ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

意味不明小説(ショートショート)コミュの幸せな気分【超短編】

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


部屋で音楽を聴いていると、どうにもたまらない気持ちになってきた。

踊りたくなった。
じっとしてると気分が落ちつかなかった。
部屋でクルクルとまわると、幸せな気分だった。天井をみあげ、窓を押しあけて、屋根に登りはじめた。

登りきると夜空がみえた。交差点が、青いネオンが、24時間営業のカフェが見えた。
幸せなそうに見える人や、しょぼくれた人や、アル中の物乞いや、不機嫌そうな老婦人や、野良犬が見おろせた。

「おおい!みんな!すごい夜だぞ!」

「うるせぇぞ!」

屋根の上で男は踊った。なぜなら音楽は力強く、とても幸せな気分だったから。足を滑らせて一階のファサードに墜落したあとも、幸せな気分は続いていた。

踊りたい気分。
それはなんて綺麗なもんだろう!




戦争中のことだった。

一人の男が、街をうろつきながら、近くにいた女の子を噛み殺した。

男はときおり雄叫びをあげ、やがてしくしく泣きだした。彼は自警団に捕まった。

前科者のホモで、少し頭が弱かった。
彼は殴られて、水槽におしこまれた。
そして、男たちのアレを咥えさせられた。
そのまま、水に沈めて殺された。
彼の頭は料理された。
それは年老いた女たちが食った。
茹であがった頭を骨ごと剥がしたとき、一人がキャッと悲鳴をあげた。



男は塔の上で生まれた。それから42年間に幾多のことがあったが、最大の驚きは生き物の存在だった。

それらは舞いこんで、ヒラヒラと舞ったり、暗い床をカサコソと這ったり、かと思えばじっと動かなくなったりした。

それらは時折、男を噛んだ。その痛みは自分以外がもたらすたった一つの物だった。

時間になると、部屋の隅からパンと水、たまにハムが投げこまれた。ある時、固く閉ざされていた扉がひらくと、警察官が入ってきた。彼らは男をみて息をのみ、やがて静かに涙を流した。

生まれてはじめて扉の外にでる事は、意外にもすんなりとやれた。
しかし彼らに付き添われ階段を降りはじめたとき、頭がクラクラして、吐いた。

地面に沈みこんでゆく恐怖は、今までの経験をはるかに凌駕する不快感だった。震えだすと、優しく肩を支えられた。

内臓がすべて頭から吸い出されるような気がした。カカトが階段を踏むたび、脳天へ悪寒が走った。

暗い気持ちが男を支配した。

足がもつれたが、左右から身体を支えられ階段を降りた。男の身体で起こっている事に警察は気がつかなかった。

階段を降りきったところで、男はついに死んでしまった。



ガキの頃の話だが、おれたちは知りあいから買った植物の種を、ハルの家の裏の畑に植えた。土に穴をあけ、種を落とし、適当に埋めてみた。マリーという名のゴールデンレトリバーが、そこで小便をした。

マリーはあまり手間をかけられていたとは言えなかった。水浴びは夏に一度だけだった。だから毛はボサボサで、いつも何かの液体でベトベトしていた。ハルの親父が作った犬小屋らしき物は、屁の一撃でカリオストロ城まで吹っ飛びそうだった。おまけにマリーはオスだった。しばらくすると人を噛んで、ハルの親父に蹴られて死んだ。可哀想なマリー。

植物はどうなったって?

そう、植物もまた、特別な手間をかけていた訳じゃない。退屈しのぎと、映画のような出来事に憧れた、他愛ない悪戯に過ぎなかった。おれたちは夜、二階の窓から裏の畑に向けて小便をした。水をやってるつもりでいたのだ。そのうえ一ヶ月も存在を忘れたり、飲みかけの缶ビールを畑に与えたりもした。今思いだしても、あれほどタフな園芸作法も無いだろう。

ハルの母親は狂人だった。脳死状態でこしらえたような黒焦げのスクランブルエッグを、かれこれ17年間ハルに食わせていた。

「兄貴が出てったコトを、おれは責めたりしないよ。こんなもんを何年も食わされたら、そりゃあ自分でなんとかやってこう、て気にもなるよ」

10年後、ニュースで街の下水道が氾濫し、カフェや警察署が浸水する騒ぎが報じられた。

検査局の人間が地下に降りると、異常に成長した非合法な植物が生い茂り、水道の流れを見事に塞いでいることが分かった。

おれはテレビを消して、近くにいた子供を抱きあげ、キスをした。そのあと電話をとりあげて、かつての友人に電話をした。

「ハルの家を覚えてるかい」

そう聞いてみると、友人は笑った。

「覚えてるとも!ひでぇアホ犬が居たよな」

「あいつはどうしてる?」

「知らないよ。工場で片腕をなくして、実家に帰ったらしいけどな」

窓の外を見ると、遠くから煙が上がっているのが見えた。



男にとって、何は無くとも洗顔料、そして汚れた身体を流し綺麗にしてくれる水は、なにより重要だった。

ケーキやパイのクリーム、泥水、ヌルヌルしたローション、樹液、ハチミツ、クールなところではクラゲなど、彼はいろいろな物を身体にぶっかけてきた。

彼がヨーグルトやゼリー風呂、ついにはカレーライスにまで頭から飛びこむことで観衆にもたらした胸のすくような思いは、そのいっときにおいて、彼ら人々を真に幸福にした。

霊感を得た人がいた。くだらなさを笑い、二人の新たな距離を見つけた夫婦がいた。彼の勇気に、心励まされた人がいた。当然、彼の真似をする人が現れた。

彼はいかなるコメントをも発さなかった。
そしてある日コンニャクゼリーのプールで溺れて死んだ。

彼は観衆に何を期待したのか?
それは彼にしか分からなかった。
しかし観衆の方は?それこそ彼の行為が今や、誰にも邪魔のできない神域に押し上げられた事実と関係がある。すなわち純粋な驚きや愉快なショック、あるいはくだらないクスクス笑いである。

それは決まりきった抑圧的な人生を一瞬、広々とした寛容さをもって"自ら許せる"瞬間だった。

人々は思った。"いったい私はいつどこで、ユーモアを見失ってしまったのだろう"?

いずれにしろ彼はもう居ない。願わくば天国、あるいは食べ物を粗末にした者の堕ちる地獄が、ヌルヌルした世界である事を祈るばかりである。



男は通りの奥まったレストランで、ようやくポープ氏を見つけた。

奥のテーブルに座り、メニューを見ながら、ウェイターに何か注文していた。男が歩いていくと、振り向いた。

しばらく口を開かなかったが、やがてポープ氏は穏やかに言った。

「バンギ料理は好きかな」

「私は務めを果たした。息子を返して頂きたい」

店は薄暗く、不思議な匂いがする。

ポープ氏は男に微笑んだ。

「言ったように、現行の法解釈ではまっとうな…」

「金は出来た。イイから早く、いや…金を用意したんです」

ポープ氏はため息をつくと、言った。

「掛けなさい」

男はそうした。

料理が運ばれてきた。冷製のポタージュに、芋虫がごろりと沈んでいた。

「この事態についてだが…」

ポープ氏は言った。フォークの先を使い、丸まった巨大な芋虫を弄んだ。

「子供は、護られねばならない」

次の瞬間、フォークは芋虫を刺した。芋虫は潰れ、ポタージュのなかに体液が飛び散った。萎んだ芋虫はぽたぽたと雫を垂らしゆっくりと口に運ばれた。ポープ氏はそれを噛みはじめる。しばらくして飲み込んだ。

「まあ、達成できるかぎりにおいてはね」

そう言うとポープ氏は笑った。

男は最初、目の前の男をただのお役所人種だと思ったが、いまは少し怯えていた。どうやらそういった相手ではなかった。そして、きっともう自分の子供は、この世に居ないのだという気がした。

ポープ氏はよく通る声の人物で、白くて満タンのゴミ袋のように太っていた。なぜそんな連想をしたのかわからなかったが。



「車に戻れ」

インカムから声がした。

「戻ってくるんだ」

男はショックのせいで動けなかったが、最終的には本能の部分が、20mほど後ろに停まる車に駆け戻らせた。

「俺に、もうこんなチャンスは無い」

興奮と怒りで上気した男に、リーダーが言った。男は応えずに、顔の血と泥を拭うと、ふたたび外を眺めた。他の撮影クルーの死骸が転がっている。

「おまえさんはイイか、まだ若いかもしれん」

「わかりました」

「死ぬのは俺も怖い。だがなぜ、ここにいる。なぜそれはお前なのだ?今大切なのは…」

「わかりました」

「心の底からわかりあうなんて期待するな。これが終わったら、好きにすればいい」

イナゴは目の前を埋め尽くしていた。

群れは、確実に東へと進んでいる。



コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

意味不明小説(ショートショート) 更新情報

意味不明小説(ショートショート)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング