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意味不明小説(ショートショート)コミュの涙腺銀行

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 今朝、預けておいた涙を取りに行ってきた、涙腺銀行に。

「だいぶ貯められましたね」
 窓口で言われた。3か月分、3か月我慢して貯めた涙だ。それなりの量になって当然。
「全部、引き出します」
「全部ですか?」
 驚いた様子だ。
「全部ですと、ご帰宅される前に零れてしまう恐れがありますが」
「構いません」
 きっぱりと言った。1本のバスに乗って帰るだけ、泣きながら帰ったって一向に構わない。
「ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
 自動ドアが開く間に、背中で聞こえた。
(もう、涙を貯めるのはよそう)
 貯めたっていいことなんてまるでない。その都度泣けばいい。子供のように。私はもう、一周回ってそれが許されるほどの年齢に達している。

 なんとかマンションまで零さずに帰れた。紅茶を入れて、机に座って、フォトフレームを目の前に置いて、泣いた。

 泣いた。

 泣いた。

 3か月分、いっぺんに。

 セカイが歪んでいる、私の悲しみで。今どんな絶景を見たって、歪んで見える。光点が放射状に煌めく、歪んだ景色の中で、美しく。それが私には更に悲しい。

 夕方になった。
 いかに3か月分といっても、多すぎはしない?私の涙。この3か月でこんなに悲しいことが起こっただろうか?うれし涙なんて、何年も流していないし。

 銀行に電話をした。
「今朝、涙を下ろした者ですが」
「ええ、どうなさいました?」
「量が多いような気がするんですが」
「ちょっとお待ちください。お調べします」
 あごを伝いまた一滴落ちた。とめどない。
「やっぱり、多かったでしょ?3か月分よりもだいぶ」
「いえ、そんなことはありません。間違いなく適正な量をお返ししております」
「え?でも実際に多いの、こうしている今も涙が止まらないんですよ」
「ああ分かりましたお客様、利子です」
「え?」
「利子です」

 やはりもう、涙を預けるのはよそう。

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