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意味不明小説(ショートショート)コミュの真珠の首飾りの女

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 大勢の画家が観光客を相手に似顔絵を描いている場所として有名なT広場。わたしはポケットからしわくちゃになったメモを取り出し、再び歩き始めた。五分ほど行くと人通りの途絶えた片隅に、メモに指示のあったとおりの薄汚れた露店が見つかった。
 その店には全部で30枚程の絵が飾ってあったが、風景画や静物画は一切置いておらず、そのどれもが若い女性のポートレートだった。中でも、特にわたしの注意を引いたものが一枚あった。
 そのポートレートも、他の幾つかの絵画と一緒に無造作に飾られていた。透き通るような白い肌。ほんのりと紅をさしたような頬。少しはにかんだ様にして微笑みを浮かべる口元と潤んだ青い瞳。それを優しく包み込む様にして輝く金色の髪は、流れるように肩まで伸びていた。そして、ほっそりとした首元には、大粒の真珠の首飾りが輝いていた。そのポートレートは、何気なく視線を向けただけの通行人を一瞬にして虜にするだけでなく、その両足までをも釘付けにしてしまうだけの魅力を備えていたが、それに気づくだけの注意をこの店に払っている通行人はいなかった。
 わたしは丸椅子に腰かけてパイプをふかしている男に声を掛けた。
「こんな場所だと人通りも少ないから、儲からないんじゃないのか?」
「そうでもないさ。現にこうして、目の前に客が立っているんだからな。」
 男はパイプを口から離すと、煙と一緒に吐き出すようにしてそう言った。
「それに、うちに置いてある品はどれも一級品だからな。こちらから宣伝しなくても客の方からやって来る。」
 嫌な笑い声を上げながらそう話す男の言葉には構わず、わたしは飾ってある絵を物色し始めた。
「それなら500だ。最近店に入ったばかりだからな。」
 男は黒髪の女のポートレートをパイプで指し示すとそう言った。男の言うとおり、まだ絵の具が完全に乾き切っていなかった。胸元に飾られたブローチと光り輝く指輪が印象的だった。
「500か・・・。他は?」
「その下は300、その上なら700だ。嫌なら他を当たってくれ。」
 男は冷たくそれだけ言うと、値踏みするようにしてわたしの方を見た。
 わたしは飾られているポートレートを一通り見終わると、最初から目をつけていたポートレートを指差してこう尋ねた。
「これはどうなんだ?」
「それは高いぞ。文字通りこの店の“看板娘”って訳さ。彼女目当てにやって来る客も少なくないからな。2,000だ。」
「1,500。」
「いや、2,000だ。」
「1,800。それ以上は無理だ。」
「・・・1,800か。まあ良いだろう。そこの扉を入って、まっすぐ奥に進んだ突き当りの部屋だ。」
 男は丸椅子から立ち上がると、わたしの傍に近づいて来た。わたしから金を受け取った男は、代わりに鍵を手渡してくれた。
「毎度。110号室だ。」
 男の教えてくれた通り、わたしは突き当りの部屋を真っ直ぐ目指して進んだ。廊下の途中には他にもいくつか扉があり、それぞれに部屋番号が割り振ってあった。
 110号室には、先程のポートレートそのままに女の姿があった。女はベッドに腰掛けていたが、扉の開く音に気付いてわたしの方を振り返った。
「実物の方が綺麗だな。」
「みんなそう言うわ。」
 わたしの言葉に、女は慣れた様子でそう答えた。
「絵のモデル以外に、こんな仕事もしているのか。」
「ええ。何かとお金が必要なのよ。食べていくにはね。」
「余計なお節介かもしれないが、この世界からは早く足を洗った方が良い。こんな仕事をしなくても、女が一人で生きていけるくらいの仕事は他にもあるだろう。」
「長くこの世界に居過ぎたから、今更遅いわ。それにね、この仕事でしか味わえない刺激が必要なの。刺激がね。」
 女は皮肉な笑顔を浮かべると、真珠の首飾りを外した。それは先月、ある有名資産家の屋敷から盗まれた品で、その盗難事件については、連日マスコミで盛んに報道されていた。
「やはり実物の方が綺麗だな。」
 女から首飾りを受け取ったわたしは、ポケットにしまいながら再びそう口にした。
「用が済んだのなら、さっさと出て行ってちょうだい。出口は向こう側よ。」
 始めに交わした言葉の真意に気付いた女は、機嫌を損ねた様な声で出口を指差した。
「また来るよ。今度会う時は、この宝石に負けないくらいに磨いておいてくれ。君の腕も、君自身も。」
 立ち去り際にわたしは女にそう言うと、その部屋を後にした。

コメント(2)

画商は闇で盗品の売買を仲介しているということなのかな。のわーるな感じでヨーロッパの古い映画みたいな雰囲気がいいですね。
>いわトモ MK-2さん

そう、まさにその通りです!自分の頭の中では色々な設定や状況が構築されているんですが、それらが上手く文章に反映していない為、非常に分かりにくい説明不足な文章になってしまいました。スミマセン。

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