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意味不明小説(ショートショート)コミュの翼を授ける

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あたしは子供の頃から捨てられない性分で、部屋の中は常に“思い出”という名のゴミで溢れ返っていた。
















すごくやなことがあった。

だから天気のいい寒い日。汚れた窓と色褪せたカーテンを大きく開け放って、とにかく所有物を片っ端から処分してゆくことにした。


手始めに、小学4年生の時に自分のお金で買った黒いかばんや、中学3年生の時の夏休みの宿題、2ヶ月で辞めた高校の国語の教科書などを手当たり次第捨てていった。

くたびれた下着、片割れの靴下、サイズの合わなくなったジーンズには未練はない。

小学校の卒業式で胸に付けた赤いリボン。中学校の卒業式で胸に付けた造花。校章。名札。透明のビー玉。丁寧にティッシュペーパーで包まれた薄い桜貝。それらは入っていたケースごと捨てた。

16歳の誕生日に友達からプレゼントされた猫の写真集は人にあげ、18歳の誕生日に自らねだったチェスは今日まで一度も使わなかった。

膨大な数のCDと本はまとめて売りに出した。二束三文にしかならないのはわかっていた。

文通相手から届いた約5年分の手紙はダンボール2箱にぎっしり詰まっていた。幼い文字で書かれたお互いの住所や名前をマーカーで塗り潰しながら、あの子は今どうしているだろうとぼんやり考えた。

色んな人と映ったプリクラや写真は少しばかり躊躇したけれど、いざそうしたらなんてことはなかった。音を立ててゴミ袋に落ちていくのを見たら心が一気に軽くなった。その勢いで卒業アルバムも捨てた。あれが不燃ゴミ扱いだというのは、この時初めて知った。

無駄にでかくて使いづらい学習机と、用のなくなったいくつもの本棚も捨てた。

軋みの激しいベッドも、古ぼけた枕ももういらなかった。

その合間に携帯の中身も整理した。もう利用しないサイトのURLと疎遠になった知り合いのアドレス、開けるだけで読んだ試しのないメルマガを、立て続けに何件も消去した。














すっきりした生活にずっと怯えていた。

思い出を捨てるなんて、薄情な人間のすることだと蔑んでいた。

形ある思い出を手元に残しておかないと、いつか寂しさに殺されてしまうと思っていた。



でも逆だった。
大事で大事で絶対に手放したくなかった思い出たちをそれぞれてんでんばらばらの場所に仕舞い込み、あげく埃の中で窒息死させたのは間違いなくあたしだったのだ。


屍の山でずっと暮らしていた。
屍と共に暮らしていた。
殺したのはあたしじゃないと目を背けてきた。
長年見向きもせず、触ろうとも愛そうともしなかったくせに。


あたしはとっくに息を引き取った思い出をそばに置いて並べて、まるで裕福になったような気でいた。












いつ死んでもいいように、とたくさんのものを捨てたのだけれど、無意識のうちの足枷を外したら、とても身軽になった。

皮肉なことに、もっと生きたくなった。


過去を何も持たないあたしは、その分遠くへ行ける。


コメント(6)


> (∪^ω^)わんわんお!さん

ね、捨てられないですよね(白目)
部屋の隅に溜まった埃でさえある意味思い出!入居から一回も掃除してないわ、そろそろ〇年目かしらうふふ!みたいな。プライスレス!
ありがとうございましたすみませんでした
> ともトモさん

逆に、天井まで積み重なったジャンプを片付けるのに(しかも読み返しつつなのに)3日しか掛からなかったなんて…プロですよ!!!!゚Д゚
私だったら何週間も掛かって、捨てても捨てても最新号に追われてくことになると思います。エンドレス!
ありがとうございました★
> ユティカ・遊悠さん

潔い言葉、文章、魂…
なんたる褒め言葉!(>д<)
一度捨て始めると…病み付きになりますよ★ぜひぜひ★
ありがとうございました!

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