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意味不明小説(ショートショート)コミュの誰が魚を皿に盛るのか

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 初めに断っておくけど、これから話す内容は、普段と変わらないある日の出来事なんだ。実際に起こった事を出来るだけ詳しく書いただけだから、小説みたいにハラハラ、ドキドキする様な事件なんて一つも起こらないし、イケてる結末が用意してあるなんて事もないからそのつもりで。

 ある晴れた土曜日、おじさんが釣りに出掛けたんだ。話の都合上、おじさんの名前は“フィッシャー”にしておこう。だからって別に、おじさんの職業が漁師って訳じゃない。たしかに、この町に住んでいるスミス氏は鍛冶屋だったけど、おじさんは作家だったんだから。
 おじさんは町でも有名な釣り好きで、土曜日になると必ず(土曜日じゃなくても気が向いた時にはいつでも!!)、釣竿とバケツを持って魚釣りに出かけていたんだ。頭にはお気に入りの麦藁帽子を載せて、緑色の長靴でノッシノッシと歩いていくおじさんの後ろ姿は、安息日に教会へと出掛ける人々を見かけるのと同じくらい、この町では欠かせない光景の一つだったんだ。
 ところで、好きこそ物の上手なれという諺があるよね。けれど、おじさんの釣りの腕前はというと、その熱心さとは裏腹に、今ひとつパッとしなかった。まあ早い話が、毎週釣りに出かけているんだけど、いつも“坊主”で帰ってきていたんだ。この意味分かるよね?勿論、おじさんだから“boy”って呼ばれる年頃でもないし、作家だから“Buddhist priest”でもない。まあ、“shaven head”だったかどうかって点については、今のところ麦藁帽子に隠れてハッキリとは分からないんだけども・・・。
 夕日が西の空に沈む頃、釣竿と空っぽのバケツを持ったおじさんが町に戻って来るんだ。そしてそのまんま、行きつけのパブに足を運ぶと、おじさんの為に空けておいてもらった指定席につく。おじさん、さぞや意気消沈しているのかっていえばそうでもないみたいで、パブにいつもいる馴染みのお客さん達と楽しそうに話を始めるんだ。「あともう少しだったんだ。あれは間違いなく川のぬしに違いなかったね。何しろすごい引きだったんだから!」とか「1フィートよりも小さいのは魚とは言えないよ!」とかね。おじさん、さすがに作家をやっているだけあって、話をでっち上げるのが上手いんだな。だから、パブに集まったお客さんも面白がって、おじさんに1パイントの黒ビールを奢ってくれたりする。そうするとおじさん、ますます調子づいちゃって「マスター!ジョッキじゃなくて、ピッチャーで頼む」なんて言い出しちゃうんだ。(水をさすようで悪いんだけどさ。おじさん、キャッチどころかリリースもした事ないんだよね。よくそんなので、“ピッチャー”なんて言えるもんだと思うよ!)
 しかしまあ、当たりもあれば外れもあるのが占いと釣りだと思うんだ。そう思わないかい?
 その日もいつもみたいに、おじさんがパブに現れた。さて今日はどんな話が聞けるのかと、みんなが期待を込めておじさんを見つめ始めたまさにその時、これまで絶対に起きなかった事が起きたんだ。そう、いつも空っぽのバケツから、水が撥ねる音がしたんだ。おまけに、バケツの中を泳いでいる魚らしき影もある。
 おじさんの熱意が通じたのか、はたまた余程ぼんやりとした魚がいたのか、それは分からないんだけども、ここで大事な事は、おじさんもとうとう日頃の汚名を返上する日がやって来たという事なんだ。早速、あちこちのテーブルから、おじさんの快挙を称える祝杯が挙げられる事になったんだ。
 それからしばらくして、おじさんはもちろん、他のみんなもすこぶる上機嫌になり始めた頃、集まっているお客さんの一人がこう言ったんだ。「ところでフィッシャー。一体、どんな魚を釣り上げたんだ!?」ってね。それこそが鍛冶屋のスミス氏、まさにその人だったんだ。
 魚釣りが趣味って人だったら、こんな詰まらない質問なんかしたりしない。そういう人達が興味を持つのは魚の種類なんかじゃなくて、その大きさの方だからだ。しかもそれが、自分が今までに捕まえた事も無いような大物だった場合には、何処でその魚を釣り上げたのかを尋ねる事になる。勿論、相手にそれと分からないように、遠回しにだけれども・・・・。
 そんな訳だから、こんな質問をしたがるのは、釣り人には釣った魚の種類を尋ねないと礼儀知らずだと思われる、そんな風に自分勝手に思い込んでいる紳士を気取った連中か、あわよくば自分もお相伴にあずかって、夕飯を一食浮かしてやろうと企んでいる業突く張りか、鮭と鱒の区別もつかない様な潜りの連中のどれかなんだ。スミス氏はどちらかと言うと、バケツや釣り針の作り方は知っているんだけど釣りには縁がなさそうだったから、最後の“潜り”に当たるんだと思う。断っておくけど、商売道具が金鎚で、潜るのが得意そうだからそう思ったって訳じゃない。
「この辺で獲れる魚といったら、とりあえず鮭なんじゃないか?」そう言ったのは、仕立屋のテーラー氏。「だとしたら早速、塩漬けにして燻製にしなくちゃな。そうだ、スミス。あんたのところにある窯を使わせてくれよ。」
「馬鹿にするな、テーラー!俺にだってこの魚が鮭かどうかの見分けくらいつく。これは断じて鮭じゃねぇ。何かもっと違った魚だ!それにだ、鮭の一番美味い食べ方っていうのは、燻製じゃねえ。直火で炙って食べるんだ。」
「あんたの頭の中にある“サーモン”(※潜水艦の名称)っていうのは、海中を進む鉄の塊だけかと思っていたが、どうやら煙に燻られ過ぎて目まで可笑しくなっちまった様だな!」
「ふん。鋏と何とかは使いようとはよく言ったもんだ。自分の面倒も見られないその様じゃ、鋏も満足に扱えないんだろ?何処の三流鍛冶屋に頼んだか知らんが、焼きがまわったんじゃないか?」
「おいおい、この店で喧嘩はよしてくれやい。酒ならほら、とっておきのスコッチが用意してある。これでもやりな!それとも何か、口を開けば“酒・酒・酒”って、うちの店の品揃えにケチをつけようって言うのかい!」と息巻くのは、このパブのオーナーでもあるウォーカー氏。火花を散らす勢いで睨み合う二人を引き離すと、バケツを覗き込んでこう言ったんだ。「こいつは俺の見たところ、恐らく鰈だな。待ってろ、今すぐ煮付けにしてやる。ちょうど良い酒のつまみになるってもんだ。」
 ウォーカー氏は早速、調理の準備を始めるために厨房に向かって歩き始めたんだ。ウォーカー氏にとって幸いだったのは、背後で囁かれていたスミス氏とテーラー氏の話し声が、周りの騒ぎに掻き消されて聞こえなかった事だろうね。
「おい、スミス!今の聞いたかよ。ウォーカーの野郎、よりにもよってこの魚を鰈だと抜かしやがった。ハッ、これが鰈に見えるとはね。奴さん、一体全体何処に目をつけてやがるんだか!」
「止せよ、テーラー。隙さえあれば他人を道化に仕立てようってするのがお前の悪い癖だ。酒が不味くなる。しかしまあ、“左ヒラメに右カレイ”って言うくらいだから、多分右なんだろうぜ。」
「All right!それでこそ我が同士!コンサバティブってもんだ。さっきは悪かったな。それじゃあこの酒が、せいぜい味醂でない事を祈って乾杯しようじゃないか!」
 パブにたむろしている様な酔っ払いなんて、世界中何処に出掛けても、大体こんなもんだと思うんだ。自分勝手で、好き放題に喚き散らした挙句、翌朝には自分の言動を綺麗サッパリ忘れちゃうんだ。本当、嫌になるよ。まあ、害意は無いんだろうけどもね・・・・。
 おっと、そうこうしている間にも、またもや別の声が聞こえてきたみたい。
「おやおや、皆さんお揃いで。ほぉ〜、これはまた立派な鱈じゃないですか。」と声を掛けてきたのは、この町で雑貨屋を営む店主のスペンサー氏。「ぶつ切りにして油で揚げる。あぁ、想像しただけで涎が出そうです。これだけの大物だ、一切れくらいお相伴にあずかったって、構いやしないでしょう?」
 スペンサー氏、ちゃっかりと空いた席に腰を降ろして自分の場所を確保しようとするんだけど、何というか随分と恰幅の良い体格をしているから、周りにいたお客が二人、弾みを食って椅子から転げ落ちる破目になったんだ。ちなみに、テーラー氏とスミス氏がその二人。(二人には同情するけれど、人の陰口を叩いた罰だと思うよ)
「おい、今の聞いたか、スミス!スペンサーの野郎、いつも油を売ってばかりだと思っていたんだが、とうとう誰も買い手がつかなくなったらしい。誰でも良いから“油を上げる”と言い出しやがった!タダで呉れるって言うんなら、お前んところ窯の燃料の足しにでもしたらどうだ?」
「ふざけるな、テーラー!人を担いでピエロに仕立てるつもりだろうが、その手には乗らん。しみったれのスペンサーが、御代も貰わず人に物をやるもんか。何しろ、売れ残った大量のオイルサーディンの缶詰を買い取ってくれないかって、この前も泣きついてきたくらいだからな。」
「ああ。あれは酷かった。仕方がないんでお情けで一缶買ってみたんだが、オイルが蒸発してパサパサ。とても喰えたもんじゃなかった。犬も喰わないとはこの事だ。」
「オホン、ミスター・スミス&ミスター・テーラー!上質なジョークであれば人間関係の良好な潤滑油とも成り得るのでしょうが、君達が今口にしているのは、謂れのない単なる誹謗中傷に過ぎませんね。もっとも、私がうら若き幼な妻を娶ったからといって、君たちがその事で嫉むのは仕方がない事だとしても、君達のワイフだってまだ、パサパサという年頃では無い筈だ。その気になれば潤い始める事だろうし、そうすれば、夫婦喧嘩などたちまち・・・・・・」
 本当、アルコールってさ、油なんか比べ物にならないくらい口を滑らかにする効果があるみたいなんだけど、絡んでくる酔っ払い相手にまともに話をしたって仕方がない事くらい分かりそうなもんじゃない?ああいう手合いは、相手をしないのが一番の得策なんだ。だから、三人の事はしばらく放っておく事にして、こっちはこっちで話を進めることにしよう。続いて登場するのは、先程の三人より、少しばかり分別のある大人だと良いんだけど・・・。
「ふ〜む。これと似たような魚を、以前に書籍で見た記憶があるぞ。しかし、何という名前じゃったかなぁ。あぁもう、この辺まで出掛かっとるというのに!」と言い始めたのは、この町の学者クラーク博士。
 クラーク博士は、すごく偉い学者先生で、女王陛下(神よ、我らの女王を守り賜え!)の御前にも立った事があるっていうもっぱらの噂なんだけど、最近じゃパブの片隅で一人チビチビとミルクを飲む姿が目撃されている爺さんなんだ。
「おぉ、そうじゃ。こやつはムベンガ。学名はヒドロキヌス・ゴリアテ、通称ゴライアス・タイガーフィッシュじゃ!そうじゃ、間違いない。」そう言い切ったクラーク博士の目には、いつもなら決して宿る事のない自信と確信に満ちた光が溢れていたんだ。
 普段は影が薄くて、みんなから忘れ去られている存在の博士が、珍しく大声を張り上げたもんだから、パブに居るお客さんがみんな振り返ったんだ。厨房に引っ込んでいた筈のウォーカー氏も、思わず顔を覗かせる始末。
「博士、あんたがこの町で一番の物知りだっていうのは認めますがね、この魚がその“ゴリゴリ”って魚だとして・・・」とはテーラーの言葉。もう本当、混ぜっ返すのが好きなんだから!
「“ゴリゴリ”ではない。ゴライアス・タイガーフィッシュじゃ。そもそもゴライアスというのはじゃな、旧約聖書に登場するペリシテの巨人の名前であって・・・・」と、すかさずクラーク博士。最近の教育水準の貧弱さを嘆きながらも『サムエル記』についてひとしきりみんなに講義し始めたんだ。(うへぇ)いつの間にか話がすっ飛んで、六芒星の活用方法にまで話題が及んだところで、ようやくスミス氏が口を挟んでくれた。
「で、結局これがそのギガント・ジャガーイモ・ウィッシュだとして、どうやって食べるんだ。やっぱり直火で炙るのが一番なんだろ?」
「馬鹿言うな。そりゃ、もちろん燻製だろうぜ!」とはテーラー氏。
「冗談じゃない。こっちはとっくに煮付の準備が出来ているんだぞ!」とはウォーカー氏。
「いやいや。ここはやはり、油で揚げるのが一番でしょう。」とはスペンサー氏。
 皆の視線を一身に浴びたクラーク博士、得意そうに顎鬚をしごきながら、胸を張ってこう言ったんだ。「儂は学者じゃから、調理法なんぞ知らん。四人で魚を引っ張り合って、勝った奴が調理すれば良いじゃろう!」とね。
 さすがは知恵者のクラーク博士。古代イスラエルの王ソロモンにも劣らぬ名案を捻り出し、得意満面の表情を浮かべていたんだけど、四人は顔を見合わせ、「適当に四等分して、各々で調理するとしよう」という、秘密協定を結んだみたいだった。そして話が纏まると、スミス氏、テーラー氏、ウォーカー氏、スペンサー氏の四人は、揃っておじさんのバケツに近寄ったんだ。
 しかし、四人がバケツを覗いてみると、つい先程までバケツの中で泳いでいた筈の魚が、まるで魔法にでもかかったみたいに消えてなくなっていたんだ。バケツに手を突っ込んでみても、手に触れるのは生温くなった水の感触だけだったから、透明になった訳でもない。四人は怒ってこう言った。「おい、フィッシャー!俺たちに内緒で、俺たちの魚を何処に隠しやがった!」
 いやはや、とんでもない言い掛かりだ。あの魚はおじさんが釣ってきたんだからおじさんの魚さ。相手がたとえ女王陛下(神よ、我らの女王を守り賜え!)だったとしても、それだけは曲げようの無い事実なんだ。
 でも、おじさんは平気な顔でこう言ったんだ。「あの魚なら、さっき野良猫が銜えて持っていったよ。急げばまだ、少しは身が残っているかもしれないね。」そして、美味そうに黒ビールを飲んだんだ。

 結局、おじさんが釣ってきた魚は何だったのかだって?おじさんが言うには「猫が食べちゃったんだから、多分なまず(catfish)さ。」とか何とか言っちゃって、きちんと教えてくれなかったんだ。まあ、この町にいる大人なんて、誰一人まともに魚の名前なんて分かっちゃいないから、おじさんだってその魚が何だったのか分からなかったと思うけどね。何とも瓢箪で鯰を押さえるような結末だけれども、まあ仕方がないさ。
 そうそう、それからもおじさんは、土曜日になると必ず・・・・・・土曜日じゃなくても気が向いた時にはいつでも!!・・・・・・釣竿とバケツを持って魚釣りに出かけていたんだ。そして夕方にはウォーカー氏のパブに出掛けて、相も変わらず酔っ払い連中を相手に自分が逃がした魚の話を披露してビールを飲んでいるんだってさ!

コメント(6)

かの魚には、女王陛下(神よ、我らの女王を守り賜え!)でさえ驚嘆されたとか。
王室のティーパーティーに招かれた時を思い出したよ。エリザベスがチャールズに言ってたっけな。
『秋茄子は嫁に食わすな』ってね。
>シュガー・ドラゴンさん

かの魚は不幸にして、ハートの女王(女王の機嫌を損ねる勿れ!)によって首をちょん切られたとか。
>パパレモンさん

とあるティーパーティーに招かれた時を思い出したよ。帽子屋とうさぎとねずみが歌ってたっけな。『誕生日じゃない日(なんでもない日)』ってね。
>未知さん

二回も読んで頂けたなんて!嬉しさのあまり、チェシャーの猫のようににやにや笑ってしまいました。・・・・って、もうこのクダリ、いい加減に飽きてきましたね。

そうそう、ムニエルって調理法もありましたね。フランス料理だったので、うっかり失念してました。「エマニエル記」と読めなくて良かったです。

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