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意味不明小説(ショートショート)コミュの読まないK

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 英語には、読まないKがある。「knife」とか「know」とか、中学生の頃に苦労させられたやつだ。ちょっと気になって調べたところ、これは黙字というもので、元々は書いてある通りに発音していたけど、言いづらいから言わなくなった、というものらしい。実際はあるのに、言いづらいから言わない。なんだか妙な感じもするが、日常でもよくあることだと思う。
 大学の頃、サークルで知り合った年上の女性との出来事。聡明で、人当たりも良く、話題も豊富で、派手さはないが、綺麗な女性だった。電車に揺られて、どこかへ向かっていた。まあまあの移動時間だった、と記憶している。ずっと立ちっぱなしだったが、彼女との会話が楽しくて、退屈も疲れも感じなかった。すっかり話に夢中になっていたおり、ふいに突然、うっすらとだが確実に、鼻毛がとび出していることに、気が付いた。それからは、鼻毛が気になってしまい、話が一向に頭に入らない。よせばいいのに、鼻毛にばかり目がいってしまう。たまに、びろろろろと鼻息に震える毛。堪える笑いに、こちらは肩を震わせた。それでも結局、言いづらいから言わない。そうえいば、彼女のイニシャルはKだった。Kさんの、とび出すK。
 考えてみれば、世の中は読まないKであふれている。職場の人間関係を壊さないK。飲み会の空気を乱さないK。面倒なあいつとは距離をおきたいK。そのような理由で、実際はあるのに、言いづらいから言わない。そんな私にも、恐らく、というか確実にKはある。けれども周りの人は、それが気遣いからか、深入りしたくないからか、言いづらいから言わない。言われない私の、むき出しのK。だが、一番恐ろしいのは、自分自身が、Kに気が付いているのに、それを認めない場合だ。見栄なのか、プライドなのか、認めないK。さっさと受け入れちゃえば、楽なのに。
 朝起きて、カーテンを開けて深呼吸しよう。コーヒーを飲んでもいい。それから鏡の前で、鼻からKが出ていないか確認しよう。もっと見て、もっとよく見て。違う違う、鼻じゃなくて、顔全体。ほら、とんでもなく間抜けでしょ?まあ、結局のところ、そんな程度だ。


(終)

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