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意味不明小説(ショートショート)コミュの出来の悪い社員

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「おい君、なんだこの報告書は」
ある企業のある部署で、部長の怒号が響いている。対象は、いわゆる「出来の悪い」男性社員。他の同僚、上司、後輩は「またあいつか」と囁き合っている。
「全く、君はいつまで経っても成長しない。いいかね、今の君は会社にとって何の利益もない存在だ。むしろ損失と言っていい。君一人のおかげで他の者たちにどれほどの迷惑が及んでいるのか、分かっているのかね」
何も言い返せず、うなだれる部下。

 他の社員は皆、全て優秀というわけではないが、この出来損ないに比べれば、はるかにマシである。それくらい、彼の不出来さは際立っている。
 周囲の彼に対する態度は冷たく、世間話はおろか挨拶さえされない。当然、飲み会などにも呼ばれない。
 彼がいないのをいいことに、飲み会では決まって彼の悪口大会となる。
「まったく、なんであんなやつに給料が払われるんだろうな」
「こないだのあいつの報告書、見たか。傑作だったぜ」
「いや、俺には送られてないな。今度メールで回してくれよ」
中には、部長に直々に進言する者もある。
「部長、はやくあいつを異動するか、さもなくば肩を叩いてやってくださいよ」
「ん、ああ」
部長は少し歯切れが悪い。
「だが、異動させたところで、異動先の人間に申し訳なかろう。辞めさようにも、法的措置で対抗されたらやっかいだ」
「法的って。あいつがそんなことに頭を回すわけないでしょう」
「まぁ、とにかく面倒事はごめんなんだ」
というわけで、彼は異動することもなく、クビになることもなく、今の部署に居座り続けている。

 部長の怒号が飛び、同僚たちの悪口がはびこり、彼はうなだれて日々は過ぎた。今日は半年に一度の、部長から一人一人に査定が言い渡される日である。同僚たちの中には思わしくない査定を受けた者もあった。
 しかし、必要以上に落ち込むことはない。あいつがいるからだ。どう考えたってあいつの査定に負けるはずがない。
 彼は部長に呼びだされ、応接室に入った。
 部長は、穏やかな顔だった。半年ぶりの穏やかな顔に、彼は安堵した。
「今期もご苦労だった。確認のため毎回言うが、組織には君のような存在は不可欠なんだ。君の存在が他の社員のはけ口になり、組織は潤滑に回る。君は完ぺきだった。これ以上ない不出来っぷりだった。よく堪えた。君には最高の査定を用意した」
「ありがとうございます。部長の顔を見て安心しましたよ。部長が私をお叱りになるときの顔を見る度に、今度こそ本当にクビにされるのではないかと心配しましたから。これからも頑張ります」
「いや、頑張らなくていい。違うな、頑張って頑張ってないふりをしろ。こうかな」
部長と彼は、いたずらっぽい顔で笑った。

「それでは、失礼します」
彼が席を立ち応接室の扉を開ける頃には、彼はいつもの沈痛な表情に、部長は仏頂面に、それぞれ既に戻っていた。

コメント(5)

彼がどういう過程でこのポジションに就いたのか。
希望したのか、成り行きなのか。
によって、悲劇にも、喜劇にも。

スケープゴートも、組織には必要な存在。
哀しいですけど、事実なんですよね…。
並の人間なら半年持たないストレスだと思います。
がんばって!

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