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「ポイントカードお持ちですか?」
 電車で席を譲ったお婆さんに話しかけられた。
「ポイントカードは?」
 僕は戸惑う。
「いや、持ってないです」
「お作りしますかいの?」
「え?」
 更に戸惑う。
「いや、いいです」
 ちょうど目的の駅に着いたので、足早に電車を降りた。
(なんだったんだ?一体……)

 空き缶を拾ってゴミ箱に入れた。
 公園のベンチに座っていたサラリーマンが新聞を置き、話しかけてきた。
「ポイントカードお持ちですか?」
「え?ポイントカードですか?」
「そう」
「いや……持ってないです」
「お作りしますか?」
「……いいです」
(何なんだ?流行ってんのか?)

 オフィスで。
「ありがとう山田君」
「いや、気にしなくていいよエリちゃん。こういうのは持ちつ持たれつだからさ」
「でも、いつも私の仕事手伝って無償で残業してくれて……なんだか申し訳ないわ」
「いや、ほんと全然」
「あ、そうだ。山田君ポイントカードは?」
「え?」
「持ってない?」
「……うん、多分」
「作る?」
「いや……いや、いいよ」
「……そう」
 エリちゃんは悲しそうに顔を背けた。

 子供たちが野良犬に石を投げている。
「やめろー」
 一喝すると囃し立てながら、自転車に乗って逃げてゆく。
「まったく、こんな時間になんで子供がうろうろしてんだ」
 犬、僕に近づいてくる。
「大丈夫か?」
「くーんくーん」
「また虐められたら大変だから、早くお家にお帰り」
「くーん」
「……お前……まさか、ポイントカードのこと聞いてるのか?」
 犬は勢いよくワンッと吠えた。
「持ってないよ」
 尻尾を畳み、去ってゆく後ろ姿。
「……犬まで」

 ドンッ!
 いきなり後ろから何かぶつかってきた。よろける。体勢を立て直す。
 見れば、やくざ風のおじさん。きょろきょろと周りを見渡し、慌ててビルとビルの狭い隙間に体を押し込む。
 街灯の明かりの外から、誰か走って来る音。また強面の人達、三人、うち一人は、胸ポケットに手を入れ何かを握っている。
「おいっ兄ちゃん。今誰かここ通らなかったか?」
「え?」
「さっさと答えろ!誰か見なかったかと聞いてるんだ」
「……いえ、誰も見てませんけど」
「そうか、じゃあこっちじゃないな。おいっ引き返すぞ」
 街灯の明かりの圏外に消えていった。ホッとするもつかの間。やくざ風のおじさんが隙間から出てきて――
「兄ちゃん。ありがとう。かばってくれて」
「いや、そんなんじゃあ……ただ怖かったのでつい」
「兄ちゃんさぁ。ポイントカードとかそっちの方どうなってんの?」
「……いや、持ってません」
「そう。どうする?作っとく?」
「え?いやその……」
「無理しなくていいよ。どっち?作るの?作らないの?」
「いや、今回は結構です」
「そうかい。じゃあまた次回よろしくお願いします」
 そういっておじさんは反対側の灯りの外へ消えていった。

 無数の足音。
「おいっ、いたぞっ!追えっ」
 さっきの人達がまた戻ってきて、やくざ風のおじさんの後ろ姿を追いかけていった。
 僕は立ち去ろうとしたけど、引き返してきた一人が――
「兄ちゃん、さっきはよくも騙してくれたな」
「いや、そんなつもりは」
「おめぇ、アイツとどういう関係だ?」
「いや、たまたま、さっき会っただけで」
「じゃあなんで匿った?」
「匿ったつもりは……」
「学生さん?」
「いや、会社員です」
「ポイントカードは?」
「え?持ってません」
「じゃあ……死ね」
 男が胸ポケットから手を出すと、そこにはドラマとかでしか見たことのない黒光りする金属の塊が……


 眩しい、閉じていた眼を恐る恐る開く。目の前に金髪の少年が全裸で宙に浮いている。背中には小さな白い羽。
「ようこそ、天国と地獄の境目へ」
「え?僕……死んだんですか?」
「そう、君、すごい呑み込みが早いね。説明する手間が省けて助かるわ」
「はぁ……僕、死んだんですね」
「そう。で、今から天国行きか地獄行きか決めるんだけど、まずはポイントカードを見せて」
「え?……いや、持ってないです」
「うぉっ!持ってない?そりゃあまずいなぁ」
多分天使……いや、間違いなく天使な少年は顔を曇らせ。
「地獄行きです」
「え?……そうなんですか?」
「そうなんです」
「なんでですか?」
「だって。ポイントの確認ができないんだもん」
「そんな……」
 ガシッ。後ろから何かに両肩を掴まれた。
「うわーーー、嫌だ。助けてください」
「助けてあげたいよボクだって。でもポイントカードがないとどうしようもないんだ。ゴメンね」
 掴まれた肩に激痛がはしる。僕の体が宙に浮き、ゆっくりと『地獄』と書かれた看板の方へ連れてゆかれる。看板の脇に人間一人がぎりぎり通れるくらいの穴がある。ふしゅふしゅと音を立て、黒い気のようなものが立ち込める穴、きっと地獄へ通ずる穴だ。
「あああああ、こんなことならポイントカードを作っとけば良かったあああ」
 穴の上で体が止まる。肩を掴む何かが、力を緩めたその瞬間。

「待ちなさい」

 明瞭で一際大きな声。強い光が辺りを照らす。金属がこすれるような音の群れ、音楽のように辺りに響く。
「天使よ。どうしてその者を地獄へほうり込もうとするのですか?」
「だ、大天使様」
「その者は生前、多くの善行を行いました。地獄ではなく、天国へ行くべき者ですよ」
「分かってます。でも、この人ポイントカード持ってないんです」
 大天使は、慈悲深く微笑み――
「天使よ。人を裁くのはアナタでも私でもありません。法です。すべての者は定められし法によって裁かれるのです。分かりますね?」
 天使は項垂れて小さく「……はいっ」
「ポイントカードのない者は地獄行き。これが法の定めです。ではさようなら」
「えっ」

 僕は奈落へ落ちていった。

コメント(2)

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