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意味不明小説(ショートショート)コミュの本物の予知能力者

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若くて魅力的な女性が一人、カウンターでグラスを傾けていた。
そこへ、一人の男が店に現れ、彼女の隣の席に着いた。お互いに言葉を交わした後、男は自らを予知能力者だと自慢し始めた。
「先日、この近くにある宝石店に強盗が押し入ったのを知っているかい?」
「えぇ。今朝、TVのニュースで見たわ。まさか、あなたはあの事件を事前に予知していたと言うの?」
「ああ、そうだよ。僕はね、あの事件が起きる1ヶ月前に犯行を予知していたんだ。強盗が宝石店を襲撃する様子が、僕の頭の中に浮かんだよ。犯人は黒い覆面で顔を覆っていたから、身元までは分からなかったけれども」
男はまるで、自分がその現場を目撃して来たかのように事件について詳しく話すと、得意そうにグラスを傾けた。
女性はもちろん、男の言葉を信じた訳ではなさそうだった。しかし、酒に酔って口から出任せを言っているにしては、随分と真剣に男が話をするので、面白がっている様子だった。
「あら、そうなの?今朝のニュースでもそこまで詳しい情報は伝えていなかったわ。もしも、あなたの言う事が本当だとしたら、素晴らしい能力をお持ちになっているのね」
「君は、僕が出鱈目を言っていると思っているんだろう?だけどね、誓って言うが僕の能力は本物なんだ」
「でも、実際にこの目で確かめてみないと、到底信じられないわ。そうだ、今から何か予知してくれないかしら?もしそれが当たったら、あなたの事信じてあげても良いわ」
「本当かい。よし、分かった」
男は、グラスに残った酒を一気に飲み干すと、しばらくの間額に指をあてて考え込んでいた。そしておもむろにこう言った。
「あと五分後に、君は君に好意を寄せているある異性から、愛の告白を受ける事になる。もちろん君はそれを了解するんだ。やがて二人は結婚して、幸せな家庭を築き上げる。これが僕の予知した未来さ。どうだい」
「ひょっとして、それって私を口説いているつもりなの?もしも、あなたが本当に予知能力者なら、私がこれからどういう行動を取るか、それも既に分かっている筈よね。おあいにくさま。あんたみたいな男、タイプじゃないわ!それじゃあね」
それだけ言うと、女性は席を立ち、男を残して店を後にしてしまった。


「お待たせしました」
カウンターに一人取り残された男は、バーテンダーから新しいグラスを受け取った。それを飲みながら男は呟く。
「僕は本物の予知能力者なんだ。宝石店の店主には、強盗が入る事を事前に忠告してやったのに、僕の言う事を信用しなかった。僕に言わせれば、宝石が盗まれたのは自業自得ってヤツさ」
「私は信じていますよ。お客さんが予知能力者だって事をね」
男は驚いて声のした方を向いたが、バーテンダーを睨み付けるとこう言った。
「信じる?誰もが口ではそう言うんだ。だけど、内心では偶然が重なっただけだと思っているだけなのさ。どうせ、あんただってそう思っているんだろう?」
しかし、バーテンダーは表情を変えずに、男にこう答えた。
「いや、私はちゃんと信じていますよ。多分、私の他にもあと一人、お客さんの能力を信じた人がいるんじゃないかと思います」
「ああ、そうだね。彼女は今頃、携帯電話から届けられた愛の告白に返事をしている事だろうよ。そして随分と時間が経ってから、ふと気がつくのさ。“もしかしたらあの男の人は、本物の予知能力者だったんじゃないか”ってね。ああ、今日は随分と酔っ払ったみたいだ。僕もこれで失礼するよ」


男が店を出たのを確認すると、バーテンダーは店を閉める準備を始めた。そして、自分自身に言い聞かせるようにしてこう呟いたのだった。
「私は信じていますよ。あんたが本物の予知能力者だって事をね。何故って、犯人しか知らない犯行当時の様子を、まるですぐ側で見ていたかのように正確に話して聞かせてくれたんですからね。だけど、あんたの能力を信じたのは、あの女の人じゃない。私があれだけ苦労して手に入れた宝石が、全てレプリカにすり替えられていたのは、宝石店の店主があんたの忠告を聞き入れたからに違いないんです」

そして、夜の闇に灯っていたバーのネオンサインも、いつしか消えていた。

コメント(9)

おーこわあせあせ(飛び散る汗)
このひとあんまり予知能力のこと言いふらすと自分の首絞めちゃいますねー
>いわトモ MK−2さん

お酒を飲むと余計な事まで喋ってしまいますからね。女性の気を引こうとしている場合は尚更でしょうか(笑


>ともさん

上手く予想を裏切る事が出来たのであれば、良かったです。ありがとうございました。
あらーなるほど! これは予想してなかったです。
>未知さん

最近まったく書けないので、少し前に書いた未掲載の作品を引っ張り出して来ました。結末に気を遣った効果が出た様ならば、良かったです。
宝石店の店長がインテリヤクザみたいな顔してそうです
>パパレモン Zさん

インテリヤクザ・・・それは盲点でした。おそらく、「宝石が盗まれてしもて、うちの店倒産してもうてん!!」とか言いつつ、保険金で丸儲けしている事と思われます。
>恋-ren-さん

ありがとうございます!面白いと思われるかどうかは読まれる方の好みに左右されますので、そう感じてもらえたのであれば非常に救われます。

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