サン・ピエトロ広場に話を戻します。繰り返し強調しておくと、この広場は楕円形です。したがって、この広場の中心は一つに閉じられてはいない筈です。中心にあるようにみえる一つの塔(オベリスク)は、ベルニーニにとっては、見せかけの中心だったと思います。仮にもこの広場は、一神教たるキリスト教カトリックの総本山、ヴァチカンに作られた広場ですから、オベリスクを堂々と二本建てるわけにもいかなかった。私の推測ですが、ベルニーニは、一神教であるキリスト教が、実は異和的な他者なしには立ちいかないシステムであったことを、見抜いていたのだろうと思います。私の考えでは、それが、カトリック教会が持つ本質的な性質です。サン・ピエトロ広場の列柱廊は、左右両方に分かれています。4列ある列柱がぴったり重なって見える地点、"CENTRO DEL COLONNATO"は、それぞれの列柱廊に対してそれぞれ一ヶ所ずつ、すなわち、広場の中に、二ヶ所あります。これらがサン・ピエトロ広場の本質的な中心点です。この二地点以外の場所に立った場合は、列柱が交錯して壁のようになり、サン・ピエトロ広場は外界から閉じられた空間となります。しかし、この二地点に立った時に初めて、サン・ピエトロ広場は、外界に開かれた空間になります。本質的な二つの中心点は、異和的な他者に通じています。カトリック教会にとっては致命的な風穴でもあり得るし、清々しい外界への窓でもあり得る。ベルニーニは、このことをよく知っていたのだろうと思います。彼の作品を見ていると、そう感じます。