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意味不明小説(ショートショート)コミュの待合室

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その待合室には、誰かのおならの臭いが充満していた。
下品な話だが、事実だった。

ここは、田舎のとある駅。
人影はないが、閑古鳥も逃げ出さんばかりの、寒い冬の夜。
あたりに街灯の類はなく、ホームにぽつんと佇む待合室だけが、唯一、明かりを放っている。

そこには5人の男女がベンチに腰かけていた。
5つのベンチに5つの背中。
その背中は左から、一組の若いカップル、登山帰りと思われる老人の男性、サラリーマン風の30代の男、
そして40代前後の、やや太り気味の女の順で並んでいた。

最初に異臭に気付いたのは―犯人を除いて―30代の男だった。
事実、彼は犯人ではなかった。
犯人は、4人の中の誰かだ。

男は、慎重に左右を見回した。
これだけの臭い。
犯人は、さぞやばつが悪い思いだろう。
必ず、不審さが表情やしぐさに現れるはずだ。
男は、それを確認しようとしていた。
気分は、テレビドラマの切れる刑事だった。

男の右には、40代前後の女がいて、何食わぬ顔で週刊誌を読んでいる。
左には、老人が疲労困憊といった表情でうなだれている。
そのさらに左奥にはカップルがいるが、表情までは見えない。
ただ、これといった会話もなければ、いちゃついている様子もない。
二人とも、虚空のどこか一点を見つめているようだった。
それはそれで不審といえた。

いや、待てよ。
男は思った。
不審といえば、この異臭に気付いているはずなのに、
表情一つ変えない、右の女と左の老人の方が怪しい。
そうだ。犯人は二人のうちのどちらかだ。

男は二人の様子をさらに詳しく観察した。
表情やしぐさに表れるだろう、少しの不審も逃さぬよう。
右の女、左の老人、右の女…。

突然、男は左から強烈な視線を感じた。
老人からだ。
視線というより、睨みに近いものだった。
いや、老人だけではない。
今や右の女も、左奥のカップルも、男を睨みつけている。

何故、俺は睨まれているのか。
まさか。

理由を理解したときには、もう手遅れだった。
左右を交互に確認するしぐさ。
不審そのものではないか。
男は激しい後悔の念に襲われた。
俺は断じてやってない、犯人捜しをしていただけだ。
できることなら、大声でそう訴えたかった。

しかし、できなかった。
おならの濡れ衣ごときに、むきになれるはずもない。
それに、電車が来て皆が散り散りになれば、それはもう過去のこと。
ここにいる誰とも後生会うことはないだろう。

先ほどの刑事気取りは跡形もなく、
今の男は釈放の時をひたすらに待つ哀れな囚人だった。

男は、じっと耐えていた。
誰かのおならの臭いと、その濡れ衣を着せられた屈辱に。

10分後、電車が駅に来た。
男にとっては長い長い10分だった。

待合室から5人は外に出て、
皆それぞれ一目散に別の車両へ入っていった。
皆、異臭に耐えるのがよほど辛かったのか、待合室の扉を閉めるのも忘れて。

電車の扉が閉まり、ゆっくりと走り出した。

結局、真犯人は分からずじまい。
「強いて言えば、俺を最初に睨みつけた老人が一番怪しい。
でも、確たる証拠がない」
男は何ともすっきりとしない気分だった。

一方、他の4人はこう考えていた。
「ああ、ばれなくてよかった。うまく罪をなすりつけることができてよかった」

その頃、かの待合室の開きっぱなしの扉からは、
4人分の異臭が夜の寒空へと流れていた。

コメント(4)

コメントいただき、ありがとうございます。

ユティカ・遊悠さん>
満員電車くらい人が多ければ、疑われる心配も…
いや、身動きが取れない分、イヤですねw

ともトモさん>
実際に、こういう待合室にいたときに思いついたネタです。
なので、舞台はそのままにしました。
もちろん、そのときは誰もおならをしていませんw

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