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意味不明小説(ショートショート)コミュの針を置く

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彼はじっと見ている。漫画をめくる音。これは僕。静かに時間が流れる。針をスッとあげて、彼は首を横にふる。
ついにヘッドホンを外してしまう。

僕はため息をついて、漫画を伏せた。
「やっぱもう無理だよ、それ」彼はしばらくアームのバランスを調整する。僕がまた漫画を手に取った時、声がした。
「ホームセンター行かない?」
「もう無理だと思うけどね」
僕らは出かける。

巨大なホームセンターで鉛のテープを買った。カートリッジに貼って、針を重くするため。

空は青黒く暮れかけていて、向こうの方は、硫黄が燃えつきる瞬間のような色だった。僕らはいつものように車を走らせた。度をこえて殺伐とした、流れる町並みを眺めながら。

帰りに事故を見た。婆さんと乗用車。婆さんはアスファルトに横たわって、動かない身体に黄色いレインコートがまとわりついていた。 僕はケータイで写真を撮ろうとして、やっぱりやめた。撮れなかった。

ここは誰かがやって来るところじゃない、僕は常にそう思っていた。僕は常に、ここで産まれた事に何か前向きな意味を見出したかったのだ。
(ここにいては全てがダメになってしまう)
あっけないまでにここは、出て行くべき町だというだけだ。そして僕らは未だにこの町に生きている!それは珍しい事じゃない。
「コーナーショップ、聴いてる?」
運転しながら、彼は尋ねる。
「ちょっと待って」
僕は彼が流していたパリス・ジョーンズを止めてから、彼のiPodの代わりに自分のを車に繋ぐ。
「あんの?流石だぜ。お前って」
僕は答えずに、自分のiPodからキンクスを選んでかける。曲が流れ出す。

"汚れた川よ
流れていけ
夜の闇の中を"

「コレだろ?あれカバーなんだ」僕は少し早口に言う。「ああ、これだ」彼は言い、僕と彼はふたたび黙った。

"人々はとても忙しそう
そんな姿を見ていると
めまいがしてくる
タクシーのライトが
眩しく光る

でも僕は友達なんていらない
ウォータールーの夕陽を眺めていると
楽園にいるような気持ちになるから

毎日僕は窓辺から世界を眺めている
夕方はとても寒く冷え込むけれど
ウォータールーの夕陽は美しい"

「コレだな」
「これさ」
「ウォータールーって、何?」
「地名だよ」
「どこの?」
「ロンドン」
「マジだ。ロンドン」

国道の交差点を右に折れる。
すると綺麗に舗装された道が終わった。
僕らは地元に、帰りつつあった。僕はなぜか口をひらいた。

「アレさ、針がダメなんじゃないだろ。傷が問題なんだよ」しかし彼はニヤリと笑って僕は彼の事を、本当に愛しく思った。

「いや、針だね。絶対に大丈夫だよ。こいつをはっつけて、まあ見てろよ」

部屋に帰ってきた僕らは、そのままターンテーブルのスイッチを入れて、もう漫画には目も向けない。彼の猫がベッドで寝ている。

彼は針を外し、テープをはっつけて、またアームに取り付ける。

「これでオーケーさ」

僕はタバコに火をつけ、ヘッドホンを頭にかぶる。

33回転のボタンを押して、再生ボタンを押して、レコードに手を触れ、回転を押さえつける。針を置く。
手をそっと滑らせた。

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