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意味不明小説(ショートショート)コミュの密かな大晦日

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 俺の名は、バンク・ブレイカー・ボーイ。銀行専門の金庫破りだ。
 仕事仲間のあいだじゃ、もっぱら「スリービー(3B)」で通っている。俺の師匠にあたる初代バンク・ブレイカーから、「ボーイ」と呼ばれていたことが名前の由来だ。ボーイなんてつくとなんだか舐められそうなのと、初代がとっくに引退していたことから、二代目バンク・ブレイカーを名乗ろうかとも思ったし、周囲からもそれを勧められた。だが「スリービー」の愛称が気に入っていたので、そうせずにしていた。

 俺の師匠は、すこぶる腕の立つ金庫破りだった。性格は昔ながらの悪党といった感じで、まるで職人のようだった。時間を良く守り、道具の手入れを怠らず、酒とタバコはやるがクスリには手を出さない。同業者からも一目置かれていたし、そんな師匠を俺は尊敬していた。もちろん、今だってしている。
 腕の立つ悪党というのは、しばしば自分の腕に頼りすぎる嫌いがある。俺の師匠もそうだった。仕事の前に、金庫の下調べをしないのだ。忍び込んだ銀行の金庫が新型だったりすると、師匠は玩具を買い与えられたガキのように夢中になって仕事をした。
 だが師匠のすごいところは、それでも仕事が速かったところだ。それまで俺は、師匠が仕事に失敗したところを見たことがなかった。ちなみに“それまで”というのは、師匠が引退するまで、つまり警報装置を派手に鳴らして、金庫の中に閉じ込められちまうまでのことだ。
「金庫の下調べは必ずしろ」それが師匠の最後の教えだった。もっともこれは、師匠から直接言われた言葉じゃない。なぜならその時、師匠はパトカーの中で外の景色を眺めていたからだ。以後10年間、俺は師匠の顔を見ていない。噂じゃアラスカの刑務所に収容され、肺炎にかかって死んだってことになっている。が、噂は噂だ。

 その日の下調べは、いつものように相棒のジョニー・クロと一緒だった。
 クロは本名をクロッカスと言ったが、自らクロ(頭文字を“C”ではなく“K”に変えて)と名乗っていた。
 ムラタとかいう日本人の運び屋と仕事をした時だ。ムラタは、バドワイザーを飲むクロを見て「ジョニクロなのにビールを飲むんだな」と言って笑っていた。それはジョークらしかったが、何のことだが分からなかった。常々思っていることだが、黄色人種ってヤツはコメディのセンスがからっきしない。
 クロとは、もう五年の付き合いになる。女好きと口が悪いのがタマに傷だが、拳銃の名手で口の代わりにとにかく目が良い。
 今回の仕事場であるニューオリンズへ向かうため、田舎道を車で走っていると、クロが「なあ、スリービー。何か退屈しのぎになるものはないか?」と尋ねた。
「畑に植わったトウモロコシの数でも数えたらどうだ?その内、眠くなる」と、俺が返した。
 するとクロは懐から拳銃を取り出し、畑めがけてズドンとやってから、「それじゃ、マリリン・モンローでも眺めるとしよう。トウモロコシだって、モンローがいたら、もっと大きくおっ立つってもんさ」と言った。
 50ヤードほど進むと、畑にカカシが立っているのが見えた。カカシの口元には、モンローのほくろと同じ位置に銃痕があった。
 下調べは順調に進んだ。やり方はいつも同じ。クロが受付で100ドル紙幣を両替する間、俺が警報機と金庫を隠し撮りする。シンプルだが、それだけに確実なやり方だ。
 銀行を出ると、クロが「明日の昼、もう一度来よう」と言った。
 俺は、「バカ言え。今度来る時は夜中さ、金をいただきにな」とどやした。
「受付の娘に会いに行くのさ」
「お前、赤毛は嫌いじゃなかったのか?」
「でも、ヨランダだ」
「……何がだ?」
「ネームプレートに書いてあったのさ、ヨランダって……。どうだ、グッとくる名前じゃないか?」
 まったく、とにかく目が良い。

 下調べの後は、計画だ。
 写真から、金庫は最新式のものだと判明した。この町はニューオリンズの中でもド田舎で、銀行は一軒しかない。だがそれだけに、警備には金をかけていた。この手の金庫は、扉を破るのはワケないのだが、セキュリティを解くのがやっかいだった。しかし情報屋のチーチから買ったネタによると、中には500万ドルが眠っているらしい。でかいヤマだ。
 俺が計画を急いだのは、ヤマのでかさだけではなかった。チーチからの情報で、12月31日の真夜中、つまり大晦日から新年に移り変わる12時丁度に、金庫のセキュリティが一瞬だけダウンするということを知っていたからだ。その一瞬を狙うことさえできれば、500万ドルは手に入ったも同然だ。そして俺がそのネタを買ったのは、12月27日が終わろうとしていた時だった。

 俺の立てた計画はこうだ。12時丁度、セキュリティを破壊。俺が金庫を破る。クロが見張り、もしいたら目撃者を片付ける。そして金を運ぶ。以上。シンプルだが、確実だ。
 運び屋には、“ファイヤー・ボール”ハマーを選んだ。これは即決だった。ハマーはあだ名が示すとおり、火の玉のように車を走らせることで有名なヤツだ。ハマーに任せれば、どんな警備網でも突破できるだろう。依頼料が高いことでも有名だが、それは仕事ができることの裏づけでもある。それに年を越せば、俺たちは大金持ちになっている。
 問題はセキュリティだった。一瞬で、必要な箇所だけ、12時丁度に破壊すること。俺たちは、爆弾屋を雇うことにした。だがニューオリンズのド田舎で、腕の立つ爆弾屋を、3日間で見つけ出すのは、大統領になるよりも難しいことだ。俺はまた、チーチに電話をかけることにした。
 チーチから紹介されたのは、リュウという中国人だった。根っからのボム・フリークで、腕の良さは保障すると言われた。黄色人種ってのが気がかりだったが、この際、贅沢は言えない。500万ドルのためだ、つまらないジョークに愛想笑いを浮かべるくらい、なんてことはない。

 下調べを済ませ、計画を立てた。後は実行するのみ。
 12月31日、午後11時。俺と相棒のクロは、パトカーの中にいた。
 話を1時間前に戻そう。午後10時、俺たちは銀行の隣にある不動産屋に集合することになっていた。近くのバーで時間をつぶした後、俺とクロは不動産屋に向かった。不動産屋の前には、白のセダンが停まっていた。覗き込むと、運転席の人影が右手を上げた。白のセダンは、ハマーから逃走用に使うと知らされていた車だった。
 約束の時間を過ぎても、リュウは姿を現さなかった。俺は焦った。リュウがいなければセキュリティが破壊できない。そうしたら、来年まで500万ドルはお預けだ。それまでハマーは依頼料の支払いを待ってくれるだろうか?いいや、無理だ。俺だって待ちたくない。
 俺は銀行の前にある公衆電話から、リュウの宿泊先のモーテルに電話をかけた。
「ハロー、どなた?」
 リュウの声だった。何てヤツだ!まさかとは思ったが、のんきにモーテルにいやがった。
「おい、リュウ。お前はプロ失格か?」俺は唸るように言った。
「おや、その声はスリービーか?なにね、いきなり。失礼なこと言うと、爆破しちゃうよ」
「今、何時だと思ってる?」
「……10時15分よ」
「今日は何日だ?」
「どうしたね、時計でも壊れたか?」
「ふざけるな!計画のことは何度も説明したろうが!!」
「だってアナタ、計画は新年が明ける前日、午後10時に集合って言ったよ?」
「だから、今がそうじゃないか!」
「あいや、今日だったか?ワタシの国、新年は2月、旧正月でお祝いするよ」
 コイツ、頭がおかしいのか!?旧正月だと!?ふざけるんじゃない、これだから黄色人種はいやなんだ!!
「とっとと銀行に来い!!」そう言って、俺は受話器を叩きつけた。
 振り返ると、ポリスが二人立っていた。
「こんばんわ」ポリスの一人が言った。
「……どうも」
「どこに電話を?」
「友達の家さ。道に迷って、新年のパーティーに遅れそうなんだ」
「見ない顔だな。最近この街へ?」
「ああ。一昨日、着いたばかりだよ」
「名前は?」
「……俺は、マックだ」
 高飛び用に、パスポートは偽造しておいた。パスポートに記載された名前は、マック・ドゥエル。やった、なんとかやり過ごせそうだ。
「キミの名前じゃない、友達の名前だよ。私はこの町で20年パトロールをやっている。町に住む人間の顔と名前、それから職業まで、すべて頭に入っている」
「え……」
「キミはさっき、友達の家と言った。なんて名前の、どこに住む友達かね?さあ、教えてくれたまえ」
「それは、その……」
「思い出すのに時間がかかるようなら、警察署を使うかね?年末だが、まだ部屋は空いているんだ」
 もう一人のポリスが、それを聞いてニヤリとした。
「ヨランダの家だ」後ろから声がした。「ヨランダ、この銀行で受付をしているヨランダだ。彼女の家でパーティーをするのさ」声の主はクロだった。
「ヨランダ……?」ポリスが聞き返した。
「そうだ」クロが答えた。
「銀行のヨランダ?タバコ屋でも、床屋のでもなく?」
「ああ、銀行のだ。赤毛だが、美人のヨランダ。それに名前が良い。グッとくる名前だろう?」
「まあな」
「男なら、みんなそうさ」
「二人とも、署まで来てもらおう」
「……なぜだ、名前を答えたろう?」
「銀行のヨランダは、私の娘でね。銀行はこの町にひとつしかない。それにあいにく我が家は、明日パーティーをすることになっている。今日は私が勤務なんでね」
「……は?」
「名前に関しては礼を言っておこう。ヨランダと名づけたのは私なんだよ」
 ずっと黙っていたもう一人のポリスが、それを聞いて吹き出した。
 それを合図に、白のセダンがすべるように走り去った。ほとんど直角にカーブを曲がると、タイヤから火花が上がった。

「おかしいな。夜が明けるには、まだ早すぎる」パトカーの中で、クロが言った。
「どうした、クロ?」俯きながら、俺が言った。
「スリービー、2時の方角だ。遠くの空が、うっすらと赤く染まっているだろう?」
「うん?」顔を上げると、確かにクロの言うとおりだった。
 その時だった。パトカーの無線がけたたましく鳴って、助手席のポリスが応答し始めた。
 俺とクロは、聞き耳を立てた。やり取りから察するに、町の外れで爆発事故があったらしい。町中のポリスに緊急出動要請が下っていた。爆発のきっかけは、白のセダンが起こした急カーブでの接触事故だった。ただ、セダンと接触したのはトラックでもタンクローリーでもなく、背の小さい一人の黄色人種だったことから、原因不明の爆発に現場はパニックに陥っているらしい。
「ハマーの野郎、本当に“ファイヤー・ボール”になっちまったな」クロが言った。
「黄色人種も、たまにはしゃれっ気のあることしやがる」俺が言った。
 俺たちは、パトカーの中でゲラゲラと笑った。
「静かにしろ、聞こえないじゃないか!」騒がしい子供たちを叱り付ける母親のように、助手席のポリスが怒鳴った。
 時刻は丁度、12時だった。

 今度ぶち込まれたら、俺はもう出てこられないだろう。無期になれば、アラスカ行きになるだろうか?だがそうなれば、師匠の噂の真相も、確かめられるってもんさ。


(終)

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