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意味不明小説(ショートショート)コミュの天国と地獄

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 世界一のポーカーの名人と呼ばれた男がいた。彼の名はヘロン・ホワイト。彼は生前、数多くの勝負を行い、幾多の勝利を自らの手中に収めてきた。彼は勝負を挑んでくる相手であれば誰であろうとも、手加減は一切せずに相手を破産するまで叩きのめす事で有名だった。彼のせいで人生を狂わされた者は少なくなく、人々は彼の事をいつしか「悪魔に魂を売った男」と噂するようになっていた。念のために断っておくが、ヘロン・ホワイトの強さは、偏に彼がこれまでの勝負で培ってきた経験や技術に基づくものであり、決して他人から与えられた特別な力によるものではない。そう、彼は世界一のいかさま師という一面も持っていたのだ。
 そんなヘロン・ホワイトも自らの死期までは騙す事は出来なかったようだ。ある日、彼に恨みを持った一人の青年が、拳銃を手に彼の前に現れた。その拳銃から放たれた弾丸は見事に彼の心臓を貫くと、彼をあの世へと連れ去ってしまった。そして今、彼は「裁きの門」と呼ばれる場所に立ち、神の審判を受けているところだった。
「ヘロン・ホワイト。お前は生前、自らの私利私欲のために数多くの人々を不幸に陥れた。何か弁明すべき事があればこの場で申してみよ。」
「神よ、偉大なる我らの父。貴方は我々人間に“七つの大罪”というものをお示しになった。そうでしたね?」
「ああ、そうだ。“七つの大罪”とはすなわち、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲、以上の七つの事だが、それがどうかしたのか。」
「私はこれまで、それらのどの罪も犯した事はないのです。傲慢は隙を生み、嫉妬は心を乱し、憤怒は冷静さを失わせ、怠惰は自らの技術を貶め、強欲は勝負の流れを見失わせる。それらは全て、勝負師として忌むべき資質なのですから。」
「ほう。それでは、暴食と色欲の二つはどうなのだ?」
「わたしは三度の飯よりポーカーが好きなので、食べる物には興味が無く、勝負が始まった以上は、相手が女神だろうと決して手を抜きません。故に、私は罪を犯したことはないのです。」
 神は彼の申し出を聞き終えると、一人の青年を呼び寄せた。それは彼を殺したあの青年だった。
「この青年にはお前も見覚えがあるだろう。彼は殺人を犯した罪でこれから地獄へ送られようとしている。彼が道を外す原因を作ったのは、ヘロン・ホワイト、お前自身に他ならない。故にお前も一緒に地獄へと送られるべきところだが、自らが罪を犯していないと主張するお前の事だ。無理強いされたのでは到底納得がいくまい?」
「神よ、慈悲深き我らの父。この青年は殺人という大罪を犯しました。しかし、私が死んだのは、私自身にツキがなかったせいなのです。どうか大いなる慈悲を持って彼の罪をお許し下さい。」
「ほう。勝負師らしい潔い台詞だな。良かろう、慈悲の心で青年の罪を許し、お前も一緒に天国へと送ってやっても良い。ただし、お前がポーカーでこの儂を負かす事が出来たらの話だが。」
 予想もしない展開に、さすがのヘロン・ホワイトも驚きを隠せなかったが、ポーカーの勝負と聞いては後に引く事は出来なかった。
「もしも私が貴方に負けた場合は、一体どうなるのでしょうか?」
「その時は二人とも地獄へと送られる。ただそれだけの事だ。どうする?」
「分かりました。お受けしましょう。」
「勝負は5回。5回終わった時点で、より多くのチップを持っている方が勝ちだ。」
 こうしてヘロン・ホワイトは、自らと青年の未来を賭けて神とポーカーで勝負する事になった。4回までの結果は下記の通りだった。
 
 第一回 ○神(ワンペア)   − ×ヘロン・ホワイト(ノーペア)
 第二回 ○神(スリーカード) − ×ヘロン・ホワイト(ノーペア)
 第三回 ○神(フラッシュ)  − ×ヘロン・ホワイト(ノーペア)
 第四回 ○神(フォーカード) − ×ヘロン・ホワイト(ノーペア)

 悪魔の如きヘロン・ホワイトも、さすがに神の前にはなす術もなかった。残り一勝負となった時点で、彼のチップは残り1枚となっていた。
「世界一のポーカーの名人と呼ばれたヘロン・ホワイトも、所詮はこの程度か。」
「神よ。私のチップは残り1枚となりました。これでは私に逆転のチャンスはない。どうでしょう、次の勝負で勝敗を決めていただけないでしょうか。」
「よかろう。それでは次の勝負、私の持っているチップを全て賭けてやろう。」
 何枚かのカードがテーブルの上を行き来し、ついにお互いの手札をオープンする時が来た。
「まずは儂の手からオープンしよう。既に何の役が出来ているか、お前にも大方予想がついている事だろうからな。」
そう言うと、神はテーブルの上にスペードのロイヤルストレートフラッシュを広げた。
「いずれにしてもお前たち二人は地獄へと送られる運命だったのだ。まあ、ちょっとした退屈しのぎにはなった。」
「神よ、全知全能なる我らの父。傲慢は大罪だと言われたのは、貴方ではありませんでしたか。申し訳ありませんが、私の勝ちです。」
ヘロン・ホワイトは静かにそう言うと、自らの手札を披露した。それは2のファイブカードだった。
「誇り高き貴方の事です。どの様な役を作るとしても、その役の中で一番強い状態にするのではないかと考えました。つまり、KよりもAを選び、ハートよりもスペードを選ぶという具合に。そこで、私は貴方が最も選びそうに無いカード、それを集める事だけに専念した訳です。それにしても、ジョーカーが手に入ったのは幸運でした。」
「ふん、ジョーカーはお前が仕込んだのだろう。まあ良い。約束は約束だ。二人とも天国へと行くが良い。」
神はそう言って、天国へと続く道を二人に指し示した。青年は喜んでその道を走っていったが、ヘロン・ホワイトはそれとは逆の方向へと歩き始めた。
「どうした。お前も早く天国へと行くが良い。その道は地獄へと続く道だぞ。」
「私はもう、天国には興味がなくなりました。これから地獄へ行って、今度はサタンを相手にポーカーの勝負を挑んでこようと思うのです。それでは。」
それだけ言うと、ヘロン・ホワイトは地獄への道を真っ直ぐに歩いて行くのだった。

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