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意味不明小説(ショートショート)コミュの彼女たちに ?

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『色欲』





愛って何だろう。
誰かを大切に想う気持ち?
誰かと一緒にいたい気持ち?
誰かの全てを受け入れる覚悟?
それが愛なんだろうか。
形のないものは、目で見ることが出来ない。
触ることだって、当然出来ない。
心とか友情とか、それこそ愛なんてものは何処にあるんだろうか。
見えないし、触れない。
そんなあやふやな存在を信じることはきっととても難しい。
思うに、そういった沢山の見えない何かは、自分の中にあるんだろう。
だから見えなくて触れなくても、感じることは出来るから。
上手く言葉に出来なかったとしても、これだ、と解る時がいつか来る。
きっと。
それらの内のひとつである愛というものに、最近気づいてしまった。
愛が何かは解らない。でも、この気持ちを表すのに一番ぴったりな言葉は愛なんだと思う。

愛とか絆とか心とか。
目に見えないくせに、とても綺麗な言葉。
目に見えないからこそ、綺麗にしたい言葉。
きっと見えてしまったら、私たちの視線にやられて汚れてしまうのだ。
形あるこの世界が、綺麗でない様に。

午後の教室に、開け放たれた窓から風が颯爽と吹いてくる。
ぼんやりと見上げた青空には、ふわふわした雲がひとつだけ浮かんでいた。
授業中の気だるげな空気が、教室に充満している。
誰にも気づかれないように、あの人の横顔を盗み見る。
真っ直ぐに黒板を見つめる視線が、真面目さを良く表していた。
胸が高鳴る。心臓が恐ろしいくらいに早く動いて、今にも破裂して中から感情が溢れ出してきそうだ。
いつからこんな気持ちになったんだろう。
判らない。
解らない。
気がついた時には、もう遅かった。
頭の中があの人のことで一杯になっていて、もどかしい夜を何度もやり過ごした。
そんな夜に限って、空には月なんか昇っていなくて。真っ黒な空が大きな両手を広げていて。
なんだか世界に自分だけ取り残された気分になった。
身体に巻きつけた毛布に包まって、空が白んでいくのをぼーっと眺めていた。
こんなこと、あの人は気づいていないだろう。
素知らぬ顔で、おはよう、だなんて話しかけてくるのだから。
私をこんなにも悩ませているのに。こんなにも切なくさせているのに。

七つの大罪、というものがある。人間を罪に導く可能性があるとされてきた欲望や感情のことらしい。
嫉妬、怠惰、暴食、色欲……
あとの三つは忘れてしまったけれど、それに当て嵌めるならきっと私は色欲だ。
人間的な感情。とりわけ、男女間の愛情。
ああ、でも。
私の場合は少し違うんだ。
だって、私の好きなあの人は、如何せん女の子だったから。


「茜、何ぼんやりしてるの?もう放課後だよっ」

ぼんやりしていたら、北条桜に話しかけられた。
黒くて長い髪を二つに結っているのが印象的な、私の大事な友達。

「あ、桜ちゃん」

「あ、桜ちゃん、じゃないよ。また考えごと?」

まあ、うん、と適当に返事をして、探りを入れられないようにする。
私のこの感情は、周りの誰にも話せない。友達である桜には尚更だ。
急いで荷物を纏め、教室の入口で待っていた桜のもとへ駆ける。
その途中で、机の中の教科書を丁寧に鞄に仕舞い込んでいる少女に声をかける。

「ま、また明日ねっ」

緊張で引きつってしまった。恥ずかしい。
それでも、私の言葉に軽く手を挙げて、いつも通りに返して呉れる。

「あ、うん……また明日」

上城光。
それが彼女の名前。
私が好きになってしまった女の子。
でも、この愛は一方通行だ。きっと実らない恋。
だって、私は女で上城さんも女だから。
それでも良い。
今はこうして、互いにさよならの挨拶を交わせる仲であるだけで幸せなんだから。

昔から背が小さかった私は、大人に憧れていた。
早く大人になりたかった。
身長が伸びれば、きっと今見えている世界が変わる。
世界が変われば、私は子供から大人になれる。そう信じていた。
それでも、背は一向に伸びなくて。
中学校に上がったら伸びる、と信じていたのだけれど、未だに私は140cmの高い壁を越えられずにいる。
身長があと10cmだけ高かったら、私はもう少し大人に近づくだろう。
身長があと20cmだけ高かったら、私はきっと難しいことを考えられる大人に近づくだろう。
もしかしたら、愛というものが何なのか解るのかも知れない。
解らないままで良いかも、と思う自分もいるのだけど。
それは、問題が難しいから正解が解らなくても良いや、という気持ちではない。
愛とは何なのか。
もしその答えが解ったら、なんとなく私はがっかりする気がするから。
だから解らないままで良いんだと思う。

「あんまり上城さんに話しかけない方が良いよ。周りの目もあるんだからさ」

廊下を歩いていると、桜がこそっと耳打ちしてきた。
彼女の言う通り、上城さんはどうしてかあまり良い評判を聞かなかった。
直接的ないじめはないのだけれど、好ましく思わない人たちがいるみたいだった。
だから、あまり仲良さそうにするのは得策じゃない。
成本朝美という私の友達も、入学したての頃は仲良くしていたみたいだけど、最近ではそこまで仲良くは見えない。一緒に帰ったりはしているみたいだったけれど。
好きな人のことを悪く言われても、反論する出来ない自分が厭で仕方ない。
周りから私自身の悪い噂をされるのは厭だったし、上城さんに好意を寄せていると知られるのは死ぬより厭だったから。
だから、表面的には合わせるしかない。
まるで軍隊みたいだ、と思ったことがある。
自分の意見なんて持ってはいけない。
ただただ周りの歩幅に合わせて、周りの歩調から一歩も踏み外すことなく、必死に何処かを目指している。
目指す場所はきっと、良い大学とか、良い会社とか、良い将来。
心の奥底に渦巻く沢山の想いを、誰にも言えずに隠して生きていく。
それが大人になる、ということなんだろうか。
それとも、大人になればそういうことは簡単に出来るようになるんだろうか。
まだ子供の私には解らないけれど。
なんにせよ、ひどく厭な気分だった。
桜と二人で帰ったけれど、あまり会話は弾まなかった。
心の中で桜に謝った。


結局、現状維持のままで時は流れた。
私は学校の授業に必死になってついていきながら、中学二年生になった。
私の通う県立泉ヶ丘中学校では、一年から二年に上がる時にクラス替えが行われる。
その為、新しいクラスにはあまり知り合いがいなかった。
一年生の頃に仲良くしていた人たちとはばらばらになって、知っている人は北条桜と白鳥慧子だけ。
慧子は色素の薄い短髪で、なんだかいつもやる気なさげな女の子。ふにゃふにゃとして掴みどころがないのだ。

「全然知り合いいなくて、なんか不安になっちゃうね」

桜が心配そうな顔で呟いた。
慧子は余裕綽々としていた。当然といえば当然の光景だ。
そして、私はと言えば、上城光と別々のクラスになってしまったことにかなりの速度で絶望していた。

「まあでも、このクラスで卒業までやっていくんだから、仲良くやっていくしかないよねー」

何気ない慧子の一言に、絶望する速度は倍に増した。
忘れていた。
二年から三年に上がる時にはクラス替えはないんだった。
なんかもう、溜息すら出ない。涙も出ないけれど。

新しいクラスにも馴染んできた頃、上城さんのクラスに女の子の転校生がやってきたらしかった。
苗字が確か、上城さんと同じ読み方だった。漢字は忘れたけれど。
何度か廊下で一緒に歩いているのを見たことがある。
二人が仲良さそうに笑っているのを見ると、胸の奥がちくりと痛んだ。
私の方が転校生なんかよりも、多くの時間を上城さんと過ごしてきたのだ。
なのに、いきなりぽんと現われて、上城さんのことを何も知らないで、あんな風に笑って。
如何して?
私はこんなに愛しているのに。
まだ足りないの?
愛というものに上限はないのかも知れない。
きっと私の愛はまだ不十分なんだ。
愛が何か解っていないからなんだろうか。
あの転校生は知っているのかな。愛とは何なのか。
知っているのかな。

それから数日経った時、帰ろうと一人で廊下を歩いている時だった。
目の前にあの転校生の姿が見えた。
自然と私の足は動いた。
大急ぎで近寄って、大きな声で彼女の名前を呼んだ。

「カミシロさん!」

廊下は珍しく誰もいなかったから、その声はなんだかひどく大きかった。
振り返る彼女は、何処か上城さんに似ている。肩まで伸ばした髪形が似ているのかも知れない。

「如何して、私の名前を?」

「ああ、えっと……貴女のクラスの上城さんと同じ苗字だったから」

「光と友達なんですか?」

下の名前。
私なんか上城さんとしか呼べなかったのに。

「うん。去年、同じクラスだったから」

友達なのか、と訊かれて肯定するのにはひどく勇気がいる。
だって、その感情はすごく一方的なものだから。相手は何とも思っていないかも知れない。私が勝手に思っているだけなのかも知れないのだから。
絆とか愛とかは、目に見えなくて一方的なもの。でも、相方から確かめ合った時に、目に見えるのかも知れない。

「だから、私の方が……」

言葉が勝手に出てくる。
止まらない。
止められない。
止めたくない。

「私の方が、貴女なんかよりも上城さんのことを知っているの」

「それが如何かしたんですか?」

当然の反応をされた。
胸がもやもやする。伝えられない思いと、伝えたくない想い。
でも、言わなくちゃ、はっきりと自分の声と言葉で。

「私は、上城光が好きなの!……貴女なんかには、死んでも渡さないんだから!」

恥ずかしさで顔が爆発しそうだった。
本人に告白している訳でもないのに。きっと、上城さん本人に伝える時は、恥ずかしさで死んでしまうだろう。
転校生は突然の私の暴露に、呆気に取られていた。

「私のこの気持ちは嘘なんかじゃない。私にはちゃんと、愛という気持ちがあるわ……上城さんが好きなの、だから……」

今までずうっと考えていたことが、言葉になって空気に触れる。
愛って何だろうとか、愛は見えないのとか、色々と考えたけれど、きっとこの気持ちは愛なんだから。
誰にも嘘はつかない。
私自身にも、嘘はつきたくない。

「ねえ、愛っていう感情が貴女にはあるの?……愛が何なのか、貴女には解るの?」

「それは……」

転校生の口が開く。
言葉を択ぶ様に、ゆっくりとだけどはっきりと、

「貴女のそれは、本当に愛なんですか?」

一瞬、その言葉の意味が解らなかった。
否定されたことだけは解った。
転校生の漆黒の瞳が、まっすぐに私を見つめる。

「な、何を言ってるのよ……私は、本当に」

「本当に愛しているんですか?」

何だ。
何で言葉が出ないんだろう。
如何して。
言わなくちゃ。
厭だ。
この気持ちは愛に違いないんだ。
愛の筈だ。
そうに違いないのに。

「貴女は本当に、光のことを愛しているの?」

転校生の言葉が鼓膜を揺らす度に、私の気持ちも揺らされる。
ゆらゆらと、波間に浮かぶ海月みたいに。

「貴女は光を愛する為に光を択んだの?それとも、誰かを愛する為に光を択んだの?」

愛の為?
上城さんの為?
どっちなんだろうか。
愛が何なのか知りたかっただけだったんだろうか。
目に見えないものを理解出来れば、大人になれると思った。
誰かを愛することが出来れば、立派な大人になれると思った。
だから、私は……

「私は……私のこの気持ちは、愛なんかじゃないのかな……」

「それが解らないから、訊いているんです。貴女は愛ばかりが気になっているみたいでしたから」

この気持ちはなんだったのだろう。
上城さんを見て、ひどくもどかしく、切なくなるのは、愛ではなかったんだろうか。
私は自分自身に嘘をついていたのかも知れない。
早く誰かを好きなって、大人になりたかっただけなのかも知れない。
その為に、私はありもしない愛なんてものをでっち上げていたのだ。
愛は目に見えないから、確かめようがない。
だから、これだ、と思ったのだけれど、それは見当違いだったのだ。

「女の子同士、っていうのもありますが、もし貴女が本当に愛していないんだったら、光のことは諦めて下さい。これ以上、あの子を苦しめないで」

最後の言葉が引っかかったけれど、それどころではなかった。
もはや自分の気持ちというものが解らなかった。
心って何?
愛、友情、絆、信頼、喜び、悲しみ、怒り……
感情というものは一体、何なんだろう。
私という存在は、沢山のあやふやなもので出来ている。目で見える手とか足以外に、目に見えないぐちゃぐちゃした塊が纏わり付いている。
それが知りたくて大人になりたかった。
否、逆だ。
大人になりたかったから、それを知りたかったのだ。
目的と手段が、複雑にこんがらがっていたのだ。

「……ごめん……私、もう少し考えてみるよ。この気持ちが何なのか」

私の言葉に、転校生は納得した様に頷いた。それから一言。

「たとえそれが愛じゃなくたって、友達として傍にいることは出来ます。だから、安心してください。そして、なるべく光の傍にいてやって下さい」

心の底から切に願う様な、そんな言葉だった。
それから数時間後、私は上城さんが屋上から飛び降り自殺をして亡くなったことをクラスの連絡網で知った。
不思議と涙は出なかった。
多分、心が理解していない所為だ。
私はまだ自分の心の整理も着いていないのに。
彼女に想いを伝えてすらいなかったのに。
そもそもその想いが何なのかさえ、私には解らない。
頭の中が沢山のことでいっぱいになっていて、子供の私にはもう如何して良いかなんて解らなかった。

葬儀の時に上城さんの遺影を見た瞬間に涙が止めどなく溢れ出た。
ぼろぼろと頬を流れて、喪服の黒い鎧を濡らした。
きっと喪服が夜の様に黒いのは、汚れが目立たないようにする為だ。着る人の流す涙で汚れても、周りにばれずに済むように黒いのだ。
もし、もっと早くに上城さんに気持ちを伝えていれば、彼女は死ななかったのかも知れない。
そんなのは、勝手な思い上がりかも知れないけれど。
それでも、心の中は後悔で一杯だった。
もう元には戻らない。
私の愛は、彼女が飛び降りた瞬間に、何処かへ飛んで行ってしまった。
今度は、私は誰を愛するのだろうか。
誰かを愛するのだろうか。
解らない。
結局、愛というものが何のか、解らないままだし。
案外、自分で気がついていないだけで、もう解っているのかも知れないな、とぼんやりと思った。

葬儀の帰りに泣き腫らした目で、北条桜を見つけた。
桜も目にうっすらと涙を溜めていた。
無言でハンカチを差し出された。
白くて綺麗なハンカチ。それは彼女の黒一色の服に、とても良く映えた。

「顔、すごいことになってるよ。これで拭きなよ」

「有難う」

その優しさがすごく嬉しかった。
いつでも傍にいてくれた北条桜。
近すぎて、気がつかないものもある。
遠くに憧れてばかりいると尚更だ。
私にとって桜は……

「茜は、死なないでね」

桜が雲ひとつない空を見つめて言った。
世界の中心で歌うみたいに、そう言った。

「善処するよ」

私も空を見上げて、呟いた。
今はこれで良い。
互いに少し真面目に、そして少しふざけ合いながら、言葉を交わせる仲であるだけで良いのだ。

「ねえ、桜ちゃん」

上を向いていた首を戻すと、桜は私を見つめる。

「何?」

呼んだは良いけれど、あとが続かない。
風が吹いて、沈黙を吹き飛ばして呉れたら良いのに。
そう思ったけれど、冷たい風は地面に積もった木の葉だけを舞い上げた。
それと一緒に、ついでの様に私たちの涙も吹き上げていった。
私は空中を舞う木の葉と水滴の中で、歌う様に囁いた。

「ううん、何でもない」

桜は変なの、ときょとんとしている。
私はまだ自分の気持ちが何なのか解らない。
もしかしたら、今度こそ、愛なのかも知れない。
今回はちゃんと確かめよう。きっと時間は沢山あるはずだから。
桜が傍にいてくれる限り、考え続けよう。
だから、今はこれで良い。
今はこれで良いんだよ、きっと。

コメント(4)

女性の愛は母性
男性の愛は友情の高まりだとどこかで、聞いたことがあります。
愛ならいいね。
>たぬき教さん
コメント有難うございます〜
なるほど、確かにそういう考えもありですな。
愛とは何なのか、書いていて本当に解らなくなりました。
愛、だと思うんだ

愛なのか、とか
愛とはなんなのか、とか

ただ
愛だと思う

でも
結局のところ、なにかわかりませんね、しょぼん
>西川とめとさん
コメント有難うございます!
多分、答えは出ないと思います。
でも自分がこれだ、と感じたらそれが愛なのかな、と。

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