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意味不明小説(ショートショート)コミュの銀翼竜と矮翅蝶

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 竜が銀の翼をゆっくりと伸ばす。翼の先端にある爪が天に刺さる。一息に翼を下す、風雲が起こり雷雨が地上に降り注ぐ。天に刺さった爪が青空という幕を引きずり下ろすことで、幕の後ろに控えていたセカイの素顔を露見させた――そんなシーンだ。竜は大儀そうに顎を開け、落ちてくる雷を飲み込む。じっと空を見上げ動かない。全身に漲る力を楽しんでいるかのようだ。
 黒一色の雲に雷紋が横走りする。次の雷が起ころうとしている。いよいよというそのとき、竜眼に小さな影が映った。成長不全の翅でよろよろと飛ぶ小さな蝶だった。

「すいません。翅が不自由なもので」
 若い蝶は、小さな翅をはたはたと世話しなく動かし、必死に竜から遠ざかろうとする。しかし竜の周りに渦巻く風が、蝶を離さない。
「竜さん。この風を止めてもらえませんか?」
 竜は眉間に皺を寄せ。
「風?嗚呼、この風は俺の息だ」
「ではちょっとの間だけ息を止めてください。その間に私は遠くに行きますから」
「いいだろう」
 竜は息を止めた。蝶は翅を激しく上下させ、竜から遠ざかろうとする。竜はしばらく息を止めていたが、耐えきれなくなり大きく息を吸う。その途端、蝶が風に巻き込まれ竜の体にぶつかって落ちた。
「いてて」
「大丈夫か?」
 竜が覗き込む、蝶の翅に目が留まる。蝶自体小さいのだが、その翅は体の大きさからして比率的に小さすぎるように見えた。竜は蝶の翅の美しさに見とれた。雷光やオーロラと同等の美が、小さな翅に集約されている。
「美しい翅だな」
 蝶は怯える。
「貴方の翼の方が立派で美しいです」
 竜の翼は銀。無数の鱗で覆われた翼。鱗の一枚一枚、その根元は目も眩む輝きを放っている。しかし外縁は燻されてたような錆び色、根本から外縁へのグラデーション、その彩の移り変わる様が、竜の生きてきた年月。ただ銀ピカなだけの若い竜の鱗とは比べ物にならない凄みがある。そんな鱗が幾千幾万も連なっている、竜の銀翼。
「蝶よ。この翼とその翅を取り替えてくれないか?」
 蝶は戸惑う。
「どうして?そんなことを言うのです?その美しい銀の翼と私のよれよれの翅を交換しようだなんて……」
「俺はもう、この翼に飽きたのだ。雷や風を食らう毎日にもな。お前の小さくも美しい翅をこの背に乗せて余生を送りたい」
「飛べなくなりますよ?」
「構わない。地竜になるだけだ」
「でも……」
 蝶は困惑しきりだ。竜は諦めない。
「この翼が欲しくないのか?一回の羽ばたきで三千里は行くことができるぞ。さっき俺が
やっていたように、風を呼んだり、雨を起こすこともできる」
 蝶は考えた。雨を降らせることができれば、あの枯れ野原を再び草原に戻すことができるかもしれない。
「分かりました。交換しましょう」
 こうして、竜と蝶は翼と翅を交換した。

**********************

 蝶の場合。

 蝶は銀翼を羽ばたかせ、大空を舞った。空は真っ黒い雲に覆われ、激しい雨が矢のように地に降り注ぐ。乾ききった大地が水を吸う音、枯葉に落ちる雨粒が跳ね回る音、大気がゆっくりと湿り気を帯びてゆく音、それらが和音となって枯れ野原に響き渡る。
 地中の微かな水分に縋るように潜っていた虫たちが何事かと顔を出す。雨、一面の雨、歓声が起こる。蝶は笑った。間に合ったんだ。これで沢山の命が生き延びる。地に降りて仲間たちと喜びを分かち合おうとした。しかし、蝶は羽ばたきを止めることができない。銀翼を支えるには貧弱すぎる芋虫の体、地に降りれば翼からもげてしまうだろう。仕方なく蝶は上空で仲間たちの喜ぶさまを見ていた。

 数日後。
 眠ったまま滞空していた蝶は、目を覚まして愕然とした。もはや視界に、枯れ野原も草原もない。ただ一面となった水が地の果てまでも続く景色。
 仲間たちは溺れてしまったのだろうか?蝶は涙を降らせながら遠くへ飛び去って行った。

***********************
 
 竜の場合。

 竜は森に降りた。その威容に怯え、遠巻きにみている動物たち。竜は気さくに話掛ける。
「北限の空で虹色のカーテンを見たことがある。詳しく話して聞かせよう。さぁ、近くにおいで」
 動物たちは、警戒して近寄ろうとしない。一匹のバンビが大人たちの制止を振り払って竜の傍に駆け寄った。悲鳴が起こる。竜はにっこりと笑い。
「いい子だ。坊や」
 背中の小さな翅を振るわせた。動物たちはその巨躯にそぐわない小さな翅がぴょこぴょこと動くさまをみて笑った。
「皆もこっちにおいで、世界中を飛び回りこの目で見てきた色んな出来事を、聞かせてあげるから」
 動物たちは竜の傍に寄ってきて、話を聞いた。竜の話に聞き入る動物たち、竜の話は面白く、何日経っても尽きることがなかった。
 竜は体が重すぎて動けないので、動物たちが水や木の実を運んで来た。竜を取り囲んでその話を聞くのが、森の動物たちの日課になった。

 干ばつ。

 雨の降らぬ月が続く。森の木々は枯れ、地に枯れ葉と動物たちの死体が幾重にも重なった。バンビがよろよろと竜に水を運んで来た。倒れた、動かない。竜はどうすることもできずに、最後の水を口にした。必要な水分だった。
 小さい翅を羽ばたかせてみた。もう誰も笑わない。遠くを眺めるが、雲の欠片も見当たらない。
 必要な水分だったのだ。最後に涙を流すために。

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