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意味不明小説(ショートショート)コミュの瓶詰の地獄

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 急啓 先日の暴風雨が貴商会所有の船舶についても甚大な被害をもたらしていることを知り、たいへん案じておりますが、何分にも貴商会の詳しい被害状況が分からず、どうしたものかと思案いたしております。
 ところで、今朝、使いの者より、貴商会の所有と思しき積み荷のいくつかが浜辺に漂着している旨の報告があり、当方の手の者によって回収しております。また、かねてより特に御依頼のありました青封蝋付き小瓶につきましては、それと思しき瓶を三個拾得致しましたので、封瓶のまま御送付申し上げますので御確認下さい。
 私どもも、被害が最小であることを心よりお祈りいたすと共に、貴商会の一日も早い復興をお祈り申し上げるばかりです。
 取り急ぎ、書中をもちましてお見舞いまで 。 早々

  ××月××日


◇第一の瓶の内容

 ああ・・・このお城にも、救いの手がとうとう差し伸べられました。
 遠く小高い丘の向こう側には、砂埃を巻き上げながらこちらへとやって来る二つの影が見えます。初めは狼に追われる羊の群れが立てる砂埃かとも怪しみましたが、それがやがて二頭の逞しい騎馬の姿をとり、しっかりと手綱を握りしめたお兄様たちの懐かしいお姿をそこに見つけた時には、本当に神の御業を感じたものでした。そうして・・・あぁ・・・こちらに向かって一目散に駆けつけてくださるその凛々しき御姿は、その光り輝く甲冑も相まって、まさに聖ミカエルが地上に降臨したかの様です。
 お兄様たちはきっと、小瓶の手紙を御覧になって、助けに来て下さったに違いありません。もう間もなくすれば、大きな大きな音が、このお城の門を打ち砕かんとして辺り一帯に響き渡る事でしょう。神の怒りにも似た大地を揺るがす振動と、罪ある者の心を一瞬とは言わず怯えさせるその巨大な響きは、このお城に長らく堆積していた埃と静寂と、一切の秘密とを、白日の下に晒すための正義の鉄槌となるのです。
 ああ。今となって自らの犯した罪のあまりの恐ろしさに手が震えてしまい、上手く書き残す事が出来ません。悲しくもないのに、自然と涙が溢れてしまい、眼が見えなくなります。あの鋼鉄製のコルセットだけは、今でもハッキリと、手に取るように見えているというのに。
 私は、今から、このお城で最も高い塔に登り、誰にも気付かれぬよう、断崖に向かって身を投げます。そうすればきっと、助けが間に合わない事に絶望した結果、自ら命を絶つ事を選んだと、そう思ってくださるに違いないでしょう。この手紙を詰めた小瓶だけが、私が最後にこの世に残しておくべき告白なのです。村の漁師か誰かの手に渡り、運が良ければ然るべき場所へと届けられる事もあるでしょう。
 ああ。お父様。お姉さま。すみません。私は生まれつき、良き娘でも良き妹でもなく、ましてや良き隣人ではありませんでした。あの時、あの瞬間、あなた方の誠実なる忠告に耳を傾け、従ってさえいれば、この様な結末を迎える事もなかったことでしょう。
 せっかく遠い街から、わざわざ救いに駆け付けてくださったお兄様達。本当に済みません。この不幸な妹の事を、どうぞどうぞお赦し下さい。
 私は、こうして自らを罰せねば、犯した罪の償いが出来ないのです。このお城の中で繰り広げてしまった、私たち二人が犯した、それはそれは恐ろしい出来事に対し下される当然の報復なのです。どうぞこれ以上、私に深淵を覗き込む様な真似をさせる事は、お許しください。私たち二人は神の御前に連れ出され、その裁きを受けるにも値しないのですから……。
 ああ。さようなら。どうかせめて、この身体が人の目に触れて、再び辱しめを受ける事がありませんように・・・。


◇第二の瓶の内容

 こうして今、机に向ってお姉様達へ宛てた手紙を書いていると思うと、何だかとても不思議な気持ちで一杯です。ついこの間までは、お互い何時でも好きな時に会いに行けたのに、今ではこんなにも近くに住んでいながら、こうして手紙をやり取りする事でしか、お互いの近況を知らせあう方法がないなんて。真夜中過ぎまでお父様の目を盗んで、布団に隠れながら三人でお喋りしていたあの頃が、もう何十年も昔の出来事のように感じられて仕方がありません。お父様もお体にお変わりはないでしょうか。出入りの商人から可愛いらしい便箋をたくさん手に入れましたので、これからは前よりももっと頻繁に手紙を書きたいと思います。きっと、気に入ってくれる事と思うのだけれども。今度また、感想を聞かせてください。
 机に向う前までは、あれやこれや色んな事を伝えたい気持ちで一杯だったのに、いざこうして筆を取ってみると、一体何から話して良いものやら見当もつきません。そちらの様子はどうですか?こちらでの生活は、最初に心配していた様な事もなく、平和な毎日が続いています。本当に、嫌になるくらいに平和で退屈な毎日の連続です。
 お城には綺麗なドレスとそれを飾るに相応しい高価なアクセサリーが沢山あります。けれど、それを披露すべき相手も、その機会もここではありません。生活に不自由する事はないのだけれども、このお城の中で、限られた人々に囲まれて暮らしている事を思うと、本当に自分自身がこの世界で生きているのか疑わしく思えます。
 そんな事を言うときっと、「またあなたの悪い癖が始まったわね。でも、それがあなたの望んだ生活なのよ。我慢しなくちゃ」と、お姉様達はおっしゃるに決まっているけれど、刺激のない人生なんて退屈なだけです。そうは思いませんか?
 夫は相変わらず無愛想で嫉妬深く、一日の大半を自らの寝室に籠って過ごしています。おかげで、滅多に顔を合わすこともありませんが、そんな折、夫が仕事の都合で、どうしてもこのお城を離れなければならない出来事がありました。夫は出掛けるにあたり、お城にある全ての部屋の鍵を私に預けたのです。「今回の旅は非常に危険を伴う。一年経って私が戻らなければ、財産は全て君のものだ。その間、この城をどの様に使おうとも構わないが、一つだけ条件がある」そう告げる夫の手には、無数の鍵束とは別に黄金色に光る小さな鍵が握られていました。「君に望む条件。それは、何よりも貞淑である事だ。そしてこの鍵が、結局のところ無用である事を願っている。私の為だけでなく、君の為にも」
 それが一体何の鍵であるか、それについてはお尋ねにならないで下さい。恐らく、勘の良いお姉様達ならば、薄々はお気付きになっている事でしょうが、それは夫と私との間に交わされた結婚当初からの取り決めに関する鍵であり、私がこの城に嫁いできてからの長い年月、夫に知られぬ様にして密かに手に入れようと探し求めていた鍵なのです。
 そうそう。そう言えば、今日はお姉様達に特別な報告がありました。それは、このお城の中に、私たちの他にも、別の住人が居たという事です。正確に言うと“住んでいる”という表現は正しくはないのかもしれませんが、それが一体何者なのか、お姉様達も想像してみてください。一体、誰だと思います?
 それは、私の義理の弟、つまりは夫の双子の弟なのです。夫に弟がいることも、ましてや彼が双子だったことも、この城に住む者も含めて誰ひとり知らなかったと思います。もちろん、私もその一人でした。
 彼はこのお城の地下奥深く、鉄格子の嵌められた部屋に一人で、長い長い年月、閉じ込められているのだそうです。彼から聞き出した話によると、彼は過去に数多くの戦場を駆け巡り、多大なる功績を挙げたのだそうですが、そのうちに人を殺すことに快楽を覚えるようになってしまい、それが原因で大変な事件を引き起こしてしまったというのです。お姉様たちもきっと覚えておられる事と思いますが、何年か前に近隣に住む子供たちが行方不明になるというあの事件、あれは全て、彼の仕業だというのです。その事実を世間に知られる前に夫が彼をこの牢に幽閉したというのですが・・・・・・、一体、その様な話が信じられるものでしょうか?
 私も初めのうちは気味が悪くて、しばらくは地下室に近寄る事さえしませんでした。けれど、彼の元を訪ねる事は、私にとっては非常に興奮する冒険であり、退屈な日常における唯一の慰みでもあったのです。彼は自らが犯したというその悪行とは裏腹に、非常に紳士的で社交性があり、何よりも巧みな会話で私を楽しませてくれるのでした。彼には何か、他人を惹きつける不思議な魅力の様なものが備わっているのです。
 初めて彼に会った時、彼は私の事をすごく褒めてくれました。私が世界中の誰よりも美しい女性であると。それと同時に、酷く悲しそうな顔をして言うのです。その美しい美貌も、いずれは失われていくだろうと。“永遠”というものはこの世にはないのだと。
 彼の言葉や態度には、表面だけを取り繕っただけとは異なる、何かが秘められていました。彼との面会を繰り返していくうちに、私はいつしか、自ら進んで彼の世話を買って出る様になっていたのです。召使いたちは頻繁に地下室へと向かう私の姿を訝しく思っている様子でしたが、敢えて口を挟むものはおりませんでしたし、私も彼の存在については何も口にしませんでした。
 彼が望むものは何でも・・・・・・たとえそれが、どれ程無理な望みであろうとも・・・全てを叶えてあげました。彼が望むなら、私は彼をその牢から解放して自由にしてあげる事さえも出来たのです。けれど、それは彼が望んだ事ではありませんでした。私には、彼の望みの全てを叶えられる力がありながら、彼が真に望むたった一つの望みだけは、断固として拒み続けたのです。
 私は彼を喜ばせようと、ありとあらゆる手段を講じました。彼の中に潜む忌まわしき血塗られた欲望の疼きを満たす事さえも、私は躊躇うことなく従い、ついには自ら進んで手を貸していた様にさえ思います。多くの絶望と恐怖の悲鳴が地下室に響き渡り、真紅の絨毯によって床一面が覆いつくされようともなお、献身的とも呼べる彼への奉仕を続けたのです。
 ああ神様・・・・・・私たち二人は、こんなにも暗く冷たい、日の光さえ届かぬ地下深くにありながら、溢れんばかりの生命の煌めきをその身に浴び、限りない充実感によって満たされています。人間は本当に、何と多くの犠牲の上に生きているのでしょうか。彼らの全てが私たちの血となり肉となってこの身体を巡っている、そう思うだけで自然と畏敬の念に襲われ、私の両眼からは悔恨の涙が零れ落ちるのです。
 そして、ああ。何という恐ろしい責め苦でしょう。日に日に体力を取り戻し、見違えるほどに健やかに逞しくなっていく彼の美しい姿が、私のすぐ側の、ほんの少しだけ手を伸ばせば届く近くにあるのです。けれど、私は最後まで、自らに課された誓約に忠実であり続けたいのです。
 神様、神様。あなたは何故私たち二人を、この場所で巡り合せてしまったのですか・・・。


◇第三の瓶の内容

 オ父サマ。オ母サマ。ボクハ、コノシロニ、ヒトリボッチデス。ハヤク、タスケニ、キテクダサイ。

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