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意味不明小説(ショートショート)コミュの美しい日本語辞典279pの語を全て使った

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羊腸の小道を歩いている。独りで。

私はどうやら迷い込んでいるらしい。どうやってここにたどり着いたかという記憶もない。ただ、今はポツンとここに立ち、葉脈を透くように空を見上げている。

「寄る辺ない」という言葉が誂えを待っているようだ。心模様をあらわす表現としても、このシュチエーションをあらわす表現としても。

ただ、1本の曲がりくねった道が続く。宵闇が襲い始めた。のびのびと光を受け呼吸をしていた木々も、眠りに向けた準備に入ったようだ。聞こえない活動から、聞こえない安らぎへ。

私はそれに連動できずに取り残されていく。違うモノであるから仕方ない。ただ、またどこかでモゾモゾと小さな命がうごめき始めている頃だろう。時間や空間を分けてあらゆるものが存在する。不可侵の掟。山林のバランスが保たれる限り、回っていくサイクルが予定通りに動いているのだ。

私は完全に異分子でこの夜に彼らにとって脅威と判断されるかもしれない。

夜行性でない私は宵越しの彷徨いを避けるべきだろう。忽せに行動してしまえば更に深みにはまっていく。わからない所をわからないままに進んで何を得るだろう。

何かを確定させて、そこに立脚し次を得ていく事が大切だ。これまでも無意識の中でそうしてきたはずだ。絶対のものなど何もない中で、不安定の中の安定をさがし確定事項と仮定してとりあえず底に据える。上に乗って次を重ねる。そうして生きてきた。

何もないところから、何かを生み出せば事態は転がっていく。うまくいけば私は何かを手にするかもしれない。


直に空は暗くなり、月明りが怪しさを増してくるだろう。もしかすると明かりは届かない程勢力を弱めるかもしれない。この夜を闘う為には居場所を定める必要がある。野宿を余儀なくされたことは今までにも何度かある。どれも虚しく心もとない体験だ。それによって私はいくらか強くなってきたつもりだった。

が、今回は厳しい。山林でとなると事態はいよいよ由々しくなる。

弓手で眠っている草を払いながら、足で踏みつけていく。私自身も今夜同じような目にあうかもしれない。人ひとり分の広さの犠牲。怒りを買うなら最小限に留め置くべきだ。そんなことを考えながら要領を得つつ作業を進める。

没頭した居場所づくりがひと段落した時、光からほぼ見捨てられていた。手を伸ばせば肘から先が見えない。

もとより私には武器がない。加えて危険を察知する機能もこの上ない貧弱さでしかない。もう、海に漂う植物性プランクトンのように山林に身を任せるしかない。私は自分が人間であることを恨んだ。自我に生まれた恐怖を恨んだ。

プランクトンの方が優れている。彼らは追い込まれることなく摂理に従うことができるのだ。今、私が私自身に命令されている「おそいかかっている危険を回避しろ」というサイレンをかれらは聞くことが無い。

私とプランクトンを比べた時、自然に委ねるということに対して何も出来ないことは問題ではない。同じ1つの命がなくなる時、私はパースペクティブとかイメージで恐怖の化け物を作り上げてしまう。それが問題なのだ。

私は化け物を前に逃げ出したくて仕方がなくなる。自作自演のヘタレ劇といえばその滑稽に丁度だろう。そして、それに勝手に耐えている。このあとどういう出来事が起ころうが、なにも起こるまいが、私は耐えることをしなければいけなくなってしまう。一度隙を見せれば一気に喰われるだろう。

喰われればわざわざ危険に飛び込んでいく結果になる。「動いてはダメなのだ」薄っぺらな理性がしなりにしなって音を立てる。恐怖の化け物は消えない。



大丈夫、心配ない、明日は来る、朝は勝利だ、委ねろ、一部になれ、馴染め



体を一つも動かしてはいないのに汗が、滲み出してくる。精神が絞り出してくる不快な纏わりがうるさい。



眠りたい。時間を超えたい。道はある。それが一番楽だ。眠れ。眠れ。ただ、委ねて



私は目覚めた。目覚めたような気がした。杳としてわからない空間が山林なのか別の暗闇なのか検討もつかない。地面の感覚を得られていないのはマヒによるものかどうかも判別できない。とにかく、意識のようなものをもってどこかにいることに気づいた。

横紙破りの展開なのか流れている場面の自然な行き着きなのか、そういうことは大事ではなかった。私の目の前には足があり、杖があり、誰かに見下ろされている。委ねることを決めたのだ。無駄な力はいらない。開放こそが今すべき唯一のことだった。

「生きたいのか」

私は声に答えない。想念する。

「はい」

間があって台詞が届く。私も耳で聞いているのではないことに気づく

「羊頭狗肉」

「いえ...そんなことは...」

「プランクトンを求めたな。あの生をうらやんだ」

「はい」

「お前はあれになって生きていることを実感するのか」

「それは...」

「プランクトンのような生でいいのだな」

「いいえ、人間として生を」

「欲の皮が突っ張っているぞ」

「...」

「それでいい、それが進化だ」

「...」




私は目を覚ました。こだましているのは聞いたこともないような鳥の囀り。ささやかに漂う風のリズム。小径はかわらずに続いている。

立ち上がって歩む。生きている。何かを得に進むべきだ。たどり着けなくても距離を進め。

こうして私は化けていく。

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