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意味不明小説(ショートショート)コミュのぼくたちの王国。

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なぜだか知らないが、渋谷に着いたのは始発の電車で、電車と言ってもどの電車に乗っていたのか、まるでわからない。
それまでなにをしていたのか、これもまるでわからない。
夢の中のはなしだ。
夢の中で、渋谷はまだ寝床に入っているような、本式には動きだしていないような風情で、まだ陽の上がらぬ空の色は雨を控えたような鉛色をしていた。
モヤイ像のあるバスターミナルに出て、しみしみと朝霧のようなものがうすく漂うなかに、ただただでこぼこした舗装を見せてターミナルは展がり、無人であった。
無人で、ただ時刻表示の案内ばかりが佇っていた。
どこも一緒だと思った。

プラザ通りは、東急の裏手にあって、雑居ビルのなかに居酒屋、バー、パブなどが入り込めに入り込めてあって、こころが荒れやすいじぶんは、荒れてくると、火にあぶられたするめのようになって巻き込むように前屈してくる視野をほぐそうとするのか、頭上を見るのであった。
そうすると、件の雑居ビルに入っている店のじつにこまごまとした看板が目に入ってきて、なにかおもしろいことを書こうと思うのだが、じっさいにそのうちに覚えているのは
「ぽあ」。
「桃の木」。
「あ!鬼が島」。
だけなのであった。
思いも起こせぬ無数の看板、巨大なコンクリの固まりのビルの向こうに、空が見える。ああ、きもちがのびた、のびた、じぶんはそんなふうにひとりでよろこんで、そうやって頭上の看板、ビルの感じ、空の様子を眺め込んで、赤色に点灯している信号機にきづかない。
ひとと行きはぐれるのである。
どこかで、どうしたのか、壊れてしまっているのだ。

しかし、夢の中でじぶんはしごく自然体、プラザ通りを歩いてゆく。
本来、個室ビデオ鑑賞室、博多ラーメン屋のある所に、どういうわけだか割烹があって、そこで働いているらしい頭を丸めた、恰幅の良いしかしそこまで年のいっていないあんちゃんが、白い仕事着で、往来に出てきて、白タオルをばっ、ばっ、とはためかせた。米にしかけていたのか、湯気とともにはためかせたタオルから、米の炊けたにおいがひろがった。

なぜか、町はぼろぼろになっていた。
割烹が営業するくらいのことはやっているのだが、あちこちに爆撃されたような区画がある。
左手の、本来なら古本屋のあるビルがあるところはやはり瓦解しており、奥の方まで更地、というか鉄骨、壁の残骸、ガラスの破片のちらばった土地になっている。
実際に、このあたりは空襲を受けたのか。
わからない。
わかるのは、その瓦解した土地の奥の方に、与謝野晶子が住んでいたことと、その庭ですっぱだか晶子が行水していたぐらいのことである。
井の頭線をくぐって、じぶんの働いていた場所の近くに行く。
やはり、左手は瓦解。
電柱が折れて、つながったままの電線がつっぱらかって、ギターのように見える。ギターのように見えて、いつ切れるのか危険である。その電柱は、なぜか会津の田舎にあった式の、木でできた、木でできていてそこにコールタールを塗りたくった、炭のような匂いのする電柱であった。

目の前。

左手に、やはり残骸の土地がひろがる。
おとなの剃り残したひげのように、鉄骨が強(こわ)くねじくれて地上一メートル半ほどのたくっている。
その脇に、爆撃をのがれた塀が2メートルほどある。
その隣がじぶんの職場であった場所。
どうやら、じぶんは出勤してきたらしい。
しかし立ち止まるのは。
塀の上に、炭になった少年がそのまま、本を膝に抱えたままの姿勢で。
炭になっている。
炭になって、座っている。

爆弾で焼けたらしい。
よほどの瞬間的、高温だったのか、服の襟ぐり、帽子のエンブレム、靴下のひだ、すべてそのままに炭になっていた。
しかし、じぶんの頭の中では、こんな判断が働いている。

これは、この子は、ずっとここに居るのだ。

あの前の戦争の時に焼かれて、あのいくさの記憶を残しておくために、ずっとここにまるで彫刻のように、ここにあるのだ。
夢の中のじぶんの思う「あの前。」というのが、いつなのか、わからない。
むかしのことか。
これから先のことなのか。
まるでわからない。
わからないまま、しかし夢の中の自分は確信をもってその、彫像というのか、屍体というのか、焦げた少年を、見ている。
佇んで見ていると、朝日。
後ろから朝日がさしかけてきた。
じぶんには、複雑な感慨は起こらない。
ただこころがゆがむ、という以外の実感は乏しくて、敵意も、よろこびも、かなしみも、おもしろく思うこころも湧いてこない。ふかく過去を感じとることもできない。
目の前で、ただ後ろから昇り抜けの朝日をあびて、一層黒く見えるその少年を、ただ、ただ惚けたようになにも思わずに見ている。
見ていると、ふいに、少年が傾いて、傾いて傾いて前のめりに、落下。
コンクリの破片のちらばる道の上に頭から落ち込んだ。
どさ、。

落下した。
本をもっていた両手が折れて、足下に転がった。
右手が、こちらの右足に触れる位置に転がり、もとは血の通うた肉体の破片が、ただの黒い炭のかけらになってちらばった。
見ると、本の表紙。
あざやかに彩りをとりもどす。
「ぼくたちの王国」
少年はそんな本を読んでいた。

突き抜けた表情の学徒、少年、少女。
笑っている。
背景、青空。
なにかおもしろい思いつきを書き足そうとするが、夢の中で見えたのは、ただその表紙写真、および題字「ぼくたちの王国」

「ぼくたちの」
「おうこく。」

足下の本を見てつぶやいた。
つぶやくと、足の先、後頭部を見せて転がっている少年の頭部が、さらに崩れたのか、右半面の顔を見せて一段崩れ、崩れたかと思うと、炭のくちびるがうごきだした。
こんなことを語った。


みんなで、あさごはんをたべていました
みんなで、あさごはんをたべていました

しょかでした
いまには
ぼく
おにいちゃん
おばあちゃん
おかあさん
おとうさん

おばあちゃんのいえの
とーすたーは
ふるいです
しかくい
せいほうけい
ぱんをにまい
いれて
おしこむ
すると
でんねつで
やけて
にまい
やけたのが
とびだす

ちん、といって。


みな
てれびを
みていました

なにをやっていたのか

いつもやっているような
いつでもおもいだせるでしょう
ほら、
といいたくなるけど
まるで
おもいだせない

そんなことを
てれびはながして
いました

しろいぽっとに
こうちゃのてぃーばっく
いれて

しーちきん

きゃべつ
きざんだの

やけたぱんに
ばたー
ははが
ぬっていた

「きょうは」
「まなつびです」
「かくちの」
「さいこう」
「きおん」
てれびがいったのを
おぼえています

すると
てれびが
ぷっつり
きえました


いちめん
あおいがめんに
なりました

しらないくにの
ことばが
うえからながれて
きました

ぐんたいのなかに
そのくにのひとが
いて

おうさまをひとじちに
とりました

それで
ぐんたいぜんたいが
うごけなくなりました

そのくにのぐんたいが
はいってきて
かわりにとってかわった、
とのことでした

『いまから』
『手配した車両がむかう』
『それまでは全国民自宅にて待機せよ』
『外出する者においては』
『命を保証しない。』

ははが
ぼうよみのように
よんだのを
おぼえております

みな
はなさなくなって
ぼくは
なぜか

初夏だなあ。

とおもいました

おにいちゃんが
ぱんをたべていたのに
たちあがりました

「ちょっと」
「そとへいってくる。」
おにいちゃんは
いいました

「なにいってるのよ」
「だめだよ」
「あぶないよ」
「やめなさい」
みな
いいました

しかし
おにいちゃんは
でてゆこうとしました
「おにいちゃん」
「なにを」
「しにゆくの」

きくと

「くるまを」
「あらおうとおもって。」

おにいちゃんはいいました。

「さいごに」
「すきなものを」
「あらってあげようとおもって。」
いいました。

おにいちゃんは
でて
ゆき

ました


なぜか、それだけを語ると、その炭の固まりは、役割を果たしたように、崩れ、また一段崩れて、首がへし折れた。なおも崩れて、みるで目に見えぬ圧がかかるように上体および下半身が押しつぶされたように真ん中からへし折れ、べきべきといくつかの黒色の塊になり、それすらも潰されてゆく。黒い消し炭の粉になり、色を喪い、さらさらの灰になった。
夢の中で、じぶんは、そのすこし紫がかった灰の粉に人差し指をつけて、舐めた。


目覚めて、職場へ向かうと、じぶんはねじ曲がった鉄骨がある場所をなにか照らし合わせるように眺め込んだ。
当然、そこには鉄骨も無く、崩れかけた塀も、なかった。
少年だったはずの灰も、とうぜんなかった。
あるはずもない。
あるはずもないのだが、じぶんは実際の世界で、浅からぬやりとりを通じた相手のかつて息づいていた場所のように、ただの汚れた路地の入り口を見ていた。ある喪失感があった。
そんなじぶんは、やはり傍目からすればすこし異様に見えたかもしれない。
しかし、みな、そんなものなのもしれない。

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