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意味不明小説(ショートショート)コミュの想定されたこんなケース

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 待ち合わせの駅前広場に、三千六百二十九時間遅刻して辿り付いた時、彼女はそこで冷たくなっていた。もしもーし。声をかけてみるが駄目だ。それならと軽く揺さぶってみるがやはり駄目。よく見ると、あーもう白骨化してるし。駄目だよもー。駄目駄目。こんなのは駄目。
「駄目駄目駄目駄目」
 ちょっと頭を冷やした方がいいかもしれない。そう思った僕は、近くの書店に入った。カウンターでは、気の抜けたおばさん(推定四十八歳)が、魂でも抜かれたような表情で前を見つめている。きっと地平線の彼方、己の生まれた地にでも思いを馳せているのだろう。おばさんの魂は故郷にこそ存在しているのだ。
 僕はふと目に入った本を手に取った。「東西怨恨集」とある。ぱらぱらとページをめくってみた。
 あらゆるページに、怨嗟と呪詛の言葉が達筆な行書で書かれている。血の様な色をした文字だ。
 二十三ページ。「町民会館で講演会を聞いている際、後ろの奴の相槌がいちいち五月蝿い。自分の存在を特別だとでも思っておるのか。悦に入るな。森に散策に出かけた際に、知人の手によって喉の中に丸太を突っ込まれて死ね」
 五十一ページ。「だからレジのバイトなんかやりたくなかった。レシートとお釣りを渡しているのに、わざとらしくレシートだけカウンターに放置して帰る客。不要レシートを入れる箱が目の前にあるじゃない。唐突に失明して狼狽し彷徨い歩いた挙句、トラックに激突されて死ね」
 百三ページ。「彼に気に入られたかったので、一生懸命ダイエットもしたし、髪型も変えた。そしたら彼、『前の方が良かった』だって。私が落ち込むのを知っていてそういうことを言う。四面楚歌になって動揺した挙句、崖から足を滑らして、水面に全身を強打して死ね」
 これはすごい本を見つけたぞ。僕は背表紙の金額を見る。定価 五百九十万円+税。
 +税だって? えーと。五百九十万×十割零部五厘は……。僕はケータイの電卓で計算する。
 六百十九万五千円。
「税込み価格で表示してよもー」
 僕はカウンターのおばさんに渾身の後ろ回し蹴りを放ったが、おばさんは放心したままひらりとかわした。どうやら武術の心得があるらしい。うろたえた僕は「東西怨恨集」を抱えたまま店を出た。
 胸が苦しい。あんなに楽しみにしていた彼女とのデートも、彼女の一方的な心身の変化でふいになってしまった。せっかく見つけた本を止むを得ず盗んでしまい、今頃警察機構も動き出しただろう。僕は犯罪者になってしまった。それにも関わらず渾身の後ろ回し蹴りはかすりもしなかった。
 何故だ。一体僕が何をしたというのだ。
 何故僕だけがこんな目に。
 何故。何故。
 僕は駅前で冷たくなっている彼女の元へと歩いた。
 大好きだった彼女の体は冷たい。可哀想に。僕が暖めてあげよう。
 僕は近くのセルフガソリンスタンドへと歩いた。千円札を投入し、ポリバケツにガソリンを注ぐ。
 ちゃぷちゃぷと波打つバケツを片手に、彼女の元へと戻る。片手にはライター。うーん。ガソリンの匂いがします。
 彼女の前にしゃがみこんで、そっとライターを点火してみる。気化したガソリンに引火、爆発。
 いやー。あっついなー。僕はそう思いながら昇天した。ぐんぐん空を上っていき、僕は天使になった。
 雲の上では、彼女が待っていた。否。待っていなかった。彼女は、雲のベッドで大天使ミカエルとセックスしていた。
「いい感じですね。美しいです」
 僕はその言葉を残して堕天使になった。一気に地の底へと落ちていった。
 地の底では阿修羅とルシフェルが乱闘騒ぎを起こしていた。ルシフェルが阿修羅の容貌を馬鹿にしたことに端を発したらしい。阿修羅の多椀攻撃を受け、ルシフェルは背中の羽で空中に逃れたものの、阿修羅の方に分があるように見えた。
「喧嘩はよくないですよ」
 僕がそう言うと、二人は激怒して僕を袋叩きにした。超痛い。超痛いんですけど。僕の言葉を無視して暴行を加え続けることで、いつの間にか二人は仲直りしたようだった。仲良きことは美しきかな。
 地獄で死んだので僕は生き返った。
 朝日が燦燦と差し込んでいた。


「っていう夢を見たんだよね」
「あっそ」
 彼女は今日も冷たい。まあ分かってはいたことです。

コメント(18)

あ、やられた、と笑えた夢オチは初めてなように思います。
ありがとうございました。
>pied piperさん
笑って下さってありがとうございます。
思わずしたり顔になりましたウッシッシ
>窓際で緑色さん
ありがとうございます。そのお言葉、とても嬉しいですぴかぴか(新しい)
>未知さん
そう来ましたwww
楽しんで頂けて何よりですわーい(嬉しい顔)
とても純粋に『面白いです』と云おうとしたら、皆さん同じ雰囲気。 
久しぶりに痺れました。
>♪∽Yu∝ki∞♪さん
ぐおおお!むしろその言葉で僕が痺れましたグッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)
これは面白いですよ!
いや〜楽しかった!
>ものぐさ太郎さん
ありがとうございますグッド(上向き矢印)
楽しんで頂けてびっくりしている反面、めっちゃ嬉しいですウッシッシウッシッシ
こういうの好き!笑

「僕」の終始軽い感じがいいですねむふっ
>宇宙の胃袋さん
ありがとうございます泣き顔
「僕」はなんかドライなんですよね、ちょっと馬鹿なんじゃないかってくらい。
でも自分でもちょっと気に入ってます(笑
このコミュの意味がわかりました。
目から鱗のお話でした。
私も書いてみようかしらん。
>桃花さん
「目から鱗」とは嬉しいお言葉!わーい(嬉しい顔)
出来るだけワケの分かんない話を書こうと思ってましたwww
ありがとうございますぴかぴか(新しい)
>バラさん
ありがとうございますわーい(嬉しい顔)戦闘シーンは経験浅いので自信がなかったんですが、そう言って頂けると非常に励みになります!思いついたら、こっちにも戦闘モノ書いてみますぴかぴか(新しい)
>まふさん
ありがとうございますexclamation ×2思いつきと勢いだけで書いてしまったんですが、そんな風に褒めて頂けてホントに嬉しいですグッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)
何を書くにしてもテンポは大事にしたいと思ってますウッシッシ(展開はあまり自信ないんですが…ww)

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