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意味不明小説(ショートショート)コミュの夕焼け空を見上げて思うには

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 ひらひらと、無声映画じみた音を立てて、一枚の真っ赤な葉が散った。
 秋の空はどこまでも、ぼやけて高く。見上げていると、自分が今どこにいて、今がいつで、なぜ空を見上げているのかさえも朦朧としてくる。
 目の前を、今しがた散った葉が、揺れながら落ちていく。足元は幾億枚もの落ち葉で覆われている。その仲間入りをしようと、真っ赤な葉が地面に落ちる。
 これで、残すはあと一枚となった。
 細く、空を掴むように伸びる枯れ枝には、一枚の、金色に輝く葉があった。風になびかず、枝にしがみついている。
 その姿がまるで今の自分のようで、自然と笑いが込み上げた。
 ひとしきり笑うと、僕は一歩踏み出して、枝によじ登る。足場になりそうな窪みを選びつつ、登る。そう手間取らずに、金色の葉がついた枝まで辿り着く。
 掌に染み出す汗を上着で拭い、枯れ枝をそっと握った。時を感じさせる、厳かな体温を感じる。
 これで、最後だ。
 どことなく悲しい気持ちに駆られて、それでも、僕は一心に枝を揺らした。ぶるぶると枯れ枝は震え、やがて金色の葉もぶるぶると揺れ始めた。もう少し。もう少しで、この世界は終わる。
 最後は決まって、あっけない。なんともなしに、最後の葉が、ひらりと枝から外れ、宙に舞う。
 刹那、世界は終わりへと向かう。金色の光が、地面と空の間で揺れる間、秋雲の霞む夕焼けの空は、一枚、一枚、ぺらぺらとジグソーパズルが剥がれるみたいに、ゆっくりと崩れていく。
 僕は枯れ木のてっぺんで、その様子を見上げる。
 音もなく、舞う、夕焼けの空。
 金色の葉が、大地に降り落ちる時には、全ての空がばらばらと落ちてくるだろう。
 そうして、秋は終わるのだ。
 無事に、季節が移り変わる。
 夕焼けの空は、純白の雪となって、世界へと降り積もる。
 仕事を終えると、僕はいつもの通りに考え事をする。こんなこと、いつまで続けていれば良いのかって。
 春は言った。
「たとえ人間が死んでしまったあとでも、他の生き物がいるのだから、きちんと四季を廻すべきだよ」
 夏は言った。
「四季を廻すことがオレたちの仕事だ。そこに疑問を挟む余地なんかないだろ」
 冬は言った。
「誰の為でもないわ。世界はただ、そうなっているだけのこと。私たちもその一部分だということを忘れてはならないわ」
 では、僕は。
 僕は考える。
 大きな戦争で、人間たちがいなくなって、何年経ったのか。ただただ、日は昇り、沈み、季節が巡る、それだけなのだ。
 僕は何の為に、四季を廻しているのだろうか。
 分からなかった。いくら考えても、誰に訊いても。
 ただ、四季を廻すのが僕なのだ。それをやめてしまったら、僕でなくなってしまうような、気がして。
 足元に一枚残った、金色の葉を摘まみあげて、眺める。
 ひどく綺麗だ。
 この葉だって、どうして、生きているのだろうか。誰の為に生まれて、誰の為に散るのだろうか。
「あなたは考え過ぎなのよ」
 後ろで声がした。そこには冬がいた。
「さあ、これからは私の季節なのだから、あなたは寝ていなさい」
 そう言われれば、なんとも眠くなってくるのだ。仕事を終えたのだから、当然だ。
 周囲はもう、真っ白な雪で溢れている。
「それ、どうしたの」
 去ろうとする僕に、冬は言った。それ、とは僕の持つ一枚の金色の葉のことだった。
「一緒に寝ようと思うよ」
「変なの」
「綺麗だろう」
「分からないわ」
「そう」
 僕も、分からない。どうして、この葉が綺麗だって思うかとか、どうして僕らは四季を廻すのかとか、何も、何も。
 でも、この金色の葉を胸に眠れば、何か分かるような、そんな気がしたのだ。
 怪訝な顔の冬に、手を振る。
「それじゃあ、おやすみ」
 希望を胸に抱いて、僕は安らかな眠りについた。


コメント(4)

うわぁこれいいですね!!
静かな寂しさと温かみがあってここ最近よんだリコリスさんの話の中で一番好きです。「あなたは考えすぎなのよ」と言ってくれる存在がとても素敵。
>>[1]
 ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しい限りです。
 最近、愚痴をこぼす僕に「考え過ぎだよ」って周りが言ってくれるのがすごく支えになっていたので、それを少し書いてみました。
 ついついいろいろなことを考えてしまうのって、季節だと秋かなー、なんて思いながら。
>>[2] 自分が言われて嬉しかった言葉って人に伝えるときも重みがありますよね^^
この四季の考え方の中ではわたしは冬が一番好きかなぁ。
>>[3]
 どの季節の考え方も、何かを守る為の自分なりの信念のようなものだと、今読み返してみて思いました。
 春は生命、夏は責任、秋は自己、冬は規律、といった具合に。
 夏っぽい人多いよなあ、とか思いつつ(笑)

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