ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

意味不明小説(ショートショート)コミュの黒須 一 【不可視の不死】

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
彼女は、腐乱臭を身に纏っている生まれたての新鮮な肉体とでも云うような矛盾を孕んだ存在であるのだった。不快だが、目を背けることの出来ない肉親の死に顔を絶えず反芻させるような、刷り込まれた死臭を発しながら、弱酸性の液を滴らせしかし、確かな生の息吹と新しい輝きに包まれて、彼女の両の手足は可動域一杯を用いて広大な空を泳ぎ尽くすのだった。そう、だけれども、其れは僕という存在が観測されていない時に限られていた。この奇妙で美しい、人間の生まれ持った矛盾律を前にして僕は戸惑い、彼女との距離が限りなく無限へと近付いて行くのを感じる。

限られた命を生きることを喜び、彼女が最も生を謳歌しているであろうそのときは、どうしても僕の前ではなかったし、彼女はいつも存分に羽ばたける筈の両の手足をきつく閉じ、自身の持つ容積を三分の一程度にして縮こまり、蒼く透明な体の表面をして拒む。

幼く青い恋人同士の成熟の過程における不器用さが二人のテーブル一つ越した距離の中にあったわけではない。彼女の白い皮膚の下を駆け巡る死に至る病は、僕のせいで感染してしまったものだったのだ。黒き病は僕と共に居るときのみ発症し、彼女は青く淡く透明になっていく。彼女の白い手は他の、僕の知らない男の手の中で汗に濡れ、他の男の二の腕の中でだけその黒い髪を揺らすだろう。僕から一番遠く、見えない世界でのみ彼女は自身の存在を発現し、体が透化する黒き死病を忘れ続ける。


僕は、彼女の名を呼ぶことが出来ない。僕の声が振動させる空気は、加速度的に彼女を遠ざけ、離れられなくさせる。


まだ見ることのできない無数の対岸の園に住む一人の彼女は、果てのないギターの調べの様であり、思い出すことによってしか其の存在の不可視性を明らかにすることの出来ない不死なのだ。彼女いつもは不可視の外套を纏って僕の前に現れ、死に至る病を思い出す。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

意味不明小説(ショートショート) 更新情報

意味不明小説(ショートショート)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング