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意味不明小説(ショートショート)コミュのストラテジー

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すぇーません降ります、の青息群に追い立てられるようにして別珍はバスを降りた。

これから西麻布交差点にあるテテスの隣の隣の隣のビルまで面接に行く。面接といっても、その店では「オーディション」と呼ぶらしい。
たいそーな。別珍の頭の中は楽しい事で一杯だった。約束の時間の1時間前にはバスを下車していた。
オーディションに合格した後、晴れてスタッフとして迎えられ、日を改めて説明会に参加、その後勤務開始、男性客の席について会話やカラオケに興じるなどして時給は2300円。
たいそーな。別珍の頭の中は大変楽しい事で一杯だった。私は今から面接、と呼んでやる、を受ける「B」でオーダーメイドの背広を纏った紳士と出会うだろう。そして懇ろになり、アフター5限、麻布十番辺りで会員制のダイニングバーと洒落込む、なんて馬鹿げた事に相成るか。下らない人生だこと。くほほ。ほほほ。
そうしてテテスの化粧室で靴を履き替える。落ち着かない便座に座って。

オーディションと称した面接は別珍ともう1人の志望者対店長で行われた。
「じゃあまず高橋さんから自己紹介をどうぞ」
隣に座っていた女が立ち上がった。
「はい。高橋真由です。27歳です。現在モデルをやっておりまして、麻雀店のイメージガールを務めております」
終わったなこいつは。別珍は大いにほくそえんだ。イメージガールだなんて愚劣な事をよくも言えたものだ。大体君がモデルか?膝上の肉のなさ、ネイルの形、ふむ確かにモデル然としとるかもしらん。しかしね、その今仰ったイメージガールというのはまずいよね。別珍の心の中には上野千鶴子が千手観音のように涼しく微笑んでいた。牙を見せて。麻雀のポスターであれ、消防を呼びかけるポスタであれ、イメージを体現するものが女、しかも笑う女であるという構図に別珍はほとほと嫌気が差していた。しかも、わざわざ「上品でフォーマルな装い」と指定を受けていたのに高橋はミニスカートにブーティという流行を抑えつつ若者特有の強気な露出をなしていた。そんなに脚を見せたがるもんかねモデルは。全く。それでいてわざわざ、私は健全な麻雀のイメージを体現する女であるよ、とアピールするなんて、今日は愚の真骨頂を見せてもらったなあと感心すらしていた。そして確信した。もらった、このオーディションは。何てったって私はアンゴラコートだからね。毛皮の。慣れないストッキングも何とか履いたし、渋谷駅の東急百貨店に入ってるアナスイでちゃんと化粧もした。極めつけに、隣の隣の隣のテテスで履き替えたのだよ。靴を。ズックからハイヒールにね。この周到さ。もらったな、このオーディションは。
しかしながら面接官の反応は意外だった。
「えーすごーい!じゃあ高橋さん麻雀やるの?強い?弱い?モデルのお仕事は忙しいのかな?」
「いえ、3ヶ月更新の契約なのでそんなには忙しくないです。ただ、急にお仕事が入ったりする事もありますので、そこはご理解いただきたいです」
「ん大丈夫大丈夫。当日欠勤さえなければね。当日キャンセルはちょっとペナルティーがかかっちゃうから。そんでうちは営業時間2時までなんだけど、高橋さんはラストまで働ける感じ?」
「はい、家が広尾なので大丈夫です」
「そっかーじゃあ大丈夫だねえいけそうだねえ」
別珍は大学生だ。上野千鶴子を敬愛する。歌を歌う。写真のモデルをやる。役者として舞台に立つ。詩を書く。こうやって文章を作ったりもする。色々をやる。色々意をできる。が、全ては自認であり、意識であり、生活であり、とりたてて口に出す必要なんてないと思っていた。趣味は何ですか?という質問に対して沈黙を見せる事もしばしばあった。
自分をアピール。困る。何故私はここにいるのだろう。俄かに心の中が油性になった。やたら脚を見せ、前髪を分け、ベージュのネイルを塗ったイメージガールですと宣言する27歳の女とそれに対して盛り上がりを見せる面接官のいる場に。そしてここで私は一体何をアピールすればいいのだろう。
「それでは別珍さんどうぞ」

そこでの別珍の自己紹介は散々なものだった。
青山の事務所でモデルをやっておりますと色褪せた言葉を滑らせ、
バンドでボーカルをやっておりますと当然の事を投げかけ、
極めつけには「以前銀座のクラブで一寸」という愚劣極まりない台詞を吐いた。
それら全ては違いなく事実であった。というよりただの経緯であった。
何故一切合財を自分の能力が成した業績のようにわざわざ口に出す必要があるのか。その理由は恐らくこの場がオーディションと呼ばれる所以に繋がっている。しかし気づいた時には遅すぎた。何の準備もなくただ彼女は無様だった。

無防備。女を無視する事はとても。
「オーディションは以上です」

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