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意味不明小説(ショートショート)コミュのきさらぎ市メンタルクリニック

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私、たかーきは先日の出張で、茨城県きさらぎ市に行った。

何かお土産を買わなければならないが、しかし私は、この町の観光名所に訪れていない。
それどころか、この町に来て、「ああ、この町に来てよかったな。この町でしか体験できない、あんなことやこんなこと」といった体験をしていない。
だから新幹線に乗る前に、駅から少し離れた市街地をボテボテと散歩することにした。
そこにある建物が、目を引いた。
「きさらぎ市メンタルクリニック」と書いてあった。
そういえば私は、最近パラノイア気味になっているので、
「ああ、この町に来てよかった!この町でしか体験できない、あんなことやこんなこと・・・」といった体験があるとすれば、それは、メンタルクリニックに行くことであるような気がして、私は病院を訪れた。

「すみません、診察していただきたいんですけど。」

「本日はどうされましたか?」

「頭がおかしいのです。小さいころから、ねじが一本はずれているね、と言われ、天然とか、抜けているといわれてきました。」

「では保険証をお見せください。」

「保険証はありません。もっとも、私は会社員であり、健康保険組合には加入いたしておりますゆえ、ありませんと申し上げたのは、持ってきていません、という意味です。」

「では10万円になります。」

「10万ですか。お高いですね。現在の日本の健康保険というものは3割負担ですから、後日保険証を再提示いたしましたら、7万円は返していただけるのでしょうね?幸い、現金の持ち合わせがあります。さて、先払いですか?」

私と受付の女性とのやり取りが終わらぬまま、いきなりアナウンスからクラシック音楽が流れ始め、
「たかーきさん、診察室へ、おはいりくださいませ・・・」という麗しい女性の声が、まるで本日は間もなく閉店いたしますの録音アナウンスのような丁寧な口調で私を呼ぶではないか。
その声を聞き、私は診察室へ足を踏み入れた。
診察室は、なぜか待合室とはちがい薄暗くなっていて、その薄暗さをろうそく10本の明かりで灯している。
そこには、医者と思しき初老の男性が、般若の面を装着して座っていて、その隣に突っ立っている看護師らしき若い女性も、般若のお面であり、微動だにせず私を見ている。
医者のおでこには、いかにも昔の医者らしいCDみたいな穴のあいた円盤を装着していた。
私を見るなり、その「CDみたいな穴のあいた円盤」越しに私を見つめるではないか。
その般若の背後にあるであろう目で。

「私が、このクリニックを統括するモノです。緊張されることは一切ございません。さて、たかーきさん。話は、受付から聴かせていただきました。」
と、般若のお面の医者は、当然その表情を一切変えずに、私に話しかけた。

「ありがとうございます。私のシガナイ半生、語らせていただいたつもりです。」

「しかるに・・・・・・。あなた、実は自分が生きていないと・・・・・・お考えではありませんか?」

私は、その先生の回答が図星だったので、ああ、さすが天下に名だたるきさらぎ市の精神科医だ、と思った。
自分の言葉にできない悩みを、誰かに言葉にしていってもらえるほど、安心感のあることはない。
そういえば、私は今回の出張の前、何度かきさらぎ市の情報をググったものだが、茨城県きさらぎ市は精神科医療で世界最先端であると、Wikipediaに出ている。
この先生は、何か賞を受賞したことのある精神科医なのではなかろうか。

「先生、私を救っていただけませんか?」
と、私は最大限の懇願をその先生にした。
なんだろう、この気持ちは。
今までの人生のつらいこと、悲しいこと、悔しかった思い出、人から馬鹿にされ、誤解され、結局だれにも分かってもらえず誤解されたままで、でも何にも言えなくて生きてきて・・・・・・。
そんな色々な思い出が今まさに、このきさらぎ市メンタルクリニックにおいて、走馬灯のように思い起こされる。もっとも、走馬灯とは何かを私は知らない。
気が付くと私は泣いていた。そして、先生に土下座をしていた。
「ああ、この町に来てよかった!この町でしか体験できない、あんなことやこんなこと・・・」と、今まさにそう思うことができていた。自分が青春のただ中にいる気がした。

「よろしい。それでは、シリツの準備をしましょう。」
先生は、そう言ってくれた。

すると、隣に突っ立っていた女性がいきなり、土下座をしていた私の胸ぐらをつかみ、私を無理やり立たせたではないか。
なんという腕力であろう。そして、そのまま何も言わず、般若の表情で私をじっと、睨みつけたではないか。
そのまま、彼女は10秒ほど沈黙した。
凍りつくような長い沈黙の10秒が終わり、やがて、彼女はやっと言葉を放った。
「・・・待合室でお待ちください」

これは私の偏見かもしれないが、彼女はおそらく、ガラの悪いことで有名な土浦市出身で、暴走族(レディース)上がりの女ではないか。
それに対し、あの医師は、天下の筑波大学医学部を首席で卒業し、一時は大学病院で一流の医師として勤めていたが、やがてエリート街道を進み続ける自分の人生に嫌気がさし、職を辞してこの女と結婚、8人の子をもうけ、その子らを養うために今、ここで開業医をしているのではないだろうか・・・。
と、そのような勝手な思案をしていると、再びアナウンスが流れた。
「たかーきさん、お入りください」と言われた。



※さて、ここから先はショッキングなことがたくさん書いてあるので、読んでいる方は、覚悟して読み進めていただきたい。※



私が、もう一度診察室へ入ると、そこには、目を疑う光景が広がっていた。
テレビが置いてある。
そこからは、耳をつんざくような、けたたましい女性の叫び声が流れているのだ。
何を言っているのかも、よく聞き取れない。しかしその声は、並の人間では聴いているだけで正気でいられないような奇声だった。
狂った声で、扉か何かをバンバンバンバンと執拗に叩きつけながら、
「ワタシガあlfなうぇrgな;ldjんが!!!!!」とか、
「コンナセカイハアsdfバウェファsldンヴァオイhゲアs!!!!!」とか、そういう言葉らしき言葉をわめき散らしている。
その様子を大音量で流し続けているテレビが、なんと3台も置いてあって、その手前に、ベッドが置いてあるのだ。

「これは、ある精神病患者の記録映像でございます・・・・・・。」
「さあ、たかーきさん・・・・・・。こちらです。」

般若のお面をつけた先ほどの二人、すなわち医師と看護師は、
もちろん表情を一切変えずに私をベッドに案内した。

「寝ろというのか。そのベッドに。」
というと、医師は穏やかな声で答えた。
「ご安心ください。当社自慢のシリツ技術にかかれば、心頭滅却は簡単だということをご覧にいれます・・・・・・。」
隣に立っている看護師の女性も、私を誘うために言った。
「たかーきさん。医学というのは成功と失敗を積み重ねることで、成長してきたのですよ。」

私は、怖がりながらもそのベッドに横になった。

「では、目をつぶってください。」
私は目をつぶった。するとどうだろう。私は安心しきっているようだ。テレビから聞こえる、人を狂わせるあのサイレンのような女の声が、まるで蝉の鳴き声のごとき夏の日の風物詩に聞こえてくるから不思議だ。

「では、坊主部隊。用意をしてください。」

そう医者がいうと、今度は背後から、般若心経が聞こえ始めた。
総勢50名程度のお坊さんが、今この私のベッドの、頭を向いたほうに立っており、一斉に般若心経を唱えている。
なぜだ?なぜこのようなことが起こっているのか。
そう思う間もなく、医者は、朗読を始めたではないか。

「たかーきさん。
・・・・・・あなたは今までの人生、数多にも及ぶ苦難の数々、本当にお疲れさまでした。
・・・・・・でもね。たかーきさん。
あなたは、生まれ変わることができます!
世の中には、だれもが簡単に幸せになる方法が存在するのです。
そのためには、この手術の終了後、全日本幸福精神医学協会に100万円のご寄付を。
そして、あなたの知り合い10人に、当協会のことを勧めてください。そうすればピラミッド構造ができ、立派な拝金主義的組織のできあがりです。」

と、そう言うが早いか医者はいきなり、私の頭部にメスを入れたではないか。
あまりに突然のことにびっくりしたが、私は今自分が、麻酔もされていないにもかかわらず、痛みを全く感じていないことに気付いた。
私の頭の上では、般若心経の声がいよいよ激しさを増す。

脳みそが血を流し、切り刻まれている状態で、私は医者に質問をした。

「先生。私はいま、何をされているのですか。」

「はい。たかーきさん。これは、ロボトミーというものです。」

「ロボトミーとは、なぜロボトミーというのですか。」

「はい。人間をロボットのようにするから、ロボトミーというのです。」

「先生、ちょっと待ってください。私は大学時代に教養学科として精神医学を学びましだが、ロボットにするからロボトミーというのは違います。」

「なに!?ええーい、生意気な患者だ。かくなるうえは前頭葉だけではなく、後頭葉、側頭葉を切り刻み、大脳新皮質をすべて引っぺがしてやる。」

「ちょっと待ってください。ちょっと待ってください。ちょっと待ってください。」

しかし、残念ながら、医者は私の脳をことごとく切り刻んでしまった。
般若のお面は冷徹に、私の脳の「いらない部分」を、まさに仕事のように切り捨てていく。
般若心経は、いよいよ最高潮に達している。
ああ、この医者は、私の望んでいたような一流の人間ではなかったようだ。
完全な詐欺師だ。
おそらくは、医師免許すら持っていないのだろう。
私は、この病院にしてやられた。
私の頭は切り刻まれ、完全にこのクリニックのいいなりとして動くモルモットとして、生きていくことになった。
私の脳みそは、丸みを帯びた形ではなく、メスによって美しい正方形となり、その豆腐のような角ばった形は、およそ人体の一臓器として正常な動作が保障されているとは思えないほど、人造物らしい特徴を見る者に与えるのだった。
そんな私の脳みそには、チップが埋め込まれ、思考回路は完全に乗っ取られた。

しかし、それもそれでいいではないか。
この地球には70億と言う人間が住んでおり、色々な人生の形があるのだから、
「ちょっと会社の出張帰りに、どこぞの怪しい団体の手先の病院から脳みそを改造され思考回路を乗っ取られる人生」というのもまた、あってしかるべきだ。
その数ある「あってしかるべき人生」のうちの一つを送るという、その運命を誰かしらに与える際、どの人間に白羽の矢が立つかという話で、それが、たまたま私だったのだ。

「お大事にどうぞ」

「ありがとうございました。」

私は、健康保険証を見せなかったことで自費負担となってしまった診察費7万円を後日返してもらうことを約束して、この病院を後にした。
なんだろう。この気分は。洗脳されたのに、思考回路を乗っ取られているのに、とてもすがすがしい気分だ。
こういう人生も悪くない、と思った。
もしかしたら、「悪くない」と思ってしまったことがすでに、操られているのかもしれないとも思うけど、もうそんなことは、どうでもよかった。

私にとって当面の問題は、洗脳されてしまったことではなく、
私の頭に、まだ蓋がされていないことであった。
四角い豆腐を脳天に装備している変わり者、という印象を人に与えてしまうことが悔しくて、私はとりあえず、自動販売機でレッドブルを購入した。


「俺はレッドブルだああああああああああああああああ!!!!!」

と、私は叫んだ。

しかし、レッドブルは返事をしなかったし、私は実はレッドブルではなかった。







終わり。

(このお話は、実話を元に再構成したものです・・・・・・というのはもちろん嘘)

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