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意味不明小説(ショートショート)コミュのぼくゆび

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ホテルのシーツは肌の温度より敏感に、部屋の空気を感じ取る。
僕が昨晩とは打って変わってしまったその冷たさに目を覚ましたとき、
左手に何か違和感を感じた。

僕は白く、しかし皺だらけのシーツに包まれた枕に右肘を付くと、
そのおかしな左手の指をくるくると握り、離す、を繰り返した。

その動きはカーテンを通る緩やかな太陽の光を遮り、
その先で眠る女の、シーツ程白いその背肌に投影され、
黒い6つの指先の影が、肌の上を撫でるように蠢いていた。

ベッドの軋みに目が覚めたのか、女は吐息を漏らしながら
その五本の指をベッドの外へ手探りに伸ばすと、
ベッドライトのつまみを艶やかに回しながら気だるく僕の方へと向き直した。

僕は別に気にも止めず、いつの間にか六本になった左手の指をくるくると見つめていた。

「・・やっぱり、後ろめたい?」
女・・・香菜さんはそう言った。
「・・別に」
僕はそう答えた。

・・・指ってのは、
「おとうさんゆび」「おかあさんゆび」「おにいさんゆび」
「おねえさんゆび」「こどもゆび」
の五本だよなあ。そう言われれば、「ぼく」がいないな。

僕はこの中指と薬指の間くらいに生えた六本目の指を、
さしあたって「ぼくゆび」と呼ぶことにした。

ホテルを出、助手席に座った僕は、
これまでより少し広くなった左手の握りこぶしに顎をのせ、
水平線間際の太陽が海にオレンジ色の危うい橋を作る様を眺めながら、
世界の始まりも終わりも同じような景色なんだろうな、とか考えていた。

「・・・どうかした?何か変よ」
「なに言ってるの。・・・変なこと以外、僕らの間に、あるもんか」
「・・・それも、そうね」

香菜さんはハンドルを握ったまま、くすくす、と、
幸せそうに、でも、自嘲するように、笑った。

あの太陽は沈むんだっけ。昇るんだっけ。
それもわからないまま、僕は香菜さんの鳴らすエンジン音が進む先へと、
否が応にも進まされていたのだった。


一月くらい経って、僕が香菜さんの部屋で、
大していい思い出のない薄汚れたソファに寝転んでいたときのこと。

僕はそのときには6本目の指をすっかり使い慣れていて、
ああ、これ用の指輪でも買おうかな、と考えていた。

化粧道具だのお菓子の袋だので散らばった足の低い机で、
香菜さんは右手で頬杖をつきながらぶっきらぼうに言った。

「あのさ、最近指が一本減っちゃって」
「そう」

僕は体を起こすとソファの上から香菜さんを眺めた。

「ほら」

こっちを向いてかざされた香菜さんの柔らかい左手は、
確かに4本だった。
というよりは、薬指と小指が一つになったみたいに、
品種改良された、二房分の体積をもつ苺みたいに、
節のある太い指がそこにはあった。

「なんだろうね」
「なんだろうね」

僕はああ、これは丁度いいや、と思って尋ねた。

「不便?」
「んー、まあまあ」

僕は例の「ぼくゆび」を引きちぎって、
香菜さんの薬指のそばにくっつけてあげた。

「これでま、数はそろうんじゃない」
「そうね、ありがとう。形はいびつだけどね・・
 あなた、いつの間にかこんなに指、大きくなってたのね」

香菜さんはそう言って、僕の方へ首を伸ばすと、ゆっくりとキスしてくれた。

僕が左手で香菜さんの左手を握ると、
不揃いなその10本の指は狂気じみた造形でからみ合った。

癒着した「こどもゆび」と「おねえさんゆび」の二本と「ぼくゆび」を感じながら、
そういえば、結婚指輪って、
僕たちが失ってしまった、左手の「普通の」薬指につけるんだ、とか、考えていた。

コメント(4)

>未知さん
ありがとうです。
多分、深読みすればするほど素敵というより厭らしくなるんじゃないか・・
なんて書きながら思ってましたが良かった良かった。(そうか?
>ミコトさん
ありがとうございます、っていうかそういえばお久しぶりです。

ええもう裏、読んだり汲んだりひっくり返したりどんどんなさって下さい。
そして僕の人格的問題点に辿り着いたっておkです(どこだよ)

そう言われればそうですねぇ。4世帯住宅ですね。手足。
なんていうかアパートみたいな物ですね。(なにが

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