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意味不明小説(ショートショート)コミュのBOY MEETS GIRL (後編)

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 蒸し暑い夏の日々は過ぎて行き、面倒な学期末試験も終わり、ようやく夏休みが始まろうとしていた。そんな中、美鈴は生徒会室の中で他の生徒と一緒になって大掃除を行っていた。あの日の拓海からの申し出はきっぱりと断った美鈴だったが、代わりに生徒会の手伝いを頼まれる様になり、いつの間にかこうして生徒会の一員の様な役割を占める様になっていたのだった。
「ゴメンね、霧島さん。いつもいつも手伝ってもらってさ」
 箒を手に持ちながら、拓海が美鈴にそう言った。頭脳明晰、冷静沈着。典型的な優等生で、友人の話ではどちらかというと冷たい印象をもたれがちなタイプなのだそうだ。生徒会の中でも拓海の存在を恐れられている生徒は数多くいるが、美鈴の前では借りてきた猫の様に大人しい。
「先輩。本当に“申し訳ない”って思っているんだったら、もう少しその気持ちを表情に出してくれませんか?それと、いい加減、教室まで誘いに来るのもやめてください。それでなくっても、みんなから変な目で見られるし・・・」
「何で?僕はまったく気にしていないけど!むしろ、変な目で見て・・・」
「あたしが気にするんです!!」
 牧亮介と霧島美鈴の噂は、広がったのと同じくらいの速さで終息していた。理由はまったく単純なものだった。何しろ、亮介に正式に彼女が出来たからだった。
 亮介が美鈴たちの教室に突然やって来たあの日の事を、美鈴は今でも覚えていた。一瞬にしてクラスが大騒ぎになって、誰もが亮介の次の行動を興味深そうに目で追っていた。亮介は美鈴の方を一瞬だけ見ると、美鈴の席は通り過ぎて、夕貴の席までやって来ていた。
 目の前に立っている亮介の姿を見て、夕貴は酷く怯えた様な表情を見せていた。亮介は黙って夕貴の腕を取り、二人は教室を後にした。
「しかし、驚いたよね。あの亮介が自分から告白したんだから!昔からアイツの事はよく知っているけど、まったく信じられないよ。霧島さんはどう思う?」
「・・・・どう思うって、そんなのあたしに分かる訳ないじゃないですか!」
「そっか。それもそうだね。亮介の彼女って君の親友って話じゃない?だからさ、何か聞いているかな・・・って思ってね。ほら、亮介って僕と違って無愛想で、何考えているか分かんないからさ、肝心な事は親友の僕にも教えてくれないんだ」
 夕貴とはその日からすぐに仲直りが出来た。牧亮介との噂も完全に消えてしまい、全ては元通りになったと言えるだろう。目の前にいる生徒会長の存在を除いては・・・。美鈴に言わせれば、亮介よりも拓海の方が掴みどころのない様に思えて仕方がなかったが、本人を目の前にしてそれを言うのは差し控えておく事にしたのだった。
「霧島さん。あなた、こんな所でお喋りしていていいの?もうそろそろ、練習が始まる時間じゃなくて?」
 副会長を務める由香里に言われて、時計を見ると時刻は16時を過ぎていた。
「あっ、いけない。それじゃあ私、練習始まるんで、これで失礼します」
「え〜、もう言っちゃうの。一日くらい練習休んだって大丈夫だよ。何にしろ、中学女子の部の記録保持者なんだからさ!」
「ダメです。もう大会も近いですし、一日練習を休むと、取り戻すのに三日はかかるんですよ。それに先輩、最初に約束しましたよね?空いている時間だけにして下さいって」
「霧島さん。悪いんだけど、下に行くついでに、このゴミも一緒に捨てて来て下さらないかしら」
 由香里はそう言って大きなビニール袋を美鈴に押し付ける様にして手渡すと、間髪いれずに拓海の方に向き直りこう告げた。
「会長、来月の生徒会の運営の事で御相談したい事があるんですけど、ちょっとよろしいでしょうか」
 拓海の顔が一瞬にして生徒会長としての顔付きに戻った。こうしてみると、拓海だってなかなかのイケメンじゃないかと美鈴も思うのだった。校内に拓海の隠れファンが多数いるのも頷ける。
「じゃあ、あたしはこれで失礼します!さようなら」
 美鈴はそれだけ言うと、急いで生徒会室を後にした。生徒会室はいつも、由香里が掃除しているお蔭でゴミなんか塵一つも落ちていない。一体、何処からこれだけのゴミが現れるのか、不思議で仕方がなかった。
「土屋先輩、あたしの事が嫌いなのよね。だけど、何でだろう?あたし、なにか悪い事したかな。おっと、いけないけない。急がなくちゃ」
 そんな事を呟きながら、ゴミ袋を半ば引き摺る様にして階段を駆け下りた美鈴の目に、校門付近で仲良く下校する亮介と夕貴の姿が見えた。今ではすっかり打ち解けた雰囲気の二人は、誰もが羨むベストカップルだった。夕貴からはこれまで何度も亮介についての話を聞かされていた。亮介の事を話す夕貴はすごく楽しそうで、美鈴は本当に良かったと思っている。亮介も初めの印象とは違って、案外悪いヤツじゃないのかもしれない。夏休みになったら、二人で一緒に花火大会に出掛ける約束もしているらしい。ちょっぴり羨ましい気持ちと一緒に、美鈴の脳裏に一瞬だけ先ほど見た拓海の顔が浮かび上がったが、すぐさま打ち消すと、ゴミ捨て場へと走り出した。
 すっかり日の暮れ始めたグランドの隅には、ハイジャンプ用のマットが置いてあった。
 あたりはいつの間にか夕暮れ色から薄紺色に染まりつつあり、さっきまで見えていた筈のバーも今ではすっかり見えにくくなっていた。美鈴は呼吸を整えると正面を睨み、軽やかに助走を始めた。そして、踏切まで来ると思い切り地面を蹴って、背中を向けて足を振り上げる。
「助走は悪くなかった。バーとの距離もまだ十分に余裕がある。後は踏切のタイミングだな」
 マットから起き上がって確認するまでもなく、飛んだ瞬間にバーが身体に当たって地面に落ちてしまったのは分かっていた。
「霧島、今日はもう暗くなってきたから、この辺で上がれ。大会が近いからって焦る気持ちは分かるが、無理して怪我でもしたら元も子もないぞ」
「・・・はい。ありがとうございました」
 陸上部の顧問でもある森田先生の言葉が優しく聞こえた。



 
 その日は花火大会だった。すっかり日も暮れた夜道を歩く拓海のすぐ隣には、由香里の姿があった。
「会長、すみませんでした。すっかり遅くなってしまって」
「・・・いや、別に構わない。君は良くやってくれている。君の手助けがあってこその生徒会だ。それについては僕も含め、誰も異論を挟む者はいないだろう。お礼を言うべきなのは、きっと僕の方だと思う。本当にいつもありがとう」
「・・・そんな・・・私は副会長として、自分がやるべき事をやっているだけで・・・でも、そう言って頂けると、嬉しいです」
 花火大会の見物客なのだろう、表通りに出ると、そこは普段よりも大勢の人で賑わっており、色鮮やかな浴衣を纏った若い女性の姿が目を引いた。時折、浴衣姿のカップルとすれ違う事もあったが、拓海は行き交う人々の姿には目もくれず、ただ帰り道を歩いていた。拓海と由香里の向かう先は人の流れとは反対方向になるため、人混みの中を縫うようにして歩かなければならなかった。由香里は、時々人混みの中に紛れてしまいそうな拓海の姿を見失わない様に、必死で後を追いかけていた。こうして折角二人っきりになれたのに、思うように会話をする事すら出来ずに、時間ばかりが過ぎて行くのが酷くもどかしくて仕方が無かった。いずれにしても、この人混みの中ではまともに会話を交わす事は出来なかっただろうと自分に言い聞かせると、手を伸ばせば届く距離にある拓海の右手を見つめながら、黙って歩いていた。
 拓海が突如立ち止まったのは、そんな時だった。
「会長、どうかしましたか?」
 由香里の質問には答えずに、拓海は何かに向かって足早に歩き始めた。その行く先には、霧島美鈴と一緒に男子生徒が立っていた。
「あれ、もしやと思って来てみたんだけど、やっぱり霧島さんだ!まさかこんな所で出会えるなんてね」
「・・・・・・た、拓海先輩!?どうしてこんな所に、先輩がいるんですか!」
「それは僕の方が聞きたいよ。えっと、君は確か・・・」
「1年の杉浦です。こんばんは。あのコレはですね、たまたま偶然出会ったというか、何というか・・・コイツがこの前のボタンのお礼で・・・・イテッ!何すんだよ、美鈴!」
「この間、私が落し物をしたのを、杉浦君が一緒に探すのを手伝ってくれたんです。そのお礼って訳じゃないんですけど、たこ焼きくらいは御馳走するって約束しちゃったんで、それで今日は一緒にいるだけなんです。本当なんです」
「そうか。それなら一安心だ」
 太一は明らかに居心地が悪そうだった。美鈴も最初のうちは罰の悪そうな顔をしていてが、遅れてやって来た由香里の姿を見て、途端に意味深な笑みを浮かべるのだった。
「あれ〜、そういう拓海先輩こそ、今日も土屋先輩と一緒なんですね」
「生徒会の仕事が遅くなったんだ。あぁ、そうそう。自転車の鍵を拾ってくれた相手の場合には、何が御馳走してもらえるのか?」
「えっ、それは、その・・・拓海先輩、ズルいですよ!」
「いやいや。冗談だよ、冗談。もう忘れちゃったんじゃないかと思ったからさ、一応聞いてみたんだ。僕があの時、あの場所で、君に伝えた事も含めてね」
「あれっ、美鈴じゃない。それに杉浦君も。こんな所でみんなと出会うなんてね」
 声のした方を見ると、そこには亮介と夕貴の姿があった。亮介は紺無地の、夕貴は紺地に花柄を模した浴衣姿だった。


   *   *   *


 6名の少年と少女は、その夏にこうして出会ったのだった。それぞれの思いを胸に秘めて。彼らは自分でも気付かない想いを知り、お互いの関係の中で悩み苦しみ、想い人に振り向いてもらえない辛さを味わったりする事になる。それが夏に特有の束の間の恋として昇華してしまうのか、これから先も続く特別な関係の始まりなのかは、まだ誰にも分からない。
 ただ一つだけ言える事。それは、少年が少女と出会ったという、たったそれだけの出来事で、この世界に物語が生み出されるという事。「ボーイ・ミーツ・ガール」の言葉通り、ありふれた恋の物語が、これから始まりそうな予感がするという事。

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