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意味不明小説(ショートショート)コミュの怪人苦笑面相

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なんとなし翳(かげ)をわかてず、道端にはやおら突飛な骨董調の櫛(くし)の一本、ポツネンとして転がる。
それは軒並み閑静な住宅ばかりの、このシンカラカンした四丁目の門墻(もんしょう)高きの邸宅前にあっては、よほど意味深長な、と或る探偵小説のガヂェットのようにも思え、果たしてそこにウッカリ者な落とし主の、顔なき顔を思い浮かべて賢(さか)シラに歩み去るが、未だはじまってもいやしないこの未明の物語の、おおよそ合点がゆくコトの顛末(てんまつ)であるのか、俺は充分、訝しむ。
つまり、今、目の前に忽然と立ち現れた一本の骨董櫛という、常の路傍にはあるまじきの掛(かか)る不自然が、恐らくの其処に纏(まつ)わる数奇的な秘めたる所以(ゆえん)の数々を、忽(たちまち)と俺の脳裡に描き出したがるのだ。
そう例えば、其れが船舶舶来品の御櫛は、今を遡ること百有余年、と或る深窓の貴婦人の殊更に愛(め)で給(たま)いし日用具であったのだが、然(しか)して婦人は、今しも名に負う高名なる紳士との婚礼の儀を目前に控え、巨(おお)きな三面鏡の前に坐し、最(いと)麗しの乙女の振る舞いに、その御櫛を手に御淑かに髪を梳(くしけず)るまにま、憐(あわ)れ、不慮(ゆくりな)くも、荒(すさ)びてし狂徒奴(たぶれめ)の出し抜けの凶刃にかかり、惨たらしく寸々(ズタズタ)に惨殺されたのだとか、されなかったのだとか。
爾来(じらい)、傍(かたわ)らで婦人の嘆きの血を啜りし、かの御櫛もて、己(おの)が頭髪を梳る者あらば、忽ちと其の生気をば吸いとられるのだとか、されないのだとか。
依って、かかる猟奇な曰く付きに怖気(おじけ)た、何処ぞかの骨董マニアあたりが、もはや我が手には負えんとばかり、この道路ベタにひょういと投げ出すに至ったのだとか、至らなかったのだとか。
などと、目の前に転がるたかだか一本の櫛が、いよいよに脳髄迷宮の高き展望より俯瞰(パノラマ)する、怪人妖面相の笑い声さながら、なおもギザギザし、さらにギザギザとしてくると、『オロロンチョー、オロロンナー』の妖術朽みに思慮を惑わすものは、他でもない、この櫛本来の持ち主でもなんでもなく、やはり俺自身なのかとふと気付き、にわかに可笑しくなって、誰にも気付かれぬよう俯きながら、独り歯を剥いてクスクスと笑ったのだとか、笑わなかったのだとか。

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