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意味不明小説(ショートショート)コミュの明日へ架ける橋

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 友人と酒を飲んでいた時の事、「この問題の答えが分かったら、今日の飲み代は奢ってやる」そう言われて、私は次の様な問題を出されたのだった。


【問題】A氏は今、地上高さ60m、20階建ての高層ビルの屋上にいる。この辺りはオフィス街で、彼が今いるビルと同じ様な高さの建物が周囲に乱立しており、すぐ目の前にもちょうど同じ高さのビルが建っている。ただし、そのビルとは道路によって隔てられており、その距離は10mもある。一歩間違えれば高さ60mから転落死するのは明白であり、とても飛び越えられる距離ではない。幸い、ビルの屋上には3mの梯子が3本、4mの丈夫なロープが1本、ナイフが1本、11mのグラスファイバー製の棒が1本ある。これらの道具を使って、A氏がこのビルの屋上から無事に向かい側のビルの屋上に移動する方法はあるだろうか?


 私は頼んでおいた生ビールを一口啜ると、友人に向かってこう告げた。
「梯子を組み合わせても1m足りないから、グラスファイバー製の棒とロープを組み合わせて・・・・なんて、まさか僕がそんな事を考えると本気で思ったのかい?冗談じゃない。答えはもっと簡単だよ。A氏は屋上に出入りする為に設けられた扉を抜けて階段を下り、向かい側のビルの屋上に行った。それで十分だろう?屋上に出入りするためには扉がある筈だ。ダメダメ、もっと難しい問題はないのか?」
 私が事もなげに答えると、友人は次の条件を追加してきた。


【条件1】屋上に出入りするための扉は一つしかないが、それは建物内部から鍵を掛けられて締まっており、A氏が扉を開ける鍵を持っていないのは勿論、自らの手でこじ開ける事も出来ない。

 
 友人が加えた条件など、私にとっては想定の範囲内だったし、彼の出した問題は未だに穴だらけもいいところだった。
「A氏が携帯電話を持っていたなら、外部と連絡を取って、建物の内部から鍵を開けてもらう事くらいは簡単に行えるだろう?このご時世、小学生でも携帯電話を持っているって言うじゃないか。別に携帯電話を持っている事自体は特殊な条件って訳じゃないしね。まあ、極端な話をすれば、携帯電話で連絡を取り、ヘリコプターを呼ぶ・・・なんて選択肢も考えられるけど、さすがにそこまでやるのは反則かなぁ」
 私がそう答えると、友人は新たに次の条件を追加してきた。


【条件2】A氏は携帯電話を持っていない。また、ヘリコプターやハングライダーの様な空を移動する道具は持っておらず、使用可能な道具は屋上にあった道具に限られる。


 テーブルの上には唐揚げやフライドポテト、串の盛り合わせ等の料理が並べ始められていた。私としては、ファーストフードでお馴染みの細長いタイプよりも、三日月形の方が好ましく思うのだが、このお店のフライドポテトは残念ながら前者のタイプらしい。
「扉が駄目なら隣のビルに飛び移ればいい。向かい側のビルは10m離れていたとしても、両隣若しくは後方に隣接して建っているビルについては、十分飛び越えられる距離だという可能性はある筈だ。君は問題の中でこう言っていたよね。“この辺りはオフィス街で、彼が今いるビルと同じ様な高さの建物が周囲に乱立している”と。四方を全て道路に囲まれたビルと言うのが存在しない訳じゃないけど、そこまではこの問題では読み取れない。むしろ、都会のビルが密集している状況を思い浮かべるのが一般的じゃないだろうか」
 私がそう答えると、友人は再び次の条件を追加してきた。


【条件3】A氏が今いるビルの左右前後の建物は、全て幅10mの道路によって隔てられている。もちろん、A氏が転落死を希望するのであれば、飛び移るという決断を否定するものではない。


 後出しで条件を三つも付け加えるような問題など、根本的に出題者のミスとしか言いようがない。けれども私は、その事について友人に対し非難がましい事を口にする訳でもなく、空になった3杯目のジョッキを店員に返すと、芋焼酎の水割りを頼んだ。
「なかなか面白くなってきたと思うよ。でも、まだまだ十分じゃないな。実はA氏が特別な能力の持ち主で空を飛ぶ事が出来たり、10mの幅跳びをする事が出来たりするっていうのはどうだろう?実は綱渡りの名人で、向かいのビルに架け渡したグラスファイバーの棒の上を歩いて渡る事が出来たり、棒を支えにして道路を飛び越える事が出来たりするっていうのも悪くないかもね。他にも、棒すべりの要領で地上に降りる・・・とかね。まぁ、随分と冗談じみた話だけれど、あらゆる可能性を排除しなくちゃね」
 我ながら、少々意地が悪かったかなぁと思ったが、友人はそれでも次の条件を追加するに留まった。


【条件4】A氏は普通の人間であり、超人的な身体能力や特別な能力は持ち合わせていない。空を飛んだり11mの距離の幅跳びを行ったりする事は勿論、グラスファイバーの棒による綱渡りや棒すべりなどは行う事が出来ない。


 文字通り“そろそろ逃げ道がなくなってきたのではないか?”、もしもあなたがそんな風に思われたのであれば、それは非常に残念な事だと思う。本当に面白くなるのはこれからなのだ。
 しかしまあ、つい5分前に店員からラストオーダーを告げられた事でもあるし、お茶漬けをかきこんだ私は、友人にこう告げる事にした。
「今日はすっかり御馳走になったね。どうやらそろそろ店じまいの様だし、ここらで結論を導き出そうじゃないか。そうだ、“屋上にA氏以外の別の人間がいる”、というのはどうだろうか?これまで君が追加してきた条件は、全てA氏に制約を課すものだったからね。仮にB氏という存在を作り上げれば、扉を開ける事も携帯電話で人を呼ぶ事も、もしかしたら10mの幅跳びだって出来るかもしれないじゃないか!どうだい?」


【条件5】屋上にはA氏の他には、B氏もCも氏もその他如何なる生物も・・・・・・。


「・・・・おいおい冗談だよ。そんなにムキになる事はないじゃないか。分かった、分かったよ。本当の答えはこうだ。“A氏は屋上から4mのロープを使って、最上階の部屋の窓から建物内部に侵入した。”これで正解だろう?これは実際に窃盗の手口でも使われているって話だから、不可能な事じゃない。それじゃあな」
 私は得意げに友人にこう告げると、そのまま席を立とうとした。
 しかし友人は、素直に負けを認めないばかりか、「私の答えは実現不可能であり、不正解である。正解は他にある」と言い張るのだった。
「おいおい、こっちは五回も譲ってやったんだぞ。それなのにまだ難癖をつけるのか?いい加減に負けを認めたらどうだ?」
 私もついカットなってしまい、友人を相手に口論を始めてしまった。そこまでは覚えているのだが、その後の記憶がなくなってしまったのだった。


   ***   ***   ***


 翌朝、私が目を覚ました場所は、高層ビルの屋上だった。私のすぐ側には、3mの梯子が3本と4mの丈夫なロープが1本とナイフが1本と伸縮可能なグラスファイバー製の棒が1本あった。そしてご丁寧にも、携帯電話は手元に無く、扉には鍵が掛けられていた。
「おいおい。何かの冗談だろ」
 私は屋上で一人、誰に向かって言うでもなく呟いていた。それもそうだ。屋上にはB氏もC氏もD氏もおらず、A氏である私だけしかいないのだから。
 屋上に閉じ込められたA氏である私。その私がこの屋上から脱出する方法は、最後に友人に答えた通り“屋上から4mのロープを使って、最上階の部屋の窓から建物内部に侵入”する事だろうか。いやいや、そうではない。それではあまりにも身体的な危険が伴うし、運よく窓が開いている可能性に賭けるには、支払うリスクが大きすぎる。そもそも、高層ビルの窓というのはマンションと違ってはめ殺しになっているものだ。おまけに、窓を壊して建物内部に侵入するにしても、何らかの道具が必要となる。この困難な状況を前に、A氏はただ救いの手が差し伸べられるのを、ここでジッと待ち続けるのだろうか?答えは「否」である。何故なら、A氏にとってこれ程面白い状況はないからだ。
 ところで、友人の出したこの問題はなかなか興味深いものではあったが、それはまだ不完全なものだと思う。仮に私が出題者であったならば、話を更に面白くするために、次の条件を付け加えた事だろう。

 
【条件6】屋上に残された道具のうち、どれか一つは必ず使用する事。


 私は屋上に残された道具のうち、ナイフを手に取ると、親指にそっと押し当てた。鈍い痛みと共に、傷口から真っ赤な血が滴り落ちる。私はそれをナイフに塗り付けると、通行人に当たらない事を願いながら、地上に向かって放り投げた。
 そうなのだ。血塗れのナイフが突如、空から降ってきたとしたら・・・。誰もが驚くと同時に、不審に思う事だろう。好奇心の強い人間であれば、何か事件が起きたのではないかと思ってくれるに違いない。本当は靴でも腕時計でも構わなかったが、それよりも遥かに効果的であり、なおかつ条件6にもピッタリと合うのだ。
 私が予想した通り、それから五分もしないうちに建物内部へと通じる扉の開く音が聞こえてきた。そして、扉の向こう側からは、このビルを管理している警備員らしき人影が現れると、真っ直ぐに私の方へと近づいて来た。
「いや〜、脅かしてすまなかったね。悪い友人に嵌められて屋上に閉じ込められてしまったんだ。お蔭でこの寒空の中、ここで一夜を過ごす事になってしまったよ。しかしまあ、すぐに駆け付けてくれて助かったよ。あのナイフに気付いて見に来てくれたんだろ?」
 私が肩をすくめながらこう告げると、警備員は私に向かってこう答えるのだった。
「ナイフだって?一体何の事を言っているのかさっぱり分からないけれど、君に伝える事があってきたんだよ。正解は、“A氏の友人が助けに駆けつける”だったのさ。現実というのは案外、馬鹿馬鹿しい程に単純な偶然によって成り立っているんだよ。まあ、理屈屋の君には到底理解出来ないかもしれないけれどね」
 そう言って帽子を脱いだ警備員は、昨日一緒に酒を飲んだ私の友人だった。

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