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意味不明小説(ショートショート)コミュの悪夢諸相

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 このところ悪夢ばかり見ている。

 目が覚めて、釘が無数に刺さっていたはずの手を確かめる。
 まだ、感触が残っている。
 けっこうな太さの釘が手の至る所に刺さり喰いこんでいたのを一本一本抜いていた。そのうちの一本の抜き方をどういうわけか間違えて、とがった先端をひいてゆくと、手の甲を貫通して先に覗いていた釘頭が肉の中にまた入って、中で肉が挽きこそげられてゆき悶絶する。頭をつまんでそのまま抜いてゆけばよかった。単純に引き抜くだけだったのだ。しかし、そうやって肉の中にくぎの頭のでっぱりがある以上、そのままやり遂げなければならない。中で動いてゆく釘頭のかたちに皮膚がすこし隆起する。その様に悶絶する。あまり痛みがない。悶絶しながら抜いてゆく。

 脇に教師がいる。
 なんの教師だかはわからない。
 記憶の中に残っている実在した教師でもない。
記憶に残らない顔の男が、教師として脇に立っている。この男が箱に釘をたくさん入れて歩いて来たのだ。そこに自分が詰め寄った。
「せんせい、これはなんですか、なんでこんなことをかってにきめるんですか、」
じぶんはこの印象の薄い男に廊下で食ってかかった。
なぜというに、教室の廊下には張り紙があり、こんなことが書いてあったからだ。
―ふくしまをしろう、夏のたいけんけんきゅう―
白地に日焼けしたこどもが笑顔で手をふるイラストが添えられている。
そのしたにこんなことが書いてある。

―15キロ内 壷井―

―20?内 斎藤、小布施―

―30キロ内 吉田、遠藤―

―40キロ内 合田、吉岡―

クラスで多数決で決められた人間が、福島第一原発立地付近の場所へゆき、ひと夏を過ごす、という。
もっとも近距離の範囲に自分の名前がいつの間にか書いてあり、その決定を事前に知っていた自分は、駆け込んでその教師を捕まえるためにやってきたのだった。
「おかしいじゃないですか、なんでおれがかってにいちばん近い距離なんですか、」
「なんでほかはふたりなのに、おれひとりなんですか、おかしいじゃないですか」
印象の薄い男の襟首掴んでゆすると、ばらばらと男が両手に捧げ持っていた箱から無数の釘が木造の廊下にこぼれおち、「かってにこんなことなんできめるんですか、なんですかなんですか」さらにゆすると眼鏡が外れ、教師の腰が折れてしまい、そのままのけぞったまま教師が後ろざまに倒れ、自分も前のめりで床に手をつくことになる。両手に、ばらまかれた釘がむすうに飛び込んだ。

 この教師を授業前に捕まえるために、自分は走っていた。
晴れた、昼休みの終わりのころのように思えた。
外で気が済むまで遊んだこどもが薄暗い玄関に満ちて上履きに履き替えていた。
じぶんは、すこし遅れて廊下沿いの外をひとり駆けてゆく。寝ている間には自分がなぜ駆けているのか判然としない。ただ、タイミングを逃しちゃいけない、そんなあせりの塊となっている駆けているだけだ。懸命に駆けて行き、目の前に玄関のガラス壁が現れる。中には、あせみずくになったがきどもが満ちている。勢いがつきすぎて、ガラスの壁に手を突く。回り込んで玄関に入ろうとしているのだが、内側に向けておおきなそのガラス板がゆっくりとかしいで倒れていった。

”ああ、”
”これはいけない―。”

なかにはがきどもが満ちている。
分厚いガラス板は四角さを保ったまま倒れこんでゆき、人間の頭に当たる鈍い音がした。それは、ゆっくりと時が引き延ばされるようにして倒れてゆくように見えた。その感じは、小学生の思い出に残っているものだった。

ガラス。
崩落。
女の子。

悲劇の可能性。

 小学生のころ、じぶんは会津の僻村で悪童とともに駆けまわっていた。
じぶんの周りにいつも居たのは、耳の聞こえない不良のヒサヨシ、という男で、その小さな町の一角を占めていた歓楽街御清水町のレストランの子だった。向こう気がつよく、ひとがよく、気さくで、まぬけなやつだった。
冬の日に、体育館で本気のサッカーをバレーボールを使ってやったのだが、このヒサヨシがよせばいいものを、本気でボールを真上に蹴りあげた。
古い体育館だった。
ボールが飛びあがって行った天井には、波模様のおおきなガラス板が嵌っていて、その奥に電灯がある。
ボールはその大きなガラス板をぶち抜いた。
ガラスが割れ、くだけて、鋭利な刃をもった三角形の塊になって落下しはじめる。
下には、無数のこどもが駆けまわっている。

”たのむ”

割れ砕けて、落下してゆくガラスの塊を見て思った。
それは、こま送りになったように見えた。
何に頼んだのかは不明だが、自分は何かを何かに頼んでいた。
ガラスの切っ先はおちてゆき、ひとりの女の子の上に降り注ぎ、外れた。
外れた先を走ってゆく女の子が、すこし行った先で物音に気付いて後ろを振り返ったのを覚えている。


 回り込んで玄関に入る。
薄暗い玄関は騒然となっていて、ガラス板が割れもせずに倒れている。端の方に血がついて、なにか岩か何か重いものに当たったような欠け方をしているのが無惨に見えた。女の子が倒れて、なぜだか父親がいて抱きかかえ、「さだこ、だいじょうぶかッ、さだこッさだこッ」と呼ばわっている。実在にはさだこ、という同級生はいなかった。またひとり、女の子が倒れて、頭から血を流して横たわっている。
誰も、なぜガラス戸が突然中に向かって倒れかかって来たのかわからない。
自分が押したことは、玄関に居た人間にはわからない。
”ばれるなよ、ばれるなよ””息を、ふきかえせ”
”たのむ、目をさませ。”
”おれのために。”
 微動だにせず、じぶんは脂汗を浮かせてそのさだこ、という女子児童を見つめる。もう一人の倒れている女の子も見つめる。
「だ、だいじょう、ぶ。」
後頭部から血を流しながらさだこは言った。
”よかった”
”死んじゃいない”
もう一人の女の子もなんとか意識をとりもどす。
自分は、教師を捕まえる目的を思い出す。
上履きに履き替え、廊下に出ると、印象のうすい教師がなにかの箱をささげもって歩いている後姿が見えた。





コメント(2)

コメントありがとうございます。
とにかく後味の悪い夢でした。
手に、冷えた釘の感覚が残り、しばらく消えませんでした。
終わりは、夢が覚めた時。

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