鳥と魚コミュの#105「人気者がやってくる」

　我が家に人気者がやってくる。世界中の誰からも愛される人気者がやってくる。しかし私はヤツを認めない。世界中の人々がヤツになびこうと、私だけは最後の砦として絶対にヤツを認めない。

　妻が人気者を応接間に通す。妻の目は生に見る人気者を前にして、興奮を隠せない様子で輝く。ダメだ、妻は完全に人気者に呑まれてしまった。

　そしてそれ以上に輝く人気者の笑顔。

　「あなた方に会えて光栄です、ミセスアンドミスター！」と人気者。

　バラの匂いがする笑顔。応接間にぶら下がるベネチアンガラスの高価なシャンデリアもヤツのゴージャスな笑顔には見劣りをしてしまう。

　「私はむしろ不快です」私は言う。本心だ。

　「何よ、感じの悪い。会うなり喧嘩を売るみたいに」と妻。そう、私は喧嘩を売りたいのだ。

　「わざわざこうして、こんな偏狭にまで足を運んでくださったのよ。やだわ、主人たら貴方を実際前にして興奮してしまっているみたい。本心じゃないのよ、どうか許して。」と妻。

　「いや、本心から不快です。」と私。

　妻の拳が私の頬を打つ。

　「ごめんなさい、急だったものだから、こんなものしか用意出来なくて」と妻は紅茶と私が大切に冷蔵庫にしまっておいたメルズのコショネを人気者に差し出す。

　「そんな気を使うような真似は…ただ私は今日、あなた方にささやかな歌と踊りを届けに来ただけですから」と、これまたシリウスのような光を伴う微笑を見せる人気者。

　「よかったら、これもどうぞ」と私。棚に置かれたバナナを人気者に全力でぶん投げる。私の投げたバナナは人気者の頬を打つ。妻の蹴りが私のこめかみを打つ。

　痛いよハニー。本当に。痛い。

>>ははっ、うん、ぐずぐずでも良いや。
　まだまだ続くさ。どうぞお楽しみに。

　次「砦」。よろしくさん。