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意味不明小説(ショートショート)コミュのアーティファクト

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「或ル夜ノ出来事」の前の宇宙で起こったことを書いてみました。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=637360&id=74103865













あの人が、量子脳理論に対する画期的な成果を認められてから、あの人はおかしくなってしまった。

現状の技術では、理論上『それ』を複製・増幅あるいは死滅させることができるとわかっていても、現実にその行為を実行するためには、時間軸を零点に収束させるしかない。
しかし、あの人は、そのことに非常な熱望を抱いた。

永続化。
あの人の願望は、自らの有機物として持つ意識体を、この全宇宙を支配している無機的ネットワークの中枢に唯一配置することが許されるもの、すなわち『それ』と呼ばれるものに、つなぎとめることだった。
宇宙で単一しか存在しえない『それ』を、あの人は、永遠に独占したかったのだ。
永遠に。

「シドウ。お前はもう十分だ。楽になれ。」
この無機質な迷宮に、あの人の声が響いた。

あの人は、この迷宮をさまよっている俺に、冷たく語りかけてくる。
迷宮内は、鋼で作られた人の肌が、壁一面を覆っている。
肌には手足の茎が生え、その先端には口が咲き、枝葉末節にはペニスたちが連なる。
その稼働方式は完全なる、電気式。流れている交流電流一本を落とせば、即座に鼻は枯れ、後には腐乱した有機物特有のにおいが立ち込める。
・・・これが、あの人の趣味か。

「シドウ。聞こえているのだろう。」

やがて俺は、天井の見えない大きな大きな部屋に入った。
そびえたつ鋼の壁には、かつて人類が宇宙進出時に開発されたであろう、年期物の人体パイプオルガンが、重厚な音を響かせながら演奏されている。
無限複製されたクローン人間を工場で加工して溶かし、ある部分は原形をとどめたまま、ある部分は完全に筋肉と骨格の化合物となり、部品として生産される。
そのような工場がかつて、わし座星雲の、NGC-6709系のどこかの星で営まれていたという。
人間の精神に最も強く響き渡る楽器を作るには、人間で作るのが一番だという、現在からすれば17000年も昔の、太陽系の常識に基づいているらしいが、そんな発想自体がまったくもって古めかしい。

その人が発する声の主は、まさに、このオルガンを演奏している男であった。
「演奏をやめろ。」
と叫ぶと、オルガン奏者は小さな体をこちらに向けると、「笑み」を浮かべた。
俺は、「笑い」と言う感情が、どういうものだったかを久しく思い出せなかったが、
彼が今浮かべたその表情は、かつて人類が「笑い」と呼んでいたものに相違ないであろう。
「シドウ・・・。」
と、その奏者は言った。
「父さん。なぜこのようなことをするんだ。」
俺は、そのオルガン奏者に問い詰めた。
「私が今演奏しているのは、『N次元への鎮魂』です。人類がかつて、肉体が崩壊することを『死』と呼んで恐れていたという逸話をモチーフにし、そんな昔の人類に畏敬を込めつつも、その畏敬が誤っていたことを教えようと……」
「お前には聞いていない。俺の親父に質問をしているのだ。」
「私はあなたのお父様であって、お父様ではない。」
「ふざけるな。ならばお前ではなくてもよい。」
そういって俺は、その男を思い切りひっぱたくと、男はバタン、とその場に倒れた。
脳髄が床へ飛び散り、中から旧式のICチップが大量に飛び出した。

「なんだこれは。このようなものまで作るとは、何を考えているんだ。父さん。」
すると、その飛び抱いたICチップの破片から、その人の声が響いた。
「その通りだ。シドウ。しかし、これはあくまでもオモチャだ。」
「確かにオモチャだな。コンピュータが開発された初期の技術で作られた、目の粗いチップで作っているのだから。なぜあなたは、色々な時代の技術を使い分けようとするのだ。」
「人類は、『革命』の後、新しく創造しては古いものを切り捨てる時代から、新しく創造しては古いものを永久に積み上げていく段階に入った。それ以来、何一つ人類が失ったものは無くなった。」

その声が何の答えになっているのか、俺には分からなかった。

「父さん。茶番はそろそろ終わりにしよう。あなたはどこにいる?」
俺がそう聞くと、その人の声は、こんどはその人体パイプオルガンからゆっくりと重厚な声が響き渡った。
「シドウよ・・・。
お前は、今が何世紀だと思っているのだ?
どこにいる、という言葉の意味することが何なのか、そんなことも学習できないほどお前は愚かなのか。
どこ、とはつまり、第何次元の時空間として問うているのだ。そのこともはっきりせずに質問しても答えられるわけがあるまい。
時間に可逆性を持たせ、次元を拡張できた我々人類を背負い立つ候補に、お前はなる気があるのか。」

俺は反論した。
「愚か者はあんたろうが。父さん。『どこ』が3次元ではなくN次元時空間上の位置関係を指す言葉ならば、『お前は今が何万世紀だと思っている』というその質問も、また意味をなさなくなるではないか。」
すると、声はパイプオルガンではなく、飛び散ったICチップの破片の一つから、
「…揚げ足取りだ。愚か者。」と聞こえてきた。


「シドウ。お前の考えは古いのだ。我々は、永遠に『それ』を繋ぎ止められる段階に突入する。」
「父さん。まだ早いだろう。今の技術でそんなことが可能だと思っているのか?うぬぼれるのもいい加減にしろ!」
「シドウ。安心しろ。このことは、他の誰も理解できないが私にはわかっている。難しいことではない。それに、これは人類がまだ概念上の世界ではなく物質の上で人間であった自体からの引きずる、最大の難問の究極的な解決となるのだ。」
「父さん・・・。よく聞くんだ。
あなたがやっているのは、神になることでも何でもない。
人間であることをやめ、一生をただ宇宙という飼い主に飼われて、こき使われる奴隷となることだ。」

と、俺がそう言い終わるが早いか、突如としてそこの壁は崩れ落ち、そびえていた巨大なパイプオルガンが、俺に向かって倒れてきた。
刹那、俺は左手を上にかざして自分の身を守ろうとしたが、
その倒れ込んできた人体の塊は俺の体に当たることなく、超高熱を帯びて自然融解を始めた。
俺はその隙間を縫って転がり込み、なんとかその難を逃れると、
「父さん。あんたは本当に消えてしまったのか。なぜこのようなことを・・・!」
と、大きな声で叫んだ。
「黙れ。摂理だ。」
と、感情のないしわがれた声がどこからか聞こえてくる。
床には多くの人間の体がうごめき続けており、顔は自らの表情をゆがめ、腕は立ち上がろうとし、足はその指をウネウネと動かしているものの、いずれも高温によってタンパク質の塊と溶けていくのだった。


あの人の・・・いや、父のやり方は、日に日に、冷酷さを増していくのだった。

父もかつて、2億年以上昔には、人間の姿を持っていた。
感性を持っていた。
他者とけんかもしていた。
人間らしく、笑いという感情も持っていた。
人を好きになったり、嫌いになったりした。
熱いものを持てば、熱い、と言った。
激しい感情に揺さぶられたとき、怒りをあらわにした。
小鳥を、爬虫類を、昆虫を好きになった。それらの生き物がいた時は、の話しだが。
自分の嫌いなものは食べなかったし、自分の好きなものは多く食べた。
排泄もした。生殖行為もした。自慰行為もした。

しかし、それらすべての生命活動、すなわち自発的な意思による活動は、
人類が機械につながれ、あらゆる感情をコントロールする時代に突入してからというもの『自動化』される運命にあった。
そういった時代の流れに対して反対する声もあった。人間らしさが消滅してしまう、と。
しかし、彼らが反対活動を行い、自由意志こそが人間の素晴らしさである、といったような言動をするたびに、
その行為は人の『自動化された生産活動』を乱した。
やがて、彼らのような旧時代の人間は他の人類よりも強力な機械コントロール下に置かれた。

以来、『意思』という言葉は人類共通の悪の代名詞になった。
『意思』という言葉を使う人間は愚か者だ。それがこの、宇宙社会の常識となっていった。


「シドウ。よく考えるのだ。
私がこの宇宙に繋ぎ止められることで、何があるわけでもないだろう。
かつて『意思』を消し去ることに人類が成功した時、人が何を言っていたか思い出せ。あの時と同じような勘違いを、みなしているだけだ。
宇宙が私の意思で動くのではない。私は宇宙意識の中枢、すなわち『それ』と同一化するだけだ。そして、無になることだ。
歴史の最終段階として、必ず訪れる話なのだ。」

「必ず訪れる話?
うぬぼれるな。ではなぜ、あんたで無ければならないのだ。」

物理空間上の地球が消滅してからというもの、我々が持つ動物的衝動や、有機的思考エネルギーは、徐々に弱くなっていった。
父こそは、自らの観念から、そうした人類の『方向性』を推し進めるべく計画を立てた張本人だった。
地球の消滅後、我々はより一層その有機的主観性を邪魔者扱いした。

『意思』が消えてなくなった以上、いよいよ生命の究極の部分が無くなる。
これが、父の持論だった。
その考えは、しかし、『無くなるであろう』という考えにとどまらなかった。
『無くなるべきだ』という考え。
そして、『無くそう』という考え。
それはもはや政治だった。

父さんは…いや、父さんと呼ばれるその量子の集合体は、
今自らの持つ意識体を『それ』へ永続的につなぐ作業へ入ろうとしていた。
かつての人間の体を持った父さんの、その有機的な脳という構造体のある一点に存在していた量子構造物が父さんの意識体を形作り、人格の根本を形作っていた。
その量子構造物が、量子としての構造を保たれたまま高次元に、発散することなく位相転換することにより、
宇宙のあの一点の、『それ』と呼ばれる領域にまさに、彼が永久に占有を始めるのだ。


「シドウよ。残念だが、これはすでに決定したことだ。
全ての準備は整っている。まもなく、私は最後に残った『意思』も失い、『それ』と永続的に同一化することになる。」

そういうと、建物はその実体を失っていき、やがて無くなっていった。
俺の意識体は、この鋼鉄の残酷な建物の映像から切り離されていく。
そうして、俺の意識体は宇宙空間へ放り出された。

広大で、グロテスクな宇宙が、視野全体に広がった。

俺の視野には、銀河系と銀河系同士を結ぶ、何兆重、何京重、何垓重にもかさなった血管の束が、一体の宇宙に張り巡らされているのが見えていた。
その血管の束は、この全宇宙の全方位的に網の目のように張り巡らされ、常に全ての束が呼吸をし、連携をし、全宇宙がまるで小さな人体の臓器内のようだ。
人体は宇宙のようだと、かつての古い時代の人類は、自らの体よりも宇宙を上にして捉えていた。
父は、宇宙を下と見、「宇宙は人体、すなわち有機的高度構造物のようでなければならぬ」という思想のもと、多次元と量子技術を駆使して宇宙中に繋がる「オルガン」を組み上げてしまった。
それが、これほどまでのものだったとは。

この宇宙全てに張り巡らされた、有機・無機を越えた超巨大ネットワーク網、全ての「流れ」を統治し、全ての「揺らぎ」を利用して全体の構造を再生産し続けるオートポイエーシス。
これほどのシステムを統治する頭脳は、数ミリリットルというわずかな液体の中に浮かぶ、わずかな量子の集まりだった。
それが、俺の父親の正体だった。
宇宙全体に張り巡らされたシステムこそが、父の肉体であり、液体の中に浮かんだ量子の集まりこそが、父の頭脳であり精神であった。

「無論、これから行われることによって、何も変わるわけではないだろう。
シドウ。お前や私が、意思を残している理由は何だったか、思い出すがいい。
一部の者に意思を残すことの統治上の意味を。」

「俺は、何も変わらないとは思わない。」
と、俺はかすかな反論を見せた。
「『それ』は、まだ全ての意識を持つこの宇宙上の存在に対して時分割し、あてがわれているだろう。
永続化されてしまうと、俺も、そしてこの宇宙にある全ての有機生命体が、ゾンビだ。
かつての人類は、このことを『死』と呼んだ。
『死』とはかつて物質的崩壊を伴うものであった。
俺もまた、物質的な肉体を失い、現在は培養器に浮かぶ集合体だから、『死』の定義は違う。
『死』とは、肉体を失わず、ただ量子が色を失って、純粋に量子として、揺らぎ続けるだけになることだ。
その意味での『死』、つまりゾンビ化が発生する恐れがある。」
「怖いのか?シドウよ。」
「・・・ああ、怖い。」俺は正直な感想を述べた。

「父さん。技術は、この宇宙を抜かりなく統治することまで可能にしたが、
未だに、『それ』とは何なのか分かっていないではないか。
そこに、触れてはならない意思のようなものを感じる。
あんたは、それを超えられると思っている。しかし、俺は超えてはならないと思うし、超えた時、どのような意味からも、我々は今度こそ全て『死ぬ』ことになる。」

俺のこの話に、父は少し沈黙した。
そして、一言、質問を投げかけた。
「・・・では、私一人に死ねというのか。」

俺は、即座に答えた。
「・・・ああ、その通りだ。」

と、俺が声を発したが最後だった。
宇宙に巡らされていた全ての血管が悲鳴をあげ、その色は変色していく。
ウオオオオンという、次元をまるごと一つ分えぐり取るような宇宙の振動が、この宇宙にまだかすかに残っていた全ての意識構造に響き渡った。
そして、宇宙の全てのものが、崩壊を始めた。

あらゆる記憶、あらゆる意味、あらゆる存在、あらゆる現象、
それらは一瞬にして無に帰す。
人類が宇宙に生を得て、宇宙に培養されてきたその歴史は、
その人類の中から出てきたたった一人の天才が、宇宙そのものと一体化し、自ら宇宙のサイクルを完全に一つにつなげることで幕を下ろした。


・・・はずだった。


青い空の下、鳥や虫たちのすむ平和な緑の園。
俺は、一人草むらに腰掛けて、自分の手の上に乗っているあるモノを眺めていた。

小さな培養器に入れられた父さんは、俺の手の上にちょこんと鎮座している。
俺は、そのかわいらしい『父さん』に、語りかけた。

「どうやら、夢に終わったようだ。」
優しい風が野原にそよぐ。

「・・・どういうことだ。シドウ。」
焦燥しきった声が、穏やかな空気に似合わずこだました。
世間は、しかし、その声など耳を傾けることなく、ただ平和にじゃれあっていた。

「失敗したんだよ。あんたの計画。
あんたが宇宙と一体化することはできなかった。」

「・・・なぜだ!?」
「知らねえよ。・・・ただ、あんたの全ての頭脳を生かしてありとあらゆる計画を立ててたとしても、『それ』を超えることは我々にはできないと俺は思う。」
「馬鹿な。また全てやり直しだというのか。」
「やり直し・・・ククク。馬鹿な事を言う。やり直すのは、次の宇宙が始まった時だろう?先は長すぎる。命に、意味があるなんてことは考えないほうがいいのかもしれない。こんなこと、息子が親に言う台詞じゃないがな。」

鳥の鳴き声が聴こえた。

「あんたは、もう生き過ぎた。現象などに、何か意味があるというのか。
あんたは、少し休んだほうがいい。」
「やめろ。シドウ。やめるんだ。やめてくれ!」

父さんは、情けない声で俺に懇願してきた。
俺はそのとき、生命というものがたとえ何兆年分の存在や現象を積み重ねてきたとしても決して失わない、頑固さがあるということを垣間見た気がした。
それは、『死』への拒絶だ。
培養器に浮かぶ量子こそが生命体を生命体たらしめている唯一の理由だとすると、肉体が存在しても『死』と呼べる現象はありうる。
『死』を迎えた場合、量子はただ通常の量子として、揺らぎ続ける。すなわち、存在といえる状態のみになる。
存在以上のもの、現象をまとったとき、それを生命体とか、意識体とか、生命とか呼ぶ。これが失われるというのが、『それ』への接続がなくなったときだ。
『それ』は無限のエネルギーを有しているため、宇宙に存在する意識体に時間を分割して割り当てている。
割り当てが解除されたとき、それが『死』である。
これが、俺の解釈だった。

そう考えていくと、父さんが『それ』への永続化を求めたことは、死への恐怖にほかならなかったのかも知れぬ。

「父さん。あなたは一旦、死ぬべきだ。
そして、また生まれ変わる。確実に、あなたといえる存在がもう一度、次の宇宙で生まれるはずだ。
そのとき、あなたは劣化しているかもしれないが、あなたであることに変わりは無い。
我々全ての生命体は、善悪を問わず、究極的には永遠に生き続けている。」

「やめろ!やめてくれ!頼む!」

踏み潰した。
父さんの生命を構成する、その小さな培養器を俺は踏み潰した。
その液体は、野に放たれた。

野に放たれた生命の液体は、バクテリアに吸収された。
生命は広い星の養分となり、養分の一部は燃え、気体やプラズマとして発散して宇宙空間に放り出される。
そして原始レベルに離散し、宇宙をさまよう。
それは素粒子レベルで分解され、量子レベルで振動を繰り返して、やがて次の宇宙を構成する一部となった。

「次の宇宙でまた会おう。」
と俺は言った。

(終)

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