ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

意味不明小説(ショートショート)コミュの朧月夜ににおい立つ

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


見上げれば、朧月夜が出ていて、灯のともし頃もとうに過ぎていたことに気付く。
「家のものは、」
と立ち上がり座敷へ足を向けた依緒は、相楽に抱き止められるかたちとなった。
「灯ならば、つけぬようわたしが頼んだのです」
何故、と依緒が口にする前に、相楽の手が依緒の後ろ髪を撫でるので、依緒は相楽の顔を見あげることもかなわず、ただ、口を閉ざした。
「貴女は本当に、庭を眺めるのがお好きですね」
相楽の上衣から、いつもの香のにおいと、夜気が漂いでるも冷たさは感じず、依緒も相楽と変わらず夜気を纏っていたことに気付く。
「今宵は十六夜です、朧月夜でもじゅうぶんに明るい――灯をともさぬのも趣がありましょう」
そう言い、相楽はしばらく依緒が何か言うのを待っていたが、何も言わないので、さらに言葉を言いつのった。
「梅がにおい立つ夜は、梅の精が舞うと申します」
「まあ。梅の精?」
「ええ。自然のものは灯を厭うものですから、灯をともさず待ちましょう。さあ、このままでは冷えてしまいます。酒などを持ってこさせましょう」
相楽がそう言うので、夕餉になった。
甘酒があまやかににおう。
どれほどの時が経ったか。どこぞの僧が梅の古木に天女が舞う様を見たという話や、梅のにおい立つころ山にあがった狩びとが人のように着物を纏った獣どもが梅を見上げ宴をしていたという話をぽつりぽつり語る相楽の声が、まだ、耳に残っている。話を聞きながら、いつの間にか寝入ってしまっていたらしい。見ると、相楽も静かに寝息を立てていた。
辺りは明るく、空の朧はとれて、月がうつくしく、輝いていた。澄んだ空とともに、辺りも清らかになったように感じられる。月にうつくしく照らされた庭を、ほうっと息を吐き、見ていると、梅の木の近くで赤や黄、白に光が揺れるのが見えた。
月の光か、と目を凝らし見るも、その光はそれぞれ好きに舞い、揺れているように思われる。梅の精か、と相楽を揺り起こそうと思うも、急ぎ動けば消えてしうように思われ、消えてしまうのは口惜しく、ひとり静かに欄干に身体を預けるのにとどまった。
梅のにおいとともに、赤や黄、白が揺れ、舞う様は、いつまで眺めていても飽きない。依緒は眺め続けた。
朝の陽光とともに、揺り動かされて、依緒は目を覚ませた。
「梅の精は・・・・・・?」
相楽は首を傾げ、わたしは見なかったよ、と答え、わたしは見ましたと依緒は笑った。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

意味不明小説(ショートショート) 更新情報

意味不明小説(ショートショート)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。