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意味不明小説(ショートショート)コミュの夢の終わり→

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夢の終わりに、気づくことがあった。
夢の中で、ぼくはぼくの体を気のままに動かし、知人と話したり、どこかへ出かけたりしている。
時系列は交錯していて、小学校の頃によく遊んでいた近所の友達と、はじめに就職した会社の上司が一緒に現れるのだが、違和感を覚えることはない。
夢では、いろんなことを話している。
今まであったことやこれから起こるであろう出来事のこと、かつてあったもののことや未だ見たことのない何かのことを。
時系列の交錯した世界のうちに、様ざまな人々が去来する。
会話をかわす。
幼少のころに立ち入った雑木林は鬱蒼と繁り、肌を切るするどい枝々が光を遮断している。
踏み出す足元では、ぱきぱきと枯葉が割れる。
乾いている。
「火をつけよう」
いつの間にかぼくの傍らに佇立した上司が言う。
「火をつけよう」
いつの間にかぼくの背後にしゃがんでいる、高校の同級生の女の子が言う。
ぼくはポケットから100円ライターをとりだして、手近な枝の先をたぐりよせ、手のひらで風を遮断しながら、炎の先端をじっと見つめている。
はじめは緩慢に、やがて怯えた猫のようにすばやく、青い炎が枝から枝へと伝わっていく。
炎の暖かさを感じ、季節が冬であることに気づく。
次の瞬間、自分が黒いコートを着て、マフラーを首に巻きつけていることにも気づく。
燃えゆく林を眺めながら、ぼくらは何かを話し合っている。
ぼくはとても饒舌に、表情豊かに言葉を発している。
ふたりも、とても大きな声で、ぼくに応じている。
いつの間にか、ぼくの心の中には、激しい怒りの感情が表れていて、ふたりも同様に怒っていることが察せられた。
話されているのは、とても大切なことだから。
そう確信しているのだが、何を話しているのかはよくわからない。
しかし、上司の口から発せられる一言に、ぼくは傷つき、同級生の女の子の甲高い叱責に、目じりが熱く火照っていく。
なんで。
だから。
でも。
言葉はそれが発せられた瞬間から、迅速に遠ざかろうとする。
だから、覚えているのは言いはじめの部分だけで、肝心の内容については記憶をいくら辿っても見つかりはせず、言葉に置き去りにされた感情だけが、波立っている。
蠢いている。
すでに林のほうぼうに、炎は広がっている。
辺りはとても明るい。
ところどころで、枝が爆ぜている。
間歇的に熱風が吹き、頬にあたって肌の奥へと向かうが、膨張したぼくの感情がそれを内側から押し戻している。
もうお前の体に留まっていることはできないのだと、感情たちはぼくに告げる。
食い破る。
ぼくの体を食い破って、感情たちがいっせいに飛び出し、つぎつぎと眼前の炎に焼かれていく。
自分の体を失った、ぼくの眼は、すでに中空にある。
夢が終わる。
体を失うことが、夢が終わりに差し掛かっていることを告げている。
燃え盛る雑木林を眺めている。
感情たちはどんどん焼かれている。
上司と女の子も、呆然と立ち尽くしたまま焼かれている。
食い破られた体の残骸が、熱風に吹き上げられて、灰白の空へと舞い上がっていくのを見下ろしている。
気球みたいだ、と思う。
ふらふらと浮遊するぼくの体が、やがてぼくの眼の高さまで上がってくる。
空虚となった眼窩と、ぼくの眼が、一瞬、視線を交錯させる。
夢が終わる。
焼け爛れた瞼が緩慢に閉じられる。
空の果てから漆黒が迫る。
夢の瞼が閉じはじめる。
ぼくの眼は、中空に佇んだまま、夢の瞼のうちに閉じ込められる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

列車が自宅の近くを通過している。
きわめて単調なリズムを刻んでいる。
部屋には、冷たい朝の空気が領している。
その空気と体温の差によって、毛布は少し湿っていて、足先にまとわりついている。
夢から覚めたぼくは、未だ晴れないまどろみのなかで、現実の自分を再確認する作業をはじめている。
指先を、ベッドの端に這わせると、冷え切ったベッドのフレームを探り当て、同時に、自分の体内を循環する血液の温度を知る。
喉の奥へと意識を向けると、そのさらに先に、ゆっくりと収縮を繰り返すふたつの肺があることに気づく。
肺に大きく息を吹き込むと、膨らんだ胸がトレーナーと擦れあう。
すこし気持ち悪くなって寝返りをうつと、前髪が額にこすれる。
顔を覆う皮膚は、眠っているあいだにすっかり硬くなっている。
朝が来るたび、自分を確かめ直している。
それが昨日までのものと同一のものであるかどうかは、本当のところはわからない。
しかし、与えられたもので何とか上手くやるしかないのだ。
そう思った次の瞬間、すんなりとベッドの端までたどり着いた指先のことが、あらためて意識にのぼる。
こんなことは今までなかったことだ。
今まで、隣に眠る明日見が、ぼくより早く目覚めることなんて、いちどとしてなかったのだ。
明日見は毎日12時間眠るのだ。
明日見が目覚めないように仕度をととのえて仕事にむかうのが、ここ数年のぼくの日課だった。
違和感が、ぼくを急速に覚醒させる。
上体を起こすと、部屋のなかの冷たい空気がいっせいに体に伝わって、この部屋にはお前ひとりしかいない、と口々にささやく。
いつから。
その問いに答える者はいない。
ベッドから降りて、ドアへと向かう。
ふたつの腿の筋肉が、ぎこちなく収縮している。
いつから。
ドアを開けると、薄暗い廊下の脇で、ほのかな光が視界の片隅に浮かんだ。
冷蔵庫の扉がわずかに開いており、庫内の明かりを暗い廊下に滲ませている。
歩み寄って、覗き込むと、見慣れない銀の容器が置かれている。
弁当箱くらいの四角い容器で、庫内灯の光を無機質に反射している。
どこかよそよそしい冷たさに満ちていた。
ぼくの二つの肺が空気を求めて喘いでいる。
しかし、そんなことを気にかけている余裕はなかった。
容器のふたを持ち上げると、金属のこすれあうざらざらとした感触が指先を領した。
容器のなかは、透明の、粘性の液体によって満たされており、その中央には、切り取られた人間の親指が沈んで、ゆらゆらとふるえていた。
明日見の指だった。
銀の容器から発せられた、刺すような冷気が、ぼくの体を隅々まで包み込んだ。
未だに夢のまぶたは閉じていないのだろうか。
しかし、すでにぼくは、この世界のなかで、自分の体を再確認してしまったのだ。
夢のまぶたが閉じるのは、まだずっと先のことだとろうと察せられた。
ぼくは容器にふたをして、慎重に、冷蔵庫に収めた。
心臓がしきりに波打っていた。
意識が毛羽立って、こめかみにに流れる血液の鼓動をぼくに伝えていた。
冷蔵庫を閉じる頃には、眼球が周囲の暗闇に順応しはじめていて、さっきまでよりも細かなものを見ることができるようになっていた。
そして、ぼくの視線は、玄関の扉のすき間に差し込まれた、封筒にたどり着いた。

コメント(11)

コメントありがとうございます。

irohaさん
ちょっとこういう訓練もしとかなあかんかなと思いましてわーい(嬉しい顔)

(∪^ω^)わんわんお!
なんか俺の夢ってたいてい誰かと口論してるんやが。
P7☆さん
コメントありがとうございます。
朝の起きぬけって、違う夢をみているのか判然としない感じですよね。
夢の混沌とした非現実生がリアルに表現されていて不思議な作品だなと思いました。感情が体を食い破るくだりが好きです。
altraさん
コメントありがとうございます。
ちょっと派手なこともやらないかんと思い、破ってみました。
たかーきさん
コメントありがとうございます。
なんだろう、夢をあとから思い出したときの客観的な視線みたいなのが、悟りっぽいのかもしれません。

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