最初オープニングで演奏されたのが“Breathe”。そして次がツアー・タイトルにもなっている“Us and Them”。続いて“One of These Days”や“Money”などアルバム“The Dark Side of The Moon”に収録されている曲を中心にフロイド全盛期の代表曲が次々と演奏されたのですが、それらの多くが元々ロジャー自身が歌っている曲ではないせいか、リード・ヴォーカルも他のバックのメンバーに任せっきりで自分は専らベースだけ弾いて脇役に回っているかのような彼の姿を見て、「せっかくロジャーのソロ・ライヴなんだから全部彼が自分で歌えばいいのに…。」と、何か物足りないような気がしながら私は冷淡にステージを見ていました。
しかしその後は“Time”、“Wish You Were Here”など元のアルバムでは自分で歌っていない曲もロジャー自身がリード・ヴォーカルをやる曲が続き、“Another Brick In The Wall Part 2”では囚人服を着た地元ケルンの子供たちをステージに登場させる反学校教育パフォーマンスも披露され、“Animals”の曲ではお馴染みの例のブタの風船(“Stay Human!”と書かれていた)が宙を飛び、同アルバムのジャケットに写っている発電所の模型がアリーナ頭上に宙に吊るされて出てきて、そこにドナルド・トランプ批判を象徴する画像をはじめその他いろいろな社会批判的な映像が投影されるというスペクタクル満載のショーもあり、この辺りがこの日のハイライトのような雰囲気でした。
ライヴの終わりのほうで、ロジャーの最新作が発表された前後の時期に彼が反ユダヤ主義的な発言をして物議を醸したことに対して自身の新たな見解を表明して、「私は反ユダヤ主義者ではない。地球上の人類はどの人種も法の元において平等であり、誰もが同等の権利を持つべきだと確信している。」というスピーチをして観客の拍手喝采を浴びていました。その後ピラミッド型の白いレーザー光線がステージ前のアリーナ頭上に投影されて、ラスト・ナンバーとしてアルバム“The Dark Side of The Moon”でも終わりに収録されている“Brain Damage”、“Eclipse”が演奏され、メンバー紹介を挟んでアンコールで“Comfortably Numb”が演奏されて幕となる、という構成でした。
ロジャー在籍時のフロイドのライヴを見たことが無い世代に属する私としては、彼がフロイド全盛期の曲を演奏する姿を見られたことは確かに良かったのですが、その一方で、「いつまでもフロイド時代の曲中心のライヴばかりやっていないで、そろそろ自身のソロ作品中心のステージも見せて欲しいなぁ…。」という終始複雑な思いを馳せながら私は今回の彼の姿を見ていました。最新作の中からも“Déja Vu”など数少ない曲も演奏されましたが、あくまでも「付け足し」あるいは「添え物」程度の選曲でしたし…。個人的には「どうせフロイド全盛期の曲を中心にやるんだったら“Shin On You Crazy Diamond”や“Have a Cigar”あたりもレパートリーに入れて欲しかったなぁ。」などと思ったりもしましたけど…。
今からちょうど30年前の1988年にロジャー抜きのフロイド来日公演を日本武道館で見たときに、「ああ、もしここにロジャーがいてくれたらなぁ…。」という、まさに“Wish You Were Here”の気分を自分でもモロに実感してしまったものでしたが(笑)、今回の彼のソロ・ライヴを見て「やっぱりロジャーがいてこそ本物のピンク・フロイドだ!」ということを改めて再認識できたことはよかったです。