾閭(びりょ)はこれを泄(もら)し、
不知何時已　　　　　　　　何(いず)れの時に已(や)むかを知らざるも、
而不虚　　　　　　　　　　而も虚(むな)しからず。
春秋不変　水旱不知　　　　春秋にも変わらず、水旱(すいかん)をも知らず。
此其過江河之流　　　　　　此れ其の江河の流れを過ぐること、
不可為量数　　　　　　　　量数を為すべからず。
而吾未嘗以此自多者　　　　而るに吾未だ嘗て此れを以て自らを多とせざる者だ。
自以比形於天地　　　　　　自ら形を天地に於いて比(くら)べるを以てす。
而受氣於陰陽　　　　　　　而るに気を陰陽より受くるなり。
吾在於天地之間　　　　　　吾の天地の間に於いて在るは、
猶小石小木之在大山也　　　猶(な)お小石小木の大山に在るがごときなり。
方存乎見少　　　　　　　　方(まさ)に少を見るに存す、
又奚以自多　　　　　　　　又、奚(なに)を以て自らを多とせん。
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▽（金谷治　訳）
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北海若は言った、「井戸の中にいる魚に海のことを話してもむだなのは、その魚がせまい自分の住みかにとらわれるいるからだ。夏の虫に氷のことを話してもむだなのは、その虫が暑い季節だけにしばられているからだ。見識のせまい一芸だけの男に道のことを話しても通じないのは、その男が自分のうけた教育に拘束されているからだ。ところで、今お前はせまい岸べのあいだから出てきて大海原を眺め、はじめて自分のつまらなさをさとったのだ。お前はどうやらどうやらすぐれた真理についてともに語れそうだね。
世界じゅうの水では、海より大きいものはない。何万という川がそこに流れこんでいつ果てるとも知れないのに、水の満ちあふれることがない。海底の大穴が水を排出していつやむとも知れないのに、干(ひ)あがって空(から)っぽになることはない。春や秋の季節によって変わることもなければ、また洪水や旱魃(かんばつ)にも関係ないのだ。してみると、それは、揚子江や黄河の流れなどとはとても比べものにならないほど、ずっと大きなものなのだ。しかし、わしはそうだからといってその大きさで得意になったことはない。それは、このわが身も天地の中に身を寄せるものであり、自然の陰気と陽気を受けてできているということを、自覚しているからだ。わしがこの広大な天地の間に存在するのは、ちょうど小さい石や小さい木が大きな山の中にあるようなものだ。まったく自分のつまらなさが目につくばかり、またどうして自分で得意になどなれようか。
…………………………………………………………………………………………………………

▽（吹黄　訳）
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北海若は言った。「井戸の中のカエルに海のことを語ってもむだなのは、
からっぽの狭いわくの中にとらわれているからだ。
夏の虫に氷のことを語ってもむだなのは、
もっぱら(暑い)ひと時にだけにゆきとどいているにすぎないからだ。
心が狭くひねくれた人に道のことを語ってもむだなのは、
(自分が受けた)教えだけにしばられているからだ。
今、お前は崖のようになった水ぎわから出てきて、大海を観て、
そこでやっとお前の＜醜(みっともなさ)＞を知ることができたのだ。
(それを自覚した)お前とは、これから大いなる理について語り合うことができそうだ。
天下の水では、海より大きいものはない。
何万もの川がここに帰ってきて、いつ止まるとも知れないのに、
しかし、満ちあふれることはない。
海の終焉となる門からこれを(気化して)外に出して、いつやむともしれないのに、
しかし、からっぽになることはない。
春や秋によって変わることもなければ、洪水や旱魃(かんばつ)も知らない。
してみると、それは揚子江や黄河の流れをはるかにしのぐことといったら、
量や数ではとても表せないほど(その存在感は桁外れ)なのだ。
しかし、私は未だかつてその大きさでもって自らを＜多＞とはしたことはない者だ。
自らその形を天地として比べているからだ。
そして気(の変動)は陰陽(の影響)を受けているものなのだ。
私が天地の間に存在するのは、
まるで小さい石や小さい木が大きな山の中に在るようなものなのだ。
まさに＜少＞を見ることはあるが、
又どうして自らもって＜多＞となれようか。
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コメント(11)

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[1] mixiユーザー 08月25日 00:16

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┃▼　北海若曰　　　　　　┃【北海若曰く、】
┃　　井鼃不可以語於海者　┃【井の鼃(かえる)は以て海を語るべからずとは、】
┃　　拘於虚也　　　　　　┃【虚に拘(とら)わるればなり。】
┗━━━━━━━━━━━━┛
北海若は言った。「井戸の中のカエルに海のことを語ってもむだなのは、
からっぽの狭いわくの中にとらわれているからだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【鼃】は、「黽(かえる)＋圭(音符)」で、「かえる・あまがえる」のこと。

◆【鼃】のところは、底本以外では「蛙」「魚」になっているものもあります。
　通説では、【北海若曰く、井の魚は以て海を語るべからずとは、】は「北海若は言った、
　「井戸の中にいる魚に海のことを話してもむだなのは、」としています。

◇大意には影響しないものとして、【鼃】は、「カエル」のままにしました。
　【北海若曰く、井の鼃(かえる)は以て海を語るべからずとは、】は「北海若は言った。
　「井戸の中のカエルに海のことを語ってもむだなのは、」としました。

＊【拘】の句は「かぎ型＋勹（つつむ）」からなり、狭いかぎ型のわくに包まれる
　こと。「拘」は「手＋句」で、狭いわくの中に押しこめること。

◆「虚」を「墟(あと)」と通用させ、「せまい自分のすみか」と訳しています。
　【虚に拘(とら)わるればなり。】は「その魚がせまい自分の住みかにとらわれるいるか
　らだ。」としています。

◇【虚に拘(とら)わるればなり。】は「からっぽの狭いわくの中にとらわれているから
　だ。」としました。

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┃▼　夏蟲不可以語於冰者　┃【夏の虫は以て冰(こおり)を語るべからずとは、】
┃　　篤於時也　　　　　　┃【時に篤(あつ)ければなり。】
┗━━━━━━━━━━━━┛
夏の虫に氷のことを語ってもむだなのは、
もっぱら(暑い)ひと時にだけにゆきとどいているにすぎないからだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【冰】は、もと、こおりのわれめを描いた象形文字。それが冫(二すい)の形となった。
　冰は「水＋冫」。氷は、その略字。

＊【篤】の竹は、周囲を欠けめなくとりまいたたけ。「篤」は「馬＋竹」。全身に欠けめ
　のない馬のことをいい、「ゆきとどいた」意となります。「かけめなくゆきわたってい
　る」。「人情がゆきとどいて手あつい」。「きまじめ」。また、「一つの事がらにうち
　こむさま」。「もっぱら」。

◆「篤」を「固」の意味として、「しばられている」と意訳しています。
　【夏の虫は以て冰(こおり)を語るべからずとは、時に篤(あつ)(固)ければなり。】は
　「夏の虫に氷のことを話してもむだなのは、その虫が暑い季節だけにしばられているか
　らだ。」としています。

◇【夏の虫は以て冰(こおり)を語るべからずとは、時に篤(あつ)ければなり。】は「夏の
　虫に氷のことを語ってもむだなのは、もっぱら(暑い)ひと時にだけにゆきとどいている
　にすぎないからだ。」としました。

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┃▼　曲士不可以語於道者　┃【曲士は以て道を語るべからずとは、】
┃　　束於教也　　　　　　┃【教えに束(しば)らるればなり。】
┗━━━━━━━━━━━━┛
心が狭くひねくれた人に道のことを語ってもむだなのは、
(自分が受けた)教えにだけにしばられているからだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【曲】は、まがったものさしを描いたもので、「まがって入り組んだ」意を含みます。
　「心がせまくまがったことをする」。「ひねくれた」。
＊【曲士】は、「片田舎の人」。「心がせまくまがったことをする人」。

＊【束】は、「木＋　印（たばねるひも）」で、たき木を集めて、そのまん中にひもをま
　るく回してたばねることを示します。ちぢめてしめること。

◆通説では、【曲士】は天下篇にみえる「一曲之士」の略とみて、「一芸にすぐれている
　だけの者」と訳しています。
　【曲士は以て道を語るべからずとは、教えに束(しば)(縛)らるればなり。】は「見識の
　せまい一芸だけの男に道のことを話しても通じないのは、その男が自分のうけた教育に
　拘束されているからだ。」としています。

◇【曲士は以て道を語るべからずとは、教えに束(しば)らるればなり。】は「心が狭くひ
　ねくれた人に道のことを語ってもむだなのは、(自分が受けた)教えだけにしばられてい
　るからだ。」としました。

[2] mixiユーザー 09月01日 00:10

●通説では、次のようになっています。

北海若は言った、「井戸の中にいる魚に海のことを話してもむだなのは、その魚がせまい自分の住みかにとらわれるいるからだ。夏の虫に氷のことを話してもむだなのは、その虫が暑い季節だけにしばられているからだ。見識のせまい一芸だけの男に道のことを話しても通じないのは、その男が自分のうけた教育に拘束されているからだ。

〇新解釈では、次のようになります。

北海若は言った。「井戸の中のカエルに海のことを語ってもむだなのは、
からっぽの狭いわくの中にとらわれているからだ。
夏の虫に氷のことを語ってもむだなのは、
もっぱら(暑い)ひと時にだけにゆきとどいているにすぎないからだ。
心が狭くひねくれた人に道のことを語ってもむだなのは、
(自分が受けた)教えだけにしばられているからだ。

【北海若曰】【北海若曰く、】
【井鼃不可以語於海者】【井の鼃(かえる)は以て海を語るべからずとは、】
【拘於虚也】【虚に拘(とら)わるればなり。】
〔北海若は言った。「井戸の中のカエルに海のことを語ってもむだなのは、〕
〔からっぽの狭いわくの中にとらわれているからだ。〕

──「井の中の蛙大海を知らず」ということわざは、ここから生まれたものです。
河伯は、広い世界があることを知らずに、得意になっていたわけで、今までは、水の空間のなかで自分が一番大きいもの(偉大)だと思っていたのです。ところが北海という、桁外れの大きさ(広さ)のものに出会い、自分が「井の中の蛙」だったのを自覚したことを、北海若が客観的な立場で代弁しているようです。

【夏蟲不可以語於冰者】【夏の虫は以て冰(こおり)を語るべからずとは、】
【篤於時也】【時に篤(あつ)ければなり。】
〔夏の虫に氷のことを語ってもむだなのは、〕
〔もっぱら(暑い)ひと時にだけにゆきとどいているにすぎないからだ。〕

──また別の視点からも、追い打ちをかけるかのような例えを出しています。空間的な見識の狭さだけではなく、時間的にも同様のことが言えると言ってます。

夏の虫は、その暑いひと時のことに関しては、充分に知っているかもしれません。けれども、一年の四季のことは知らないのです。それで事足りるからです。ですから、「氷」のことを話したとしても、何の意味もなさないということです。

【曲士不可以語於道者】【曲士は以て道を語るべからずとは、】
【束於教也】【教えに束(しば)らるればなり。】
〔心が狭くひねくれた人に道のことを語ってもむだなのは、〕
〔(自分が受けた)教えにだけにしばられているからだ。〕

──また、人についても同じことが言えるというのです。「心が狭くひねくれた人」というのは「自然のあるがまま」の状態を作為によって「ねじ曲げている人」、つまり、ほとんどすべての人のことを指し示しているのではないでしょうか。

「教え」「教育」によって、いろいろな知識や礼節を身につけます。それによって、教えられた概念や行動がすべて(絶対)だと思い、そうした凝り固まったマインドをもつ普通の人には、道を語ってもむだだ…と言っているようです。

[3] mixiユーザー 09月08日 00:53

┏━━━━━━━━━━━━━━┓
┃▼　今爾出於崖涘　観於大海　┃【今、爾(なんじ) 崖涘(がいし)より出でて大海を観、】
┃　　乃知爾醜　　　　　　　　┃【乃(すなわ)ち爾の醜を知る。】
┗━━━━━━━━━━━━━━┛
今、お前は崖のようになった水ぎわから出てきて、大海を観て、
そこでやっとお前の＜醜(みっともなさ)＞を知ることができたのだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【崖】の厂は切りたった姿、それに土印二つを添えた厓、土の層が切りたって厂型をな
　したがけ。【崖】は「山＋厓」で厓の意味をさらに明白にするために山印を添えた字。

＊【涘】は、「水＋矣(とまる)」で「流れの止まる水ぎわ」。

＊【乃】は、「すなわち」。ずばりと割り切らず、間をおいてつなげる気持ちをあらわす
　ことば。「そこでやっと」。「やむなく」。

＊【醜】は、「鬼(みっともない亡)＋酉(＝酋。ぐっとちぢまる)」。「みにくい」。「は
　じる・はずかしさ」。

◆通説では、【今、爾(なんじ)は崖涘(がいし)より出でて大海を観、乃(すなわ)ち爾の醜
　(しゅう)を知る。〕は「ところで、今お前はせまい岸べのあいだから出てきて大海原を
　眺め、はじめて自分のつまらなさをさとったのだ。」としています。

◇【今、爾(なんじ) 崖涘(がいし)より出でて大海を観、乃(すなわ)ち爾の醜を知る。】は
　「今、お前は崖のようになった水ぎわから出てきて、大海を観て、そこでやっとお前の
　＜醜(みっともなさ)＞を知ることができたのだ。」としました。

┏━━━━━━━━━━━┓
┃▼　爾将可與語大理矣　┃【爾、将に与(とも)に大理を語るべきとす。】
┗━━━━━━━━━━━┛
(それを自覚した)お前とは、これから大いなる理について語り合うことができそうだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【将】は、まさに…せんとす。これから…しようとする。

◆通説では、【将】を「ほとんど」と読んで、「どうやら」の意としています。
　【爾、将(ほと／殆)んど与(とも)に大理を語るべきとす。】は、「お前はどうやらすぐ
　れた真理についてともに語れそうだね。」としています。

◇【将】は「(まさに)これから…できそうだ」と解釈しました。
　【爾、将(まさ)に与(とも)に大理を語るべきとす。】は「(それを自覚した)お前とは、
　これから大いなる理について語り合うことができそうだ。」としました。

[4] mixiユーザー 09月15日 21:01

●通説では、次のようになっています。

ところで、今お前はせまい岸べのあいだから出てきて大海原を眺め、はじめて自分のつまらなさをさとったのだ。お前はどうやらどうやらすぐれた真理についてともに語れそうだね。

〇新解釈では、次のようになります。

今、お前は崖のようになった水ぎわから出てきて、大海を観て、
そこでやっとお前の＜醜(みっともなさ)＞を知ることができたのだ。
(それを自覚した)お前とは、これから大いなる理について語り合うことができそうだ。

【今爾出於崖涘　観於大海】【今、爾(なんじ) 崖涘(がいし)より出でて大海を観、】
【乃知爾醜】【乃(すなわ)ち爾の醜を知る。】
〔今、お前は崖のようになった水ぎわから出てきて、大海を観て、〕
〔そこでやっとお前の＜醜(みっともなさ)＞を知ることができたのだ。〕

──河伯の意識の目が、いつも「水ぎわ」にあったわけですが、その「水ぎわ」というのが、ひとつの限界線の中にとらわれていたことになります。

今回、初めてその「限界線」を超えて出てきて、「大海」に目をやったのです。そこでやっと、自分に酔っていたいたところから覚めたというわけです。＜美(すばらしさ)＞だと思って自画自賛していことが、実は＜醜(みっともなさ)＞だとやっと気付いたようだね、と北海若は言っているようです。

【爾将可與語大理矣】【爾、将に与(とも)に大理を語るべきとす。】
〔(それを自覚した)お前とは、これから大いなる理について語り合うことができそうだ。〕

──北海若は、河伯のそうした謙虚な反応を見て、これならば、「大いなる理」について話しあうことができる相手になるだろうと考えたようです。

「大いなる理」とは「道」に通じる話のことでしょう。

[5] mixiユーザー 09月22日 00:56

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃▼　天下之水　莫大於海　┃【天下の水は、海より大なるは莫(な)し。】
┃　　萬川帰之　　　　　　┃【万川これに帰(き)し、】
┃　　不知何時止　而不盈　┃【何れの時に止まるかを知らざるも、而も盈(み) たず。】
┗━━━━━━━━━━━━┛
天下の水では、海より大きいものはない。
何万もの川がここに帰ってきて、
いつ止まるとも知れないのに、しかし、満ちあふれることはない。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【盈】は、「皿＋いっぱいになってたれるさま」。

◆【萬川帰之】の【帰】をただ「流れこんで」としています。
　通説では、【天下の水は、海より大なるは莫(な)し。万川これに帰(き)し、何(いず)れの
　時に止まるかを知らざるも、而も盈(み) たず。】は、「世界じゅうの水では、海より大
　きいものはない。何万という川がそこに流れこんでいつ果てるとも知れないのに、水の
　満ちあふれることがない。」としています。

◇【萬川帰之】の【帰】という概念は重要です。海から出ていったものが「帰る」のです。
　【天下の水は、海より大なるは莫(な)し。万川これに帰(き)し、何れの時に止まるかを
　知らざるも、而も盈(み) たず。】は、「天下の水では、海より大きいものはない。何万
　もの川がここに帰ってきて、いつ止まるとも知れないのに、しかし、満ちあふれること
　はない。」としました。

┏━━━━━━━━┓
┃▼　尾閭泄之　　┃【尾閭(びりょ)はこれを泄(もら)し、】
┃　　不知何時已　┃【いずれの時に已(や)むかを知らざるも、】
┃　　而不虚　　　┃【而も虚(むな)しからず。】
┗━━━━━━━━┛
海の終焉となる門からこれを少しずつ外に出して、
いつやむともしれないのに、しかし、からっぽになることはない。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【尾】は、「尸(しり)＋毛」で、「しりにはえた毛」。「細く微妙な」意を含みます。

＊【閭】は、「門＋呂（連なる、一連に集まる）」。一群に連なった集落の門のこと。

＊【尾閭】は、大海の底にあって、絶えず水がもれ出て、すべての水の出口となるといわ
　れる所。

＊【泄】は、「水＋世(長くのびる)」で、「水が長く尾を引いてもれ出ること」。「たま
　った水、気体や思いなどを外に少しずつ出す」。

◆通説では、【尾閭(びりょ)はこれを泄(もら)し、何れの時に已(や)むかを知らざるも、
　而も虚(むな)しからず。】は「海底の大穴が水を排出していつやむとも知れないのに、
　干(ひ)あがって空(から)っぽになることはない。」としています。

◇【尾閭】がどんなものであるかという定説は、誰か最初に翻訳した人の描いたイメージ
　が定着したものだと思っています (荘子が初めて使ったものだと思われます) 。【尾】
　ということで、海の「最後の端」、しかも「極めて細く微妙な所」を示し、入口が「門
　」であったように、出口も「門」としたのだと思います。その「門」は、入口ははっき
　りとわかりますが、出口は場所が特定できるようなものではなく、「呂」に「連なる」
　という意味があるように、ある一定の連なる広範囲の場所を示しているのではないかと
　推察します。また【泄】もただ「排出する」という意味に終わらず「たまった水、気体
　などを外に少しずつ出す」という意味があるところがミソなのではないかと思っていま
　す。つまり気化(蒸発)することを想定しているのではないかと推察します。
　【尾閭(びりょ)はこれを泄(もら)し、何れの時に已(や)むかを知らざるも、而も虚(む
　な)しからず。】は「海の終焉となる門からこれを (気化して)外に出して、いつやむと
　もしれないのに、しかし、からっぽになることはない。」としました。

[6] mixiユーザー 09月29日 01:02

●通説では、次のようになっています。

世界じゅうの水では、海より大きいものはない。何万という川がそこに流れこんでいつ果てるとも知れないのに、水の満ちあふれることがない。海底の大穴が水を排出していつやむとも知れないのに、干(ひ)あがって空(から)っぽになることはない。

〇新解釈では、次のようになります。

天下の水では、海より大きいものはない。
何万もの川がここに帰ってきて、いつ止まるとも知れないのに、
しかし、満ちあふれることはない。
海の終焉となる門からこれを (気化して)外に出して、いつやむともしれないのに、
しかし、からっぽになることはない。

【天下之水　莫大於海】【天下の水は、海より大なるは莫(な)し。】
【萬川帰之】【万川これに帰(き)し、】
【不知何時止　而不盈】【何れの時に止まるかを知らざるも、而も盈(み) たず。】
〔天下の水では、海より大きいものはない。〕
〔何万もの川がここに帰ってきて、〕
〔いつ止まるとも知れないのに、しかし、満ちあふれることはない。〕

──同じ「水の化身」でも、河伯と北海若とは大きさの比較に於いては、圧倒的に北海若に軍配が上がります。

けれども、河(川)と海とでは、大きさだけでなく、その様子も違っているのです。河(川)は、季節や天候に左右されて、旱魃になったり洪水になったりすることもあって、その流れる量が安定せず違っています。

一方、海の方は、何万という川の流れが「帰ってきて」海にそそぎ込んでも、その量を変えて、満ち溢れたことはないのです。いつも一定量を保っているのです。

「帰ってきて」という表現から、元は海だったものが外に出て川となり、また元の海に帰ってくるというサイクルがあると認識しているのがうかがえます。

【尾閭泄之】【尾閭(びりょ)はこれを泄(もら)し、】
【不知何時已】【いずれの時に已(や)むかを知らざるも、】
【而不虚】【而も虚(むな)しからず。】
〔海の終焉となる門からこれを少しずつ(気化して)外に出して、〕
〔いつやむともしれないのに、しかし、からっぽになることはない。〕

──定説になっている「尾閭(びりょ)」というのは、「海底の穴から水が漏れ出ている所」だといったい誰が考えたのでしょうか。これは字源からして根拠のないことです。

前の文の中で、「川が海に注ぐこと」を、「帰ってきている」と表現していました。ここにもヒントがあるように、海の水は気化(蒸発)した後、雲となり雨を降らせ、川になっているという概念はあったのではないでしょうか。

「気化(蒸発)」という目には見えない形は、それをストレートには表現できなかったのでしょう。その代わりに「海の終焉となる一連の門」があると言ったのではないでしょうか。つまり、「海」がもう「海」とは呼べなくなる境界線のことです。その「門」は、入口の「門」のように見える個所にあるのではなく、もっと、連なった個所、つまり海面の一定領域を表わすかのように、「閭」(呂は連なる意)という字を用いたのではないかと推察するところです。

「門」からどんどん入ってきているのに、満ち溢れることなく、「(尾)閭」から徐々に出ていっているのに、からになることもないという、循環によって、海の水は一定の安定した量を保っていることになる…と言っているのではないでしょうか。

[7] mixiユーザー 10月04日 00:00

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃▼　春秋不変　水旱不知　┃【春秋にも変わらず、水旱(すいかん)をも知らず。】
┗━━━━━━━━━━━━┛
春や秋によって変わることもなければ、洪水や旱魃(かんばつ)も知らない。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【旱】は、「日＋干」。かわく。ひでり。天地がかわく。

◆通説では、【春秋にも変ぜず、水旱(すいかん)をも知らず。】は「春や秋の季節によっ
　て変わることもなければ、また洪水や旱魃(かんばつ)にも関係ないのだ。」としていま
　す。

◇【春秋にも変わらず、水旱(すいかん)をも知らず。】は、「春や秋によって変わること
　もなければ、洪水や旱魃(かんばつ)も知らない。」としました。

┏━━━━━━━━━━┓
┃▼　此其過江河之流　┃【此れ其の江河の流れを過ぐること、】
┃　　不可為量数　　　┃【量数を為すべからず。】
┗━━━━━━━━━━┛
してみると、それは揚子江や黄河の流れをはるかにしのぐことといったら、
量や数ではとても表せないほど(その存在感は桁外れ)なのだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【江】は、中国大陸を東西に貫いて流れる揚子江のこと。

◆通説では、【此れ其の江河の流れを過ぐること、量数を為すべからず。】は「してみる
　と、それは、揚子江や黄河の流れなどとはとても比べものにならないほど、ずっと大き
　なものなのだ。」としています。

◇【此れ其の江河の流れを過ぐること、量数を為すべからず。】は「してみると、それは
　揚子江や黄河の流れをはるかにしのぐことといったら、量や数ではとても表せないほど
　(その存在感は桁外れ)なのだ。」としました。

[9] mixiユーザー 10月06日 00:14

●通説では、次のようになっています。

春や秋の季節によって変わることもなければ、また洪水や旱魃(かんばつ)にも関係ないのだ。してみると、それは、揚子江や黄河の流れなどとはとても比べものにならないほど、ずっと大きなものなのだ。

〇新解釈では、次のようになります。

春や秋によって変わることもなければ、洪水や旱魃(かんばつ)も知らない。
してみると、それは揚子江や黄河の流れをはるかにしのぐことといったら、
量や数ではとても表せないほど(その存在感は桁外れ)なのだ。

【春秋不変　水旱不知】【春秋にも変わらず、水旱(すいかん)をも知らず。】
〔春や秋によって変わることもなければ、洪水や旱魃(かんばつ)も知らない。〕

──河伯のように「秋」になって、特に威勢がよくなるというようなことはありません。
春や秋のみならず、四季を通しても常に変わることはないのです。そして、その安定感はまったく違って、川にはよくあるような、洪水や旱魃もありえないことだ…と言っています。

【此其過江河之流】【此れ其の江河の流れを過ぐること、】
【不可為量数】【量数を為すべからず。】
〔してみると、それは揚子江や黄河の流れをはるかにしのぐことといったら、〕
〔量や数ではとても表せないほど(その存在感は桁外れ)なのだ。〕

──この存在感の違いは、黄河ばかりではありません。揚子江にしても同じだと言っています。海の存在感は「量や数」で表現できる「大きさ」に留まらず、その安定感においても圧倒的に違う存在だ…と言っているようです。

[10] mixiユーザー 10月11日 00:31

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃▼　而吾未嘗以此自多者　┃【而るに吾未だ嘗て此れを以て自らを多とせざる者だ。】
┃　　自以比形於天地　　　┃【自ら形を天地に於いて比(くら)べるを以てす。】
┃　　而受氣於陰陽　　　　┃【而るに気を陰陽より受くるなり。】
┗━━━━━━━━━━━━┛
しかし、私は未だかつてその大きさでもって自らを＜多＞とはしたことはない者だ。
自からその形を天地と比べていているからだ。
そして気(の変動)は陰陽(の影響)を受けているものなのだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【比】は、人が二人くっついてならんだことを示すものです。「くらべる」。「ならぶ
　・ならべる」。「したしむ」。

＊【多】は、夕、または肉を重ねて、「たっぷりと存在すること」を示します。

◆通説では、【比】を「庇」と通用させて、「身を寄せる」意としています。
　【而るに吾れ未だ嘗て此れを以て自らを多とせざるものは、自ら形を天地に於いて比
　(よ／庇)せて気を陰陽より受くるを以(おも)えばなり。】は、「しかし、わしはそうだ
　からといってその大きさで得意になったことはない。それは、このわが身も天地の中に
　身を寄せるものであり、自然の陰気と陽気を受けてできているということを、自覚して
　いるからだ。

◇しかし「庇」は「ひさし」「かばう」という意味で、納得がいきません。【比】は「比
　べる」という本来の意味をとりました。
　【而るに吾未だ嘗て此れを以て自らを多とせざる者は、自ら形を天地に於いて比(くら)
　べるを以てす。而るに気を陰陽より受くるなり。】は、「しかし、私は未だかつてその
　大きさでもって自らを＜多＞とはしたことはない者だ。自らその形を天地と比べている
　からだ。そして気(の変動)は陰陽(の影響)を受けているものなのだ。」としました。

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┃▼　吾在於天地之間　　　　┃【吾の天地の間に於いて在るは、】
┃　　猶小石小木之在大山也　┃【猶(な)お小石小木の大山に在るがごときなり。】
┃　　方存乎見少　　　　　　┃【方(まさ)に少を見るに存す、】
┃　　又奚以自多　　　　　　┃【又、奚(なに)を以て自らを多とせん。】
┗━━━━━━━━━━━━━┛
私が天地の間に存在するのは、
まるで小さい石や小さい木が大きな山の中に在るようなものなのだ。
まさに＜少＞を見ることはあるが、
又どうして自らもって＜多＞となれようか。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【猶】は、「なお…のごとし」と読んで、「まるで…のようだ」という意。

＊【奚】は、「爪（て）＋糸（ひも）＋大（ひと）」で、「なに、なぜ」を意味する疑問
　詞に当てます。副詞で、「なんぞ。どうして。」

◆通説では、【少】を「つまらなさ」、【多】を「得意になる」と訳しています。
　【吾れの天地の間に在(ある)は、猶(な)お小石小木の大山に在るがごときなり。方(ま
　さ)に少を見るに存す、又、奚(なに) を以て自らを多とせん。】は「わしがこの広大な
　天地の間に存在するのは、ちょうど小さい石や小さい木が大きな山の中にあるようなも
　のだ。まったく自分のつまらなさが目につくばかり、またどうして自分で得意になどな
　れようか。」としています。

◇新解釈では、【少】も【多】も、そのまま意が通るので、＜少＞、＜多＞としました。
　【吾の天地の間に於いて在るは、猶(な)お小石小木の大山に在るがごときなり。方(ま
　さ)に少を見るに存す、又、奚(なに)を以て自らを多とせん。】は「私が天地の間に存
　在するのは、まるで小さい石や小さい木が大きな山の中に在るようなものなのだ。ま
　さに＜少＞を見ることはあるが、又どうして自らもって＜多＞となれようか。」とし
　ました。

[11] mixiユーザー 10月16日 00:19

●通説では、次のようになっています。

しかし、わしはそうだからといってその大きさで得意になったことはない。それは、このわが身も天地の中に身を寄せるものであり、自然の陰気と陽気を受けてできているということを、自覚しているからだ。わしがこの広大な天地の間に存在するのは、ちょうど小さい石や小さい木が大きな山の中にあるようなものだ。まったく自分のつまらなさが目につくばかり、またどうして自分で得意になどなれようか。

〇新解釈では、次のようになります。

しかし、私は未だかつてその大きさでもって自らを＜多＞とはしたことはない者だ。
自らその形を天地と比べているからだ。
そして気(の変動)は陰陽(の影響)を受けているものなのだ。
私が天地の間に存在するのは、
まるで小さい石や小さい木が大きな山の中に在るようなものなのだ。
まさに＜少＞を見ることはあるが、
又どうして自らもって＜多＞となれようか。

【而吾未嘗以此自多者】【而るに吾未だ嘗て此れを以て自らを多とせざる者だ。】
【自以比形於天地】【自ら形を天地に於いて比(くら)べるを以てす。】
【而受氣於陰陽】【而るに気を陰陽より受くるなり。】
〔しかし、私は未だかつてその大きさでもって自らを＜多＞とはしたことはない者だ。〕
〔自らその形を天地と比べているからだ。〕
〔そして気(の変動)は陰陽(の影響)を受けているのだ。〕

──しかし、北海若自身は、そんな水量が安定しているという(大きさ)を問題にして、自分は＜多(たっぷりとした存在)＞などとは考えたことはないようです。なぜなら、その占める空間の形を河(川)とではなく、天地として比較していると言っているからです。

「気(の変動)は陰陽(の影響)を受けている」とはどういったことでしょうか。
天の法則、地の法則のもとで、水が気化(蒸発)するのは自然に陰陽の影響でそのバランスが保たれているために、川と海という違いが生じたとしても、同じ水の世界が天地を循環していることを、示唆しているのではないでしょうか。それに身を任せているというのでしょう。

【吾在於天地之間】【吾の天地の間に於いて在るは、】
【猶小石小木之在大山也】【猶(な)お小石小木の大山に在るがごときなり。】
【方存乎見少】【方(まさ)に少を見るに存す、】
【又奚以自多】【又、奚(なに)を以て自らを多とせん。】
〔私が天地の間に存在するのは、〕
〔まるで小さい石や小さい木が大きな山の中に在るようなものなのだ。〕
〔まさに＜少＞を見ることは在るが、〕
〔又どうして自らもって＜多＞となれようか。〕

──海の存在として天地の存在と比べてみるならば、小さい石や小さい木が大きな山の中にあるようなものだ…というのです。これでもって、自分の存在は＜少＞と見なすことかあったとしても、とても＜多＞の存在だなどとは考えたことがないようです。

とはいえ、このたとえは、大きさの比較ばかりではなく、小さい石も小さい木も、大きな山の大事な構成物なのですから、その存在価値はきちんと＜少＞として見極めているようです。

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