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意味不明小説(ショートショート)コミュの羅生門

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一条の光明灯し羅生門 寂び返るとも誰をか恨まん

(一条橋で別れてからというもの、私は貴方の言葉を信じて希望の光を胸に灯していたのに、貴方は功名を供に選んだのですね。役目を終えた刀が錆びていくように、私も顧みられる事もなく、ただこの羅生門の様に寂びるのを待つばかりです。しかし、一体誰を恨んだら良いのでしょうか)


*    *    *


むかし、一人の男がいた。
幼少の頃より名のある武芸者に師事し、日夜その技を磨くのに余念がなかったその男は、元服を済ます頃には既に頭角を現し、縁あって名のある大将への仕官が叶った。
その頃、都を騒がす鬼の噂があり、人々を不安に陥れていた。幾度となく討伐の手が差し向けられるも甲斐なく、帰還する者は皆無とあって、事態は悪化の一途を辿るばかりとなっていた。日暮れ頃ともなると人通りは絶え、辺りは深閑とした有様となるのだった。
その事を重く見られた時の帝は、勇猛を以て知られるかの大将を召し出され、都を騒がす件の鬼の討伐を、直々にお銘じになられたのだった。
銘を受け、館に帰還した大将は、家中の者を呼び集めるとこう告げた。
「生きて戻れる保証なくば、我こそはと思う者のみ供をせよ。出立は明後日とする」
家中の者が我先に名乗りを上げる中、特に四名の者が選ばれる事となり、気付けば男も、その中の一人として名を連ねる事になるのだった。
その館からの帰路の途中である。男は一人、物思いに耽っていた。
選ばれた三名はいずれ劣らずの使い手揃い。最年少ながらその列に加わる事が出来たのは、非常に光栄な事であり、我が身が奮い立つ思いで満ち溢れていた。
しかしその一方で、周囲の気勢に巻き込まれて志願した軽率さが悔やまれてならなかった。
男は心中、穏やかではなかった。命を落とすかもしれぬというただその一事が、酷く恐ろしくあったのだ。
そうして、男が一条橋の袂を通りかかったその時、男に声を掛ける者があった。
「大江山 日暮れて道の遠ければ まだ降りもせず天の叢雲」
見ると其処に年の頃は十七、八の白拍子の姿があった。
「いかにも、我は大江山に向かわんと欲するところであったが、さて、貴殿は小式部内侍であられたか」
気紛れに男が答えると、白拍子は鈴を鳴らすような笑みを浮かべてこう応じるのだった。
「武人なれば激情にその身を委ねるもまた一興。何故に顔を曇らせておいででしょうか」
伍子胥の故事を引用するとは小賢しい、男はそう思いながらも更にこう答えた。
「日暮れと呼ぶにはまだ早く、(人の)道を踏み外す事もないと思えば、如何に?」
「花の色は移りにけりないたずらに・・・と申します。叢雲もやがては長雨をもたらす事となりましょう。未だ(鞭を)振るわずとも、いずれは惨めに身を震わせる事態に陥らんとも限りますまい?」
「“未だ奮わず”とは、我を愚弄するつもりか!女とて容赦はせんぞ」
思わずそう言い放った男は、腰に差した刀の柄に手をかけるも、其処にあるべき刀はいつの間にか失われており、男の手は空を掴むばかりだった。
「さては貴様、式神か!誰の指図で我が前に姿を現した」
男の怒りにも白拍子は動じた風も見せずに微笑むと、一振りの刀を男に差し出した。
「眠れる獅子(死屍)も、鞭打たれれば目覚めるのが道理。これなるは“鬼切”と呼ばれる宝刀。此度の遠征には是非にお持ちなさいませ」
男は言われるままに刀を受け取ると、目の前で鞘から抜き放った。
抜けば玉散る氷の刃のたとえの通り、其れが尋常の刀でない事は明らかだった。
「結構な品を拝見させて頂いた。しかし、この様な業物、故なく頂戴する訳には参らぬ」
そう告げる男に、白拍子は顔を伏せてこう答えるのだった。
「今はこうして白拍子に身をやつせども、元は東国に住まう武門の出仕。女の身にて不自由なれば、功成り遂げたその暁には、是非とも側において頂きたく・・・」
突然の申し出に虚を突かれたのか、男はただただ返答に窮した様子であった。
「前世よりの宿縁なれば、それもやぶさかではないが、我が身ひとつの春にはあらねば、主家の意向も頂戴したくあり、その何だ・・・」
そう言って、男が逡巡しているのを見るや、白拍子は高笑いを浮かべるのだった。
「な、何が可笑しい!無礼な」
「大江に向かうは千里の道を辿るも同じ。生きて戻れる証もないものを、何をお迷いか」
「よかろう。生きて再びこの地を踏む事叶ったその暁には、そなたを迎えに参ろう」
「古来より一諾千金と申します。ゆめゆめ二心抱くこと無きよう」
そう言い残し、白拍子の姿は男の前から消えていた。
刀を手に、男は白昼夢でも見たのだろうかと訝しんだが、やがて出立の朝を迎えると、一行は件の鬼が住むと伝え聞く大江山へと旅立つのであった。
そして、件の鬼を見事討ち果たし、功成り名遂げた事は、誰しもが知るところである。

さて、凱旋からの後、一行は盛大な歓呼を以て迎えられた。皆がその雄姿を一目見ようと群れをなす。中でも、最年少だった男の評判は格別だった。
功成り名遂げた男の胸中はしかし、周囲が思うよりも晴れやかではなかった。
男は都に戻ってからというもの外出を控え、殊更に一条橋を避けていた。それと言うのも、さきの白拍子との約定が頭を過るからだった。
そんな男の様子を気遣ってか、ある日かの大将より男の元へと使いが来た。討伐の功を労うべく、館にて酒席が設けられるというのだ。
主命とあれば馳せ参じるのが武家の務め。男はすぐさま身支度を整えると、館へと赴いた。
大将は男の姿を見るなり、親しげに声を掛けられた。
「此度の討伐ではお主の働き、大変に目覚ましかった。良き部下に巡り合い嬉しく思うぞ」
「勿体無いお言葉。恐悦至極に存じます。偏に殿の御威光の成せる業かと」
「その若さでいらぬ追従など口にするな。毅然としておれ」
「誠に本心から出た言葉にて、他意など御座いません。お疑いであれば如何様にも」
「まあ、そう腹を立てるな。お主が実直なのは誰よりも知っておる。戯れ言だ、許せ。
 ところで、今日お主を呼び立てたのは他でもない。是非に会わせたい者がおるのだ。おい!」
大将の呼び掛けに応じて、続き間の襖が開かれ、一人の娘が平伏していた。
「知人の一人娘で今年十六になる。単刀直入に申せば、お主への縁談という訳だ。しかしまあ、その話はまた日を改めるとしよう。まずは一献受けてくれ」
杯を重ねるごとに夜は更け、男が館を辞去する頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。館への帰路を急ぐ男は、普段は滅多に通らない羅生門の通りを歩いていた。
そして、魑魅魍魎が巣食うに相応しいその佇まいを眼にした時、都で囁かれるある噂が男の脳裏に浮かぶのだった。
――――討伐を逃れた鬼が一匹、かの羅生門に密かに隠れ住む。
酔狂とはまさに、その時の男の在り様を指して言うのだろう。男はやおら立ち止まり、目の前に広がる漆黒の闇に向かって大音声で呼ばわったのだ。
すると、男の誰何に応じでもするかのように、柱の陰から何やら姿を現したものがいた。
灯りを手にした人影らしくも思えたが、酔眼朦朧とした男の眼には、それは定かではなかった。
「羅生門に住まうと聞く鬼とは貴様の事か!」
全身に緊張を漲らせて糾す男に、人影はこう答えるのだった。
「此度は見事にお役目を果たされたとの由。大変に目出度く存じ上げます」
人影の持つ灯りが差し上げられると、其処にはあの白拍子の姿があった。
「あれから幾日も経たぬというのに、我が顔をお忘れになられた訳ではあるますまい」
余程鬼が現れてくれた方が男にとっては救いだった事だろう。自らの動揺を押し殺しながら男が答える。
「そ、そなた、この様な時分に、この様な場所で・・・。正気の沙汰とは思えん」
白拍子と男の周囲を一瞬、異様な冷気が包み込む。
「鬼切はお役に立ちましたでしょうか」
「うむ。この刀には何度となく危ういところを救ってもらった。何と礼を申せば良いか」
「それは結構な事でした。あなた様がお迎えに来られる日を一日千秋の思いでお待ち申し上げておりましたが、その甲斐あってようやくこの日を迎える事が出来ました。御一緒致します」
そう言って男に近寄ってくる情念深い白拍子の姿を、男はただ恐ろしげに眺めるばかりだったが、やがて意を決したかのように刀を抜くと、こう叫ぶのだった。
「おのれ、羅生門に住まう鬼め!如何なる手管を用いて大江山より逃れ得たかは知らぬが、我が手で再び葬ってくれよう!」

かの男が羅生門にて鬼の手を切ったという評判が立ったのは、それからしばらくの後だった。しかし、肝心の鬼の手はというと、再び鬼に奪い返されたという話で、実際にその眼で見た者は誰一人いなかった。

コメント(2)

小心でずるい男を選んでしまった白拍子さんの人選ミスですね。なぜ、大切な刀をこういう男にあげてしまったのか。
>>[1]

昔から「恋はメキ・メキ」・・・「恋は盲目」と言いますが、これは恋じゃなく、請いだって事をもしも彼女が知ってさえいたならば・・・と思います。

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