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意味不明小説(ショートショート)コミュのミッドナイト・イン・奈良(4)

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大仏殿に、鹿がやってきました。
「大仏様、なんでございましょう?」と、鹿は恭しく言いました。
大仏様は「おお鹿よ、よく来た……他でもない、そなたに大事な用を任せようと思ってな……」と、急に厳かな態度になって言いました。
「これはありがたき幸せ……して、大事なご用とは?」
「うむ……実はな、本日より、仏教でもクリスマスを執り行うことになった」
「クリスマス……ですか?」
「ああ……ま、お主がクリスマスを知らぬのも是非はない。よいか、クリスマスというのはじゃな……」
「大仏様」
「なんじゃ?」
「恐れながら、わたくし、クリスマスのことなら存じております」
「うむ?……お主のう、知ったかぶりはよくないぞ」
「いえ、決してそのようなことは……イエス・キリストの生誕祭にございましょう?」
「う……ああ……まあ、そうじゃな」
「い、いやー、門前の小僧とは、よく言ったものですな……大仏様のお側に仕えておれば、自然と教養が身についてしまうもの、ははは……」と、韋駄天。
「お、おお……まことにそうじゃな」
「もったいのうことにございます」と、鹿が言いました。
「うむ、感心々々……おい、韋駄天」
「は!」
「褒美じゃ、鹿せんべいをくれてやれ」
「仰せのままに」と、韋駄天が、懐から鹿せんべいをだしました。
「……え?」と、固まる鹿。
「大好物であろう?苦しうない、頬張るがよい」と、大仏様。
「では、頂戴いたします……」
鹿は、もそもそと鹿せんべいを食べました。
「ついては、千手観音がそりに乗って、玩具を配ることとなった」と、大仏様。
「あの、それは……モグモグモグ……もしかして、サンタクロースのつもりですか?」
「おお、よく勉強しておるな……。おい、韋駄天」
「は!」
「鹿せんべいをくれてやれ」
「仰せのままに」と、韋駄天が、懐から鹿せんべいをだしました。
「いや、あの……」と、固まる鹿。
「苦しうない、かじりつくがよい」と、大仏様。
「……頂戴いたします」
鹿は、もそもそと鹿せんべいを食べました。
「通常、サンタクロースのそりは、トナカイが曳くものじゃが……」
「もしや……モグモグ……私めに……モグ……そりを曳けと?」
「おお、察しが良いな……。おい、韋駄天」
「は!」と、韋駄天が鹿せんべいをだしました。
「あの、まだ口に……」と、固まる鹿。
「苦しうない、むしゃぶりつくがよい」と、大仏様。
「……頂戴……モグ……いたします」
鹿は、もそもそと鹿せんべいを食べました。
「……大仏様……モグモグ……サンタクロースというのは……」と、鹿が言いかけました。
「あー、そうだ」それをかき消すように、大仏様が言いました「千手観音を呼んでまいれ……そろそろ準備ができた頃合いであろう」
「は!」と、もんどりを打つ韋駄天。
「あの……モグモグ……サンタクロースは……モグ……本当は親が……」と、再び鹿が言いかけました。
「わかった、わかった、クリスマスが成功した暁には、親兄弟の分まで鹿せんべいをくれてやろう……ははは……」
「いや……モグ……そうではなく……モグモグ……ゴックン……大仏様、恐れながら、クリスマスというは……」
「大仏様!!」と、韋駄天が戻ってきました。
「どうした韋駄天、そのように取り乱して……」と、大仏様。
「千手のやつ……」と、言いかけた韋駄天は、鹿がいるのを思い出して「っと……千手観音様のご準備、未だ整っておりません」と、言い直しました。
「え?……お、おお、さようか……して、どのくらい時間がかかるとな?」
「それが……夜明けまでとのこと」
「なに!?……しかし、だいぶ前に話を通したではないか」
「それが……手袋をはめるのに、時間がかかるそうで……」
「手袋に夜明けまで?いくらなんでも、そんなウソは……」
「ですが、千手観音様は、千本の手をお持ちでいらっしゃいますゆえ……」
「え?……千本の手って……ああ!」
「は、ははは……」韋駄天は、力なく笑いました。
「もう……おまえ、なにやってんだよー!」大仏様が、キレながら言いました。
「ええ!あの……仏様?」と、鹿。
「なんでですか?僕は、一生懸命やってたじゃないですか!?」韋駄天も、キレながら言いました。
「え、韋駄て……ええ!?」と、鹿。
「韋駄天が千手にしようって言ったんじゃねーかよ!」
「手がたくさんあるから、良いと思ったんですよ!」
「たくさんありすぎてもダメなんだよ、もっと程々のやつがいるだろう?」
「誰ですか、それ?阿修羅(あしゅら)さんですか?」
「いや、阿修羅は駄目だろうが……」
「なんでですか?」
「あいつは……キン肉マンに出て、さんざん目立ってるから、これ以上人気出たら困るんだよ!」
「なんですかそれ、嫉妬ですか?」
「はあ?嫉妬なんかしてねーし!」
「ウッソだー!」
「いや、ウソじゃねーし!」
「僕、知ってんですよ?大仏様が、読者が考えた超人コーナーに、大仏マンって描いてだしてたこと!」
「はあぁ!?ちょ、おま……なに言ってんの?」
「え、なに照れてんですか?」
「べ、別に、照れてねーよ」
「とか言って顔、超赤ーし!馬頭観音みたいだし!」
「うっわ、もーう衝いた!完全に怒髪、天衝いたかんな!!」
「お二人とも、やめてください!!」たまらずに、鹿が言いました。
「だまれ、鹿!おい、韋駄天!」
「は!」と、韋駄天が鹿せんべいをだしました。
「え?」と、固まる鹿。
「苦しうない!」と、大仏様。
「いや、苦しいですよ!!」と、鹿が言いました。
大仏殿は、静寂に包まれました。
鹿は、呼吸を整えると静かに言いました。「お見苦しいですよ……お二人とも……。まず初めに言っておきますけど、サンタクロースなんてものは、実在しません。玩具をあげているのは、子供たちの親です。それ以前に、クリスマス……少なくとも日本のクリスマスは、若い男女が乳繰り合うだけの、下劣な行事に成り下がってしまっています。ですから、真似をしたところで信者は増えません。それ故、参拝客もしかりです」
「いや……でも……文殊がさあ……」と、大仏様が口ごもりました。
「あの方は、書物からの知識ばかりですから……」
「ふん、ただの鹿が偉そうに……仏の教えより、おまえの方が正しい?……そんなわけあるか」韋駄天が言いました。
「お、あ、うん、そうだ、そうだよ」と、大仏様。
「ただの鹿だからこそです。わたくしどもは、人々から鹿せんべいをいただいているではありませんか?」
「だからなんだ?」と、韋駄天。
「そうやって直に触れ合うことでしか、人々の本来の姿や声を知ることはできないのです」
「本来の姿や声?」
「そうです……大仏様?」
「は、はい」
「大仏殿にやってきた人々は、みな頭(こうべ)をたれ、経を唱えていますね?」
「そうじゃな」
「そのうち、真の信仰心からそうしている人間が、どれほどの数がいるのか……考えたことはありますか?」
「……いいや」
「すべてとは申しませんが……きっとその大半が、長年の習慣から生まれた作法に従っているだけです。いわば、見せかけだけの信仰なのです」
韋駄天が、身を震わせて「おい、鹿!無礼にもほどがあるぞ!?」と、言いました。
「よい!」と、大仏様が言いました。「私が許そう……鹿よ、続けなさい」
「大仏様……あなた様も、そのことに慣れてしまっていたのではありませんか?人々があなた様を敬うことが、いつしか当たり前になってしまった。見せかけの信仰に惑わされ、人々が心の底では苦しんでいる姿に、嘆いている声に、気づくことができなかった。その人のことを知らずして、どうして救うことができましょうか!?」
大仏殿は、再び静寂に包まれました。
「……ですから私どもは、美味しくもない鹿せんべいを進んで食べているのです。知るために……救うために!」鹿が、言いました。
「え、鹿せんべい……って、不味いの?」と、韋駄天。
「ええ、とっても」
「……知らなかった」
「大仏様……そうやって蓮華座(れんげざ)の上に座って、なにを見ていたのですか?なにを聞いていたのですか?ただの鹿ごときにさえ気づいたことに、分からずにいたというのなら……あなた様は、ずいぶんと長い間、権力の上で胡座(あぐら)をかいていたことになりますね」そう言うと鹿は、ゆっくりと振り返り、立ち去ろうとしました。
「鹿よ!」大仏様は、鹿を呼び止め「お主を……信じて良いのだな?」と、言いました。
「これでダメなら、馬の耳に念仏です……」
鹿は、大仏殿を後にしました。
「馬の耳に……って、鹿から言われると……ひどく、愚か者になったような気がしますね?」と、韋駄天が言いました。
「ああ。だが、わたしは本当に愚か者だったのかもしれない……」
「大仏様……」
「情けない話だよ……でも、良かった」
「え?」
「なんか、心がすーっと晴れたような気がする」
「本当ですか?」
「ああ、目が覚めたよ、まるで……あれ?」
「なんですか?」
「あれ……俺……今、悟ったかも?」
「ええ、本当ですか!?」
「うん……悟った……悟ったわ、これ。なんか、久しぶりに思い出したよ……この感覚」
「うわー、おめでとうございます!」
「うん!ありがとう……って、いや……でも、困ったな」
「え、どうしてですか?……良かったじゃないですか、悟ったんですよ?」
「だから、よけい眠れなくなった」

(終)

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