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意味不明小説(ショートショート)コミュの【DEVIL DIVER】 14

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授業中何度も何度も、神前濱子は、鈴ケ嶺衿の後姿を見つめなおした。ショートヘアーの襟首を、欲情すら伴う感慨で凝視する濱子――そうしていると不思議、不可抗力的に、かの親友との懐かしい映像が、脳裏にフェードインしてくる――

*****

 リンに初めて話しかけたのはいつのことで、どういった状況下であっただろうか……いつ?――確か始業式を終えたばかりの教室で、クラスメイトそれぞれが、気の合うままに数人数の塊を作って、取り留めのない談笑をしていた時――私は私で、中学の友達2、3人と人塊になって何かどうでもいい話をしていたはずだ――

 その時リンは……確かに一人だった。

 一人ぼっちで現国の教科書を開いて、絶対に面白くもクソもないはずの、古の小説を眺めていて、その眼が、家族の誰にも食べてもらえずに、ゴミ箱に棄てられてしまう直前の、半熟目玉焼きに似た退廃的トロミを帯びていて、今にも机の上にポトリと落ちてしまいそうな風情だった。

 私は――「ちょっとごめん」と、何に対してなのか非常にあやふやな謝罪を中学の友達に告げて、人塊の群れから抜けだした。リンの側まで数メートル、私は歩いたはずだ。その時に何か思っただろうか……覚えていないな……

「おはよう」

 私の切り出しはそれだった。ありふれた朝の挨拶だった。時刻は午前中ではあったが、すでに昼前、しかし、「こんにちは」にはまだ少し早い時刻な気がしたし、何よりその響きが他人行儀に思えて、私には逆に発音しづらかった――その感覚なら、すごく鮮明に覚えている。

「……おはよう」

 絞りだすように、リンはそう言った。長時間黙っていたため、喉が潤い値0になっていた模様で、リンの発した「おはよう」は嗄れていた。私はシンプルに笑った。

 あの時リンは、私が何に対して笑ったのか理解していたのだろうか?ともかくもリンは私の笑みに対して、きっかり同当分の「笑み」を返してきた。私はちょっとだけギョッとした――なにしろリンのその笑みは、さきほどの嗄れた「おはよう」と同類、長期間人に向けたことのない「笑み」を、久しぶりになんとか再現してみせましたという体の、大変にギコチのない笑みだったのである――若干ではあるが、それは機械的で、そういう意味では少しだけ不気味だった。

 ――思えばそれが、彼女の孤独を知るキッカケだったのだろうなぁ。その時、私は気にも止はしなかったけどもね……

 それ以来である。何故かリンと私はツルむようになった。何かにつけて、二人で行動することが多くなった、のだが、リンと私、クラス内での立ち位置は確実に違っていて、私はクラスメイト誰とでもある一定以上は、親しい関係を維持していたのだが、リンは違うくて、私以外のクラスメイトと、会話したりすることはほとんど皆無であった。つまり――リンの友達は私一人だったのだ。

 リンの私への態度――私はそれをどこかギコチのない演技のようであったと、今にしては思う。彼女の振る舞いのすべては、ドラマや漫画の中に描かれた「理想の親友」、その言動笑顔一挙手一投足をなるたけ正確にトレースしようと、必死になっている風に見て取れる――今にして思えば、という話だけどね……アイツ無理してたのかな……

 でもねリン――本当にアンタは、孤独で居たかったの?いつまでもいつまでも、高校の長い長い3年間を、ずーと一人、誰とも会話することなく、庭石裏の虫のように息潜ませて過ごしたかったと、そういうわけ?
 私と一緒にいることが、アンタには苦痛だった?私の中に確実に存在している、楽しかった二人の思い出は――教室の窓枠に接して存在している、青空に浮かぶあの白い朝月のように、半欠けの淡い存在?

 毎朝――地獄坂の麓で、リンは私を待っている。

 私の毎朝の日課――一度も足を地に着くことなく、一気に急傾斜の地獄坂を登坂するという、リターンの皆目もない挑戦――必死の必死で坂を登り切ったところで、何か賞が貰えたり、誰かに称えられたりするわけもない、まったくの無意味。それを、リンは隣で微笑み、見守り、応援してくれる――「頑張れー」って言ってくれるし――ゴールしたら「おつかれ」って笑顔で… ・ダメだ泣いちゃいそう……

 もしも今日この後、放課後、リンと私、殺し合いをせずに済むとしたらなら――きっと明日の朝も、リンという子は、地獄坂の麓で、寒さこらえて体を縮こまらせて、きっと私を待っていてくれることだろう…… 

*****

 追憶の映像がフェードアウトしてゆき、視界には再び、リンの後頭部が映し出された。亜麻色のショートヘアー、ここまで漂ってきそうシャンプーの匂い、私は……彼女のそんな風貌に、間違いなく憧れを抱いている。それは撞着といっても良い、確執。

(昨日の放課後、私の心臓を引き裂いた時、リンは何を思っていたのだろう……)

 私には不可解過ぎたリンの感情の起伏、でも今なら少し理解できる気がする。特別な能力も訓練も一切必用ない――ただ深く思えば、親友の気持ちを理解することができる。人間にはもともとその機能が備わっているのだ。私が今まで……それをしなかったというだけのこと……あーあ……

 多分セカイに完全なものなんてただの一つたりとも存在し得ないのであって、「愛情」という高尚気高い感覚でさえ、その半分はきっと「憎悪」という暗黒面を含有しているのだろう。お月様の裏側が、真っ黒気なダークサイドで構成されているのと同じに……

 結局、このセカイがそんなふうなんだ……

 放課後私達が殺しあうのも…… ・ 避けられぬ運命なのかな……

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