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意味不明小説(ショートショート)コミュのミッドナイト・イン・奈良(2)

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しばらくして、韋駄天とともに文殊菩薩が現れました。
文殊菩薩とは、ことわざの「三人寄れば文殊の知恵」で知られる、知恵を象徴する仏様、つまりとても物知りな仏様なのです。
「どうしたのよ、大仏様。こんな遅く……」文殊菩薩は、体をくねらせながら言いました。
「文殊ちゃーん、助けてよ。このままじゃ青ざめちゃって、顔じゅう緑青(ろくしょう)だらけになっちゃうよ……」大仏様は、韋駄天に目配せをしながら「俺、銅でできてるから」と、言いました。
すると、文殊菩薩が「それから錫(すず)と金」と、言いました。
「え?」と、大仏様。
「大方が銅だけど……」文殊菩薩はすまし顔で言いました。「錫と金も入ってるのよ。もっと言うと、水銀と炭もね」
「おおー、さすが知恵の仏!」大仏様は、興奮気味に言いました。
大仏様は、文殊菩薩に今までの経緯を説明しました。
「ちょっと、やだー!じゃあ、あなたたち、クリスマスを密教かなにかと勘違いしたってわけ?」文殊菩薩は、笑いをこらえきれなくなって吹きだしました。
「え、違うんですか?」と、韋駄天。
「ぜんぜん違うわよ。あなたが見てきたのは、クリスマス・パーティー。ま、一種のお祭りみたいなもんね」
「はあ……そうでしたか」
「でも、祭りだったら、なんで東大寺でやらないんだ?」と、大仏様。
「やるわけないでしょ?クリスマスってのは、イエス・キリストの生誕を祝うんだから」
「いえす・きりすと……って、誰よ?」
「え、知らないの!?」と、驚く文殊菩薩。
「あ、うん。え、韋駄天は知ってる?」
「いや、僕もちょっと……」
「あなたたち、勉強しなさすぎよ、それでも宗教家?」
「す、すいません……」大仏様と韋駄天は、声をそろえて言いました。
「イエス・キリストってのは……まあ、簡単に言うとキリスト教の教祖よ」
「え、ごめん。そのキリスト教ってのは?」と、大仏様。
「なに、そこから説明するの?」
「だって、知らないんだもん。頼むよ」
「ったく、世が世なら宗教戦争もんの話よ、これ……。いや、だから、キリスト教ってのは……ナザレのイエスを、救い主として信じる宗教で、イエス・キリストが、神の国の福音を説いて……」
「ごめん、ごめん、ごめん……ぜんっぜん、ついていけないわ。もっと、わかりやすく説明してよ」
「え、これ以上?どうやって?」
「じゃあ……キン肉マンで例えてよ」
「はあ?」
「キン肉マン、知ってるでしょ?」
「まあ、知恵を司ってるから、知ってるっちゃ知ってるけど」
「じゃあ、お願い」
「僕も、それでお願いします」と、韋駄天。
「もう、しょうがないわね……」
文殊菩薩は、身振り手振りを添えて──時折「キン肉バスター」等と叫びながら、大仏様と韋駄天に説明しました。
「なにっ!それでは、キン肉マンである私が超人オリンピックで優勝したのに、ロビンマスクの誕生日ばかりを祝っているということかなのか、ミートよ!?」大仏様は、激昂しながら言いました。
「あの、自分をキン肉マンって言うのは勝手だけど、あたしをミートって呼ぶのはやめてもらえる?」文殊菩薩は、言いました。「でも、そうよ。信者は人口の1%にも満たないのに、日本中がクリスマスで浮かれてるの。それに引き替え、釈迦の生誕を祝う灌仏会(かんぶつえ)が、四月八日にあるってことすら、一部の人間にしか知られていない。これって屈辱的じゃない?」
「ぐぬぬぬ、ロビンマスクのやつめ……」と、韋駄天。
「ま、ロビンは悪くないんだけどね……」文殊菩薩は、やや呆れ気味に「一番悪いのは、サンタクロース」と、言いました。
「サンタクロース!?」大仏様は、拳を握りしめてから「そいつはどんな超人だ?」と、鋭く言いました。
「ま、超人というか、聖人なんだけど……」文殊菩薩は、いちいち突っ込むのが面倒だなと思いながら「クリスマスの前夜に、プレゼントを配るの」と、言いました。
「プレゼントだと?」と、大仏様。
「そうよ。子供たちに玩具(おもちゃ)をあげるの」
「灌仏会だって、甘茶(あまちゃ)をあげるじゃないか」
「でも、玩具と甘茶じゃ……ねえ?」文殊菩薩は、冷ややかに言いました。「それに、あっちはスタイルも小洒落てるのよ。トナカイが曳くそりに乗って、赤いコートに身を包んで……」
「あ、じゃあ、僕が見た赤い衣って、まさか……?」と、韋駄天。
「そう、サンタクロースの衣装よ……赤い帽子、ブーツに手袋。衆生が真似したくなるわけよね。だってこっちは、お定まりの法衣(ほうえ)だけなんだもの」
「サンタクロース……恐るべき悪魔超人よ」大仏様は、肩を震わせて言いました。
「どうしましょう、王子?」と、韋駄天。
「……あんたたち、それいつまで続けるの?」
「よし、分かった!」大仏様は、突然向き直ると「目には目を、歯には歯を……クリスマスにはクリスマスをだ!」と、言いました。
「どういうことですか?」と、韋駄天。
「むこうがクリスマスなんていう卑怯なマネをするなら、こっちもやり返してやれば良いんだよ。簡単だろ?そりに乗って、赤い衣着て、玩具を配る。それだけ」
「それを、灌仏会でやるんですか?」
「今日やらなきゃ意味ないだろ、参拝客取り戻すんだから」
「いや、でも……そもそもクリスマスって、生誕を祝うためにやるんですよね?お釈迦様の生誕は、四月八日じゃないですか」
「だから、それは……勢いでどうにかするんだよ」
「勢いで?」
「そう、火事場のクソ力じゃー!!」
「おお!火事場のクソ……って、いや無理っしょ」
「待って!」黙っていた文殊菩薩が、突然口を開き「大仏様のクソ力、悪くないかもよ」と、言いました。
「……ウソ?」と、大仏様。
「ホント。そもそも聖書──キリスト教の経典には、十二月二十五日をイエスの生誕とする根拠なんか、どこにも見当たらないの」
「ええ!そうなの?」
「じゃあ、なんで今日が?」と、韋駄天。
「それを説明するには、まずクリスマスのルーツを知る必要があるわね。よいしょっと……」文殊菩薩は、ゆっくりと結跏趺坐を組んでから話しはじめました。「西洋文明が栄えた北半球温帯では、太陽が一年で一番南に傾く日──つまり冬至(現在の暦で十二月二十一日にあたる)に、春の訪れを願って祝う盛大なお祭りが、古くから催されていたの。古代ローマでは、このお祭りに、農業の神サトゥルヌスを崇めたのよ。そのお祭りを、神の名に因んで「サトゥルナリア」と呼んだの。サトゥルナリアは、数あるローマの祝祭の中でも、最も盛んなお祭りだった。いつしかサトゥルナリアが、十二月の十七日から二十四日まで、実に七日間にも渡る大きなお祭りになったほどにね。やがてローマの神々が威光を失い、人々が新たな信仰に心惹かれるようになってからも、サトゥルナリアだけは存続しつづけた。サトゥルナリアは、それだけ人々から愛された信仰風習だったのよ。新しい信仰の中で、サトゥルナリアと最も相性が良かったのが、太陽崇拝を起源とするミトラ教。冬至を境に日々上昇していく太陽が、サトゥルナリアでは春の訪れを、ミトラ教では死者の復活を意味するから、無理なく受け入れられたってわけね。さらにミトラ教は、サトゥルナリアが明けた翌日──十二月二十五日を、太陽神ミトラの生誕を祝う、重要な祭日としたのよ。おかげでミトラ教は、一時期最も台頭する宗教にまでいたったの。そのミトラ教の最大のライバルこそが、他ならぬキリスト教よ。キリスト教は、勢いづくライバルを蹴落とすため、紀元三百年を過ぎたころ、十二月二十五日をイエスの誕生を祝うクリスマスとして制定したの。こうして、立派な建前ができたキリスト教徒は、サトゥルナリアの賑やかなお祭り騒ぎを、大腕を振って味わうことができるようになった……。ね、わかった?早い話が、キリスト教はイエスの誕生日をでっち上げたの。だから、あたしたちも勝手にクリスマスしちゃえば良いのよ!」
文殊菩薩の目に、大仏様と韋駄天の完全に寝ている姿が、飛び込んできました。
「ちょっと、ひどくない?他仏(ひと)が一生懸命説明してるのに、なに寝てんのよ!?」
「いや、寝てない、寝てない。あの……ちょっと、涅槃仏(ねはんぶつ)ってただけだから……」と、大仏様は目をしばたたかせながら言いました。
「本当に?てか、それって結局、寝てるってことじゃない?」
「ンなことないよ……なんたって俺、悟ってるし。な、韋駄天?」
「ぐー」と、韋駄天。
「いや、イビキかいてんじゃないのよ!」文殊菩薩は、ヒステリックに叫びました。
「いや、違うって……」大仏様は、作り笑いを浮かべつつ、かみ締めた奥歯の底で「おい、韋駄天。悟れって……おい、おい!」と、言いました。
「なーに?お母さん……」と、韋駄天。
「いや、お母さんじゃねーって。おい、マジやばいから……文殊、怒髪天、衝いてっから……おい、悟れよ、悟れって」
韋駄天は、突然体をビクッとさせ「え、あ、はい……悟ってます」
「ほ、ほら、悟ってるじゃーん」
大仏様と韋駄天は、そろって満面の笑みを浮かべました。
「あんたたち、サイテーね。あたし、もう帰るから」と、文殊菩薩。
大仏様は慌てて「いや、待って、待ってって!俺たち、ちゃんとクリスマスやるから。もう、クリスマスるから!な、韋駄天?」と、言いました。
「はい、そりゃ、クリスマスります……クリスマスりますとも。ね、大仏様?」
大仏様と韋駄天は、そろって笑みを浮かべました。
「……やっぱ帰る」と、文殊菩薩。
「ちょ、大丈夫、大丈夫だって……な、ほら!」大仏様は、なにか思い立った様子で「屁のツッパリは、いらんですよ」と、言いました。
すかさず、韋駄天が「おお!ことばの意味は良くわからんが、とにかくすごい自信だ!」と、言いました。
大仏様と韋駄天は、そろって満面の笑みを浮かべました。
「ねえ……こんな言葉、知ってる?」文殊菩薩は、言いました。
「なに?」と、大仏様。
「仏の顔も三度まで」

(続)

コメント(2)

色々な専門知識が散りばめられているのが、面白かったです!
>>[001]

コメントありがとうございます。
でも、あと二回続いちゃいます。
最後までお付き合いのほど、よろしくお願いします。

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