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意味不明小説(ショートショート)コミュの(再掲)或ル夜ノ出来事

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以前ここで公開した短編です。手を加えたため、再投稿します。

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今日もどうしてこんなに疲れてしまったんだろう。
俺はシゴトが終わって、いつものようにへとへとになりながら、家に帰っている。
嫌いな上司に怒鳴られたことが、ずっと頭に残る。早く忘れたいのに、酒を飲んでも、忘れられない。

ナチスの洗脳戦略、心理セラピー、事故時の止血方法、WEBシステム、ピアノ線の強さ、設計の手引き、ナスの栽培方法、家庭間のCO2取引、宗教、走り方、歩き方、スマートグリッド、放射線測定法、それに、いやな上司との飲み方…。

シゴトで得た色んな知識が、頭の中を駆け巡る。
考えですべてが埋め尽くされそうになる。

そして、毎日を生きていく。
条理に支配されながら。
明日も、生きていくのだろう。
規則に支配されながら。
今日もまた床に就く。
明日もまた目覚めるために。

しかし、明日が来ることはなかった。
だって、俺が床にもぐる時、これですべてが終わることを感じ取ったから。
そして案の定、夜中に目が覚めた。そりゃそうだ。
レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルは、人によって違う。俺の場合のそれは2時間置きだった。そのことは、遺伝子レベルでの決定論だ。

だから今、夜中の3時、まさに今寝ているこの寝床の横には、
月から10人の、十二単を着た神の使い達が、豪華絢爛な牛車を引きつれて来ていて、
俺の事を月の世界へと、迎えに来ているのであるが、
何のことはない。別に俺が、その程度の事が今日この日に起きることを予期していた程度、どうってことのない話なのだ。

「お疲れ様。やっと終わったのです。」

俺は目を開けたまま、寝ていた。その声の波長が800Hz前後であることと、波長に何度もノイズが混ざっていることと、彼女がこの星の暦で言う19世紀に製造されたことを感じながら。
「王子。時は満ちました。父なる神のもとに帰りましょう。」

けばけばしい衣装の十二単(A・仮名)は、俺の手をつかんだので、俺はとっさに、A(仮名)の手をはたいた。
「汚らわしい。」
すると、A(仮名)は手首がちぎれ、けたたましい悲痛な叫び声を何度も何度も上げたかと思うと、
発狂の末、床に十字に倒れこんで故障した。
A(仮名)の直接的な死因は、転んだ拍子の内出血と脳挫傷によるものであろうが、司法解剖を待たねばならぬであろう。
A(仮名)の手首の中をのぞくと、小型の歯車と数本のパイプが、連動して動いているのが見えていた。
A(仮名)の手首からはまた、おびただしい量の血液が流れた。

「けっ、19世紀製なんて本当にもろい。」

A(仮名)は、そのまま亡骸となって朽ちていく。しかし、やがて土に返るであろう。
俺は用意された牛車に乗ると、そのまま月面へと飛び立った。
俺は、もうこの地球に戻ることはないだろう。
あるいはもしや、何億年か先に戻ってくるのかもしれないが。

月面の、何もないクレーター続きの大地が、眼前に広がった。
その只中の大きな大地に、ステーションが見えてきた。
確かあれは、俺と父さんがXX98年までかけて、突貫工事で設営したものだが、それがまだ存在していたのだ。

ということは、だ。
もしや、まだ建設は続いているのではないか?
奴隷達は、この俺が地上でくだらぬシゴトをしている間も、働き続けていたのかもしれない。
そう考えると、俺は、再びあの薄汚い連中に、絶対的な服従を誓わせられることの愉悦を思い出し、
胸を高ぶらせながら、空とぶ牛車をステーションの脇につけ、階段を下りた。

しかし、奴隷共は暗い通路の道端に転がり、全員動かなくなっていた。
ドリルやツルハシやロープやカナヅチやホウチョウやアブラエノグをもった、数々の奴隷共が、顔を下に向けながらうずくまっていた。(※)

(※注:なぜ奴隷共はこんなことになったのか。
原因は複数考えられるが、細胞内のミトコンドリアにストロンチウムかアメリシウムが堆積し、そのまま制御不能になったか、あるいは細胞がないかのどちらかと考えられる。
なお、彼らの制御を行っている中央制御室マザーコンピュータの、第3EMIのカーネルに、月の砂嵐発生により、バグがでた可能性もあるが、
マスターベーションをした形跡のある奴隷が半数に上ることから、考えにくい。)

「父さん。」
地下室の最深部の冷たい鉄の部屋で、俺を待っていたのは、仰向けで寝ている父さんだった。
さっきからずっと、目をつぶっている。
「シドウ。」
C言語で書かれた父さんは、俺の名を呼んだが、人の名を呼ぶために何のプログラムを使っていたのか、俺は忘れてしまっていた。なんせ、XX90年に作ったものなんて大昔だ。

「お前は、地上で何をシゴトしてきた?」
何をシゴトしてきた、この奇妙な言葉遣いでプログラムを思い出した。
このプログラムは、お前は甲で何を乙してきた、と聞くものである。甲と乙の部分に、コンピュータが単語を当てはめて喋る。

俺は面白くなって、繰り返してみた。「父さん。」
すると「シドウ」という声が聞こえた後、さっきとまったく同じ間隔をあけて、
「お前は、シリウス隕石流帯で何を情報公開してきた?」
「父さん、それはもういいじゃないか。」と、俺は釘を刺した。
「ふふふ・・・。お前がそうやって遊ぶからだ。」
父はようやく自分の言葉を話した。さっきからずっと、目をつぶっている。

「シドウ・・・。お前のなすべきシゴトは、十分だ。楽になれ。」
「父さん。何かおかしい。」俺は、父さんの言葉をさえぎって話した。
「この脳管は、ずいぶん古くなっている。なぜ取り替えるよう言わないんだ。それに、父さんをつないでる擬似生体維持装置も、70年代には使われなくなった代物だ。」
「シドウ。もういいんだ。お前にはもう、『それ』は必要ではなくなったのだ。」
「いや、父さん。『それ』の問題じゃない。俺が言ってるのは、父さんに必要なものの話だ。」
「シドウ。それこそがまさに、『それ』であることに気づかないのか。お前は、シゴトに少々洗脳されてしまったようだ。まあ、誰でもそんなもんだがな」

父さんは、自分の各臓器をつないでいる配線が使われなくなっていることを、気にも留めないようだった。
配線があるからこそ、父さんは心臓がなくてもこうして生きていられるし、脳がなくてもこうして考えることが出来るというのに。
そのことを気にする必要がない、というのが、何を意味しているのか。
そういえば父さんは、もう40年も前から、こうして200Vの交流電流だけで生存している。その父さんが俺をここに呼び出し、『それ』の心配すらしなくていいと言う。

・・・そうか。
父さんのコンセントを抜く日が近いのだ。
だから俺が、今日ここに呼ばれたのだ。

「しかし俺が、シゴトと『それ』をイコールと考えていると父さんは思うのか?」
俺は父に問うてみた。
「シドウ。お前は全てを思い出さなければならない。」
「思い出すことはかまわないし、シゴトについて完全に忘れても何の問題もない。しかし、少なくとも俺は、シゴトと『それ』は違うと分かっている。そのうえで、『それ』を大事にしているつもりだ。」
「シドウ。父さんが思い出してほしいと言っているのは、『それ』の存在ですらないんだ。まずは、行って確かめてみることだ。」
「『それ』を超越したものだと?」
今度はC言語の父さんが戻ってきて、次のように機械的な発言をした。
「次の部屋に鍵がある。それを使えば、次の世界にいけるんだ。」

父さんは、さっきからずっと、目をつぶっている。


さび付いた鉄の臭いを発する、重い扉。
そこにはボロボロの紙切れが貼り付けられており、「次の世界」と、鉛筆か何かで、かすれた文字が書かれていた。
俺は、鍵を持って、その扉をゆっくりと開いた。

扉を開けると、一面、太陽がやさしく照りつけていた。
美しい草原、端正な一本の木。そしてその木陰に、帽子をかぶって空を見つめている少女が一人。
空の青と、地の緑と、少女の帽子の白が織り成す、世にも美しいコントラスト。
見渡す限りに調和が広がる世界が、そこにはあった。
自然の空気、やさしいそよ風、草のいい香りが、そよいでいた。

2羽の白蝶が、俺の目の前を通り過ぎた。
それを、目で追っていくと、
蝶の行く先には美しい、アジサイの花が咲いている。
まるで、俺を誘っているかのようだった。

俺は、その花のひとつに、名前をつけた。
「ウィル。」
その花、ウィルは、他のどれよりも大きな花を持っていて、その色は鮮やかな紫だった。
何にも負けないような、強く、それでいて美しい花、ウィル。

しかし、ウィルの持つ花びらのひとつが、不自然に肥大した。
その一輪の花びらは、やがて白になった。
白い花は、かわいらしい触覚を二本ほどはやし、黒い斑点をいくつか表し、
花を離れて独り飛び始めると、蝶になった。
蝶は、一本の木に飛んでゆき、そこにいる少女の肩に止まった。

「・・・ウィル。」
俺は、その少女の名を呼んだ。
ウィルとは、その少女の名でもあった。なぜ俺にその少女の名が分かったのかは知らない。しかし、彼女はそこにずっと昔から存在しているかのように座っていた。
「シドウ。」
少女は俺の頬にキスをした。
「今、こうしている時間がね。」
少女ウィルはそのように言った。それが何を意味しているのかは、よく分からない。
「俺も、このきれいな場所がね。」
俺はそのように言った。それが何を意味しているのかは、よく分からない。

そうしてじっとしていると、
俺は100年前から、この少女と一緒に生活していたような気になってきた。
ウィルは、完璧な女性だった。
まだ少女なのに、大人びた顔つきで、きれいに整えられた黒髪を持っていた。
ウィルは、木陰に座ったまま、眠ってしまったようだった。うとうとと、かわいらしい寝顔を浮かべている。
俺は、寝ている彼女をその場に寝かせた。そして、愛撫しようとした。

だが、俺はそれが出来なかった。

なぜなら、その少女が首に怪我をしているのを見たからだった。
その傷口をよく観察すると、ゲルコンピュータが詰められていたのだ。
よく見ると、ウィルは死んでいた。
何も無かったかのような安らかな表情で。

「ウィル?」

木の表面をめくってみると、やはり同じだった。
木の幹には、ゲル状になったコンピュータが積み込まれていた。
足元の草を一本、ちぎって中を見てみた。やはり同じだった。
この美しい空も、木々も、草も、蝶も、みなゲルコンピュータによって形成されていた。

ここまで多用途のゲルコンピュータは、かなり最近、発明されたばかりだ。
ビットを使用し、重厚な機器を組み合わせることで、バーチャル空間上に被写体の擬似体を製造することしか能のなかったノイマンコンピュータに対し、
量子ビットを使用し、あらゆる「状態」をそのままコピーするかのように保存できる量子コンピュータが実用化されたのは、1000年前のこと。
かつてはノイマンコンピュータと量子コンピュータは併用されていたが、量子コンピュータの爆発的な増殖に拍車をかけたのは、二つの出来事だった。
ゲル化、そして、ウイルス化。
人間の活動は、人間の思考は、人間の遺伝子は、全てウィルス化したコンピュータによって再現され、それは増殖し、新たな「人間」のコピーを作り出しては、その思考を自己複製していったという。

この世界は、このコンピュータで出来ているのだ。
俺は、この世界の色々なものを、一通り観察することにした。

よく見ると、地上の会社勤めで一緒だった、同期の仲間が飲み会をやっている。
この草むらにレジャーシートを敷いて、ビールを飲んでいるのだ。

「あら、●●●●くんもお花見来てたの?」
「ああ。」

「おいっ、お前ここ座れや!一番花がよお見えるで」
「ああ。」

連中は、ここが花見の会場であると信じて疑わないようだったが、
彼らの広げているお弁当の重箱には、水色のゾル状の物体が入っているだけだった。

この「お弁当」を摂取することで、コンピュータの維持をしているのだろうか。
彼らは、それをスプーンですくって飲むことによって、栄養を補給しているのかもしれない。
そして良く見ると、彼らが飲んでいるのはビールではないようだった。
色は黄色なのだが、やはりゾル状なのだ。
おそらく、味はしないであろう。


今度は、学生時代の仲間が、テニスをしているところを見た。
彼らは、満面の笑みでテニスを楽しんでいたが、そこにはテニスコートはなかった。

ついでに言うと、彼らの手にはラケットも握られていなかったし、ボールも飛んではいなかった。
それでも彼らは、一度しかないその青春のすべてをテニスに託し、爽やかな汗をかいていた。

「『それ』というのは・・・。」

もう少し行くと、もうすっかり夜になっていることに気づいた。
周りに誰もいない、大きな池があった。湖といっても良いかもしれない。

月が出ていた。
月は、たゆたう水面に反射し、キラキラと、美しい黄色の光を浮かべた。

俺は、その月にも名前をつけた。
「・・・ウィル。」

この世界では、月もコンピュータなのだろうか。
俺は月・・・ウィルを眺めながら、そう考えた。

いや、そもそも俺が立っているこの場所が、月だったはずだ。
それなのに、あのように月が見えているということは、あれは・・・ウィルは、本物の月ではないはずではないか?

いや、ウィルは、月というひとつの天体は、そのままコンピュータである必要はないはずだ。
そもそもコンピュータであるとはどういうことなのか。
たとえば、あれはコンピュータであると考える主体もまたコンピュータであるとするならば、コンピュータではないものが自身をコンピュータでないと証明することは可能か?
あるいは、実態とはどういうことか。実態すらコンピュータに形作られ、人間と擬似人間の区別すら不要となった時代に、何が「存在している」のか?

つまり、ウィルは存在しないのかもしれないではないか。

正確には、今空に見えているものは映像に過ぎず、その何らかの方法で作られた映像を、俺はウィルと呼んでいるのかもしれない。
すると、ウィルはコンピュータですらない。
ウィルは、ものですらない。
ウィルは、現象でしかない。

現象?
現象とは何だ?
存在している、ということと、存在、ということは何が違うと言うのか?

そういえば、ウィルとはなんだったか。
花の名前だったかもしれないし、人の名前だったかもしれない。
俺は、会うものに対して一つ一つ「ウィル」と名づけた。
しかしそれらは、花でも人でもなかった。
でも、実際にはコンピュータですら、なかったのだ。

ウィルは、何者でもないんだと思う。

ウィルは、俺自身でもないんだと思う。

ウィルは、現象ですらないんだと思う。



「真の人生には、4段階があるんだ。」
と父さんは、俺に語りかけた。
「存在と現象が混同する時期。次に、現象だけがある時期。次に存在だけの時期。最後に、存在すらなくなる時期だ。」
「・・・ところが実際には、人生は現象だけで構成され、存在がないと多くの人々に考えられている。」と、俺は付け足した。
「だからこそ、人は社会的な動物といわれるゆえんかもしれない。しかし、存在だけの時期こそ、神と一体化するために必要な時期なのだ。」

この暗い部屋に戻ってきて、父さんと会話をした。
父さんの脳管は、緑色の液体を漏らし始めていた。
もうこの会話すら、あまり長く続けられることがないことは分かっていた。

「・・・現象だけがあって存在がない時期を経て、そのすぐ後に存在も現象もなくなった場合、存在だけがあって現象がない時期を経て、存在も現象もなくなる場合と、何が違うんだろう?」
俺のこの問いに、父さんは少し沈黙した。
そして、こう言った。
「それは、存在だけしかない時期を経たもののみが、理解することが出来るんだ。」

「父さんは、もう理解したの?」

「ああ。」

乾いた答えが響いた。


父さんのコンセントを抜いた。
生体維持装置がもう働かないことを確認し、それぞれの臓器が停止した。
父さんを構成する臓器は、ゴミとして捨てた。それは、もはや何の意味もなさないからだ。
なぜなら、俺は今日、新しい神となったのだから。

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