荘子コミュの14、大いなるもの（3）俗人と無窮に遊ぶ者

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14、大いなるもの（3）俗人と無窮に遊ぶ者
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故夫知効一官　　　　　故に夫(それ)、知を一官に効(いた)し、
行比一郷　　　　　　　行を一郷に比(なら)べ、
徳合一君　　　　　　　徳を一君に合わせ、
而徴一國者　　　　　　而して一国に徴(め)される者も、
其自視也亦若此矣　　　其の自ら視るも亦(ま)た此(か)くの若(ごと)し。
而宋榮子猶然笑之　　　而して宋栄子(そうえいし)は猶然(ゆうぜん)としてこれを笑い、
且舉世而譽之而不加勸　且つ世を挙げてこれを誉(ほ)むるとも勧むることを加えず、
舉世而非之而不加沮　　世を挙げてこれを非(そし)るもとも沮(はば)むことを加えず、
定乎内外之分　　　　　内外の分を定め、
辯乎榮辱之竟　　　　　栄辱(えいじょく)の竟(きょう)を弁じ、
斯已矣　　　　　　　　斯(き)るのみ。
彼其於世未數數然也　　彼その世に於けるや未だ数数然(さくさくぜん)たらざるなり。
雖然猶有未樹也　　　　然りと雖(いえど)も猶(なお)未だ樹たらざるなり。
夫列子御風而行　　　　夫(か)の列子は風を御(ぎょ)して行く。
泠然善也　　　　　　　泠然(れいぜん)として善し。
旬有五日而後反　　　　旬(じゅん)あり五日にして而(しか)る後に反(かえ)る。
彼於致福者未數數然也　彼福を致す者に於いて未だ数数然たらざるなり。
此雖免乎行　　　　　　此れ行くを免(まぬが)れると雖も
猶有所待者也　　　　　猶(なお)待つ所のある者なり。
若夫乗天地之正　　　　若（も）し夫（それ）天地の正に乗じ、
而御六氣之辯　　　　　而して六気の弁を御し、
以遊無窮者　　　　　　以って無窮に遊ぶ者ならば、
彼且惡乎待哉　　　　　彼且（かつ）なにをか待たんや。　　　　　　　　　
故に曰く　　　　　　　故に曰く
至人無已　　　　　　　「至人は己なく、
神人無功　　　　　　　神人は功なく、
聖人無名　　　　　　　聖人は名なし」と。
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▽（金谷治　訳）
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だから、その知識は一つの官職を考えるだけ、その行為は一つの村里に影響するだけ、その徳は一人の君主に気にいられるだけ、その才能は一つの国にあらわれるだけというあの人々〔すなわち世間の秀才たち〕では、自分のことをふりかえるとき、やはりこの斥鴳(うずら)や学鳩(こばと)と同じよう〔に狭い自分の世界だけにとらわれているもの〕である。そこで、宋栄子(そうえいし)はゆったりとしたありさまで、彼らを冷笑する。そして、世のすべての人々に誉められてもそのためにさらに励むということもなく、世のすべての人々に誹(そし)られてもそのためにがっかりするということもなく、内なる自分の心と外界の事物との分別をはっきり立て〔て情欲に惑わず〕、栄誉と恥辱の境界を区別して〔心を落ちつけて〕いる。だが、それだけのことである。彼は世俗のことについてあくせくと求めることをしない。けれどもまだ安定しないところがある。そもそも列子(れっし)は風にうち乗ってかけめぐり、軽やかですばらしい。十五日がたって〔風が変わると〕はじめて戻ってくる。彼は福(さいわい)をもたらすものについてもあくせくと求めることはしない。これは自分で歩くわずらわしさから解放されてはいるが、まだ頼みとするものを残している〔つまり風を頼っている〕わけである。ところがそもそも天地の正常さにまかせ自然の変化にうち乗って、終極のない〔絶対無限の〕世界に遊ぶ者ともなると、彼はいったい何を頼みとすることがあろうか。そこで、「至人(しじん／最高の人)には私心がなく、神人(しんじん／神的な人)には功績がなく、聖人には名誉がない。」といわれている。
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▽（岸陽子　訳）
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知識をたくわえて役人になった者、実績をあげて代官になった者、才腕を認められて大臣になった者、徳性を讃えられて君主の座にある者、かれらが自分をどう思おうと、所詮はこのスズメとかわりない。
宋(そう)の栄子(えいし)は、かれらを俗輩とみなして冷笑する。かれは世間の毀誉褒貶(きよほうへん)には、けっして心を動かされない。自他内外をはっきり区別し、栄誉や恥辱は自己にとって本質的なものでないことをわきまえていた。たしかにかれは世俗から超然としている。しかしまだ、真の自由を獲得したとはいえない。
列子(れっし)は風に乗って空に遊び、風の向きが変わると飄然(ひょうぜん)とまた地上に戻ってくる。しかし、地上の世界に縛りつけられていないとはいうものの、風の力に頼ればこそそれもできたのである。したがってかれもまた、真の自由を獲得したとはいえない。
天地の自然に身を委ね、万物の生成変化に応じて無窮の世界に逍遥する者こそ、なにものにもとらわれぬ真に自由な存在である。「至人は自己に固執せず、神人は作為を施さず、聖人は名声に関心をいだかぬ」とは、このことを指す。
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▽（吹黄　訳）
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故にそもそも、知識の力を一人の役人になるために出し尽したり、
行動を一つの郷(のしきたり)にならべておこなったり、
徳(道徳)を一人の君主に合わせたりして、
そうして(その才能を認められ)一つの国に取りたてられたような者たちも、
その自らを視たならば、またセミや学鳩(コバト)と同じようなものなのだ。
そこで、宋栄子はゆったりとして、彼らを笑い、
さらには、世を挙げてこれを誉められても、他人に勧めようとする力を加えず、
世を挙げてこれを非(そし)られても、他人をはばもうとする力を加えなかった。
自分の内部で起こることと、外部で起きることの区別を定めて、
栄誉と恥辱の感情を終わらせるように弁じ、
(余計な感情の芽を)きりとっていくことのみに終始した。
彼は世俗のことに於いて、けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。
そうはいっても、なお未だに生きている樹木のようにはなってはいない。
あの列子は風（風教）を思い通りにコントロールして行動する。
さとすさまは軽やかでよい。
（十干に従って）ひと回りする十日のサイクルがあり、五日進んだ後に反ってくる。
彼は福（さいわい）をまねきよせる者になろうとして、
けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。
(教えを)進めて行く大変さからは免れているといっても、
まだ（十干を頼りに）待っている所がある者だ。
もし、それ天地の正（真っ当な方向性をもったもの）にうまく乗って、
そして、六気（好・悪・喜・怒・哀・楽）の弁舌を思い通りにコントロールし、
それを以って窮(きわま)りない（永遠の）世界に遊ぶ者ともなれば、
彼はそれ以上の何を(頼りに)待つことがあるだろうか。
故にこう言う。
「至人は自己に固執がなく、神人は功績に縁がなく、聖人は名声に関わりがない。」と。
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コメント(14)

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[1] mixiユーザー 12月23日 00:24

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┃▼　故夫知効一官　┃【故に夫(それ)、知を一官に効(いた)し、
┗━━━━━━━━━┛
故にそもそも、知識の力を一人の役人になるために出し尽したり、
…………………………………………………………………………………………………………

＊【効】は「攴(動作記号)＋交(人が足を交差させた姿。平行線をたどれば、どこまでも結
　果が出ない。交差してしめあげたところに結果が出る)」で、「二つのものを交差させて
　てらしあわすこと」。「ならう(まねる)」。「きく(効果がある)」。「いたす(力を出し
　尽くす)」。

＊【官】は「宀(やね)＋［タイ］(つみかさね)」で「家屋に大ぜいの人が集まったさま」。
　「つかさ(役目)」。「おおやけ(朝廷)」。「役人になる」。「人体のいろいろな役目をす
　る部分」。

◆通説では【効】を「かんがえ」と読んで、【故夫知効一官】は「だから、その知識は一つ
　の官職を考えるだけ、」としています。

◇【故夫知効一官】は「故にそもそも、知識の力を一人の役人になるために出し尽したり」
　としました。

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┃▼　行比一郷　┃【行を一郷に比(なら)べ、】
┗━━━━━━━┛
行動を一つの郷(のしきたり)にならべておこなったり、
…………………………………………………………………………………………………………
　　　　　　　
＊【比】は「人が二人くっついてならんだこと」を示します。「くらべる」「ならぶ」。
　「たぐい」。「したしむ(特定の仲間とくっついてしたしむ)」。

＊【郷】は「行政区画」の名。「その方面にす面する」。「さきに(以前)」。「さと」。

◆通説では【比】を「(＝庇)おおい」と読み、【行比一郷】は「その行為は一つの村里に影
　響するだけ、」としています。

◇【行比一郷】は「行動を一つの郷(のしきたり)にならべておこなったり、」としました。

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┃▼　徳合一君　┃【徳を一君に合わせ、】
┗━━━━━━━┛
徳(道徳)を一人の君主に合わせたりして、
…………………………………………………………………………………………………………

＊【合】は「△(かぶせる)＋口(あな)」で「穴にふたをかぶせてピタリと合わせること」。

◆通説では、【合】は「かない」と読み、【徳合一君】は「その徳は一人の君主に気にいら
　れるだけ、」としています。

◇【徳合一君】は、「徳(道徳)を一人の君主に合わせたりして、」としました。

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┃▼　而徴一國者　┃【而して一国に徴(め)される者も、】
┗━━━━━━━━┛
そうして(その才能を認められ)一つの国に取りたてられたような者たちも、
…………………………………………………………………………………………………………

＊【徴】は「微の略体＋王」で「隠れたところで微賤なさまをしている人材を見つけて、
　とりあげること」を示します。「めす(隠れている人材をめし出す)。」「ともめる(人民
　から取りたてる。また要求する」。「手がかりをえる」。「きざす(物事のけはいが表面
　に少し浮かび出る」。

◆通説では【而】を「(＝能)のう」と読み、【徴】は「しるし(ある)」と読み、【而徴一
　國者】は「その才能は一つの国にあらわれるだけというあの人々〔すなわち世間の秀才
　たち〕では、」としています。

◇【而徴一國者】は、「そうして(その才能を認められ) 一つの国に取りたてられたような
　者たちも、」としました。

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┃▼　其自視也亦若此矣　┃【其の自ら視るも亦(ま)た此(か)くの若(ごと)し。】
┗━━━━━━━━━━━┛
その自らを視たならば、またセミや学鳩(コバト)と同じようなものなのだ。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【視】は「見＋示(音符)」で、「まっすぐにみること」。

◆【其自視也亦若此矣】は、通説では「自分のことをふりかえるとき、やはりこの斥鴳
　(うずら)や学鳩(こばと)と同じよう〔に狭い自分の世界だけにとらわれているもの〕で
　ある。」としています。

◇【其自視也亦若此矣】は、「その自らを視たならば、またセミや学鳩(コバト)と同じよ
　うなものなのだ。」としました。

[2] mixiユーザー 12月25日 00:14

●通説では、次のようになっています。

だから、その知識は一つの官職を考えるだけ、その行為は一つの村里に影響するだけ、その徳は一人の君主に気にいられるだけ、その才能は一つの国にあらわれるだけというあの人々〔すなわち世間の秀才たち〕では、自分のことをふりかえるとき、やはりこの斥鴳(うずら)や学鳩(こばと)と同じよう〔に狭い自分の世界だけにとらわれているもの〕である。

〇新解釈では、次のようになります。

故にそもそも、知識の力を一人の役人になるために出し尽したり、
行動を一つの郷(のしきたり)にならべておこなったり、
徳(道徳)を一人の君主に合わせたりして、
そうして(その才能を認められ)一つの国に取りたてられたような者たちも、
その自らを視たならば、またセミや学鳩(コバト)と同じようなものなのだ。

【故夫知効一官】【故に夫(そもそも)、知を一官に効(いた)し、】
【行比一郷】【行を一郷に比(なら)べ、】
【徳合一君】【徳を一君に合わせ、】
〔故にそもそも、知識の力を一人の役人になるために出し尽したり、〕
〔行動を一つの郷(のしきたり)にならべておこなったり、〕
〔徳(道徳)を一人の君主に合わせたりして、〕

──自分が持てる、知識であったり、行動であったり、徳(道徳)であったりを、＜一部門のもの＞に標準を合わせてその力を発揮しようとするのが、普通の人です。＜小さな＞世界で活動しているわけですが、それに満足している人もいれば、満足していない人もいるでしょう。

【而徴一國者】【而して一国に徴(め)される者も、】
〔そうして(その才能を認められ)一つの国に取りたてられたような者たちも、〕

──その＜小さな＞ところで働いていた、その知識力、行動力、徳(道徳)心を、国という＜大きな＞組織にその才能を買われて取りたてられたなら、自分が＜大きく＞なったように感じてしまうかもしれません。

【其自視也亦若此矣】【其の自ら視るも亦(ま)た此(か)くの若(ごと)し。】
〔その自らを視たならば、またセミや学鳩(コバト)と同じようなものなのだ。〕

──ところが、国も所詮＜一部門のもの＞に過ぎない＜小さなもの＞なのです。自らを少しでも客観的に視ることができるのなら、自分はセミやコバトと変わりない＜小知＞＜小年＞の者と同じようなものだと認めざるを得ないでしょう。

[3] mixiユーザー 12月26日 01:21

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┃▼　而宋榮子猶然笑之　┃【而して宋栄子は猶然(ゆうぜん)としてこれを笑い、】
┗━━━━━━━━━━━┛
そこで、宋栄子はゆったりとして、彼らを笑い、
…………………………………………………………………………………………………………
　　　
＊【宋栄子】は、荘子や孟子よりやや以前にいた思想家で、天子篇に出てくる宋銒(そうけ
　ん)と同一人物だとされているようです。宋子とも呼ばれます。人間の心・感情について
　論じ、戦争にならないようにするための説をたてて平和主義を説いたとされています。

＊【猶】は「犬＋酋(酒つぼから酒気が細く長くのび出るさま)」で、「のっそりとした動物
　や、手足と体をのばす動物」の意。転じて「のばす」。「のんびりするさま」などの意。

◆通説では、【而宋榮子猶然笑之】は「そこで、宋栄子(そうえいし)はゆったりとしたあり
　さまで、彼らを冷笑する。」としています。

◇【而宋榮子猶然笑之】は、通説と大差なく「そこで、宋栄子はゆったりとして、彼らを
　笑い、」としました。

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┃▼　且舉世而譽之而不加勸　┃【且つ世を挙げてこれを誉(ほ)むるとも勧むることを加
┃　　舉世而非之而不加沮　　┃えず、】【世を挙げてこれを非(そし)るもとも沮(はば)
┗━━━━━━━━━━━━━┛むことを加えず。】
さらには、世を挙げてこれを誉められても、他人に勧めようとする力を加えず、
世を挙げてこれを非(そし)られても、他人をはばもうとする力を加えなかった。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【勸(勧)】は「力＋雚(口々にいうこと)」で、口々にやかましくいって力づけること」
　「すすめる(口をそろえ、または、くり返してすすめる)(仕事やよい案に従うように力づ
　ける)」。

＊【沮】は「水＋且(物を積み重ねたさま)」。「はばむ(さえぎってとめ、邪魔をする)」。
　「じゃまされて気持ちがくさる。くじける」。

◆通説では、【加】の意味は訳さず、自分サイドのことだけとして訳しています。
　【且舉世而譽之而不加勸　舉世而非之而不加沮】は「そして、世のすべての人々に誉め
　られてもそのためにさらに励むということもなく、世のすべての人々に誹(そし)られて
　もそのためにがっかりするということもなく、」としています。

◇自分サイドのことと他人との関わりのことの両方こととして訳しました。
　【且舉世而譽之而不加勸　舉世而非之而不加沮】は、「さらには、世を挙げてこれを誉
　められても、他人に勧めようとする力を加えず、世を挙げてこれを非(そし)られても、
　他人をはばもうとする力を加えなかった」としました。

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┃▼　定乎内外之分　┃【内外の分を定め、】
┃　　辯乎榮辱之竟　┃【栄辱(えいじょく)の竟(きょう)を弁じ、】
┃　　斯已矣　　　　┃【斯(き)るのみ。】
┗━━━━━━━━━┛
自分の内部で起こることと、外部で起きることの分別を定めて、
栄誉と恥辱の感情を終わらせるように弁じ、
(余計な感情の芽を)きりとっていくことのみに終始した。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【榮(栄)】は、「木＋[エイ](まわりをかがり火でとりまく)」で、「木全体をとりまいて
　咲いた花」。「はでな」意となったもの。「さかえる」「はえる」「さかん」等の意。

＊【辱】は、「辰(やわらかい貝の肉)＋寸(動詞の記号)」で、「強さをくじいて、ぐったり
　と柔らかくさせること」。「はずかしめる」。「はじる」。等の意。

＊【榮辱】は、「ほまれとはずかしめ」。「名誉と恥辱」。

＊【竟】は、以前にも説明したように、「音楽のおわり・楽章の最後」で、「おえる」。
　「おわる」意。

＊【斯】は、「これ・この」という指示代名詞と「きる」という動詞の意味があります。

◆通説では、【定乎内外之分　辯乎榮辱之竟】は「内なる自分の心と外界の事物との分別
　をはっきり立て〔て情欲に惑わず〕、栄誉と恥辱の境界を区別して〔心を落ちつけて〕
　いる。」としています。
　【斯已矣】は「これのみ」と読んで「だが、それだけのことである。」としています。

◇【定乎内外之分　辯乎榮辱之竟　斯已矣。】は、「自分の内部で起こることと、外部で
　起きることの分別を定めて、栄誉と恥辱の感情を終わらせるように弁じ、(余計な感情
　の芽を)きりとっていくことのみに終始した。」としました。

[4] mixiユーザー 12月28日 01:35

●通説では、次のようになっています。

そこで、宋栄子(そうえいし)はゆったりとしたありさまで、彼らを冷笑する。そして、世のすべての人々に誉められてもそのためにさらに励むということもなく、世のすべての人々に誹(そし)られてもそのためにがっかりするということもなく、内なる自分の心と外界の事物との分別をはっきり立て〔て情欲に惑わず〕、栄誉と恥辱の境界を区別して〔心を落ちつけて〕いる。だが、それだけのことである。

〇新解釈では、次のようになります。

そこで、宋栄子はゆったりとして、彼らを笑い、
さらには、世を挙げてこれを誉められても、他人に勧めようする力を加えず、
世を挙げてこれを非(そし)られても、他人をはばもうとする力を加えなかった。
自分の内部で起こることと、外部で起きることの区別を定めて、
栄誉と恥辱の感情を終わらせるように弁じ、
(余計な感情の芽を)きりとっていくことのみに終始した。

【而宋榮子猶然笑之】【而して宋栄子は猶然(ゆうぜん)としてこれを笑い、】
【且舉世而譽之而不加勸】【且つ世を挙げてこれを誉(ほ)むるとも勧むることを加えず、】
【舉世而非之而不加沮】【世を挙げてこれを非(そし)るもとも沮(はば)むことを加えず。】
〔そこで、宋栄子はゆったりとして、彼らを笑い、〕
〔さらには、世を挙げてこれを誉められても、他人に勧めようする力を加えず、〕
〔世を挙げてこれを非(そし)られても、他人をはばもうとする力を加えなかった。〕

──「宋栄子(宋子)」について、ウァキペディアより
- - - - -
学説として、「見侮不辱」、すなわち「他者から侮蔑(ぶべつ)されても＜辱＞と思わない」を説いた。

ここでいう「辱」は、現代日本語では「恥辱」「屈辱」「汚辱」などと翻訳されるが、古典中国語の「辱」はより広範な意味をもつ。「辱」の対概念として「栄」があり、合わせて「栄辱」と総称される。「栄辱」は、人間の名誉や幸不幸を表す概念、人間の原初的な感情を表す概念として、しばしば諸子の議論のテーマになった。

古代中国人は皆、他者から侮蔑されたら「辱」と思い、暴力によって報復するのが当然だと考えていた。ここでいう報復とは、個人においては私闘（決闘・喧嘩）、国家においては報復戦争にあたる。

宋子は、そのような報復こそが戦乱の原因だと考えた。そこで、戦乱を断つためには、各人が「見侮不辱」を実践することが必要だと説いた。その上で、侵略戦争を放棄（「禁攻寝兵」）すれば、やがて戦乱は終わり平和が訪れると説いた。

「見侮不辱」を実践するということは、言い換えれば、感情を停止し、情動を抑制し、心を動揺させず、怒りを捨て去り、意欲・欲求をほぼ無にするということである。
- - - - -

他人から、誉められても、非(そし)られても、自分の内部に留め、他人とは距離を置き、他人に勧めようする力を加えることもなければ、他人をはばもうとする力も加えなかった…ということのようです。

【定乎内外之分】【内外の分を定め、】
【辯乎榮辱之竟】【栄辱(えいじょく)の竟(きょう)を弁じ、】
【斯已矣】【斯(き)るのみ。】
〔自分の内部で起こることと、外部で起きることの分別を定めて、〕
〔栄誉と恥辱の感情を終わらせるように弁じ、〕
〔(余計な感情の芽を)斯(き)ることのみに終始した。〕

──内なる自分は自分、外なる人は人と区別してはっきり定めをつけて、毀誉褒貶(きよほうへん／ほめたりけなしたりする世評)にふりまわされることに終わりを告げる為に、人間の内部の自然の感情や情動をただただ「ないない尽くし」にして、ひたすら「(余計な感情の芽を)きりとっていく」ことばかりに終始するだけだった…と言っているようです。　

[5] mixiユーザー 12月29日 00:33

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┃▼　彼其於世未數數然也　┃【彼その世に於けるや未だ数数然(さくさくぜん)たらざる
┗━━━━━━━━━━━━┛なり。】
彼は世俗のことに於いて、けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【數(数)】は「婁(じゅじゅつなぎ)＋攴(動詞の記号)」で、「一連の順序につないでかぞ
　えること」。
＊【數數】(さくさく)は、「せかせかとして忙しいさま」の意。

◆通説では、【彼其於世未數數然也】は「彼は世俗のことについてあくせくと求めることを
　しない。」としています。

◇【彼其於世未數數然也】は、「彼は世俗のことに於いて、けっしてせかせかとふりまわさ
　れるようなことはない。」としました。

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┃▼　雖然猶有未樹也　┃【然りと雖(いえど)も猶(なお)未だ樹たらざるなり。】
┗━━━━━━━━━━┛
そうはいっても、なお未だに生きている樹木のようにはなってはいない。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【樹】の「尌」は、「太鼓または豆を直立させたさまに寸(手)を加えて、⊥型にたてる動
　作」を示します。「木＋尌」で「たった木のこと」。「たってはえている木」。
　(切った木は「材」と言い、「木」は両方を指します。)

◆通説では、【雖然猶有未樹也】は「けれどもまだ安定しないところがある。」としていま
　す。

◇【雖然猶有未樹也】は、「そうはいっても、なお未だに生きている樹木のようにはなって
　いない。」としました。

[6] mixiユーザー 12月30日 00:54

●通説では、次のようになっています。

彼は世俗のことについてあくせくと求めることをしない。けれどもまだ安定しないところがある。

〇新解釈では、次のようになります。

彼は世俗のことに於いて、けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。
そうはいっても、なお未だに生きている樹木のようにはなっていない。

【彼其於世未數數然也】【彼その世に於けるや未だ数数然(さくさくぜん)たらざるなり。】
〔彼は世俗のことに於いて、けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。〕

──彼は自分は自分、他人は他人と定めて、その間に生じる摩擦や軋轢を一切生じないように関係を絶つように努めていたがために、世俗で起こる様々なことにせかせかとふりまわされることはなかった…と言っているのでしょう。

【雖然猶有未樹也】【然りと雖(いえど)も猶(なお)未だ樹たらざるなり。】
〔そうはいっても、なお未だに生きている樹木のようにはなってはいない。〕

──人間の(特に感情や情動の)形成を「木」で喩えるならば、彼は切り刻んで形を整える「材」として扱っているかのようで、地に根を張り、地上には枝葉をつける生きた「樹」の成長で勝負しようとはしていなかった…と言えるのかもしれません。

宋栄子がしようとしていたことは、感情の「木偶の坊(でくのぼう)」を作ろうとしていたのではないかと連想してしまいます。「木偶の坊」とは、平安時代の「くぐつ」という普通のただの木彫りの操り人形のことでした。宋栄子も一生懸命「木(材)」を切り刻みながら、どんなことが起きても動じないもので人間形成をすることが有益だと考えて、自分の手の中で思い通り操っていられる人形化した感情でなんとかなるものだと考えていたのではないかと思います。ですが、「木偶の坊」はいつしか「役立たず」という意味となった言葉だけに、宋栄子の場合も結果は同じではないかと、ついつい重ね合わせて想像してしまいます。

生きている樹はまず、手の届かないところで地下に根をはりめぐしていくものです。地上では思わぬところから芽を吹きます。一つの芽を切っても、また兆しがなかったようなところから芽を吹くこともありえます。感情の樹の芽は栄誉や恥辱を生み出します。そこで根を切ってしまうことも考えられます。宋栄子は生きた樹木では手に負えなかったのでしょう。

人間の感情のあり方として、宋栄子は木偶の坊作りにいそしんで、生きた樹木のようにはなっていなかった…と言っているのでしょう。

[7] mixiユーザー 12月31日 00:35

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┃▼　夫列子御風而行　┃【夫(か)の列子は風を御(ぎょ)して行く。】　
┗━━━━━━━━━━┛
あの列子は風（風教）を思い通りにコントロールして行動する。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【列子】は、春秋時代の思想家。名は禦寇 (ぎょこう) 。虚心説を唱え、その著書に『列
　子』があります。

＊【風】はもともとは「鳳」と同じ字で、前者は「大鳥の姿」、後者は「大鳥が羽ばたいて
　ゆれ動くさま」を点々をつけて示したもの。様々な意味がありますが、そのひとつに「
　風がものを動かすように、言葉で人の心をゆり動かす。それとなく人を教える。感化す
　る」などの意があります。「風教(教えや人格で他人を動かしてかえること)」の意もあり
　ます。

＊【御】の原字は「午(きね)＋卩(ひと)」で「堅い物をきねでついて柔らかくするさま」。
　【御】は「止(あし)＋彳(いく)＋午＋卩」で「馬を穏やかにならして行かせること」を
　示します。「つきならす」意から、「でこぼこや阻害する部分を調整して、うまくおさめ
　る」意となったものです。転じて「家や国家を平和におさめる」。「馬を調教しておとな
　しく手なずける」「おもいどおりにあやつる」などの意を含みます。

◆通説では、【御】を「乗る」という意味に解釈しています。
　【夫列子御風而行】は「そもそも列子(れっし)は風にうち乗ってかけめぐり、」としてい
　ます。

◇【御】自体には「乗る」という意味はありません。【夫列子御風而行】は、「あの列子は
　風（風教）を思い通りにコントロールして行動する。」としました。

┏━━━━━━━┓
┃▼　泠然善也　┃【泠然(れいぜん)として善し。】
┗━━━━━━━┛
さとすさまは軽やかでよい。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【泠】は「水＋令(すみきった)」で「きよい」「さとす・おしえる」「さとる」等の意。

＊【泠然】は「行動がかろやかなさま」「ひややかできよらかなさま」。

◆通説では、【泠然善也】は「軽やかですばらしい。」としています。

◇【泠然善也】は「さとすさまは軽やかでよい。」としました。

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┃▼　旬有五日而後反　┃【旬(じゅん)あり五日にして而(しか)る後に反(かえ)る。】
┗━━━━━━━━━━┛
（十干に従って）ひと回りする十日のサイクルがあり、五日進んだ後に反ってくる。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【旬】(じゅん)は「日＋匀(手をまるくひと巡りさせたさま)の略体」で、「甲・乙・丙・
　丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十干をひと回りする十日の日数のこと」。
　(日本語の食べ物の最もうまい時期という「しゅん」の意味はなく、月の上旬、中旬、下
　旬と呼ぶ「じゅん」の意です。)

◆通説では【旬有五日】は、【旬】は「十」、【有】は「又」と解釈しています。福本光司
　いう、十五日は一年を二十四気で割った一気の期間。【而後反】は天候は一気ごとに変わ
　るから「十五日で反るのだ」とする説を取り入れています。
　【旬有五日而後反】は「十五日がたって〔風が変わると〕はじめて戻ってくる。」として
　います。

◇【旬有五日而後反】は、「（十干に従って）ひと回りする十日のサイクルがあり、五日進
　んだ後に反ってくる。」としました。

[8] mixiユーザー 01月02日 01:52

●通説では、次のようになっています。

そもそも列子(れっし)は風にうち乗ってかけめぐり、軽やかですばらしい。十五日がたって〔風が変わると〕はじめて戻ってくる。

〇新解釈では、次のようになります。

あの列子は風（風教）を思い通りにコントロールして行動する。
さとすさまは軽やかでよい。
（十干に従って）ひと回りする十日のサイクルがあり、五日進んだ後に反ってくる。

【夫列子御風而行】【夫(か)の列子は風を御(ぎょ)して行く。】　
〔あの列子は風（風教）を思い通りにコントロールして行動する。〕

──定説となっている列子のイメージは、「風に乗ってかけめぐる者」というものです。「馬を御す」時に、馬の上に乗って調教することから、「乗る」という発想が生まれたのだと思いますが、「御す」というのはあくまでも「うまく操ること」という意味です。「風に乗る」といった話がまかり通ると、実感としては「絵空ごと」になってしまいます。しかし原文は「風を御して行く」という表現なので、「御す」というのは、「思い通りにコントロールする」意だと解釈できます。そこで「風」というのも外的なものではなく、内的な意味の「風教(教えや人格で他人を動かしてかえること)」ととらえるのが妥当だと解釈しました。

【泠然善也】【泠然(れいぜん)として善し。】
〔さとすさまは軽やかでよい。〕

──人をさとすさまは、押しつけがましいものではなく、「風」のように、それとなく人を教え、感化するものであったため、「軽やかでよい」とその点は荘子も評価したのでしょう。

【旬有五日而後反】【旬(じゅん)あり五日にして而(しか)る後に反(かえ)る。】
〔（十干に従って）ひと回りする十日のサイクルがあり、五日進んだ後に反ってくる。〕

──「十干」とは、太陽の巡りと動物の生命の循環サイクルを十種類で示したものです。

甲(こう)…草木の芽生え、鱗芽のかいわれの象意。
乙(おつ)…「軋(おさえる)」に通じ、陽気のまだ伸びない、かがまっているところ。
丙(へい)…「炳(火の光が四方にひろがる)」に通じ、陽気の発揚。
丁(てい)…陽気の充溢(じゅういつ／みちあふれること)。
戊(ぼ)　…「茂(しげる)」に通じ、陽気による分化繁栄。
己(き)　…「紀(おさめる)」に通じ、分散を防ぐ統制作用。
庚(こう)…結実、形成、陰化の段階。
辛(しん)…陰による統制の強化。
壬(じん)…「妊(みごもる)」に通じ、陽気を下に姙む意。
癸(き)　…「揆(始めから終わりまで一回転する)」に同じく生命のない残物を清算して、
　　　　　地ならしを行い、新たな生長を行う待機の状態。

陰陽五行や干支と結びつくのは、ずっと後のことです。五日間、陽の気が優勢に進み、その後五日間、陰の気が優勢になり反ってくるという、十日のサイクルでものごとをとらえていたと言っているのでしょう。

宋栄子の場合と違って、感情も生きている樹のようなものととらえている様子がうかがえます。

[9] mixiユーザー 01月03日 22:11

┏━━━━━━━━━━━━━┓
┃▼　彼於致福者未數數然也　┃【彼福を致す者に於いて未だ数数然たらず。】　　
┗━━━━━━━━━━━━━┛
彼は福（さいわい）をまねきよせる者になろうとして、けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。
…………………………………………………………………………………………………………
　
＊【福】は「示（さいだん）＋［右の字／フク］（とっくりに酒を豊かに満たしたさま）」
　で「神の恵みが豊かなこと」。「しあわせ」。「さいわいを与える」。「恵まれた状態に
　する」。

＊【致】は「夂（あし）＋至（矢が一線までとどくさま）」で、「足で歩いて目標までとど
　くこと」。「いたす（目ざす所までとどける）（こちらから来させる）（ぎりぎりの線ま
　で力を尽くす）（ある結果をまねきよせる）」。

◆通説では、【彼於致福者未數數然也】は「彼は福(さいわい)をもたらすものについてもあ
　くせくと求めることはしない。」としています。

◇【彼於致福者未數數然也】は「彼は福（さいわい）をまねきよせる者になろうとして、
　けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。」としました。

┏━━━━━━━━━┓
┃▼　此雖免乎行　　┃【此れ行くを免(まぬか)れると雖も、】
┃　　猶有所待者也　┃【猶(なお)待つ所のある者なり。】
┗━━━━━━━━━┛
(教えを)進めて行く大変さからは免れているといっても、
まだ（十干を頼りに）待っている所がある者だ。
…………………………………………………………………………………………………………
　　　　　　
＊【免】の原字は、女性がももを開いてしゃがみ、狭い産道からやっと胎児が抜け出るさ
　まを示しています。「やっと抜け出る」「のがれ出る」意を含みます。

＊【待】は「彳(おこなう)＋寺(手足の動作)」で「手足を動かして相手をもてなすこと」。

◆通説では【此雖免乎行　猶有所待者也】は「これは自分で歩くわずらわしさから解放さ
　れてはいるが、まだ頼みとするものを残している〔つまり風を頼っている〕わけであ
　る。」としています。

◇【此雖免乎行　猶有所待者也】は、「(教えを)進めて行く大変さからは免れているとい
　っても、まだ（十干を頼りに）待っている所がある者だ。」としました。

[10] mixiユーザー 01月06日 00:19

●通説では、次のようになっています。

彼は福(さいわい)をもたらすものについてもあくせくと求めることはしない。これは自分で歩くわずらわしさから解放されてはいるが、まだ頼みとするものを残している〔つまり風を頼っている〕わけである。

〇新解釈では、次のようになります。

彼は福（さいわい）をまねきよせる者になろうとして、
けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。
(教えを)進めて行く大変さからは免れているといっても、
まだ（十干を頼りに）待っている所がある者だ。

【彼於致福者未數數然也】【彼福を致す者に於いて未だ数数然たらず。】　　
〔彼は福（さいわい）をまねきよせる者になろうとして、けっしてせかせかとふりまわされるようなことはない。〕

──自然に任せて訪れるものは受け入れながら、「禍福は糾える縄の如し」と心得ていて、幸福だけを追い求める者のようになって、躍起になることはけっしてなかった…ということでしょう。

【此雖免乎行】【此れ行くを免(まぬか)れると雖も、】
【猶有所待者也】【猶(なお)待つ所のある者なり。】
〔(教えを)進めて行く大変さからは免れているといっても、〕
〔まだ（十干を頼りに）待っている所がある者だ。〕

──ここを通説のように、「(風に乗って飛びまわれるので、)歩くことから解放されているものの、まだ頼りにしているものを残している(つまり風を頼りにしている)」とすると、列子を実在した人物だとみなさず、架空の人物の「お話」の世界ということになってしまうのではないかと思います。

ここは、実在した人物だとみなし、実際の大気の「風」とは切り離して考えるところだと思います。「風」のようにして教えを進めて行く方法はスムーズで、その大変さからは免れているものの、「十干(旬)」の考えを取り入れて展開しているため、それを頼りに待っている所がある者だ…と言っていると解釈しました。

[11] mixiユーザー 01月07日 00:28

┏━━━━━━━━━━┓
┃▼　若夫乗天地之正　┃【若（も）し夫（それ）天地の正に乗じて、】　
┗━━━━━━━━━━┛
もし、それ天地の正（真っ当な方向性をもったもの）にうまく乗って、
…………………………………………………………………………………………………………

＊【乗】は「人＋[舛印](左右の足の部分)＋木」で、「人が両足で木の上にのぼった姿」。
　「のる」「計算する(数を上へ上へとのせていく意から)」等の意。

＊【正】は「一＋止(あし)」で「足が目標の線めがけてまっすぐに進むさま」を示します。
　「ただしい」「中国の暦法で、一年の基準になるもの(正月)」。「ただしい（まっすぐで
　あるさま）」。「まじりけのないさま」。「ほんとうのものであるさま」。

◆通説では、【乗】という字が用いられているのに「乗る」とはせず「まかせ」と訳してい
　ます。
　「【若夫乗天地之正】は「ところがそもそも天地の正常さにまかせ、」としています。

◇【正】は「目標の線めがけてまっすぐに進むさま」ということより、「真っ当な方向性を
　もったもの」と解釈しました。【若夫乗天地之正】は、「もし、それ天地の正（真っ当な
　方向性をもったもの）にうまく乗って、」としました。

┏━━━━━━━━━┓
┃▼　而御六氣之辯　┃【而して六気の弁を御し、】
┗━━━━━━━━━┛
そして、六気（好・悪・喜・怒・哀・楽）の弁舌を思い通りにコントロールし、
…………………………………………………………………………………………………………

＊【六氣】とは、「天地間に存在する六つの気」。「陰・陽・風・雨・晦(霧)・明」「寒・
　暑・燥・湿・風・火」。または「人の六つの感情」。「好・悪・喜・怒・哀・楽」。

◆通説では、ここでも【御】を「うち乗って」と訳しています。【六気の辯】を「自然の変
　化」と意訳しています。
　【而御六氣之辯】は「自然の変化にうち乗って、」としています。

◇【而御六氣之辯】は、外界の六気ではなく、内界の六気と解釈し、「そして、六気（好・
　悪・喜・怒・哀・楽）の弁舌を思い通りにコントロールし、」としました。

┏━━━━━━━━━┓
┃▼　以遊無窮者　　┃【以って無窮に遊ぶ者ならば、】
┃　　彼且惡乎待哉　┃【彼且（かつ）なにをか待たんや。】
┗━━━━━━━━━┛
それを以って窮(きわま)りない（永遠の）世界に遊ぶ者ともなれば、
彼はそれ以上の何を(頼りに)待つことがあるだろうか。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【無窮】は、「無限」。「永遠であること」。

◆通説では、【以遊無窮者　彼且惡乎待哉】は「終極のない〔絶対無限の〕世界に遊ぶ者と
　もなると、彼はいったい何を頼みとすることがあろうか。」としています。

◇【以遊無窮者　彼且惡乎待哉】は、「それを以って窮(きわま)りない（永遠の）世界に遊
　ぶ者ともなれば、彼はそれ以上の何を(頼りに)待つことがあるだろうか。」としました。

[12] mixiユーザー 01月09日 01:28

●通説では、次のようになっています。

ところがそもそも天地の正常さにまかせ、自然の変化にうち乗って、終極のない〔絶対無限の〕世界に遊ぶ者ともなると、彼はいったい何を頼みとすることがあろうか。

〇新解釈では、次のようになります。

もし、それ天地の正（真っ当な方向性をもったもの）にうまく乗って、
そして、六気（好・悪・喜・怒・哀・楽）の弁舌を思い通りにコントロールし、
それを以って窮(きわま)りない（永遠の）世界に遊ぶ者ともなれば、
彼はそれ以上の何を(頼りに)待つことがあるだろうか。

【若夫乗天地之正】【若（も）し夫（それ）天地の正に乗じて、】　
〔もし、それ天地の正（真っ当な方向性をもったもの）にうまく乗って、〕

──通説では、受け身な姿勢で、「天地の正常さにまかせ」としていますが、ここはもっと積極的な意図のある姿勢で、「天地(宇宙や自然)の正(真っ当な方向性をもったもの)に便乗(巧みに機会をとらえて利用）して…と言っているものだと解釈しました。

「天地の正」とはいったいどういうものでしょうか。「天地」とは「自分の外をとりまく大いなる宇宙と自分の内に広がる大いなる自然」とでも言えばいいでしょうか。その「正」とは、「宇宙や自然が何がしかの＜本来向かおうとしている意志のようなもの＞」とでも言えばいいでしょうか。そこには「天地の法則」が働いていて、その流れに則りうまく「乗る」と言っているものだと考えられます。

【而御六氣之辯】【而して六気の弁を御し、】
〔そして、六気（好・悪・喜・怒・哀・楽）の弁舌を思い通りにコントロールし、〕

──「六気」は外界では「天地間に存在する六つの気」、つまり「陰・陽・風・雨・晦(霧)・明」となるため、通説では「自然の変化」と意訳したのでしょうが、ここは自分の内界の「好・悪・喜・怒・哀・楽」のことだと言えそうです。

宋栄子のように自分の感情を「木偶の坊」化するのと違って、いきいきとした形で、「六気」の感情表現である弁舌を思い通りに操り、コントロールできるように、それまでにとことんまで鍛えてあるのだと思います。通説のように、単純に「自然の変化にうち乗り」という「お任せ状態」のことではないと思っています。

【以遊無窮者】【以って無窮に遊ぶ者ならば、】
【彼且惡乎待哉】【彼且（かつ）なにをか待たんや。】
〔それを以って窮(きわま)りない（永遠の）世界に遊ぶ者ともなれば、〕
〔彼はそれ以上の何を(頼りに)待つことがあるだろうか。〕

──「以って」…「以上をもって」つまりただ「遊ぶ」という以前に、「宇宙の意志」とでもいうようなものを読み取って機会を逃さずその法則に乗り、「六気」を意のままに操れるまでに鍛錬した上で、はじめて「遊ぶ者」がいるとするならば…と言っているようです。しかもただ身近な「どこにでもある世界」で「遊ぶ」のではなく、意識の焦点は「無窮」…つまり窮りなき宇宙空間の広がりの中、また永遠といえる時間が継続する世界にあり、そこで「遊ぶ者」がいたならば、彼はそれ以上の何を待つことがあるだろうか…と言っているようです。

極論で言えば、先に述べていた＜大知＞とは冥界でも及びもつかない内外の窮りなき宇宙空間をも網羅するものであり、＜大年＞とは大椿でも及びもつかない究極的には永遠を指し示していたのではないかと推察します。

[13] mixiユーザー 01月13日 00:03

┏━━━━━━━┓
┃▼　故曰　　　┃【故に曰く】
┃　　至人無已　┃【「至人は己なく、】
┃　　神人無功　┃【神人は功なく、】
┃　　聖人無名　┃【聖人は名なし」と。】
┗━━━━━━━┛
故にこう言う。
「至人は自己に固執がなく、神人は功績に縁がなく、聖人は名声に関わりがない。」と。
…………………………………………………………………………………………………………

＊【己】は、古代の土器のもようの一部で、屈曲して目だつ目じるしの形を描いた象形文
　字。「はっと注意をよびおこす」意を含みます。人から呼ばれてはっと起立する者の意
　から、おのれを意味する言葉になったもの。

＊【功】は、「力＋工(上下両面に穴をあけること)」で、「穴をあけるのはむずかしい仕
　事で努力を要するので、その工夫をこらした仕事のできばえ」。「いさお(てがら・やり
　ばえ)」「努力・工夫」等の意。

＊【名】は、「夕(三日月)＋口」で「薄暗いやみのの中で自分の存在を声で告げること」。

◆通説では、【故曰　至人無已　神人無功　聖人無名】は「そこで、『至人（しじん／最
　高の人）には私心がなく、神人（しんじん／神的な人）には功績がなく、聖人には名誉
　がない。』といわれている。」としています。

◇【故曰　至人無已　神人無功　聖人無名】は「故にこう言う。『至人は自己に固執がな
　く、神人は功績に縁がなく、聖人は名声に関わりがない。』と。」としました。

[14] mixiユーザー 01月15日 01:03

●通説では、次のようになっています。

そこで、「至人（しじん／最高の人）には私心がなく、神人（しんじん／神的な人）には功績がなく、聖人には名誉がない。」といわれている。

〇新解釈では、次のようになります。

故にこう言う。
「至人は自己に固執がなく、神人は功績に縁がなく、聖人は名声に関わりがない。」と。

【故曰】【故に曰く】
【至人無已　神人無功　聖人無名】【「至人は己なく、神人は功なく、聖人は名なし」と。】
〔故にこう言う。〕
〔「至人は自己に固執がなく、神人は功績に縁がなく、聖人は名声に関わりがない。」と。〕

──「至人」「神人」「聖人」がどのような人なのか、天下篇に次のような話があります。
- - - - -
宗(世界の根源)を離れざる、これを「天人」と謂う。精(自然の精妙なはたらき)を離れざる、これを「神人」と謂う。真(ありのままの真実)を離れざる、これを「至人」と謂う。天を以って宗と為し、徳を以って本(本源)と為し、道を以って門と為し、変化に於いて兆(きざ)す、これを「聖人」と謂う。
- - - - -

試しにこれを合わせてると、次のようになります。

真(ありのままの真実)を離れることがない「至人」は自己に固執がなく、
精(自然の精妙な働き)を離れることがない「神人」は功績に縁がなく、
天をもって宗((世界の根源)と為し、徳をもって本(本源)と為し、
道をもって門と為し、変化に於いて兆(きざ)すという「聖人」は名声に関わりがない。

また、「至人」については、応帝王篇で次のような話があります。
- - - - -
至人の心を用うることは鏡の如し。将(おく)らず迎えず、応じて蔵せず。故に能く物に勝(た)えて傷つかず。
- - - - -

「至人」は外界との関係において、内界では自己のカラーやさざ波の干渉を及ぼすことなく、心を静かな水鏡のようにして、来るものまたは去るものに任せつつ、心に映りこむものをきちんと観て反応はするものの、それを蔵することはない(固執しない)ため、ありのままの真実をとらえ続けることができるのだ…と言っているようです。そこで、「至人は己がない」とは、自己に固執がないということになるでしょう。

「神人」については、天地篇で次のような話があります。
- - - - -
願わくは神人を聞かんと。曰く、上神、光に乗じ、形と与(とも)に滅亡す。此れを照曠(しょうこう／)と謂う。(＊【曠】は「あかるい」「むなしくする・何もせずにあけておく」)
- - - - -

「神人」は宇宙的かつ精神的な自然の精妙な働きかけをしている内界の光をとらえ続けることができ、照らしているのに姿形は消えるのだ…と言っているようです。そこで、「神人は功がない」とは、外界に功績を残すようなことにはまったく縁がないということになるでしょう。

「聖人」については、漁父篇で次のような話があります。
- - - - -
聖人は天に法(のっと)り真を貴び、俗に拘(とら)われず。
- - - - -

「聖人」が貴ぶのは内界に於ける天の法則に則った真実であり、外界の俗世界に於ける他人からの評価などにはまったくとらわれていない…と言っているようです。そこで、「聖人は名がない」とは、外界にいる他人が認める名声に関わりを持たないということになるでしょう。

以上のようなことから、「至人」も「神人」も「聖人」も、外界に振り回されることもなく、また内界にまどわされることもなく、宇宙自然の意志であるかのような法則に乗じて、内部の六気の感情的な弁を制御しながら使いこなし、無窮に遊ぶ者だと言えるのでしょう。

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