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意味不明小説(ショートショート)コミュの爆破申請のその道中で

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 風が涼しいのはいいが、依然として日差しが暑すぎる。
 だいたい僕は、前から太陽が嫌いだった。その強い光で、見たくもないものまで照らし出し、容赦なく晒す。しかも暑いし。
 だから僕は、太陽の爆破申請をすることにした。太陽を爆破することが出来れば、街はもっと涼しくなるはずだ。ずっと夜のまま、街の灯りが燦然と輝いている。そして空には月。太陽が爆破されたあとは、月が優しい光を投げかけてくれるだろう。いいね、幻想的で。
 僕は、住民票、履歴書、爆破申請書、印鑑、筆記用具、常備薬、折鶴をショルダーバッグに詰め込むと、うきうきしながら玄関の扉を開けた。
 外は天気がいい。雲一つ無い、という言い方があるが、今日は本当に雲が一つもない。青空が綺麗だった。これで太陽がなければなあ。僕はそんなことを考えながら役所へと向かった。

 しかしこの路地、どうしてここまで狭いのか。人が四人並んだらもう一杯だ。自動車がすれ違うことは完全に不可能。
 シャッターの下りた小さな商店やら居酒屋、建物の裏側の壁などがひしめいていて薄暗い。空が無神経に青い。
 役所に行くためにはこの道を通るしかないなんて、この街の都市設計はどう考えてもおかしい。
 そして僕の目の前には、女の子が四人並んで、おしゃべりしたり笑ったりしながらだらだらと歩いている。僕はイライラした。狭いことが分かりきっているのに、何故周りの人たちのことを考えないのか。列になれ、列に。
 いい加減彼女らを注意して追い抜こうと思ったが、僕はやめた。下手に注意して女の子たちから白い目で見られるのが怖かったからではない。では何故か。
 四人の女の子たちが、皆同じ顔をしていることに気付いたからだ。正面から見たわけではないが、それぞれの横顔を見ただけで同じ顔なのが分かった。それほどまでに同じ顔をしているのだ。それに、同じなのは顔だけではなかった。髪型、身長、服装、手にしたバッグまで全てが完全に同じなのだった。
 こんなことに今まで気付かなかったなんて。僕は少し焦りすぎていたんだな。同じ容姿をした少女たちに声をかけて道を譲らせるなんて、そんな無粋な。
 それにしても。と僕は首を傾げる。
 全く同じ容姿をしている、ということは、同一人物である、と考えるのが最も自然だろう。彼女たちは、自分自身と会話をして楽しいのだろうか。笑っているようだけど。自分が知ってることは相手だって百パーセント知っているわけだし、相手が話すことだって自分にとって分かりきったことのはずだ。会話の意図や含みなんかは筒抜け状態だし、もしも自己嫌悪に陥りやすい人だったら自殺したくなるんじゃないだろうか。
 そこで僕は気付いた。ハッとした。僕という人間は、何と底の浅い人間なのか。
 彼女らが、自分自身と向き合ってなお笑っていられるのは、彼女らが『ありのままの自分を受け入れている』からなのだ。人間というのは、他者とコミュニケーションする際にはどうしても自分を作ってしまう。ペルソナなんつってね。ね。ペルーのソナタ。それは、自分はこう見られたい、とか、こうありたい、とか、様々な理想や見栄、虚栄心が働いてしまうからなのだろう。知らないけど。
 しかし自分自身相手にこれをしてどうなる。「あんた自分作ってるでしょ」「そう言うあんたこそ作ってるでしょ」などと不毛な口論の果てに、血みどろの騒乱が勃発することは自明だ。
 しかし彼女らは、そうなっていない。それは仮面を付けずに、ありのままの自分を受け入れ、そして愛する術を知っているからなのだ。この少女、尊敬に値するよ。
 僕がその場で「素晴らしい、ブラボー」と叫んで涙を流しながら拍手しようとしたまさにその瞬間、女の子のうちの誰かが言った。
「あんたさっきからカワイ子ぶってるけど、お見通しなんだからね」
 誰かが言い返した。
「そういうあんただって人のこと言えないでしょ。私だって知ってんだからね」
 たちまち、同一人物同士の間で不信と猜疑、そして憎悪が広がっていく。
 その後はあっという間だった。女の子たちの間で口論が起こり、程なくして取っ組み合いの喧嘩が始まった。うろたえた僕は、「お。空が青いなあ」などと呟いてみた。無意味だった。
 隙をついて、争う彼女らの横を通り抜け、役所へと向かった。架空の韓国ドラマ「ペルーのソナタ」のストーリーを考えながら、自作の主題歌を即興で歌ってみたりした。
 そうしてようやく辿り着いた役所では、太陽の爆破申請はあえなく棄却された。肝心の現金を持ってこなかったから。僕は、やっぱりね、と思った。

コメント(2)

>shuさん
>容赦なくさらけ出す太陽が抱する愛伝手ティの自我の炎は
>ペルーのソナタの電子を交錯させ燃え盛っているのね。のね。
↑正直何を仰っているのか結構分かりませんが(笑
こんなふざけた話まで読んで下さってありがとうございますm(u u)m
哲学というほど凄くもないですが、ちょっと皮肉的な感じを狙ってみました。
まさか共感して頂けるとは思わぬハッピーですわーい(嬉しい顔)
文章は町田康が好きすぎて影響うけまくってますあせあせ(飛び散る汗)

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