コーヒーとたばこの
くゆる煙が
つかの間のわたし達の世界だった
たばこを切らしたあなたに
「メンソールは苦手だから」と断られ
わたしは苦笑いした
わたしは音楽が嫌いだった
このカフェには音楽がない
白いカップがカチャカチャと響く
甲高い吃音のよう
出会った瞬間から終わりを考えるあなたは
抑揚のない声でアイをつぶやく
そこは海の底のようで
息を吸うたびに溺れていった
注文のたびのやさしく微笑むマスターが
すべてを見通していると言わんばかりだ
カウンターでひとりわたしは
冷めたコーヒーを見つめていた
「海の底にいるみたいだった……」
マスターは黙って 冷めたコーヒーを取りかえた
そして一気にそのコーヒーを飲みほした
「そんなきれいなとこじゃないでしょ。そう、トイレ、トイレの水の中だ」
かき乱された心をかばうように
わたしは髪をかき上げて息を吐いた
「でも水には流せる」
その言葉でわたしの顔が上がり
マスターを見上げた
マスターは満面の笑みでわたしを観ていた
わたしはむせび泣いた
まるで初めて涙を知った少女のように
「音楽、かけるかい？」
わたしは言葉もなく
うん うんと頷いていた
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